ネット検閲で有名な中国では、大ヒットを記録したゲーム『あつまれ どうぶつの森』が流通禁止になったり、ディズニーのキャラクター「くまのプーさん」の画像を発信することができなかったりします。
前者の背景には、香港で2019年3月末より現在に至るまで続く民主化運動があります。後者には、国家主席の習近平の権威を守る意図があります。
今回は、中国と香港での表現と自由に対する規制と、それにより日系企業が受ける可能性のある影響について考察します。
関連記事
新機種「Nintendo Switch Lite」インバウンド市場への影響
中国「正規では初」ポケモンゲーム発売
インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)
どうぶつの森、プーさんが中国で"消される"ワケ
2020年3月20日に任天堂が発売した『あつまれ どうぶつの森』は、ゲームに登場するさまざまな「どうぶつ」と一緒に無人島暮らしを楽しむゲームです。ゲームの中では島や家を好きなように改造したり、家具や洋服などを自分好みのデザインで製作するなど、高い自由度が特長となっています。
この自由度の高さは香港の民主化運動グループでも話題となり、香港では『あつまれ どうぶつの森』の中で民主化運動の集会が開かれたり、ゲーム内で民主化運動の標語である「光復香港時代革命(香港を取り戻せ、革命の時代だ)」と記されたアイテムが製作されたりと、革命の舞台の一つとして人気を集めました。
この動きを見た中国当局は、当局の規制が及ばないゲームの中という仮想空間で民主化運動が勢力を伸ばしていくことを危惧します。中国政府は、中国本土における『あつまれ どうぶつの森』の流通を完全に禁止しました。
Twitter:ゲーム内で民主化運動が起こっていることを伝える投稿(https://twitter.com/studioincendo/status/1245414753058426881?ref_src=twsrc%5Etfw)また、『あつまれ どうぶつの森』の規制より前から、ディズニーのキャラクター「くまのプーさん」に関する情報は、習近平主席を揶揄する際のモチーフとして使われているとして、中国当局によりインターネット上での情報発信、検索に規制が敷かれています。
中国の検索エンジン「百度(Baidu)」では「習近平」と「くまのプーさん」を同時に入力しても、一切結果が表示されません。
同様な政府による規制は他にもあり、有名なものには天安門事件にまつわる数々の単語が挙げられます。中国において天安門事件は、一部の反乱分子が起こした暴動ということにされており、百度で「天安門事件」と入力してもその全容は掴めません。
また、天安門事件が勃発した日付である「8964(1989年6月4日)」と入力しても、「検索結果がありません」と表示されます。
中国のネット検閲とは
中国には政府によるネット検閲が存在し、検索できないワード(例:「天安門事件」や「くまのプーさん」など)があり、国内でのネット利用には制限がかかっています。中国では世界中で当たり前に利用されているGoogleやFacebook、YouTubeなどにはアクセスできません。海外の情報を遮断する体制は、異民族の侵入を防ぐ万里の長城になぞらえてグレート・ファイヤーウォールと呼ばれています。こうした環境は、中国IT企業による検索エンジンやSNS事業の発展を助けてきました。インバウンド対策にお困りですか...
中国のネット検閲とは
中国には政府によるネット検閲が存在し、検索できないワード(例:「天安門事件」や「くまのプーさん」など)があり、国内でのネット利用には制限がかかっています。中国では世界中で当たり前に利用されているGoogleやFacebook、YouTubeなどにはアクセスできません。海外の情報を遮断する体制は、異民族の侵入を防ぐ万里の長城になぞらえてグレート・ファイヤーウォールと呼ばれています。こうした環境は、中国IT企業による検索エンジンやSNS事業の発展を助けてきました。インバウンド対策にお困りですか...
