欧米地域で新型コロナウイルスが特に猛威をふるっている一方で、オーストラリアはロックダウンが奏功し、感染状況は収束傾向にあります。
訪日オーストラリア市場は一人当たりの旅行消費額が高く、10月には日本との「隔離なし渡航」も検討されたというニュースもあり、渡航再開への期待が高まっています。
それでは実際に、オーストラリア人の訪日旅行への関心はどのような様子なのでしょうか。
今回、デジタルビッグデータを活用したソリューションを提供するAmobee Japanの協力を得て、ビッグデータ(※1)を元にオーストラリア視点での日本への関心を分析します。
特に、直近1年間の訪日旅行への関心を確認するとともに、想定ライバル国である中国、タイとの比較から日本に向けられた関心の特徴を把握し、ターゲットとなるペルソナを探っていきましょう。
※1. Amobeeが保有しているデジタル行動ビッグデータ。消費者のオンライン上の行動から関心やトレンドを分析することができる。
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訪日旅行への関心、コロナ後は横ばいに
まずは直近1年間の旅行への関心の推移について見ていきましょう。図1はオーストラリアの消費者視点で、各目的地別に旅行への関心度の推移を時系列で示したものです。
関心の推移は日本は橙色、中国は紺色、タイは水色でそれぞれ折れ線で示しており、上であるほど関心が高いことを表しています。
新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した3月下旬ごろからいずれの目的地に対してしてもトラベル関心が大きく低下しており、新型コロナのマイナス影響が伺えます。
4月下旬には20ポイントから30ポイントまで回復していますが、その後は8月中旬、10月上旬に一時的な回復を見せるものの、全体としては大きく回復せず30ポイントを前後している状況です。
また、昨年末時点では日本への旅行に対する関心は中国、タイと比較して圧倒的に高かったこともこの図からわかります。渡航制限解除後を見据えた時、オーストラリアの訪日需要は高いポテンシャルを秘めているといえるでしょう。
男女共に30歳前後がメインターゲット。エンタメ、ニュース、アートへの関心
それでは日本のインバウンド事業者は、オーストラリアにおける訪日関心層として、どのようなペルソナを想定すべきでしょうか?
図2は、日本旅行へ関心を持っている層の特徴を整理したものです。
性別年代の特徴では男性の割合が57%と若干高く、また、年代別の比率を見ると男女共に25〜34歳の年代の割合が高いものの、どの年代も満遍なく分布していることがわかります。
年収帯では、50-100K USD(年収約500万円-1,000万円)と150K-200K USD(年収約1,500-2,000万円)と2つのセグメントパターンが確認されます。特筆すべきはやはり後者の高所得者の層の割合が25%に達している点でしょう。
訪日旅行への関心がある層の4人に一人が年収1,500から2,000万円の所得を得る高所得者層であるのですから、この層を意識したコンテンツの造成は必須といえます。
日常的な関心では、エンターテイメント、ニュース、芸術と人文科学、SNS、そして政治が上位に確認できます。
エンターテイメントが1位に位置しているのは、日本のマンガやアニメといったコンテンツへの高い関心が背景として考えられます。
日常的関心の26項目中、旅行は14位に位置しており、旅行への関心は高いとはいえないものの、それでも日常的な関心の一つとして一定の水準を保っていることがわかります。
よく閲覧するサイトはWikipedia、ABC、SMH(The Sydney Morning Herald、オーストラリアの日刊紙)などのニュースです。
また、SNSではTwitterよりredditのほうが接触が高いようです。そしてQuoraが上位に入って来ている点から、エンタメ関連へのトピックだけでなく、知的好奇心を満たすことへの欲求も高いと思われます。
その他の関心では、新型コロナウイルスに関するニュースはもちろんのこと、時期柄か、アメリカの政治への関心も伺えます。
2019年から安全・安心への関心はさほど高まらず
日本への関心はどの様に変化したでしょうか。図3は2019年9月-11月(図中左)と2020年9月-11月(図中右)期間における日本への関心を比較したものです。
その結果、2019年、2020年共に、体験、ホテル、食事がトップ3であることには変化がありません。新型コロナウイルスの影響で「安全・安心」に関する関心が高まると思われましたが、そうではありませんでした。
他国の分析では「安全・安心」への関心が顕著に上昇しているケースもあるため、この限定的な上昇幅は特徴的です。
オーストラリアの消費者にとって、日本は安全だというイメージがあるともいえますが、渡航制限が解除され、本格的に旅行の計画を立て始めるタイミングになった時にはまた変化が起きることも考えられます。
その他、伝統文化、歴史といった要素は変わらず上位に確認でき、日本文化への関心が伺えます。次のグラフでも紹介しますが、ビーチへの関心は2020年の特徴であるといえ、2019年と比較して大きく関心が増加しています。
そのほか、食事はもちろんのこと、寿司、シェフも順位も上げており、食体験への高い期待が確認できます。
他アジア地域と比較して、歴史、文化、伝統に高い関心が
次に、先程の項目を他国と比較して深堀りしていきましょう。オーストラリアの消費者視点で日本と中国、タイに対する関心はそれぞれどのように異なるでしょうか。
図4は2020年9月-11月の各国に対する関心を比較したものです。
まず、いずれの国もともに1位が「体験」、2位に「ホテル」がランクインしています。各国ごとの違いが現れるのは3位以降でした。
他国と比較したとき、日本に対する関心がとくに高い項目として神社、温泉が確認できます。4位に歴史、5位に伝統文化が位置付けていることからも、日本に対する文化的体験や歴史に興味があることが伺えます。
その一方で中国は、ビーチ、山、世界遺産などが比較的高く、野外でのアクティビティを含めた自然への関心が確認できます。
タイはビーチに加え、「安さ」や買い物に対する関心が突出しており、リーズナブルにリゾート体験ができるイメージがあるのでしょう。
また、屋台やナイトライフなどへの関心もうかがえます。これは日本人の感覚からもそうズレはないように感じられます。
上記のように、国ごとにオーストラリアの消費者が関心を抱く事柄に明確な違いがある点は興味深いといえるでしょう。
日本のインバウンド事業者としては、こうしたオーストラリアの旅行者の期待に応えるような「上質な日本の文化的体験」を訴求するコンテンツの造成が有効です。
その一方で、来年のインバウンド需要で注目されるアドベンチャーツーリズムと深く関わる要素である自然体験やアクティビティに対する関心は中国やタイと比べて遅れを取っているため、日本の歴史や文化と絡めるといった見せ方を工夫する必要がありそうです。
分析のサマリー
今回はオーストラリア消費者視点からの日本への関心、関心事項と他国との競合比較を確認しました。
訪日旅行に関心のあるオーストラリアの消費者は、男女ともに30歳前後がボリュームゾーンであるものの、各年代が満遍なく分布しています。そして、年収水準が約1,500-2,000万円の層が25%を占めている点も特筆すべきポイントです。
彼らは日本に対して食事、歴史、伝統文化、温泉といったトピックスに関心があるため、高所得者層を対象にした日本文化が体験できる上質なコンテンツの造成は、大きなポテンシャルを秘めているといえます。
そして2021年のインバウンド需要として注目されているアドベンチャーツーリズムに対しては、上述の傾向から日本の歴史的文脈などと紐付けたPRに活路がありそうです。
訪日旅行への具体的な行動に移るにはまだまだ時間がかかりますが、旅行先としてだけに留まらない領域で日本に関する情報を集めている層がいることを意識し、中長期の視点でオーストラリアの消費者とコミュニケーションを図っていきたいところです。
(データ提供協力:Amobee Japan)
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