なぜスペインは「自転車ツーリズム」先進国なのか?サイクリストから見た日本の「改善ポイント」その多さはむしろ成長の余白!

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2012年から日本スポーツツーリズム推進機構という一般社団法人が設立されたように、日本のインバウンド市場において、スポーツの持つ役割が再検討されています。

特に、スポーツの中でも自転車を使ったものは、観光産業との親和性も高いため、様々な形で取り入れている地方自治体や企業が日本国内でも数多くあります。

この自転車を取り入れた観光スタイル(ここでは自転車ツーリズムと定義)は、スペインで近年最も発展した観光形態の一つでもあります。

今回の記事では、スペインの例を参考にしながら、日本で自転車ツーリズムを発展させるための方法を探ります。


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スペインで自転車ツーリズムが発展した歴史的要因

もともと、スペインはヨーロッパの中ではかなり南に位置します。パリやアムステルダム、ロンドンといったヨーロッパの北にある主要都市から、2時間も飛行機に乗れば、スペインの南側に到着します。そしてスペインでも南側は、春や秋でも海水浴ができるぐらい、気候が温暖です。

こうした、地理的なアドバンテージに目を付けたスペイン政府は、1980年代から諸外国に自国の観光産業をアピールするようになりました。

その時に使われたキャッチコピーは「太陽と海辺(el sol y la playa)」というものでした。つまり、海辺のリゾートホテルに宿泊して、ビールでも飲みながら日光浴でもしてリラックス、というスタイルがスペインの観光産業の「売り」であったのです。

そんな「太陽と海辺」式観光の主な舞台となったのは、スペインの南側のアンダルシア地方やバレンシア地方、そしてグランカナリア諸島やバレアレス諸島のような温暖なスペインの離島でした。

「リラックス」の概念に変化

しかし、年月とともに観光客のニーズは多様化します。スペインに観光に来る人の目的は「リラックス」であることは変わらないものの、一部の人にとって、のんびりと日光浴をするよりも、アクティブな活動をすることがリラックスになる、という人も現れ始めたのです。

そして、ヨーロッパはジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、そしてブエルタ・エスパーニャのような大きな自転車レースが毎年開催されているほど、自転車が根付いている地域です。そのため、日ごろから頻繁に自転車に乗っている人も少なくありません。そのような人にとって、自転車でスペインのリゾート地を散策する、というのは決して敷居の高いアクティビティではありませんでした。

その一方で、観光客を迎えるスペインのリゾート地側にも、観光スタイルを多様化させたい理由がありました。

非バケーション期間は「スポーツに最適」

前述のとおり、このようなスペインの「太陽と海辺」式観光の舞台となった温暖な地域には、高層で部屋数の多いホテルやリゾートマンションが多数建築されるようになります。しかし、建築後にこうしたリゾート地のホテル業者は、季節により客足に大きな波があることに気が付きます。

具体的には夏休みやイースター休み(毎年4月中旬から下旬ごろ)、そして年末年始というバケーション時期には、こうした地域のホテルは非常に忙しくなります。しかし、その一方で、特に春と秋には客足が減り、同時に収入も減るという事態に見舞われることになりました。スペインのホテル側は、年間を通じて収入を確保する方法を探していたのです。

スペインの南側は、夏は非常に気温が上がりますが、秋から春にかけては非常に過ごしやすく、スポーツをするには最適な気候になります。また、自然豊かな地域も多いため、リゾート地の中心部から30分も自転車で走れば、緑豊かな山々や静かな海岸、そして火山の跡地などに行くことができます。

このようなスペインの地理的要因、観光客のニーズの多様化、そしてスペインのホテル側の安定した収入確保の必要性、という3つの条件が、スペインで自転車ツーリズムを発展させる要因となりました。

スペインの自転車ツーリズムの特徴

現在スペインで盛んな自転車ツーリズムですが、現在の傾向を分析すると次の特徴がみられます。

1. アリカンテ・マヨルカ・カナリア諸島が中心地

前述のような経緯を経てスペインで盛んになった自転車ツーリズムですが、今ではスペインの北部やスペインとフランスの間にあるピレネー山脈の麓でも楽しむことができます。

しかし、現在最も自転車ツーリズムが盛んな土地はやはり、スペインの南側です。特にバレンシア地方のアリカンテ周辺、バレアレス諸島にあるマヨルカ島、そしてグランカナリア諸島のテネリフェ島とグランカナリア島の4カ所がスペインの自転車ツーリズムの中心地です。

こうした土地では、自転車を楽しむ人向けのロードマップがあるのはもちろん、地元の自転車店とタイアップして自転車のレンタルや自転車の修理対応などのサイクリスト向けのサービスを実施しているホテルも数多くあります。