「習近平にそっくり」なだけでアカウント閉鎖
中国当局は特に習近平主席に対する批判や揶揄を危険視しており、「くまのプーさん」のみならず大晦日を意味する「除夕」という単語も中国メディアでは使わないよう注意する姿勢も見られるそうです。
これは、「除夕」と「除習」は同じ発音であることが理由で、「習を除く」という意味の揶揄と誤解されるのを避ける意図があるようです。
そんな中、中国のショートムービーアプリ「抖音(Douyin、中国版TikTok)」では、とあるユーザーのプロフィール画像が「規則違反」とされ、アカウントの利用が停止されました。
理由は明らかにされていないものの、習近平主席に似ていたためではないかといわれています。プロフィール画像を差し替えたところ、同人物はSNSを再度利用できるようになったと伝えられています。
中国では古くより、皇帝や親など目上の人の名前にある漢字を日常で使わないようにする「避諱(ひき)」という習慣がありました。この習慣は清王朝の崩壊と共に消失したとされていますが、習近平主席を想起させる単語や顔を回避する動きは、「避諱」が現代になお残っているようにも感じられます。
香港で表現に対する規制が強化
香港では民主化の機運が強まる中、中国政府による政治への介入が少しずつ進んでいます。香港は2047年まで中国から独立した「一国二制度」による自治を敷くと決められていましたが、最早この制度は形骸化したともいえる状況に陥っています。
2020年6月4日、香港では「国歌条例」が可決され、中国の国歌「義勇軍行進曲」に対する侮辱行為が禁止されました。
香港で中国の国歌を替え歌にするなど侮辱行為をした場合、最大3年間の禁錮刑と5万香港ドル(約70万円)の罰金が科せられます。
香港では「義勇軍行進曲」を国歌として認めず、スポーツの公式試合などで国歌斉唱をしなかったり、民主化運動のテーマ曲として制作された「願榮光歸香港(香港に栄光あれ)」を代わりに歌う行為が多発しています。
今後このような行為には刑事罰が適用されることとなり、侮辱が示す範囲も曖昧であることから、民主派は強く懸念を示しています。
また、国歌条例が制定された前の週には、香港の一国二制度に終止符を打つ法律ともいえる「国家安全法」が制定されました。国家安全法は、中国の国家分裂や政府転覆を企む言動を禁ずるもので、今後の香港における民主化運動は国家安全法を理由に取り締まられる可能性が高まっています。
本来、香港では2047年まで言論の自由や集会の自由が守られるはずでした。しかし、国歌条例や国家安全法が制定された今となっては、これらの自由は風前の灯火となっているといえるでしょう。
2019年激動の香港デモを振り返る:デモの原因・デモの目的・中国政府の反応
2019年6月9日の大規模デモ行進をきっかけに香港中を巻き込む事態となった香港におけるデモ活動は、年末になっても留まるところを知らず、連日香港各所で集会やデモ行進が相次いでいます。デモ活動の参加者には逮捕者や死傷者も出ており、警察は催涙弾や実弾を用いるまでに至っています。 日本人の逮捕者や負傷者も出るなど、今年1年を通して情勢が一変してしまった香港ですが、そもそも今回のデモ活動はなぜ始まったのでしょうか。 この記事ではデモの原因や目的、中国政府の対応や海外の反応について整理し、激動...
仮想空間「あつ森」での抗議活動、TikTokも撤退
仮想空間である、Nintendo Switch用のゲーム「あつまれ どうぶつの森」の世界では、前述のように抗議活動が展開されていました。
Nintendo Switchの中国展開に際しては、中国国内のバージョンとそれ以外があり、香港では後者が利用されています。
中国国内のバージョンは、中国政府が許可したソフトのみプレイ可能であり、商品展開はバリエーションに欠けたものとなっています。これもまた、中国政府の統制の一部といえるでしょう。
2020年6月の時点では、香港域内でのNintendo Switchの扱いが変わることについては伝えられていません。
しかし、香港からはすでにTikTokの撤退が起きたり、大手インターネット企業が利用者情報の提出を停止したりといった動きが見られています。
今後も中国政府の影響から、オンラインサービスのプレイヤーには変化が見られそうです。
中国「正規では初」ポケモンゲーム発売・IT大手テンセントと共同開発:中国ゲーム市場の転換点となるか
6月24日、ポケモン株式会社は、中国のIT企業テンセントと共同開発している新作ゲーム『Pokémon UNITE(ポケモンユナイト)』を発表しました。これまで中国のゲーム市場は、日本が切り込めなかった領域であり、ポケモンが正規に登場するゲームは、これまでに中国本土では発売されていません。ポケモンユナイトの販売により、日本発のゲームが公式に中国で販売できる可能性が現実的になってきました。目次「ポケモンユナイト」発売共同開発は中国大手テンセントの子会社中国版Switchで遊べる任天堂ソフトは「...
