2022年6月7日、日本政府は同年6月10日から始まる外国人観光客の受け入れ再開に向けて「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」を発表しました。
長い入国制限期間によって落ち込んだ観光業界からは歓迎の声が上がる一方、その複雑さや要項の多さから全て履行できるか不安だという声も聞かれます。
この記事では、「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」をわかりやすく解説します。
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【ガイドラインまとめ】感染防止のためにやること
インバウンド受け入れガイドラインにおける「感染防止のためにやること」は、以下の6つに分かれています。
- すべてにおいて守るべきこと
- ツアーを作る際にやるべきこと
- ツアーを販売する際にやるべきこと
- ツアーの実施前やるべきこと
- ツアーの実施中にやるべきこと
- ツアーの実施後にやるべきこと
ツアーにおけるフェーズごとにやるべきことを整理しておくことで、ガイドラインを遵守したツアー設計ができます。
すべてにおいて守るべきこと
すべてのフェーズにおいて共通して守るべきことは、以下の4つです。
- 旅行業法(昭和 27 年法律第 239 号)の登録を受けた旅行業者又は旅行サービス手配業者が、ツアー参加者の受入責任者となること。
- ツアーの行程があらかじめ決められたものであること。
- 入国から出国までの全行程を通じて、添乗員が同行すること。
- ツアー参加者は、本邦への上陸申請日前 14 日以内に「青」区分の国・地域以外に滞在歴がない者に限られること。
しばらくの間、以上の4つを念頭に置いたうえでのツアー運営が求められます。
日本では「水際対策強化に係る新たな措置」に基づいて、世界中の国や地域を3つに区分しています。
そのうち「青区分」の国や地域以外からの受け入れはできないことに注意が必要です。
ツアーを作る際にやるべきこと
国内の旅行事業者がツアーの企画や販売を行う場合は、以下の2つが求められます。
- 旅行業者は、密を避けて感染拡大防止に配慮したツアー行程を作成すること。
- 旅行業者は、宿泊施設、観光施設、飲食店等における感染防止対策を確認した上で、対策を徹底している施設等を活用すること。
利用施設が適切な感染防止対策を行っているかについては、都道府県ごとに実施されている認証制度などを活用してください。
また、海外の旅行事業者等がツアーの企画や販売を行う場合については、以上の2つに配慮しているか確認する必要があります。
場合によっては、適切な感染防止対策を行っている施設などの提案をする必要もあります。
ツアーを販売する際にやるべきこと
ツアーを販売する際には、非常に多くのことが求められるので注意が必要です。
国内の旅行事業者がツアーを販売する場合には、以下の3つのことが求められます。
- 旅行業者は、ツアー商品の予約・販売時に、ツアー参加者に対して以下の内容(※1) を説明し、同意を得ること。
- 旅行業者は、ツアー商品の予約・販売時に、ツアー参加者に対し、陽性者や濃厚接触者となった場合に、具体的にどのような対応が求められることになるのか(※2)について、十分説明を行うこと。
- 旅行業者は、ツアー参加者が、ツアー参加に際して特別な配慮を必要とする場合には、申し出を行うよう促すこと。
※1「以下の内容」についてはガイドライン本文を参考にしてください。
※2「具体的な対応」については本記事で後述します。
(引用:外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン)
海外の旅行事業者等がツアーの販売を行う場合には、以上の3点についてツアー参加者に説明したうえ、同意を得ていることを確認してください。
ツアー自体は日本国内で行われるため、海外の旅行事業者がツアーを販売する際も日本国内で定められたガイドラインを遵守している必要があるのです。
ツアーの実施前やるべきこと
ツアー実施前は、以下の2つのことが求められます。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、添乗員に対し、感染防止対策の遵守に関する研修等を実施し、感染防止対策の意義や取るべき対応等について十分に理解させること。また、添乗員のワクチン接種状況も踏まえ、添乗員の安全も考慮しつつ配置について検討すること。
- 宿泊事業者等は、ロビーや食堂等の目立つ場所のほか、更衣室や浴場等の添乗員による確認が困難な場所においても、感染防止対策が適切に実施されるよう、外国語のリーフレット掲示等を行うこと。
今回の外国人観光客受け入れ再開には、「添乗員同行のパッケージツアーである」という前提があります。
添乗員を教育する手間がかかってしまいますが、文化や価値観が違う外国人観光客にガイドラインを遵守してもらうため、添乗員は非常に重要な役割を果たします。
