緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。
今回はサブカルの街・秋葉原を、Airbnb「オンライン体験」を通じてガイドする 市原佑樹 氏に寄稿いただきました。
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コロナ禍による影響
私は元々は都内・秋葉原エリアを中心に個人ガイドを展開していました。
「日本のオタクが案内するサブカルの街、秋葉原」という特定のコンセプトでターゲットに絞った集客が功を奏し、サービス開始から約1年半で約500名のサブカルファン、いわゆるオタクの人達をガイドしてきました。
主な顧客層はアメリカを中心とした欧米エリア・ヨーロッパからの訪日ゲストでしたが、2月末辺りから集客がパタリと止み始め、4月に入ると利用していたAirbnbで一切の集客ができなくなる事態に陥りました。
「どんな形でも生き抜くぞ」という覚悟でUberEatsの宅配員やアルバイトで生計を建てようとしていた折に、Airbnbでローンチした新サービス「オンライン体験」の存在を知りました。
「家から旅する」という発想への疑念
正直言って私自身、「観光地に実際赴いてこそのツアー体験。それをオンラインで提供できるものなのだろうか?」という疑念がありました。
今までオフラインのツアーを行なってきた中で、自分の語学力や観光スポットについての知識の足りない点があったとしても「観光名所が持つ雰囲気・存在感」がゲストに与えるライブ感は大きく、それにより期待値を超える体験を提供してきた経験が何度もあったからです。
それをオンラインで提供するということはつまり、観光地や文化についての説明責任を自分が全て負うと言っても過言ではありません。実際、体験内容の提出時に行なったAirbnbスタッフとの面接では緊張が先行して「もっと肩の力を抜いていい」と言われた程です笑
実際にオンライン体験を提供しての気づき
そんなオンライン体験ですが、オタク文化をオンラインで届けるという異色性のお陰か、NY TIMESをはじめとした海外メディアから取り上げられることもあったお陰か約1ヶ月で100人以上の予約を頂きました。
近頃ではオンライン体験のノウハウ共有をブログやウェビナーで発信する機会も増えてきています。そうして回数を重ねるうちに気づいた点が3点あります。
1. 双方向のコミュニケーション
まず、オンライン体験においてゲストから求められているのは一方的なガイドではなく「双方向的なコミュニケーション」であるという気づきです。
「ガイド」という言葉本来の意味から考えるとやや誤解されがちですが、ことオンライン体験において重要視されるのは「ホストがゲストの気持ちを察し、より快適で楽しい時間を提供すること」だと私は考えます。
従って、私が常に心がけているのは「自分1人が話し過ぎず、可能な限りゲストと一対一の会話のキャッチボールをする」ことです。ゲスト一人ひとりの特徴を理解し、彼らの出身地や好みに興味を示して対等な立場を作り出すことにも専念しています。
2. 対話環境・コミュニケーションスキルへの配慮
次に、オンライン体験では対面の会話以上に「対話環境・コミュニケーションスキルへの配慮」が求められるという気づきです。
遠隔でツアーをする以上、ホストとゲストを隔てる距離の間には多くの障害があります。回線速度、システムエラー、通話ツールについてのノウハウ不足など、どれかひとつでも欠けることがあればゲストへ不快感を与える理由になりかねません。そのため通話環境の整備は大前提といえるでしょう。
さらに、オンラインで通話をする際には普段以上に間を取って会話をすることも大切です。上記の障害による返答スピードのズレを意識したテンポで、ゆったりと進行するとベターです。
また、ゲストが複数人いる場合には話す度に「〜〜ですよね、◯◯さん?」とゲストの名前を呼んであげないと会話が混線してしまうことも多々あるので要注意です。
3. 「オンライン体験提供」オフラインツアーにも勝る面も
最後に挙げるのが、適切なオンライン体験提供はオフラインツアーにも勝るほどの「ゲストとの強い心の繋がり」の獲得につながるという気づきです。
これは私自身驚いたことのですが、たった1時間の通話の中で観光地・文化についての知識を共有し、またゲストについても知ることで彼らとの絆の強まりを感じることが多々ありました。
勿論、コロナ禍だからこその「みんな辛い時期だけど一緒に乗り越えよう」という吊り橋効果的な要素もあると思います。ですがそれ以上に「日本という遠く離れた異国について、普通ならわざわざ旅行しなければ知り得ない知識・得られない現地の友人を短時間で獲得することができた」という感動体験を適切にゲストへ届けられていることの現れなのだと自負しています。
