コロナ禍によって日本のインバウンド業界の成長は大きなブレーキがかかりました。しかし日本経済の未来を見据えた時、インバウンドの拡大が必要不可欠であるという事実は変わったわけではありません。
本連載ではインバウンド業界で働き始める人に向けてインバウンドとは何か、またインバウンドをなぜ今検討すべきなのか、その意義について確認します。
さらに、日本における訪日外国人客市場の歴史について触れ、新型コロナウイルス感染状況も含めた最新の情報を紹介します。
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インバウンドとは
インバウンド(inbound)とはもともと、「本国行きの、入ってくる、内向きの」といった意味の英語の形容詞です。
これが転じて「外国から自国への旅行」や「自国への外国人旅行者」を指すようになり、日本へのインバウンドは「訪日旅行」「訪日外国人」とも呼ばれます。
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インバウンド とは
インバウンドを今考える意義とは
少子高齢化が進み、地方では人口が減少しています。それに伴い、地域に住む定住人口(居住者・居住人口)の消費額も減少傾向にあります。
総務省の2015年家計調査によれば、定住人口1人当たりの年間消費額は125万円でした。
地方で人口が1人減るたびに125万円の消費が減るわけですが、同じ金額を訪日客による消費額で埋め合わせるには、たったの8人の訪日客を誘致するだけでよい計算です。
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少子高齢化で国内の人口が減り続けるなか、消費額が莫大であるインバウンド客に目を向けることが必要となってきます。
関連データ集
ここからは、インバウンドに関連する主要なデータを紹介します。
訪日外国人数
2020年の訪日外客数は、前年比87.1%減となる411万5,900人でした。
訪日外客数は、前年まで右肩上がりで増加しており、2018年には3,000万人を突破しました。
しかし2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって大幅に減少しました。
訪日外国人消費動向調査とは
訪日外国人消費動向調査とは、観光庁が発表している、訪日外国人の消費動向についてまとめたデータです。
訪日外国人の旅行消費額や消費額の内訳、1人あたり消費額、その他の消費傾向についてのデータが掲載されています。
年間のデータのほか、四半期ごとのデータや国別の訪日外国人消費動向についてもまとめられており、インバウンド消費に関する重要なデータとなっています。
観光庁は2020年の訪日外国人旅行消費額を、前年比マイナス84.5%となる7,446億円と試算しています。
2019年のインバウンド消費は4兆8,135億円でしたが、政府が掲げる「2020年に8兆円」の目標値には届きませんでした。
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インバウンドの歴史
インバウンドには戦前までさかのぼる長い歴史があります。
ここからは、インバウンドの歴史を振り返ります。
戦前までの流れ
インバウンドの歴史は、明治時代にまでさかのぼります。
明治26年(1893年)、実業家の渋澤栄一らの発意によって、日本初の外客誘致機関となる「喜賓会」が創立されました。
さらに明治45年(1912年)には、のちに日本交通公社、JTBとなる「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」が創設されました。
当時は内閣鉄道院を中心として、ホテルや汽船会社などの外客誘致に関わる企業を会員とする、半官半民団体でした。
政府、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」と「グローバル観光戦略」策定
戦後の経済成長に伴って国内では海外旅行がブームともなり、アウトバウンドは拡大していきました。
訪日外国人旅行者数は、大阪万博の開催された昭和45年(1970)年にピークとなる85万人を記録しましたが、その後は停滞気味となりました。
2012年の観光白書によれば、当時は国際観光に対する関心は限定的で、訪日外国人旅行者の誘致を積極的に誘致する意識は強くなかったとされています。
しかしその後、2002年に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を受けて、国土交通省が「グローバル観光戦略」を策定しました。
この「グローバル観光戦略」は、以下の4項目で構成されています。
- 外国人旅行者訪日促進戦略〜より多くの外国人の日本への来訪を促す戦略〜
- 外国人旅行者受入れ戦略〜訪日外国人観光客すべてに満足感を与える戦略〜
- 観光産業高度化戦略〜本戦略の目標達成に向けて観光産業を高度化していく戦略〜
- 推進戦略〜本戦略を多様な主体が連携しつつ効果的かつ着実に推進する戦略〜
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インバウンドとは
ビジット・ジャパン・キャンペーン開始 現在のインバウンド市場の形成に至るまでの重要な施策
「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、2000年代前半頃からの日本文化の世界的なブームを受けて、2003年に開始されました。
「観光立国」を掲げて「訪日外国人観光客1,000万人」を目標とするもので、観光ビザの要件緩和や、国内におけるインバウンド向けインフラ整備などが推進されました。
この目標策定の背景には、国際収支が約3.6兆円の赤字の状態にあり、訪日外国人旅行者数と日本人海外旅行者数との格差をできるだけ早期に是正する必要性がありました。
これにより訪日外客数は年々増加し、2003年に521万1,725人だった訪日外客数は、2007年には800万人を超えました。
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金融危機、リーマン・ショック、そして東日本大震災のショック
その後、2007年の世界金融危機や翌年のリーマン・ショックなどによる不況のあおりを受けて、2009年の訪日外客数は679万人まで減少しました。
日本のインバウンド市場は、2011年の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故によって、さらなる大打撃を受けました。
しかし復興が進むにつれて訪日外客数も回復し、2016年には「2020年までに2,000万人」という目標も達成しました。
2018年、訪日外国人数3,000万人を突破