添乗員にその旨をはっきりと伝え、自覚や責任感を芽生えさせることも大切です。
また、外国語のリーフレットを用意するのにも手間がかかりますが、「個別感染防止策のリーフレットの例(多言語版)」を参考にすることでスムーズに作成できるでしょう。
ツアーの実施中にやるべきこと
ツアー実施中に求められることは6つもあります。
- 添乗員は、現在我が国で運用されている感染防止対策の方針等に即して、ツアー参加者に対し、必要な対応を求めること。ツアー実施中、方針等の適用に迷う場面では、周囲の状況や国内でのスタンダードに照らして判断を行うこと。
- 添乗員は、ツアー開始時に、ツアー参加者に対し、マスク着用の考え方をはじめとする感染防止対策の遵守に関する説明を行うこと。また、その際には、イラスト等を活用し、ツアー参加者の属性に応じて分かりやすい説明を行うよう、工夫すること。
- 特に添乗員は、最新のマスク着用の考え方について十分に理解すること。
- 添乗員は、ツアー参加者に対し、ツアーの場面ごとに、マスクの着脱を含め、必要な感染防止対策についてこまめな声かけや、注意喚起を行うこと。
- 添乗員は、ツアー参加者に対し、発熱や呼吸器症状、倦怠感等を含む新型コロナウイルス感染症の症状がある場合には、漏れなく報告を行うことを要請すること。
- 添乗員は、陽性者発生時における濃厚接触者の範囲の特定等を適切に行うため、旅行中のツアー参加者の行動履歴(利用した施設や交通機関等の座席位置等の情報を含む。)を保存すること。
ツアー実施中に求められることはすべて「添乗員」に向けられたものであるので、ツアー実施前の研修等においては重点的に伝えておくべきです。
添乗員はツアー実施中、ツアー参加者の「模範」であり「指示者」となります。
感染防止対策については、以下の4つを参考にしてください。
しっかりとした対策をしていれば、万が一ツアー参加者に新型コロナウイルス陽性者が出たとしても、濃厚接触者を最低限に抑えられます。
添乗員の役割は、ツアーを中止するか続行するかを担うほど重要なのです。
ツアーの実施後にやるべきこと
ツアー実施後は、以下のものが求められます。
- 旅行業者は、ツアー参加者に対し、帰国後1週間以内に新型コロナウイルス感染症の陽性と診断された場合には、旅行業者に対してその旨を連絡するよう要請すること
実施されたツアーの販売者が海外の旅行事業者等だった場合は、販売元である海外の旅行事業者等に対して「ツアー参加者に『新型コロナウイルスの陽性者となった場合は連絡すること』という旨を要請するように」と伝えます。
また、陽性者が確認された場合には「国内の旅行業者または旅行サービス手配業者に『陽性者が確認されたこと』を通知するように」と伝えましょう。
ツアーが終わっても気を抜かず、最後までガイドラインを遵守することが大切です。
【ガイドラインまとめ】緊急時の対応について
インバウンド受け入れガイドラインは、緊急時の対応についても明記されています。
新型コロナウイルス陽性者発生時などの対応については、以下の3つに分かれています。
- ツアー前の緊急時の対応
- ツアー中の緊急時の対応
- ツアー後の緊急時の対応
緊急時に適切な対応ができれば、ツアー全体を中止する必要なく進められます。
ツアー前の緊急時の対応
ツアー前には「緊急時にどんな対応をするのか」について、添乗員やツアー参加者などに説明をする必要があります。
具体的な求められていることは、以下の3つです。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、以下の情報(※)を事前に確認し、添乗員に共有すること。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、濃厚接触者の範囲を含む陽性者発生時の具体的対応等について、必要に応じて、自治体の関係部署に相談しておくこと。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、ツアー参加者が陽性者となった場合の入院医療費については、自治体から当該陽性者に対し、加入している民間医療保険の補償額の範囲内で自己負担を求められる旨、ツアー参加者に対して説明すること。
※「以下の内容」についてはガイドライン本文を参考にしてください。
(引用:外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン)
ツアー参加者に「医療費の自己負担」について説明をするのは難しいですが、認識の違いはトラブルに発展しやすいため、事前にツアー参加者には丁寧な説明が必要となります。
「短期滞在入国者等であって感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による入院患者の自己負担について|厚生労働省」を参考にして、丁寧な説明を心がけましょう。
