日本人が”知らなすぎる”「富裕層観光」の実態 ラグジュアリージャパン観光推進機構 宮山代表理事に聞く

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政府は2016年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」の中で、「2030年までに訪日外国人旅行者6,000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円」という目標を掲げており、コロナ禍を経験した現在においてもその目標を堅持しています。

これは2019年に一人あたり約15万円だった旅行消費額を25万円まで引き上げてやっと達成できる目標であり、富裕層の観光誘致を視野に入れた高付加価値な旅行体験を提供できるかが求められます。

しかし「富裕層観光」や「高付加価値な体験」は各所で喧伝されるものの、その実態とはなんなのかについてあまり知る機会はないのではないでしょうか。

今回、政府関係者を含むVIP・富裕層向けにコンシェルジュサービスを提供するクラブ・コンシェルジュ株式会社の代表取締役社長であり、一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構の代表理事である宮山直之氏にお話を伺いました。

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一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構 代表理事 宮山 直之氏に取材

宮山 直之氏

1980年西日本新聞社入社、87年西日本新聞社東京支社勤務を経て、95年ニューズライン・ネットワーク株式会社IT企業設立。

2003年日本の知的富裕層向け会員制サービス、クラブ・コンシェルジュ株式会社設立、代表取締役社長就任。

2005年訪日外国人富裕層向サービス、株式会社ラグジュアリージャパン設立、代表取締役社長就任。18年に亘り富裕層ビジネスに従事してきた。

2016年4月スイスヴォー州ワイン協会より世界で二人目のコマンドール勲章受章。

宮山直之氏
▲宮山直之氏

ハイクラスの会員向けに、特別な体験を提供

クラブ・コンシェルジュ株式会社は、富裕層向けの会員制コンシェルジュサービスを提供する企業です。

富裕層の顧客に対して「秘書にお願いしてもできない」ような深遠な日本の文化体験を提供すべく、宮山氏が一つひとつ信頼を築き、開拓したサービスを取り揃えています。

▲クラブ・コンシェルジュ公式サイト
▲クラブ・コンシェルジュ公式サイト

一例を挙げると、国立競技場の設計にも携わった日本を代表する建築家・隈研吾氏の建築作品「COMICO ART HOUSE YUFUIN」に宿泊体験できるプランがあります。

そのほかラグジュアリーホテルや厳選されたレストランのリザーブ、ご子息の海外留学先の紹介、先端医療・ヘルスケアの紹介、不動産事業、最高級ワインの輸入・販売など、ハイクラスの会員が求めるニーズに応える多様なサービスを提供しています。

2021年からセゾンプラチナ・アメリカン・エキスプレス・カード会員と提携も始めており、現在の会員数は約14万人に上ります。

富裕層のニーズに応えるバイヤーとセラーをマッチングするプラットフォームを設立

こうした経験を通して宮山氏は「ネットワークを作ってマッチングしていかないと、日本全体が豊かにならない」と考え、2021年に一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構を設立しました。

当法人はラグジュアリーツーリズムの振興を目的として、富裕層の顧客をもつ海外(および国内)のバイヤーと、高付加価値なサービスを提供する日本側のセラーをつなぐ「LUXURY JAPAN Virtual Travel Market」というマッチングプラットフォームを立ち上げました。

なお立ち上げ半年弱で、すでにバイヤーが48社、セラーが36社加盟しています。
一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構:公式サイト
▲ 一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構:公式サイト

