香港では8月10日、香港国家安全維持法に違反した疑いなどで、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏らが逮捕されました。
12日未明には保釈されましたが、周庭氏は「これまで逮捕された中で一番怖かった。政治的な弾圧だ。」などと語り、日本国内からも香港警察の対応に対し批判の声が相次いでいます。
今回は、周庭氏逮捕の経緯やこれまでの香港と中国の歴史を振り返り、今後のインバウンドの香港市場へのリスクについて解説します。
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香港・周庭氏逮捕の経緯
8月10日、香港の民主活動家の周庭氏は、香港警察により国家安全維持法に違反した疑いなどで逮捕されました。
8月12日未明には保釈されましたが、「これまで逮捕された中で一番怖かった」と記者団に対し述べました。
法律に違反した理由については不明な点が多くあり、今回の逮捕は政治的な弾圧であると主張しています。
周庭氏はこれまで8年にわたり香港で民主化運動を行ってきましたが、6月30日の香港国家安全維持法の導入を受け、自らの身を守るため、同日に政治団体デモシストからの脱退を表明していました。
8月13日時点では周氏は起訴されていませんが、今後の警察の捜査に基づき、起訴するかどうかが判断されるとみられています。

Twitter:周庭氏の投稿(https://twitter.com/chowtingagnes/status/1277827550564069376)
香港警察は、政治団体デモシスト脱退後、どのような点が香港国家安全維持法に違反したかを明らかにしておらず、警察の対応には抗議の声が寄せられています。
日本の反応
周庭氏は、かねてから香港の民主化運動について、独学で学んだ日本語で日本向けにも発信してきたことから、日本でも今回の逮捕に対する関心が高まったと考えられます。
周庭は以前より日本語での情報発信も行っており、日本での講演や政治家との対談といった経歴もあり、日本社会での知名度も高くなっています。
周庭氏の逮捕を受け、ネット上では民主活動家の仲間から日本語で「日本の皆様のサポートが必要です」という呼びかけがありました。
その後Twitter上では、周庭氏の英語名「Agnes」を使い解放を求める、「#freeAgnes」というハッシュタグが日本中から拡散されました。
香港警察から保釈された後、同氏は自信のYouTubeチャンネルに動画を公開しています。その際、日本語でも発言しており、これまで同様日本社会へ本件を強く印象付けています。
今回の周庭氏の逮捕を受け、日本政府も重大な懸念を表明し批判を強めています。
6月に香港国家安全維持法が導入されたことから、7月に予定していた中国の習近平国家主席の国賓来日を中止する要請をしていましたが、今回の逮捕を受けて自民党内でも反発がさらに強まることは必至であり、ますます実現が遠のくといった声が上がっています。

なぜ周庭氏は、逮捕の理由とされる社会運動に参加していたのでしょうか。
香港で社会運動が盛んな背景には、中国との複雑な関係があります。
香港と中国との歴史を振り返る
香港は、かつて150年以上にわたるイギリスの植民地時代を経て、1997年に返還されました。
返還にいたるまでには、イギリスの中国に対する最初の侵略戦争である、1839年のアヘン戦争を発端に、中国やイギリスの間で翻弄される歴史がありました。
1839年 | 中英の間でアヘン戦争が勃発 |
1842年 | 南京条約:香港島が英国に割譲 |
1860年 | 北京条約:九龍半島も英国に割譲 |
1898年 | |
1984年 | 中英共同声明:1997年の香港一括返還が決定 |
1997年 | 香港返還:50年間の「高度の自治」が保証される一国二制度が開始 |
一国二制度とは?50年間「高度な自治」与えられるはずが…
一国二制度とは、香港は中国という一国のなかにありながら、中国の社会主義制度や政策は実行せず、香港独自の資本主義制度を維持できる制度です。
中国政府から「高度な自治」を認められた香港では、中国の法律は適用されず、香港基本法が最高の法律となっています。
この制度は、香港が中国に返還された1997年に導入され、同じ年から50年間維持するものとされています。
2047年が一国二制度の終了期限となっています。
ところが2012年には、中国国民としての愛国心を育成する「国民教育」の導入が決定され、香港市民はこれに反発し、デモにより撤回させました。
2015年には中国政府に批判的な本を扱う「銅鑼湾書店」の店長など関係者5人が逮捕されています。
このように、一国二制度を掲げながら、これまでも香港では、中国政府や香港政府による民主化運動の取り締まりの動きが見られてきました。
中国政府や香港政府の動きに危機感を覚えた香港市民は、周庭氏も参加していた政治団体デモシストのメンバーだけでなく、抗議活動に参加しています。
香港国家安全維持法とは
