【観光業の未来予想図 Vol.1】「ジャパンガイド」編集長 ステファン・シャウエッカー氏|五輪開催はインバウンドへの追い風か、向かい風か

新型コロナウイルスにより一変した世界の観光業。いつか人の流れがかつての勢いを取り戻したとしても、未来の観光現場はコロナ前と全く異なっているはずです。

インバウンド業界に携わる方なら誰でも、このコロナ後の観光の姿を捉えようとしているものの、明確な答えを得た人は未だ誰もいないでしょう。

本企画「観光業の未来予想図」は、各専門分野に精通した方々に寄稿を依頼し、様々な角度からの提言をいただくことで、まだ誰も知らない「コロナ後の観光像」を浮かび上らせるという試みです。


23日から、いよいよ東京五輪が開幕します。2013年9月、ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会で2020年の開催地として東京が選ばれた際には、まさか9年後に無観客で開会式を迎えるとは誰も想像していなかったことでしょう。

観光業の未来予想図。第一弾として登場いただくのは、欧米豪市場の訪日旅行者向けとして日本国内最大級のWebメディアである「ジャパンガイド」編集長のステファン・シャウエッカー氏です。

1996 年にカナダで創刊、2003年には拠点を日本に移し、日本を訪れる観光客向けに情報を提供しており、欧米豪に向けたプロモーションを実施するインバウンド事業者にとっても効果的なオンラインプラットフォームとなっています。

約四半世紀に渡って一貫して訪日外国人を見続けていたステファン氏は、どのような日本の観光業の未来予想図を描いているのでしょうか。

ポジティブなイメージを維持してきた日本

_欧米豪の方からみた日本へのイメージは、コロナ禍によって変化したのでしょうか。

東京五輪が日本のイメージに大きな影響を与える可能性があると考えています。

コロナ禍における国外の情報通が持つ日本に対する一般的なイメージは、「日本は欧米に比べてかなり少ない犠牲者で危機を乗り越えた」というものです。

日本はコロナウイルスが発生する前からマスクを使用したり、挨拶の際に距離を置いたりするなどの習慣があり、それによりウイルスの拡大を防いだと考える人が多いようです。

その点で、日本は衛生的で安全な国というポジティブなイメージを獲得しており、多くの観光客が衛生面や安全性に関心を持つようになるであろうアフターコロナの観光において大いに役立つと思います。

「情報通」以外の広い層が、五輪を契機に日本に注目することになる

私が「情報通」と断定したのは、基本的に欧米圏の大半のメディアは、コロナ禍の日本に関するニュースを扱っておらず、一般の人は日本が新型コロナウイルスにどのように対処してきたかの様子をよく知らないのです。

そのため、彼らにとってコロナウイルスの日本のイメージに対する影響はほとんどないのではないでしょうか。

しかし、東京五輪が開催されると、世界中が日本に注目し、その間に日本について、日本がコロナウイルスにどのように対処しているかを知ることになります。

そのため、東京五輪期間中の日本の対策、動向は、日本に対するイメージに大きな影響を与えるでしょう。

成功すれば、日本にとって大きな利益になるでしょう。

一方で、大会期間中の感染再拡大による東京の病院のひっ迫、感染者の増加による無観客開催、選手や外国の報道機関に大きな問題を引き起こす過度なコロナ対策など、日本のイメージを悪化させるシナリオも存在します。

東京五輪は、日本の観光再開の追い風となるのか

_東京五輪は日本の観光再開への、追い風となると思いますか?追い風になるとしたら、その期間に観光業者は、どのような施策を取るべきでしょうか。

東京五輪を成功させれば、観光地としての日本の優れたイメージをさらに高めることができると思います。

今でも、日本は最も人気のあるデスティネーションのひとつですが、国境が開放されれば、東京五輪を契機にさらに多くの人が日本を訪れるようになるでしょう。

国境を越えた移動がいつ再開されるかが問題ですが、観光客は必ず戻ってくると思います。

大会期間中、観光業界では世界的な宣伝効果と日本への関心の高まりを利用して利益を得ようとする傾向が高まると思います。

しかし、外国メディアが日本国内を旅行しないよう要求されていることなどを考慮すると、通常の東京五輪に比べ、観光事業者への機会は制限されると思います。

「ジャパンガイド」のアクセス数から浮かび上がる、日本への関心

_「ジャパンガイド」のサイトへのアクセス数はコロナ後から現在までどのように変化していますか?また、「ジャパンガイド」の記事の閲覧数などから見える、今、読者が求めている情報とは、どんなものでしょうか。

現在、サイトアクセス数はコロナ前に比べて7割ほど減少しています。

国内の地域情報を紹介するDestinationページについては、8割近く減少しているページも存在します。一方で、日本文化全般に関するページへのアクセス数はそれほど減少していません。

