京都・八坂神社前のローソンが閉店、原因は日本一の地価高騰:インバウンド需要増加の影にある激変と外国資本の参入

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基準地価とは、国土利用計画法の土地取引価格の審査基準価格として設定されたもので、都道府県が毎年1回公表しています。2018年9月18日に発表された7月1日時点の基準地価を見ると、訪日外国人観光客に人気の観光地の地価の高騰が目立ちます。

特に1位の京都と2位の大阪が際立っています。インバウンド効果ともいえるこの現象が、今日本のあらゆる場所で様々な影響を及ぼしており、単に観光客だけではなく、今まで当たり前とされてきた日本人の生活や環境にも変化を及ぼしつつあるようです。

インバウンド市場の拡大が日本の国土にどのような影響を及ぼしているのか考えてみたいと思います。


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地価上昇により現場で起こっている驚くべき現実とは

インバウンドが始まった頃の観光コースは、「ゴールデンルート」と呼ばれる大阪と東京を結ぶコースが中心でした。このコースは訪日外国人のうち特に多い中国人に人気のコースとなっています。日本の首都として海外でも認知されている東京ですが、徐々に大阪の人気が高まってきています。

理由の一つとして、大阪の周辺に位置する京都、神戸、奈良などの観光地が挙げられます。短時間で回ることもでき、日本らしい建築物などを味わうことができます。

もう一つの大きな理由としては、大阪の食文化やショッピングスポットが充実していること、それが訪日外国人にとって非常に満足できるものであることが挙げられます。

訪日中国人についていえば、最近は一時のような「爆買い」という社会現象は少しおさまったものの、購買意欲は衰えていません。こうした現象を起爆剤として、収益率のよいドラックストアの出店が増えており、また大型化が進められています。

爆買いとは

「爆買い」とは、主に訪日中国人による一度に大量の商品を購入する行為をいう俗語です。2015年には流行語大賞を受賞するほどの社会現象となりましたが、昨今は以前と比べ下火になったとの論調もあり「爆買いは終わった」といわれることもあります。 一方で最近でも、ドラッグストアや小売店に足を運べば、そこにはやはり日用品や医薬品を購入する訪日中国人の姿があります。しかし、広く訪日外国人観光客の消費傾向が「モノ消費」から「コト消費」へと変化していることも事実です。 この記事では、果たして爆買いは本当に...

大阪ミナミで大人気のドラッグストアが様変わり

大阪の最も人気の高い観光スポットは道頓堀(難波、心斎橋周辺)、通称「大阪ミナミ」です。

その道頓堀の地価が急騰しており、ここ数年上がり続けています。その最大の要因は外国人観光客の急増です。

大阪観光局の資料では、2014年は376万人だったのが、2017年は1,111万人(速報値)となっています。この影響により地価がどんどん上がっていき、訪日外国人観光客に人気のドラッグストアにも変化が出てきているのです。

大阪ミナミには、増加を続ける訪日外国人客が日本製の医薬品や化粧品を買い求めるスポットとしてドラッグストアが林立していました。

しかし、地価が高騰してテナント賃料が上昇する中で小規模店舗は撤退していき、代わりに大型店がどんどん進出してくるようになりました。

もともと、心斎橋では有名ファッションブランド店が並んでいました。こうした店舗の閉店も相次いで起こっています。

閉店後の土地には店舗面積600㎡以上の大型店が次々と進出していて、さながらドラッグストア商店街の様相を呈しています。洋服などに比べて、化粧品や薬は小さくて場所をとらず利益率が高いのでドラッグストアの大型店舗にすることでさらに収益率も上がることがその理由です。

地下上昇のあおりを受けるとコンビニが無くなる?

大阪とともに地価が上昇しているのは京都です。その中でも京都市の八坂神社周辺の地価が最も高くなっています。

八坂神社は京都観光の中心的な場所で、「祇園さん」ともよばれて京都の人々から愛されています。周囲には円山公園、知恩院、高台寺、さらには清水寺などの観光名所も多く、初詣には100万人の参拝客が訪れます。また、この八坂神社のあたりは京都でも有数の交通量の多いエリアでもあります。

その八坂神社のほぼ向かいに「ローソン八坂神社前店」がありましたが、地価高騰による賃貸条件が折り合わず、惜しまれながら2018年1月に閉店しました。

日本一地価が急上昇した京都の八坂神社の前のコンビニが消えた

ローソン八坂神社前店が人々に愛された理由は空間に溶け込むデザインにありました。

八坂神社周辺は、京都の「祇園」という地域の特殊性や京都市の厳しい景観保護条例などの制約があります。こうした法令に基づき「ローソン八坂神社前店」は、純和風の造りのデザインを取り入れていました。

