サスティナブルという言葉は「持続可能な」という意味です。多くは地球環境の持続可能性を指し、環境問題を論じる際に用いられてきました。
最近では観光の分野でもこの「サスティナブル」という言葉が見られるようになってきました。
本編ではインバウンド市場における「サスティナブル」について解説します。
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サスティナブルとは?
1987年、国連「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」にて、持続可能な開発(sustainable development)という概念が提唱されました。この会議では、それまでの「富と資源は無限である」という考え方を改め、経済成長には物理的・生物学的な限界があるという考え方が示されました。
こうしたいきさつから、近年ではサスティナビリティ(持続可能性)は地球の資源と人間の経済活動の持続の可能性を意味する言葉として理解されています。
こうした持続可能性の概念は旅行・観光市場にも応用されるようになってきました。
観光産業を一時的に終わらせるのではなく、長期にわたる観光資源を発掘することで地元のPR=地方活性=訪日リピーター増加につなげられる可能性を作り出そうという機運が高まっています。
この持続可能性は観光者だけではなく、地元の居住者にも享受されるべきものとして認識されています。居住者の目線からいう持続可能な観光とは、生活に支障がない観光業の発展を意味します。
サスティナブルツーリズムとは?
1995(平成7)年に世界観光機関(UNWTO)、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)、地球会議(Earth Council)の3者により表明された「観光産業のためのアジェンダ 21」(Agenda 21 for the Travel & Tourism Industry)には、サスティナブルツーリズムの考えが盛り込まれています。
サスティナブルツーリズムとは、観光地の本来の姿や資源を「持続的に」保つことができるようなサービスの設定を行うことです。観光客の誘致だけを優先し、環境汚染や自然破壊に配慮しないことがあれば、将来的には産業として成り立ちません。
また地域の文化や自然環境に配慮をした観光地の開発や資源の使い方を考え、その地域に住む人と観光客の双方にメリットになるような観光産業を作っていく必要性が説かれています。
現在の環境・状態を維持して持続可能な観光産業にするために、入境できる人数の制限・必要な人にだけ提供するサービス・排ガス規制による電気自動車の利用など、様々な分野での新しい取り組みが始まっています。
サスティナブルツーリズムでは「観光資源」「居住者の生活」両方が大切
サスティナブルツーリズムの推進では、観光資源の発掘だけでなく、居住者の生活の保護も合わせて行われるべきと考えられます。
サスティナブルツーリズムでできることとは?
サスティナブルツーリズムの考え方は、観光地本来の姿を守りながら、同時にその本来の魅力を体験するということです。地域の環境や自然、文化などを破壊しないように過度な商業化を避け、観光地そのものの自然体験を提供することを目指します。
ラフティングやカヤックなどのアクティビティ、歴史ある街並みや建物などを見学するツアー、国立公園や遺跡などを散策するツアーなどはサスティナブルツーリズムの一例です。
地元住民への配慮を忘れずに
観光客が増えれば地元経済が活性化され、それにより地元住民の生活も潤うのでメリットしかないように思えるかもしれません。しかし、ごみのポイ捨てや歩きタバコなどによる環境汚染や文化の破壊など、旅行者の振る舞いによって地元の住民が迷惑をこうむるということも珍しくありません。
観光客の増加によって経済が活性化し、場合によっては新しい産業が生まれるというメリットはありますが、居住者の生活をないがしろにした施策は長続きしません。観光客は居住者を追い出してまで観光資源を体験したいとは考えないでしょう。居住者のいなくなった観光地はもはやその「本来の姿」とは言えません。
観光客のニーズと居住者のニーズが共存できるような形を整えることで、本当に持続可能な観光産業が生まれます。
サスティナブルツーリズムの事例4選
最後に、実際にサスティナブルツーリズムを取り入れている地方自治体や地域の具体的な成功事例を取り上げます。