それだけのポテンシャルがオンライン体験にはあるということでしょう。
オンライン体験は「ファン作り」に適したサービス
ゲストとの強い絆を作る、言ってみればこれは自分のサービス・またツアーガイドとしての自分自身のファン作り作業と言っても過言ではありません。
これまでオンライン体験を提供したゲストさんの中には、「コロナ禍が明けた後の観光先を考えていたけど、この体験で日本に行こうと思ったよ、だってオタク友達のYukiがいるからね!」という嬉しい言葉をくれた人達が一定数いました。
私たち日本人が観光地を決める際も、全く知識のない国よりも「すでに深く知り合っている現地の友人」がいれば、その国へ行く強い決め手になると思いませんか? そういった意味でオンライン体験は「日本へ渡航するきっかけ」を生み出すファン作りに適したサービスだと思います。
もちろん注意も必要
ここまでのオンライン体験が持つポテンシャルについてのみ注目すると、とても魅力的なサービスと思われる方もいるかもしれません。実際僕はかなり良いサービスだなと思うのですが、注意が必要だと感じた点もあります。
1. 資料で情報を補足
まず、画面の向こうにいるゲストの興味を維持することは想像以上に難しいという点です。
前述した様に、目の前に観光スポットが無い以上その説明責任を負うのは全てホストであるあなた自身です。一方的に観光地や文化についての情報を話し続けるだけでは多くのゲストがついて来れません。
また外国語圏からのゲストを案内する場合は英語での案内が必須となりますが、日本人にとっての母国語では無い以上口頭だけでの説明には無理があると言えます。
結果、ホストの話にゲストが興味を失ってしまいかねません。
これを避けるためにはコミュニケーションスキルへの配慮に加え、視覚情報に訴える資料作りも欠かせません。
そのため、言葉だけでは説明が追いつかない部分を補足するためにも、画像や動画を盛り込んだ資料があるとベターです。
2. オンライン体験との相性を考える
次に、ガイドするコンテンツによってはオンライン体験との相性の良し悪しがあるという点です。
幸い、私が提供する日本のサブカル文化(アニメ・漫画・ゲーム等)はこの相性が良く、ディスプレイの向こう側にいるゲストに対しても興味を保てるだけのサービス提供が出来ています。
しかし、大前提としてその場にゲストがいる必要があるコンテンツ(運動や料理体験など)は本来の価値が提供できない可能性があります。観光地へ赴き、五感で楽しんでこそのものがオンラインでは提供できない故の問題です。
かと言って、これらのコンテンツがオンライン体験と全くマッチしないかと言えばそうでもありません。
実際、海外諸国のオンライン体験ページを見ていると「シェフから学ぶパスタの作り方」、「プロインストラクターと行うオンラインダンス体験」と言った類の体験も人気を博しているようです。結局のところ、どんなコンテンツでも工夫次第で化ける可能性があるということだと思います。
ポストコロナもガイドの価値を高める魅力的なサービス
結論として、オンライン体験はコロナ禍に面した今だからこそツアーガイドの方にお勧めしたい新しいガイドの形だと思います。
さらに言えば、「こんな状況だから仕方なく/オフラインツアーの代わりとして」ではなく、「コロナショックを抜けた後もツアーサービスの価値を高める飛び道具的な武器」として強めていくべきサービスだと感じました。
オンラインツアーでツアーとガイドに対してのファンを作り、その上でオフラインツアーへの引き上げを狙うというのが僕の目指す集客の形です。
Airbnbでのオンライン体験概要や始め方、豆知識についてはブログでもまとめているのでぜひご覧ください。
著者:“サブカル特化型”個人ツアーガイド 市原 佑樹
カナダ留学後、広告代理店勤務を経て個人ツアーガイドとして独立。
「Private Otaku Tour in Akihabara」をAirbnb上で実施。約1年半のガイドで500人以上のアニメファンをホスト。
2019年「Community Contributor」としてAirbnbから受賞。
2020年4月に開始した新サービス「オンライン体験」において「Get Inside Tokyo Anime & Subcultures」を実施。
5月22日現在の予約件数は100件を超え、平均レビュー4.98/5.00を記録。
緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集
訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか?ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。
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