ツアー中の緊急時の対応
ツアー実施中の緊急時の対応法は、以下の8つにまとめられています。
- ツアー実施中に有症状者が発生した場合は、旅行業者又は旅行サービス手配業者及び添乗員は、当該有症状者をツアーから速やかに離団させ、他の参加者への感染を防止するために必要な措置を講じること。
- 有症状者が発生した場合には、旅行業者又は旅行サービス手配業者及び添乗員は、下記の相談・受診の目安(※1)に該当する場合には、自治体が定める方針等に沿って、速やかに当該有症状者を医療機関に受診させること。医療機関・保健所等から指示があった場合にはこれに従うとともに、必要に応じて専門的な医療通訳を手配すること。
- 新型コロナウイルス感染症の陽性者が発生した場合には、旅行業者又は旅行サービス手配業者は、行動履歴(※2)に関する記録に基づき、自治体の定める方針等に照らし、リスクに応じて適切に濃厚接触者の範囲を特定すること。保健所から情報提供の求めがあった場合には誠実に協力すること。
- 陽性者及び濃厚接触者の待機期間中において、旅行業者又は旅行サービス手配業者は、健康観察・食事の用意等、必要な支援を行うこと。なお、その際には、滞在期間の延長が必要となる場合もあることに留意すること。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者及び添乗員は、陽性者が保健所と円滑にコミュニケーションを取れるようにするための必要な支援を行うこと。なお、陽性者は、保健所等からの電話連絡のほか、My HER-SYS(※3)・自動架電(※4)等システムから連絡があった場合、指示に従うことが求められる。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、陽性者及び濃厚接触者以外のツアー参加者に対し、ツアー継続意向がある場合には、ツアーの継続が可能である旨を説明すること。
- 濃厚接触者となったツアー参加者から帰国要望があった場合には、ツアー参加者本人が在京大使館に相談して受入国の了解が得られたときは、旅行業者又は旅行サービス手配業者は、ツアー参加者が所在する自治体の関係部署に相談の上、出国空港までの専用の移動手段の確保、出国する際に利用するエアラインとの調整を行うこと。
- 旅行業者又は旅行サービス手配業者は、陽性判明により離団したツアー参加者が療養期間終了後に円滑に帰国できるよう、必要な旅行サービス(待機期間短縮のための検査の手配を含む。)を手配すること。
※1「相談・受信の目安」については「国民の皆さまへ (新型コロナウイルス感染症)」を参考にしてください。
※2「行動履歴」とは、本記事における「ツアー実施中にやるべきこと」の6つ目として挙げたもの。
※3「My HER-SYS」とは、陽性者本人等がスマートフォンやパソコン等で自身や家族の健康状態を入力できる健康管理機能。
※4「自動架電」とは、毎日保健所であらかじめ設定した時間に自動的に電話がかかり、質問にプッシュホンで答えることで、健康状態を登録できる機能。
(引用:外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン)
ツアー実施中に緊急的な事象が発生した場合は、第一に他のツアー参加者を感染から守ることが大切です。
そのために、「自治体の定める方針に従う」「医療機関からの要請には積極的に協力する」ことが求められます。
そのうえで、ツアー参加者に続行意向があるのなら、ツアーを続行させましょう。
ツアー後の緊急時の対応
ツアー終了後は、新型コロナウイルス陽性者の発生に備え、ツアー参加者の連絡先を1週間保存することが求められています。
あわせて、ツアー参加者に対して「ツアー終了後に陽性が確認された場合には、旅行事業者に連絡すること」を伝えておきましょう。
販売元が海外の旅行事業者だった場合は、海外の旅行事業者に同様の内容を参加者に伝えることを要請します。
ツアー終了後にも陽性者の連絡がないことが確認できて初めて、「本当がツアーが終了した」といえるでしょう。
ガイドラインを遵守したツアー運営を
2022年6月10日からの外国人観光客受け入れ再開には、さまざまな制限があります。
しかし、その制限下でのツアー運営がうまくいったあかつきには、制限なしの外国人観光客受け入れ本格再開が待っているでしょう。
日本は2006年に「観光立国推進基本法」を成立させ、観光業を国内経済の基盤とする方針を固めました。
新型コロナウイルスの影響によって2020年から落ち込んだ観光業ですが、ここからまた政府が観光業に力を入れていくのは間違いありません。
そのために必要なのは、観光事業者が今回の「インバウンド受け入れガイドライン」を遵守したツアーを運営することです。
日本の観光業を復活させるために、ガイドラインを遵守しながら、一つひとつのツアーを成功させてきましょう。
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