1. 群馬県みなかみ町 キャニオンズ
群馬県みなかみ町は、古くから水上温泉や猿ケ京温泉など多くの温泉を抱え、90年代後半には年間170万人近い宿泊客を集めた観光地でしたが、2009年には全盛期のおよそ半数の約86 万人にまで落ち込んでいます。
同町では1994年ごろから商業ラフティングを開始しました。この事業を持続可能な観光産業に成長させるため、98年にはニュージーランド出身のマイク・ハリス氏がアドベンチャー会社を設立しています。ニュージーランドではサスティナブルツーリズムが日本以上に社会に浸透しており、その知見を活かす形で同町の観光産業の育成にあたりました。
みなかみ町のラフティングをはじめとする観光産業は、自然を生かしたアクティビティや、スタッフの大半が外国人というメリットを活かして英語学習を合わせた利用が可能なのが特徴です。
事業を展開するには地元住民の理解と協力が欠かせないため、地元の消防団の活動やゴミ拾いなどのボランティアにも積極的に参加したりアウトドアや観光関連事業者の集まりに頻繁に顔を出すなどして、徐々に地元住民の信頼や協力を得ていきました。
みなかみ町では、町内のアウトドア会社が定期的に自然環境に関して意見を交換できる場を設けて、安全の確認や環境に配慮する適切なキャパシティなどについて話し合いをしています。
当初は旅行雑誌などに若年層をターゲットとした広告を掲載していましたが、現在ではリピーターを中心としたインターネットからの直接申し込みが大半を占めています。
2. 神奈川県横浜市 株式会社ケーエムシーコーポレーション
株式会社ケーエムシーコーポレーションは、神奈川県横浜市に自社マリーナを持ち、ボート保管業や旅客船事業を展開する会社です。
同社は、京浜工業地帯の工場夜景を船で巡る「工場夜景ジャングルクルーズ」を2008年から運行しています。
京浜工業地帯は、東京都大田区、神奈川県川崎市、横浜市を中心とした工業地帯です。これまで公害などの負のイメージが強かった工場を、海から夜景として眺めるという逆転の発想で、人を呼び込む魅力的な観光資源に変化させました。ただ単に工場の夜景を見せるのではなく、生のガイド・BGM・オリジナルカクテルなどにストーリー性を持たせることで付加価値も付けています。
運行は週末の土日のみ、各日1便ずつです。満席になっても増便しないため、その希少さから関心が高まります。常に2~3ヶ月先まで予約が埋まっている人気ぶりで、参加者は日本全国からこの夜景を求めやってきており、リピーターも少なくありません。
観光客のニーズを満たしながら工場の経営を邪魔しないサスティナブルツーリズムを体現したプランだといえるでしょう。
3. 栃木県茂木町 「日本で一番安全・安心でおいしいまちづくり」
栃木県茂木町は、棚田などの自然が残る、天然アユや鮭で知られた町です。以前は葉タバコの生産地として知られていましたが、1980年代中ごろからの生産の衰退とともに人口も減り過疎化や高齢化などの問題を抱える典型的な日本の農村の町でした。
しかし現在は廃校を活かした体験宿泊施設「昭和ふるさと村」や農村レストラン、体験農園など、現在の環境を生かした地域おこしビジネスが広がり、観光客を呼び込みつつあります。
4. 沖縄県東村
人口約2,000人の東村は、観光の盛んなイメージの強い沖縄県にありながら、林業と自給自足のための農業に依存し過疎化した村でした。
同村は観光産業による経済の立て直しを図るべく、マングローブのエコツアーや農村民泊などで少人数の受け入れから開始しました。周辺環境に配慮しながら、自然環境の保全にも注意を払い、観光客の受け入れを継続し、ついにはリピーターの来訪が続くようにもなりました。
その結果、東村の1人当たり年間住民所得は17年間で1.8倍になっています。
サスティナブルツーリズムを取り入れ長く愛され続ける観光地に
サスティナブルツーリズムは、地元の環境や資源を限りあるものとして認識し大切にすることから始まります。使い捨てではない「持続可能な産業」として地域の観光を確立することができれば、居住者の生活の向上にもつながります。
インバウンド対策にもサスティナブルツーリズムを取り入れ、観光客からも居住者からも、長く愛され続ける観光地を目指していくことが必要となっていくでしょう。
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