コロナ禍での観光再開を目指し、世界観光機関(UNWTO)が立ち上げたグローバル観光危機委員会は、観光再開に向けたガイドラインを発表しました。ガイドラインによると、今後の旅行では、旅行者の「安心」「安全」を守る取り組みが重要になるとしており、「ナショナルトラッキングアプリや移動経路のトラッキングアプリを推奨」と明記されています。
日本では、2020年5月29日より、大阪府がいちはやく独自の追跡システム搭載アプリを開発・導入したことが話題になりました。6月19日からは厚生労働省によって、全国を対象とした新型コロナウイルス感染者との濃厚接触確認アプリ「COCOA」の運用を開始しています。
ウィズコロナ時代の旅行に必須の「安心」を確保するための追跡アプリについて、各国の導入までの道のりや現状、懸念点を解説します。
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先駆けてスタート、大阪コロナ追跡システムが話題に
大阪府では新型コロナウイルスと共存していくため、感染拡大の防止と社会経済活動の維持の両立を図る独自の「大阪コロナ追跡システム」を国内で初めて導入しました。
追跡システムを導入した施設やイベント会場で感染者が発生した場合、感染者と接触した可能性のある人を追跡し、メールでの注意喚起を行う仕組みです。クラスター発生の可能性を早期に把握し、感染者と接触した可能性のある人に行動変容を促すことで、感染拡大を防ぐ狙いがあります。
施設での導入にあたっては、追跡システムに施設情報を登録し、ダウンロードしたQRコードを印刷・掲示することが必要です。施設利用者やイベント参加者は掲示されたQRコードを読み取りメールアドレスを入力することで、感染者が発生した際などに注意喚起のメールを受け取ることができます。
厚生労働省も接触確認アプリの運用開始
厚生労働省は2020年6月19日から、接触確認アプリ「COCOA」の運用を開始しました。COCOAは、新型コロナウイルスに感染した人と濃厚接触した疑いがある場合にのみ、通知を受け取れるスマートフォン向けのアプリです。
このアプリの最大の特徴は、「追跡アプリ」ではなく「接触確認アプリ」であるという点です。COCOAはGPSなどから感染者の移動ルートを把握する追跡システムを導入していません。ユーザー同士が持つスマートフォンの距離を、Bluetoothを使って把握し、15分以上1メートル以内に一緒にいた場合に「接触した」と判断され、スマートフォンの中に記録が保存されます。
この記録はスマートフォン本体に記録され、また一定期間が過ぎると自動で削除されます。
「接触した」と記録された相手が新型コロナウイルスに感染したと申告した場合には、過去14日以内に感染者と接触したことをユーザーに通知します。通知の届いたユーザーは感染のリスクにいち早く気づき検査を受けるため、感染拡大防止につながると考えられます。
COCOAのメリットとして、GPS機能などユーザーのプライバシーにかかわる情報取得をしないことが挙げられます。ユーザー情報は匿名で保存され、かつBluetoothでの接触履歴のみを取得する仕組みであり、個人のプライバシーに配慮した作りになっています。利用者の抵抗感を減らすことで、幅広い利用が期待できます。
「大阪コロナ追跡システム」と「厚労省COCOA」の違いとは?観光業の回復に向け気を付けたい「インバウンドの気持ち」:個人情報保護・感染防止の
大阪府は、新型コロナウイルス感染拡大の抑制と社会経済活動維持の両立を図るために、感染者と接触した可能性がある人を追跡できるシステム「大阪コロナ追跡システム」を開発し、5月29日から運用を始めています。新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、国に先駆けた取り組みとして注目を集めました。目次大阪コロナ追跡システムとは京都市でも取り組み、観光の新しいスタンダードに?厚労省も「COCOA」をスタート、海外向け丁寧な説明が必要に?大阪コロナ追跡システムとは「大阪コロナ追跡システム」は、大阪府内で新...
世界各国で広がる追跡システムの導入
中国、韓国では、近隣諸国に先駆けてコロナウイルスの感染拡大防止を目的としたスマートフォン向けアプリを用いたシステム導入が開始されています。
そのほかの国や地域では、6月上旬時点でシンガボールやインド、オーストラリアなど、40以上の国や地域が導入しています。
日本のCOCOA同様、IT大手のAppleとGoogleの技術に基づき開発する国も少なくありません。
1. 中国の「健康コード」
新型コロナウイルスの発生地となった中国では、現在感染は収束傾向にあるとして、世界に先駆けて経済活動の再開が進んでいます。経済活動の早期回復のために、政府によるビックデータの分析情報を活用した追跡システムの導入が開始されました。
中国におけるビックデータを活用した感染拡大の抑止対策例として、スマートフォン向けアプリ「健康コード」が挙げられます。このシステムは2月から実装されました。オフィスや店舗、公共・観光施設などへ入る際に、感染の有無を色付きのQRコードで表示するシステムです。
ユーザーはAlipayやWeChat Payなど、中国で広く普及している決済サービスを通じ、スマートフォンにアプリをダウンロードします。指紋認証で本人確認を行ったのち、体調や行動歴に関する複数の質問に回答すると、回答内容が各種データベースにて照合・分析されます。その結果、ユーザーの健康状態を感染リスクの高さに応じて「赤(高)・黄(中)・緑(低)」のいずれかの健康コードに分類し表示する仕組みです。
緑の場合は問題なく施設に入れますが、赤色や黄色の場合は規定により隔離や健康チェックの対象となります。健康コードは2月上旬に浙江省杭州市で導入されてから、現在では200以上の地方政府が導入しており中国全土で広く普及しました。
2. 韓国の「追跡アプリ」
迅速な対応と大量検査で医療崩壊を防いだ韓国では、追跡アプリなどや個人情報データを元にした、感染経路の徹底追跡が行われています。追跡アプリは3月にリリースされました。