中国からの「監視逃れ」か−香港からFacebook、Google、Twitterが相次いで利用者情報提供を辞めた理由
6月30日に香港国家安全維持法案が成立して以来、FacebookやGoogle、Twitterなどの大手IT企業が相次いで香港当局への利用者情報の提供を一時中止すると発表しました。短編動画共有アプリ「TikTok」も、香港市場からの撤退を表明しています。今回は、こうした動きの経緯をふまえ、香港のインターネット事情やインバウンド対策への影響について解説します。目次「香港国家安全維持法案」成立、言論統制の強化に一歩近づく各種ネットサービスが香港で監視を逃れる動き自由「だった」になってしまうのか...
表現規制は日系企業への影響も
ここまで、中国と香港における言論の規制について紹介しました。このような環境下で、日系企業はどのような影響を受けているのでしょうか。
日本貿易振興機構(JETRO)の「香港を取り巻くビジネス環境にかかる アンケート調査」によると、2020年1月から3月にかけて香港における抗議活動の影響を受けた企業は広範囲に及んでおり、中でも飲食業と小売業では全ての企業が「影響がある」または「大いに影響がある」と回答していました。
また、情報・通信およびメディア・広告業においても80%以上の企業が「影響がある」または「大いに影響がある」と回答しており、これら2つの業種は特に大きな影響を受けたことが分かります。
一方、精密および電気・電子機器業、運輸・倉庫業、商社・貿易・卸売業の3業種では半分以上の企業が「あまり影響はない」と回答しており、業種ごとに影響の大小は分かれているようです。
新型コロナウイルスの流行により世界全体で経済が低迷している中、中国や香港で事業を展開している企業は現地当局の規制や民主化運動の余波にもさらされています。
特に中国では、インターネットに掲載する文章などに意図しない政府批判が含まれていないか精査する必要があるほか、当局により求められる表現の規制や事業内容の検査にも臨機応変に対応しなければなりません。
そして香港では、店舗を開設している企業は暴徒化した市民から自社の店舗を守らなければならないほか、親中派企業と認定された場合は不買運動に繋がる恐れもあるため、自社のブランディングを慎重に進める必要があります。
中国と香港における新型コロナウイルスの流行は終息を迎えつつありますが、香港での民主化運動の激しさは変わりません。中国や香港で事業を展開する際には、これらの動向を注視しつつ事業を進めることが重要となるでしょう。
今後は香港での表現規制に中国基準が採用されていく
中国のインターネットは検閲が実施されており、政府当局により不適当と判断された物事は全て規制されています。香港は「一国二制度」の下でこれらの規制が適用されず、言論や集会の自由が保証される地域であるとされていましたが、国歌条例や国家安全法の制定により、その立場は崩れ始めているといえます。
日系企業が中国や香港で活動する際には、政府当局の動きに十分注意するとともに、現地で敷かれている規制を理解し、プレスリリースなどを公開する際は規制に抵触しないよう慎重に内容を精査することが大切です。
中国SNS「RED(小紅書)」最新情報セミナー:訪日ラボ社内勉強会の内容を特別に公開します【訪日ラボ トレンドLIVE! Vol.6】
短時間でインバウンドが学べる「訪日ラボ トレンドLIVE!」シリーズの第6弾を今月も開催します!訪日ラボとして取材や情報収集を行う中で、「これだけは把握しておきたい」という情報をまとめてお伝えするセミナーとなっています。
今年も残りわずかとなりましたが、インバウンド需要はまだまだ好調をキープしている状況です。来年の春節や桜シーズンなど、訪日客が集まる時期に向けて対策を練っていきたいという方も多いでしょう。
今回もインバウンド業界最大級メディア「訪日ラボ」副編集長が、10〜11月のインバウンドトレンド情報についてお話ししていきますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
詳しくはこちらをご覧ください。
→中国SNS「RED(小紅書)」最新情報セミナー:訪日ラボ社内勉強会の内容を特別に公開します【訪日ラボ トレンドLIVE! Vol.6】
【インバウンド情報まとめ 2024年11月前編】UberEats ロボット配達開始、万博需要見すえ大阪で ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。
この記事では、主に11月前半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→UberEats ロボット配達開始、万博需要見すえ大阪で:インバウンド情報まとめ【2024年11月前編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」
スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!