年間160万人の観光客が訪れる日本有数の観光地、北海道美瑛では、美しい農業景観を求めて訪れるインバウンド客が急増しています。
一方で近年では、無断で農地に侵入するケースなど、オーバーツーリズムによる観光公害の影響が深刻です。
農業と観光の良好な関係を構築し持続可能な観光地を目指すため、オーバーツーリズム対策の資金調達とプロジェクトの認知拡大に向け、クラウドファンディングを実施しました。
今回は、美瑛のオーバーツーリズムの現状と課題をふまえ、インバウンドのオーバーツーリズム対策の取り組み例として見ていきましょう。
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激増する東南アジアからの観光客
2018年は台湾・韓国・中国からの観光客数が前年比約20%増と好調に伸び、特に冬期は韓国からの観光客が急増しました。
ますます多くの観光客が東アジア諸国から訪れる一方で、美瑛の人気の観光スポットでは、美しい農業景観の写真撮影に熱中する観光客で溢れかえる事態となりました。
美瑛は、近年アジア諸国からの訪日外国人観光客の間で話題のパウダースノー、温泉、日本食が楽しめるエリアとして、中国人スキーヤーも注目しています。美瑛の観光名所である「セブンスターの木」や「親子の木」を写真に収めようと多くの観光客が押し寄せ、狭い農道における観光バスの路上駐車増加により、トラクターが農道に入れないといった問題が増加しました。
大韓航空の旭川ーソウル便の就航などにより、今後さらなるインバウンド客の増加が見込まれる中、ツアー客へのマナー喚起が急務となっています。
「インスタ映え」を狙う観光客による自然破壊と景観破壊
多くの観光客が美瑛の農業景観を背景に写真撮影を楽しむ一方で、ベストショットを求め農地へ無断で侵入するといった、農家への迷惑行為が後を絶ちません。インスタ映えを狙い観光客が畑を踏み荒す被害が相次ぐ一方で、問題の悪化の原因はインフルエンサーにもあると言えます。
インフルエンサーが、明らかに農地に侵入し撮影したと見られる写真をSNSに投稿しており、その撮影方法は明かしていないものの、同じような写真を撮るために農地に侵入する観光客が増加しているのも事実です。
農地に生える「哲学の木」は美瑛でも随一の観光名所でしたが、観光客が作物を踏み荒らす行為が頻繁に発生し、美瑛の農家によって切り倒される事態にまで発展しました。
冬には一面銀世界に見える場所も、雪の下には作物が植わっている農地である場合がほとんどのため、農地に侵入すると靴についた病原菌により作物が枯れるといった重大な問題を引き起こす可能性があると危惧しています。
農地への無断侵入を防ぐために、立ち入り禁止の看板を農地のいたるところに設置しましたが、これにより美しい農業景観が損なわれる事態となりました。
農家の想いが伝わるQRコード搭載の看板を設置へ
農地への無断侵入といったマナー違反は、「知らなかった」ことが原因である場合も多いと分析し、正しい情報発信から理解を得ることで、改善に繋がると期待しています。
そこで美瑛では、農家の思いを観光客に直接伝えることができる看板作成プロジェクトを5年前から構想し、今回実現することとなりました。農地は全て農家が所有する私有地であることを理解してもらうために、代表的な観光名所には、農地の所有者の氏名を明記した看板を設置します。農家と観光客のより良い関係性作りのために添えた、観光客に向けたおもてなしの気持ちや感謝のメッセージと、農業景観に溶け込むような看板のデザインもポイントです。
さらに看板にQRコードを記載し、農家からの動画メッセージや本プロジェクトのPRサイト、農家が運営するSNSや農産物のECサイト、農業体験プログラムの予約などにアクセスできる仕組みを取り入れ、農家とつながる仕掛けを作りました。
QRコードの中には、本プロジェクトの活動資金を募るため、撮影ポイントの利用料(協力金)の徴収が可能です。中国で進んでいるQRコード決済を導入したことにより、より気軽に利用してもらえる仕組みを構築しています。
まとめ:観光客のマナー改善に向け対策に乗り出した美瑛
オーバーツーリズムによる観光公害が顕著となった北海道・美瑛では、農家自身が主体となり観光公害対策プロジェクトを発足させ、クラウドファンディングでの資金調達とプロジェクトに認知拡大に取り組みました。
訪日外国人観光客に向けたマナー遵守の喚起にあたっては、景観を保護しつつQRコードの導入で農家と観光客が繋がれるようなユニークな仕組みが取り入れられています。こうした双方向のコミュニケーションを可能とする施策に、今後のマナー改善への効果に期待が高まります。
<参考>
・J・FUNDING:北海道・美瑛を救いたい!農家と観光客との摩擦をチャンスに変える畑看板プロジェクト
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