2. ドイツ人・スイス人・ベルギー人の男性が主要顧客

年間約16万人が自転車ツーリズムを楽しむマヨルカ島を例にすると、この島で自転車ツーリズムを楽しむ人々は、次のようなプロフィールを持っている傾向があります。

  • ドイツ人かスイス人、あるいはベルギー人が主要客(この3か国でマヨルカ島で自転車ツーリズムを楽しむ人の80%近くを占める)
  • 参加者の83%が男性。
  • 参加者の主要年齢層は「30歳~45歳まで」と「46歳~60歳まで」の2グループで、全体の80%を占める。
  • マッサージやスパなどのオプションを62%の人が利用。
  • 自転車で近隣の小さな村などを訪れるのが好き。

こうした参加者のプロフィールは、アリカンテ周辺やグランカナリア諸島でも、ほぼ同様のものであると思われます。

3. 16億ユーロの市場規模

2017年のデータでは、スペイン国内での自転車ツーリズムによる利益は約16億ユーロと試算されています。

4. グループライド(ガイド付き)とレース形式

現在、スペインで見られる自転車ツーリズムのタイプは、大きく分けて2つあります。

ひとつは参加するサイクリストがグループを作り、そのグループにその土地に詳しいガイドやメカニックなどが同行して、のんびり近隣の美しい村などをめぐる、「グループライド形式」のものです。

例えば、スペイン・バレンシア地方のペニスコラという街にある、サイクリスト専用の旅行会社のビシ・マエストラットの提供する行程はこれにあたります。

もう一つは、「レース形式」のイベントで、参加者が「競争」するものです。しかし、たとえレース形式のものであっても、その前後には参加者全員が集まるアフターパーティなどがあり、肩の凝らない気楽な自転車イベントとなっています。

スペインの名サイクリストであるアルベルト・コンタドールの名前を関した「グラン・フォンド・アルベルト・コンタドール」は、代表的なイベントの一つです。

また、日本で現在実施されているのは、前者の「グループライド形式」のものがほとんどです。

サイクリストから見た日本の「改善ポイント」は?

こうしたスペインでの自転車ツーリズムの発展の経緯や現状をベースにしながら、日本の自転車ツーリズム産業の発展のために必要なことを考えると、次のような環境の整備が必要なことに気づきます。

自転車に対応した施設

まず、ホテルなどのインフラが自転車に対応したものになっていること。サイクリストの立場からすると、自転車の保管場所は屋内にあったほうが安全ですし、自転車の修理器具などもホテルにあればとてもうれしいところでしょう。

このような自転車対応のインフラには、地元の自転車店のバックアップが欠かせません。

外国人目線で日本の走り方を伝えられるガイド

そして、特に「グループライド形式」の自転車ツーリズムの発展に欠かせないことが、様々な語学とその土地の情報、そして自転車に精通するガイドを育成することです。自転車ツーリズムを楽しむヨーロッパ人は、その土地の小さな村などを訪ねることが好きなので、そうした村々の情報を提供する人材が必要になります。

加えて、こうした自転車ガイドは、参加者の安全も現場で管理する立場になります。例えば、ヨーロッパ大陸では自転車は道路の右側車線を走りますが、日本では左側車線を走ることになります。そのため、自転車ツーリズムの現場を担当する人は、こうした違いを正しく伝えて安全にサイクリストを目的地まで引率する能力が必要になります。

日本でも、こうした自転車ガイドを取り入れたツアーが近年増えてきました。しかし、ほとんどが英語対応なので、ほかの語学、例えばドイツ語やスペイン語でも対応できるガイドの育成が今後必要になるでしょう。

またこうしたガイドは「レース形式」のイベントの開催時でも、その語学と経験を生かして、現場で参加者対応の最前線で働くことができます。

情報発信

そして、「グループライド形式」の旅行形態にせよ「レース形式」のイベント形態にせよ、現在の日本の自転車ツーリズムの発展に圧倒的に足りないものは、日本のサイクリング情報を海外向けに発信することです。現状、ヨーロッパで手に入る自転車ツーリズムの情報は、決して多くはありません。

その一方で、日本の各地で開催されるレース形式の自転車イベントに興味を持つヨーロッパのサイクリストも少なくありません。彼らはサイクリング・イベントに参加するために、自転車片手に旅行することを面倒には思わず、様々な場所に積極的に出かけます。

こうした海外のサイクリストが日本の情報を得やすい環境を作ることが、日本の自転車ツーリズムを発展させる必要条件となります。

日本の自転車ツーリズム、もっと積極的な情報発信を

特にヨーロッパ人は外国で自転車に乗って観光するというスタイルがすでに身についている人も多いうえに、自転車のイベントのために外国に行くことが好きな人も多い傾向にあります。

そうした人々にとって日本の自転車ツーリズムは非常に興味深いものではありますが、なにより情報が少ないことが参加のネックになっているといえるようです。

日本の自転車イベントの情報が、ヨーロッパにもっと頻繁に入ってくるようになれば、「自転車に乗るために日本に行く」人も増える可能性があるのではないでしょうか。


<参照>

https://www.cerodosbe.com/es/viajeros/cicloturismo-aspira-multiplicar-por-siete-negocio_569615_102.html

Análisis del cicloturismo en Mallorca

https://www.viajesbicimaestrat.com

https://granfondoalbertocontador.com

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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