OECD(経済協力開発機構)による世界の平均賃金データ(2022年)によると、日本の平均年収は35カ国中22位となっています。
これは欧米諸国はもちろん、東アジアのお隣の国である韓国をも下回る水準です。さらに世界の平均収入はここ30年で増加傾向にあるなか、日本は1990年の平均賃金と比較した時の上昇率は、わずか104.44%にとどまります。
もちろんその国の物価上昇率の観点は無視できず、一概に消費力が高まったといえるわけではありませんが、少なくとも「訪日旅行」で使える金額は増加しているともいえます。
「失われた30年」と揶揄されることもある日本経済ですが、ここではただ悲観するのではなく、渡航再開後のインバウンド需要復活を見据えてなにができるのかを考えてみます。
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世界の「平均賃金」は増加するなか、日本は過去30年間ほぼ横ばい
日本人の平均賃金は、1990年から30年間ほぼ変化していません。この間世界における日本の平均賃金の順位は12位から22位まで落ち、日本は相対的に「貧困化」しているともいえるでしょう。
一方で平均賃金ランキング1位であるアメリカの平均賃金の上昇率は約147.72%、2位のアイスランドは165.84%上昇しています。
OECD(経済協力開発機構)が公表している世界の平均賃金データによると、2020年のランキング1位はアメリカで69,391ドル(約843万円)、2位はアイスランドで67,488ドル(約820万円)、3位はルクセンブルクで65,854ドル(約800万円)、日本は22位で38,514ドル(約468万円)となっています。
4位以下、上昇率だけを取り上げると、スイス(126.40%)、オランダ(115.47%)、デンマーク(138.72%)、ノルウェー(174.63%)、カナダ(138.11%)、オーストラリア(138.45%)と続いており、日本の上昇率(104.44%)の低さが際立ちます。
アジアの富裕層の割合も「増加」している
所得が増加トレンドにあるのは、欧米諸国に限った話ではありません。
経済産業省によると、NIEs3(韓国、香港、台湾)の富裕層(ここでは世帯年間可処分所得が3万5,000ドル(約425万円)以上を指します。)の割合は、過去20年間で26.7%から71.4%と大幅に増加しています。
世界から見て、日本は「安価な観光地」になりつつある
日本の所得の低成長ぶりについては様々な評論や提言が専門家からなされていますが、インバウンド需要の観点からみた場合はどうでしょうか。
海外の人々の所得が増加しているということは少なくとも、それだけ外国人が訪日旅行に使えるお金も増えることになります。ここ30年の間に、日本は世界からみて相対的に「安い観光地」になりつつあるということです。
折りしも記事執筆時点の2022年3月30日、ドル/円為替相場は122円を突破しており、6年3ヶ月ぶりとなる大幅な円安トレンドに突入しています。つまり、前述した日本の「安い観光地」化に拍車がかかる局面になっているということです。
ウクライナ情勢によって世界経済の不確実性が増す中で、かつてみられた「有事の円買い」が起きることなく、むしろ円安トレンドが加速していることも特筆すべきでしょう。
インバウンドは外貨が日本に落ちるという観点で「輸出産業」です。そのため円安のトレンドはインバウンド需要を喚起する追い風だといえます。
観光の「量から質」への転換は不可欠
しかし、今後のインバウンド戦略はコロナ前そうであったような「量」を追い求めるだけではいけません。
低価格だけを売りにしていてはかつて起きていたオーバーツーリズムを再び引き起こし、観光客でごった返した観光地は地元民にとっても外国人旅行客にとっても忌避されるでしょう。
コロナ禍を経験した現在においてはなおさら、「量から質」への転換は不可欠です。
観光庁によると「高付加価値旅行者」(着地消費額100万円以上/人)は訪日旅行者数全体の1%にとどまる一方、全体の消費額の11.5%を占めており、旅行消費額に大きなインパクトを与える存在となっています。
コロナ後のインバウンド誘致を展望する上では、この高付加価値旅行者により多く訪日してもらうことが大きな命題の一つとなるでしょう。
それが達成できた先には、先述した円安トレンドが旅行消費額の増加にドライブを利かせ、インバウンド需要が日本経済を牽引することが期待されます。
高付加価値旅行者のニーズに堪える、「観光資源の磨き上げ」と「高付加価値化」
そのためには、「観光資源の磨き上げ」と、「高付加価値化(適切な価格設定)」が必須です。
日本には世界に誇る歴史と伝統、文化、そして食事といった魅力があります。これらの観光資源を掘り起こし、磨き上げることによって新たな観光名所が今もなお生まれています。農林水産省が取り組む「SAVOR JAPAN」からはその端緒が読み取れます。
そして高付加価値化というのは、人でごった返す観光地で通常のサービスを「観光地価格」として割高な金額で提供することではありません。当然ながらそれは観光客の不満につながります。
マスツーリズムの色を残す画一的な旅行体験からは、旅行客は一層離れていくでしょう。そうではなく、混雑を避けたプライベートな空間や日本ならではかつ、オンリーワンの体験が今後訪日外国人(および日本人の旅行者)から求められるようになります。
そうしたニーズに合致する滞在体験を提供する備えをしておくことが肝要です。
関連記事
・一般旅行者の9倍消費する「富裕層旅行者」の実態
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アフターコロナ、インバウンド観光のターゲットは
世界の平均賃金が上昇している中、日本が横ばいをつづけていることは常々指摘されている事実です。
しかしこれをインバウンド需要回復のテコとして活かすことが、今後の日本の観光関連事業者に求められるのではないでしょうか。
日本には世界に誇れる観光資源が豊富にあります。これらを「安売り」せず、コロナ後の観光客のニーズに合った形で磨き上げ、そして本来の価値に見合った価格で提供することが今後求められます。
日本のインバウンド関連事業には、日本経済を牽引し、ひいては低成長が続く現状から脱却できるだけの可能性を秘めています。
関連記事:インバウンドがもたらす経済効果について解説 アフターコロナに向けて再確認
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<参照>
2020年の平均年収:平均賃金
OECD平均賃金推移グラフ:平均賃金推移
経済産業省:我が国経済の新しい海外展開に向けて
観光庁:地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会
観光庁:「上質なインバウンド観光サービス創出に 向けて」報告書
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