コロナ前は、Destinationページが最もアクセス数の多いセクションでしたが、現在、漢字や食べ物、神道などの日本の文化に関するページが最もアクセス数の多いページの一つとなっています。

また、現在最もアクセス数の多いページは、コロナ期間中の日本の旅行状況を毎日更新している「travel alert」のページとなり、ユーザーからの関心の高さがうかがえます。

観光業再開に向け、準備しておくべき3つのポイント

_日本の観光業は観光業再開に向けて、改善、あるいは準備しておくべきことを3つあげるとしたら、どんなことがあるでしょうか。

  • FITをターゲットとしたサービスの造成

団体旅行からFIT旅行への流れは、ポストコロナの時代にさらに加速すると考えられます。

そのため、団体旅行向けのサービスを提供する企業にとっては課題が発生すると思いますが、FITをターゲットにしている企業は、ビジネスの手法を変える必要はあまりないと感じます。国境を越えた移動の制限が緩和された暁には、多くの企業がコロナ以前のビジネス活動をほぼ再開できると思います。

  • 外国版サイトの充実化

ここ数ヶ月で感じるのは、日本の旅行サイトが外国語版サイトの運営を放棄するという残念な傾向です。

多くの観光地ではコロナの影響を受けて、観光客のための予約システムが義務化されたり、オプションで導入されたりしており、コロナ収束後も活用されるものが多くあると思います。

しかし、これらのシステムの多くは日本語のみで運用されています。観光再開を見据え、多言語でのサービス展開をする必要があると感じます。

  • デジタルツールの導入

日本の観光再開を成功させるために重要なのは、再びスムーズな海外旅行体験を提供するためのデジタルツールを活用したサービスの構築です。

検疫や不便な検査、空港での長い待ち時間などが回避できるのが理想的です。そのためには、航空業界と政府が連携し取り組んでいく必要があると考えています。

訪日外国人数がコロナ前の水準に戻るのはいつか

_渡航制限解除後、訪日外国人の数がコロナ前の水準まで戻るのにあとどれくらいかかると予測していますか?

私はこれまで、アフターコロナの未来を推測しようとして、何度も失敗してきました。しかし、海外旅行がスムーズに(検疫、不便な検査、書類、空港での長時間の待機なしに)できるようになれば、外国人観光客は非常に早く戻ってくると予想しています。

つまり、これまでのような海外旅行のスタイルがいつ再開されるかが問題なのです。2022年には実現することを願っていますが、外国人観光客数3,000万人の水準に戻るにはさらに時間が必要だと考えています。

外国人を惹きつける今後の日本のイベントは

_将来予定されている日本のイベントで、外国人が注目しているものはありますか?

2025年の大阪万博には個人的に大きな期待を寄せていますが、海外ではまだ一般的に周知されていません。

世界では「万博」という概念への関心が低くなっているように感じます。

過去には、個人的にとても楽しんだ愛知万博が、ほとんど国内向けのイベントだったことに大変驚いた経験があります。国内のイベントという印象が強く、海外からの来場者をほとんど見かけませんでしたし、「ジャパンガイド」のユーザーの関心も非常に低いものでした。ほとんどの人が知らなかったのではないでしょうか。

大阪万博についても、国外へのプロモーションを大々的に行い、外国人が興味を持って参加できるようなアトラクションを提供しない限り、今回も国内中心のイベントになると考えています。

現状、東京五輪や大阪万博以外に大きなイベントは思い浮かびませんが、むしろ、お祭りやコンベンションなどの定期的なイベントの方が、外国人を惹きつけるのではないでしょうか。

プロフィール:ステファン・シャウエッカー

▲「ジャパンガイド」編集長 ステファン・シャウエッカー氏
▲「ジャパンガイド」編集長 ステファン・シャウエッカー氏

スイス、チューリッヒ出身。1996年から「ジャパンガイド」を運営。2008年、日本政府よりYokoso! Japan大使(現Visit Japan大使)に任命される。大の日本鉄道ファン。2011年3月11日に発生した東日本大震災後の様子を現地に訪れてリポートするシリーズ記事『3.11 RECOVERY』を毎年執筆、「ジャパンガイド」で公開している。

著書に『外国人が愛する美しすぎる日本』、『外国人が選んだ日本百景』、『外国人だけが知っている美しい日本』、『外国人だけが知っている「観光地ニッポン」』。

編集後記:大きく揺れる東京五輪の動向と、インバウンドの未来

先の見えない苦しいコロナ禍ではあるものの、国境を越えた移動の制限が緩和され、再び訪日観光が再開される時を見据え、外国語版サイトの運営を今期強く継続させるなど、デジタルツールを活用したサービスの構築の重要性を説くステファン氏。

これまでのところ、世界各国のメディアを通じて報じられている日本のコロナ対策や東京五輪への対応は、前向きなものは多くありません。23日の開幕式や競技を通じて、ポジティブな日本の報道が世界へと配信されることを願っています。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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