コロナ後のインバウンド向け戦略を展望する上で、ラグジュアリーツーリズム誘致の重要度は増しています。
しかし、現在の日本では富裕層を受け入れる上での価値の訴求、コンテンツ造成、受け入れ環境の整備については遅れているといわざるを得ない状況にあります。
この記事では、インバウンドにおけるラグジュアリーツーリズムの詳細や成功のポイントなどを解説します。
【訪日ラボは、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を8月5日に開催します】
インバウンドにおけるラグジュアリーツーリズムの意味
ラグジュアリーツーリズムとは、マス(大衆)ではなくラグジュアリー層の旅行のことです。
メインとなるターゲットは富裕旅行者(ここでは一度の旅行で100万円以上支出する旅行者を定義します。)であり、日本政府観光局の調査によると、世界では全体の1%にしか満たない富裕旅行者が全体の13.1%の消費額を占めています。
しかし、日本においては全体の1.4%である富裕旅行者が全体の1.3%の消費額にとどまっています。
この調査結果は日本がラグジュアリーツーリズム誘致に課題を残していることを示すとともに、日本の観光業界がコロナ禍から立ち直り、より持続可能に成長していく余地があることを示しています。
関連記事:日本人が”知らなすぎる”「富裕層観光」の実態 ラグジュアリージャパン観光推進機構 宮山代表理事に聞く
日本のラグジュアリーツーリズムが抱える問題点
日本はラグジュアリーツーリズムにまだまだ対応できていないといわれています。
現状、日本のラグジュアリーツーリズムが抱えている問題点は以下の3つです。
- ニーズの多様化に対応できていない
- ラグジュアリー層への認知拡大が不十分
- ラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていない
問題点を理解することが、問題点を改善するためのファーストステップとなります。
関連記事:日本のインバウンドの課題・その解決策とは?旅行者の地域分散がカギ握る
ニーズの多様化に対応できていない
日本のラグジュアリーツーリズムは、ニーズに対応できていないといえます。
そもそも「ラグジュアリー」という概念について、「金満趣味」「選民意識」「ハイブランド志向」というステレオタイプ的イメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか?確かにそういったものを好む方もいますが、その理解のままでは後につづくコンテンツ造成、プロモーションも失敗するでしょう。
日本政府観光局によれば、富裕旅行者の志向は以下の2つに分類されます。
- Classic Luxury(従来型ラグジュアリー志向)
- Modern Luxury(新型ラグジュアリー志向)
Classic Luxuryは従来型のラグジュアリー志向であり、その価値観は「富、力、地位、魅力、願望、消費」が中心であり、旅行についてもベストサービス、ステータスシンボル、エクスクルーシブであるかなどを重視します。50〜60代に多いといわれています。
それに対してModern Luxuryには20〜30代が多く、「文化、起源、遺産、スタイル、独自性、本物、質」を自らの価値観に据えています。
したがって、旅行に対してサステイナビリティ、本物の体験、ボランツーリズムなどを希求する傾向にあります。
ラグジュアリー層への認知拡大が不十分
ラグジュアリー層へ向けた認知拡大も不十分です。
認知されないことには興味をもってもらえることすらなく、そこにインバウンドが訪れることもありません。
WebサイトやSNS、海外の旅行雑誌やパンフレットでの訴求が検討に上がるでしょう。
しかし、富裕層のインバウンドにはそれぞれ懇意にしている海外の旅行代理店がある場合も少なくありません。そういったコネクションを形成していくことも重要です。
そして、プロモーションの際には世界観を丁寧に伝えることも肝要です。
上述したModern Luxury層が求める価値観をまずは深く理解し、自分自身もその価値を見出していなければ、刺さるプロモーションは不可能といってよいでしょう。
ラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていない
そもそも、日本の観光業界においてはラグジュアリー層向けのコンテンツが整っていません。
観光庁の「上質な宿泊施設の整備について」を参照すると日本国内のFiveStarAlliance登録の5つ星ホテルの数はインドネシアより少なく、タイの3分の1以下だということがわかります。5つ星ホテル一軒あたりの外国人観光客数も、1位の米国が9.9万人に対して、日本は91.7万人です。
そもそも、いかにラグジュアリー層を誘致するための施設が整っていないことがわかります。

また日本政府観光局によれば、ラグジュアリーツーリズムの消費性向にも以下の2パターンがあります。
- All Luxury(すべてに対して高額消費)
- Selective Luxury(優先度を決めて高額消費)
つまり圧倒的な高額所得者でなかったとしても、優先度を決めて特定のコンテンツに高付加価値なものを求める層もいるということです。これを鑑みると、ラグジュアリーツーリズムの潜在的な市場はもっと大きい(そして、日本のコンテンツはもっと足りていない)ともいえます。
ラグジュアリー層のインバウンドにとって、どんなニーズがあり、何が優先度の高いものなのかを考える必要があるでしょう。
富裕旅行者のニーズは消費性向を掴み、適切なコンテンツを準備することが重要です。
ラグジュアリーツーリズムの成功に必要なこと
ラグジュアリーツーリズムが成功すれば、旅行消費額も人気も大きくなります。
実践したあとにもPDCAを回し続けることで、より効率的かつ効果的な集客が可能になるでしょう。
関連記事:2024年に富裕層旅行市場が22兆円に 求める観光コンテンツとは
高品質サービスを「安売り」しない
今後のインバウンド戦略はコロナ前そうであったような「量」や「安価で大量生産」を追い求めるべきではありません。
ラグジュアリーツーリズムに限らず、低価格だけを売りにしていてはかつて起きていたオーバーツーリズムを再び引き起こし、観光客でごった返した観光地は地元民にとっても外国人旅行客にとっても忌避されるでしょう。
日本には世界に誇る歴史と伝統、文化、そして食事といった魅力があります。これらの観光資源のもつ価値を捉え直し、適切な価格設定で提供する必要があります。
マスツーリズムの色を残す画一的な旅行体験からは、ラグジュアリー層はもちろん、中長期的には一般の旅行客も離れていくでしょう。
そうではなく、混雑を避けたプライベートな空間はもちろん、日本ならではかつ、「本物の体験」が必要不可欠です。
関連記事:30年かけ"貧困化"したニッポン、世界から「安価な観光地」認定される前にやるべきこと
日本がもつ価値を捉え直し、付加価値を高めていく
日本政府観光局の富裕旅行市場調査によると、欧米豪5市場では「全体のわずか1%である富裕旅行者が、全体の消費額の13.1%を担っている」ことがわかっています。
しかし、日本では残念ながら同じ割合の富裕層が訪れていながら消費額は1.3%に留まります。
課題は受け入れ環境の整備、コンテンツの造成、プロモーションとそれぞれにありますが、まずは日本が持つ観光資源を捉え直し、従来型のマスツーリズムから脱却するために事業者側の価値観の転換が求められるのではないでしょうか。
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!
訪日ラボに相談してみる
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
- 変わりゆく市場の状況と、今後注目のトレンドを把握できる
- 旅マエの顧客行動を理解し、集客・予約率アップのヒントが得られる
- 旅ナカの接客品質を高め、顧客満足度向上に繋がる実践的な対応を学べる
- 各分野の専門家から、ビジネスを加速させる具体的な戦略や成功事例が聞ける
詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
→「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!