2020年6月30日には、香港国家安全維持法が施行されました。この法律は、1997年から50年間維持できるとされている一国二制度の根幹を揺るがすとして、現地で反発の声が強まっているだけでなく、国際社会にも衝撃を与えています。
本法律に関する要点には、以下の10点が挙げられます。
- 国家からの離脱、転覆行為、テロリズム、香港に介入する外国勢力との結託を犯罪行為とみなす
- デモなどで公共交通機関の施設を損傷する行為は、テロリズムとみなされる可能性がある
- 違反すると最低3年、最高で無期懲役が科される
- 香港基本法と矛盾する場合は、国家安全維持法が優先して適用される
- 中国が深刻とみなせば、裁判は非公開でおこなう可能性がある
- 中国政府は、香港に国家安全オフィス(NSO)を設立する
- 香港の永住者と非永住者の両方に適用される
- 香港警察内に新たに国家安全保障部を設立し、警察により幅広い権力を与える
- 香港政府は、学校、メディア、インターネットなどで市民への教育を要求する
- 外国の通信社や非政府組織の管理を強化する
これまでは独立した制度を保ってきた香港ですが、新法成立により香港政府に対する中国政府の後ろ盾が強くなり、結果として香港社会の自由が弱体化させられてしまうという懸念が広まっています。
特に今回、施行前の行動については同法律を適用されないはずが、すでに政治団体デモシストから脱退していた周庭氏が逮捕されたことで、国際社会に動揺が広がっています。
日本への移住も視野に
香港国家安全維持法の成立を受け、7月1日には在日香港人の団体「香港の夜明け」は日本で記者会見を実施しました。
同団体は、今後日本への移住を目指す香港人が増えるとし、日本に対し移住条件の緩和に対する早期対応を求めています。
このような記者会見を行うことも、香港国家安全維持法に違反するリスクがありましたが、登壇者は覚悟を持って日本政府へ必死の呼びかけを行ったとしています。
訪日香港人市場にも変化?
これまで香港は日本との関係が良好で、2019年の訪日香港人は229万人を超えるなど、順調に増加していました。
リピーター率も約88%と、日本ファンも多くいることがうかがえます。
訪日香港人観光客の特徴
香港は中国の特別行政区ですが、インバウンドマーケティングを行ううえでは同国とは別途対応が必要な地域です。歴史的な事情からイギリスの強い影響を受けており、香港人は中国とは異なる習慣、感性を持っているためです。
しかし、今後の訪日香港人市場には、主に2つの変化の可能性があります。
一つ目は、政治的緊張により、レジャー活動に対して消極的な意識になる可能性です。香港情勢が安定しない場合、新型コロナの感染拡大が落ち着き訪日旅行が可能になったとしても、海外旅行ムードが戻らない可能性が懸念されます。
アフターコロナの訪日香港人市場の回復は、こうした現地生活者の心の機微を読み解きながら、どのようなメッセージやコンテンツを提供していくかが影響を与えるでしょう。
二つ目に、香港人のパスポートや居住地が変わる可能性もあります。
1997年の香港返還以前に生まれた香港人は、「英国海外市民」というイギリス国籍としてのBNOパスポートと、香港特別行政区パスポートの2種類のパスポートを所持できます。
昨今の香港情勢をふまえ、イギリスでは、BNOパスポートを所持する香港人にイギリス国籍を付与するかどうかという議論がなされています。中国政府は7月、このBNOパスポートの無効化に言及していますが、実際に香港人がイギリス国籍を取得するために香港を離れるようなことがあるかもしれません。
この場合、これまで「近いから」「アクセスが良いから」という理由で訪日旅行をリピートしていた層が、イギリスに居住することで足が遠のくケースも考えられるでしょう。
こうした状況の変化も、新型コロナウイルスの感染拡大から世界が復活していくなかで、しっかりと注意を払っていかなければなりません。
<参照>
NHK:香港 逮捕された民主活動家の周庭氏保釈「政治的弾圧」と批判
YAHOO! JAPANニュース:周庭さん、香港警察から保釈される。「逮捕、いったいどういう理由で」
時事ドットコム:日本政府「重大な懸念」 香港民主活動家逮捕、与野党からも批判
BBC NEWS JAPAN:【解説】 なぜ香港でデモが? 知っておくべき背景
外務省:香港 基礎データ
HISTORIST:中国と香港の歩みがわかる歴史年表〜特集:そもそもから考えよう!香港問題プロローグ〜
講談社 現代ビジネス:ゼロからわかる香港と中国のねじれた関係
WEDGE Infinity:「香港国家安全維持法」の何が問題なのか?
BBC NEWS JAPAN:「香港国家安全維持法」が施行 最高刑は無期懲役
香港BS:国家安全維持法を分かりやすく解説
HUFFPOST:「日本は香港人の移住先として対応を」国家安全法を受け、“犯罪者認定”覚悟で在日香港人たちが記者会見
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