店舗外観にはローソンのコーポレートカラーである水色などは使わず、白地に濃紺の文字で「LAWSON」とデザインしたため、遠くからはコンビニエンスストアであることは視認しづらいものとなっていました。このほか木製の格子や、日本瓦をイメージした床など、まさに和風・京都風といった造りの店舗で、こうした点からも多くの京都人や訪日外国人観光客に慕われていました。

そんな人気のコンビニが、残念ながら2018年1月に閉店しました。売り上げが少ないわけではありません。余りにも地価が高騰したため賃貸契約を更新できなかったことが理由の一つです。

この跡地に建ったのもまた、ドラッグストアでした。地価高騰による賃貸契約にも動じることなく出店できるという点で、ドラッグストアの経済的優位性が証明された出来事となりました。

日本の観光地に流れている外国資本

訪日外国人観光客は、東京や大阪などの都市部だけではなく、ゴールデンルート以外の観光地にも興味と関心を持ち始めています。

こうして地方へ少しずつ観光客が流れ始めている一方で、地方の旅館やホテルでは切実な問題に直面しています。

地方旅館の多くはオーナーの高齢化や施設の老朽化、そしてこれまでの過剰債務などにより「廃業の危機」に陥っています。実際に、倒産件数も増加しています。こういう現状のなか、外国資本による旅館やホテルの買収が激増しています。

地方の温泉宿の現状とは

とくに、東京五輪・パラリンピックの開催が決まってからは、地方の旅館を買いたいという動きも増えているようです。また、その買取に向けて動く外国人の多くが中国人という情報もあります。

中国人のオーナーは、日本人客が減って経営に行き詰まっている地方の旅館でも、コネクションのある中国から観光客をたくさん連れてくることができるはずで、これにより採算がとれるようになると踏んでいます。

こうしたオーナーの変更は、その旅館やホテルで従来提供されていたサービスにも変化を与えることになります。

客室稼働率を上げるための宿泊料金の値下げや、コストカットのために、様々なサービスが提供されなくなる傾向にあるようです。例えば夕食はなしで朝食のみがセットとなっている、1泊朝食付きのプランを提供しています。

以前は食事やその施設の雰囲気など、滞在自体を楽しむことを主眼においていた宿泊施設が現在は、ただ体を休めるための、まるでシティホテルのような場所になっている場合もあるそうです。地域の食材を使ったこだわりの料理を提供するというのが日本旅館の特長でしたが、こうしたサービスは今後、過去の文化となる可能性にさらされています。

外国資本が入った外国人による経営の旅館やホテルが増えてくると、それまでその地域ごとに存在していた旅館組合のような組織も少しずつ力が弱まり、宿泊者の声を共有し合ったりという場が失われる可能性もあります。

インバウンド需要の拡大による経済効果と、その陰で起こっている現実にどう向き合うか

訪日外国人観光客の増加は、観光地や宿泊業界、飲食業界、お土産店など様々なところで大きな経済効果を生み出すことでしょう。

訪日外国人観光客の増加により店舗やホテル需要の高まりなどにより、投資需要が拡大しています。しかし、こうした利益重視の都市計画には、店舗の画一化や上質な宿泊体験を提供できなくなる懸念など、負の側面も存在します。

京都には大きな区画が少なく、場所によっては権利関係も複雑なため、小規模な店舗の出店しかできない場合があります。しかし小規模な店舗の場合、高額の賃料が設定されてしまうと、たいていの場合撤退せざるを得ません。紹介した事例では大手コンビニですら太刀打ちできないほどであることがわかります。

このまま地価が上昇を続けては、せっかくの人気観光地でありながらどんな店舗も出店ができず、訪日外国人観光客や国内の観光客の需要を取り込めないといった機会損失を起こしてしまう可能性があります。

またこれまでにインバウンド需要を見込み、宿泊施設やゲストハウスが相次いで建設されていますが、これらは場所によって稼働率の落ち込みが目立ち始めています。同時に、京都市は民泊や簡易宿泊所に対しての規制を強めています。2018年9月14日には住宅宿泊事業法民泊新法)と罰則を強化した改正旅館法が施行されて以降で、初めて京都府警がヤミ民泊を摘発しました。

根強い人気の京都ですが、宿泊需要を適正に取り込めていないといったことが考えられ、この点が課題として残っているといえるでしょう。

今後ますます増えてくるであろう訪日外国人観光客に対して、地価の上昇により従来のような店舗展開や日本式のサービスの提供が難しくなっていくことも予想されます。しかし、こうした変化に柔軟に対応し、訪日外国人旅行客のニーズを満たすことが真の観光立国への一つの道と言えるでしょう。すでに人気の観光地となった各地の、今後の変化にも注目が集まります。


〈参照〉

大阪の観光動向について

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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