韓国に入国した際には、入国管理事務所で「自己診断アプリ」のダウンロードが求められています。パスポート番号や海外での滞在歴などを登録したのち、入国後14日間は体温をはじめその日の体調についての情報を1日1回アプリへ入力する必要があります。
データは疾病対策予防センターなどに送られ、情報の入力がされなかった場合、3日目には電話で警告、4日目には警察に通報されるといった厳格さが特徴的です。
さらに、クレジットカードの利用履歴やスマートフォンのGPS機能、防犯カメラの記録などから感染者の行動履歴を遡って追跡し、匿名でホームページ上に公開することも行っています。このような徹底した追跡が功を奏し、韓国で感染経路が特定できない感染者の割合は、感染者全体の10%に留まっています。
3. シンガポール「TraceTogether」
シンガポールでも、いち早く接触にかかわるデータを活用するアプリ「TraceTogether」が開発、公開されています。
2020年3月20日に国内向けにアプリの配布を始め、4月上旬には100万人以上がユーザー登録していることが伝えられています。これはシンガポールの全人口の15%以上が使っている計算になります。
ユーザーの位置データは記録しませんが、アプリ所有者が新型コロナウイルスへの感染が判明した際には、端末内のデータを政府の担当機関に対し提出の同意を求められるという運用です。
保健省はTraceTogetherのFAQサイトで、感染したユーザーのデータを事前の同意なしに使わない点を強調しています。
4. オーストラリア「COVIDSafe」
オーストラリアでは4月26日、新型コロナウイルス感染者が接触した人を追跡できるスマートフォンアプリの導入を発表しています。プライバシーの保護を優先し、強制はしていません。
5. イギリス
イギリスでは、政府機関が独自で「接触確認アプリ」を開発し、6月上旬には離島で実証実験を進めていましたが、23日にはAppleとGoogleの技術を採用する方針が伝えられています。
前者ではデータの保管は、国が管理する「中央サーバー」に集められることが示されており、ハッカーの攻撃が懸念されていました。
6.フランス「Stop Covid」
フランスでも5月下旬にアプリ「Stop Covid」の導入が国で承認されました。当初のイギリスのように、独自開発のシステムを利用し、データは国が管理する方針です。
7. ドイツ
ドイツ政府は6月16日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、コロナ感染者の追跡アプリをスマートフォンにダウンロードするよう国民に要請しました。
8. その他ヨーロッパ、アメリカ
ドイツのほか、イタリアとポーランド、ラトビアもAppleとGoogleの技術に基づくシステムを利用することが伝えられています。
この場合、データは利用者のスマートフォンに保存され、接触データは時間がたつと自動的に削除されるようになっています。
アメリカではこうしたシステムに対する社会の反発が強く、実行性のあるシステムは社会実装されないとの見方が今のところ強くなっています。
運用体制へのユーザーの信頼確保が課題に
IT技術を駆使した追跡システムによる感染拡大防止策が注目を浴びる一方で、個人情報保護の観点から懸念される点が多く挙げられているのも事実です。たとえば、追跡システムの導入による個人情報の収集が、商業的・政治的な利益への悪用や政府による国民の監視に繋がることが懸念されています。
韓国のようにユーザーの意思に関係なくアプリを導入することは、政府による監視制度が敷かれてしまうという危険性も指摘されています。
政府や企業が国民の意識を操作する懸念がある一方で、組織的かつ強制力のある追跡システムの導入が、結果的に中国での感染収束に貢献したとの見方も示されました。
追跡システムの効果を得るには全住民の60%以上が該当アプリを使用する必要があるため、国民の信頼と理解を得ることが重要になるといえます。
ヨーロッパでも6月中旬から各国で追跡アプリの導入が始まっています。プライバシーの尊重に敏感な同地域の国民の考えに配慮し、欧州委員会では追跡アプリを通じ収集されたデータの暗号化を必須とすること、一極集中型のデータベースへの保存を禁止することを、データの悪用を防ぐ体制が検討されています。
インバウンドへ「安全性」「プライバシー保護」のPRが必要
この先、追跡システムの活用をはじめ、旅行者の衛生面での安全性を訴えることが、インバウンドの集客に必須となると考えられます。追跡システムについては、個人情報保護の観点などから懸念を抱く旅行者もいると考えられ、こうした不安感を取り除く丁寧な説明も必要になってくるでしょう。
インバウンド市場の回復までは時間がかかると考えられますが、国内での都道府県をまたぐ移動制限が解除されるなど、観光業の回復に向けた動きも見られます。国内からの旅行者の「安心」を守る新たな取り組みを通じて、インバウンドからの日本に対する評価も高めることができるはずです。
<参照>
トラベルボイス:国連世界観光機関、観光再開に向けた分野別ガイドラインを策定、観光人材育成ではグーグルとの関係を強化
UNWTO:GLOBAL GUIDELINES to RESTART TOURISM
大阪府:大阪コロナ追跡システムについて
ASCII.jp×ビジネス:「健康コード」はデータドリブン政策の証、中国の新型コロナ対策
NHK:「検査・治療・追跡 韓国の新型コロナ対策」(時論公論)
AFP:コロナ追跡アプリ、公衆衛生と個人情報保護めぐりせめぎ合い
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
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<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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