2016年に国土交通省が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」では、2020年までに年間2,000万人としていた訪日外国人数の目標を、2020年までに4,000万人、2,030年までに6,000万人と上方修正しました。
さらに訪日外国人旅行消費額については、2030年までに15兆円達成を目標としています。
そして2018年、訪日外客数はついに3,000万人を突破しました。
新型コロナウイルスの影響
2019年末から感染が拡大した新型コロナウイルスは、世界中の旅行業界に大きな打撃を与えました。
日本のインバウンド市場にも大きな影響を与え、2020年の訪日外客数は大きく減少しました。
2021年1月、観光庁の蒲生長官は会見で、コロナ禍の影響はあるものの、2030年に訪日外国人6,000万人の目標に向けて、引き続き取り組んでいくことを表明しました。
2020年12月に閣議決定された2021年度観光庁関係予算では、インバウンド関連予算には減少もみられたものの、観光再生に向けた新たな予算も計上されています。
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2021年度予算注目分野
2021年のインバウンド市場においては、どのような分野が注目を集めているのでしょうか。
観光庁の予算にも組み込まれている項目を中心に、注目分野を紹介します。
「観光×DX」
コロナ禍を機に、観光業界では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」による事業変革が積極的に推進されています。
DXとは、2004年にスウェーデンで提唱された「ICT(情報通信技術)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。
日本でも、2018年に経済産業省がDX推進ガイドラインを取りまとめたことを契機として、普及してきています。
特にグーグルの「ストリートビュー」などを利用して、オンライン画面上で旅行気分を楽しめる「バーチャル旅行」には、すでに多くの企業が参入し始めています。
さらにオンライン上での予約手配やチケット発券といったDX化を進めることで、対面での接客を避け業務工数も短縮できることから、感染症対策強化や業務効率化も期待されています。
また観光庁が発表した2021年度観光庁予算概算では、DXの一環として「手ぶら観光」における顔認証の可能性にも言及しています。
手ぶら観光は、日本各地を訪れる訪日外国人観光客の荷物を一時的に預かったり、次の訪問地や自宅へ配送したりするもので、旅行体験を快適かつスムーズにすることが期待されます。
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「新たな旅のスタイル」としてワーケーション・ブレジャーが注目
コロナ禍を経て「新たな旅のスタイル」として「ワーケーション」や「ブレジャー」への注目が高まっています。
「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」の造語である「ワーケーション」は、普段のオフィスを離れ、リゾート地や地方などで働きながら休暇も取得したり、休暇と合わせて旅先で仕事も行うスタイルのことです。
また「ビジネス」と「レジャー」の造語である「ブレジャー」は、出張の機会を活用して、出張先で滞在日数を延長して余暇を楽しむことです。
観光庁は2021年度予算において「新たな旅のスタイル」の普及・定着を目指し、前年比1.34倍となる17億1,700万円の新規予算を計上し、ワーケーションやブレジャー、サテライトオフィスなどに注力します。
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アドベンチャーツーリズム
アドベンチャーツーリズム(AT)とは、「アクティビティ」「自然」「文化体験」のうち、2つ以上の要素によって構成される旅行のことです。
密を避けた旅行スタイルや、1人当たり消費単価の高さ、地方の観光資源を活かせることなどから、注目が高まっています。
近年、買い物中心の「モノ消費」より、旅先でしか体験できないアクティビティなどを楽しむ「コト消費」を重視する訪日外客数が増えています。
アドベンチャーツーリズムはこのようなトレンドにもマッチしており、今後のインバウンド対策として注目されています。
さらに、観光客の急増により地域に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」の対策としても期待されます。
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日本の観光動向
コロナ収束後の旅の目的地として、日本は海外からの注目を集めています。
2020年6月にTrip.comとGoogleが共同で発表した旅行トレンドレポートによれば、世界の時期人気旅行先の首位として、日本がランクインしています。
またTrip.comが2020年3月に行った調査によれば、中国人による海外旅行の人気ランキングで、日本はタイに続き2位となりました。
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カオスマップ
アフターコロナを見据えた施策や対策を進めるにあたり、インバウンド市場に存在しているソリューションを把握することは重要です。
訪日コムでは、インバウンド業界に関わるソリューションを提供する企業を、業界地図「カオスマップ」で確認することができます。
訪日ラボが公開する「インバウンド業界カオスマップ2020年上半期最新版」は、インバウンド業界の多数のソリューションを「プロモーション」「分析・マーケティング」「受け入れ環境整備」の3つに分類しています。
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インバウンド業界カオスマップ 2021年上半期最新版
インバウンド業界の重要性
本記事では、インバウンド初心者のために基本的な内容をまとめました。
新型コロナウイルス感染拡大の影響による渡航制限が続き、訪日外国人の数は激減しています。インバウンド業界は、人口減少が進む日本の消費を支える業界となりえる可能性があります。
ウィズコロナ・アフターコロナの観光のあり方が問われる今こそ、インバウンド業界について知っておくべきではないでしょうか。
観光庁の指針などを参考にしながら、自治体や企業のインバウンド客対策や、課題解決に向けて取り組んでいくことが重要になります。
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<参照>
日本政府観光局(JNTO):2021年訪日外客数(総数)
国土交通省:グローバル観光戦略
日本政府観光局(JNTO):年別 訪日外客数, 出国日本人数の推移
国土交通省:明日の日本を支える観光ビジョン
観光庁:蒲生長官会見要旨
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