今、富裕層観光の誘致になにが必要か

宮山氏は、日本の富裕層の観光誘致は大きく遅れていると指摘しています。

観光に携わる各業界で、今後富裕層の方々を誘致するために何ができるのか、そのポイントについて伺いました。

宿泊施設に必要なこと

まず、宿泊施設が取り組むこととして、宮山氏は従来の「旅館」の概念を変えることが必要で、そこまで踏み込まなければならないと指摘しました。

自社でのブランディング・マーケティングは必須

「ホテルや旅館では、集客に関して旅行代理店や予約サイトに頼り切ってしまっていたところは、おのずと苦しい状況に置かれているのではないかと思います。

その一方で部屋数を減らしているにも関わらず、コロナ禍でも最高益を出している旅館もあります。

有名なところは自分達でマーケティングやブランディングしているので、収益が出ているところ・出ていないところが如実に表れています。」

「融通がきく」滞在体験を

「また、「融通が効くかどうか」も重要です。

たとえば旅館の場合、 懐石(会席)料理 を毎日出されていたら飽きてしまうでしょう。外国人にとっては食べ慣れていないでしょうし、負担に思われるかもしれません。

由布院の『亀の井別荘』さんはその辺りで進化しています。つまり館内に鰻料理や肉料理、お寿司を食べられるお店があって、利用客が自由に食を楽しむことができます。」

「離れ」の意識が重要に

「設備面についても大きな改善が必要です。まず、日本のホテルにはコネクティングルームが圧倒的に少ない。日本は、なぜだか宿泊客が二名でくることばかり想定していますよね。

富裕層の場合ビジネス目的で訪日することも多く、5〜6名など複数名でいらっしゃいます。スイート、ジュニアスイートコネクティングルームなどのタイプの客室をもっと用意しておくべきでしょう。

そしてデービッド・アトキンソンさんも言及していたように、富裕層は客室20室以下の宿泊施設を好みます。プライベートな空間がより求められ、宿泊客の居住空間を完全に分離した「離れ(はなれ)」は、もっとつくっていかなければならないでしょう。」

厳選したホテル・旅館を提供
▲厳選したホテル・旅館を提供


国・行政に必要なこと

続いて、行政が取り組むべきこととして、1日のストーリーを意識できるところにまでプロモーションを落とし込むべきだと指摘されました。

エリアではなく、旅のストーリーを訴求すべき

「行政はともすればエリアだけを宣伝するという発想になりがちなのではないかだと思います。

旅行者は「〇〇県に行こう」という目的で旅行に行くのではなく、「どこで食べ、どこに泊まり、何をするか」という旅の工程、ストーリーに魅力があるから旅行にいくわけですよね。

だからこそ「〇〇(地域)はいいところですよ」で立ち止まるのではなく、「フラッグシップとなる宿泊施設はここですよ」や、「レストランだったらここはいくべきですよ」といった粒度まで踏み込んで提案すべきです。」

泊まるところがないなら、つくるべき

日本遺産についても現在100以上認定されているものの中には、行ってみたいと思ったとしても泊まるところがなかったりします。仮に周辺にいい施設がないのであれば、行政が「つくろう」と言わなければならないでしょう。

隈研吾先生は一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構のアンバサダーになってくださっているのですが、ラグジュアリージャパンを通し行政から依頼があれば、旅館などの建築物を設計していただけるような流れを現在考えているところです。

そしてなにより予算を「使う」ということばかり考えるのではなく、「稼ぐ」という視点が抜けているのではないでしょうか。経営者の視点で考えてもらいたいなと思います。」

旅行会社に必要なこと

旅行会社本来の付加価値として「その旅行会社しかできないこと」を提案するべきだとしています。

自分が実際に足を運び、大事なお客様に提案する

「海外の旅行代理店だと当たり前にやっていることなのですが、日本の大規模な旅行代理店でできていないのが自分で実際に足を運び、ジャッジしたものを自信を持って大事なお客様に提案することです。

 『Virtuoso』という 世界最大級の富裕層観光コンソーシアム があるのですが、大手の旅行代理店というのは海外には少ないんです。3人くらいでやっているような小さな旅行代理店が多く、そんな小さな会社が上場企業の役員を担当していたりします。

私がお会いした旅行代理店は親子二人でやっている会社だったのですが、リッツ・カールトンの売上上位20位以内にいつも入っています。

その会社の方は例えば、日本で新しいラグジュアリーホテルが出来たときは自分で費用を払って実際に視察していらっしゃるし、日本のあらゆる観光列車に乗ったことがあります。

そのように自分が体験して、「これは」と思ったものを大事なお客様に提案しています。ここが大きな違いだと思います。

こうした姿勢を、日本の旅行代理店も学ぶべきではないでしょうか。」

「掲載するものは、すべて自身で目利きしています」と宮山氏

日本の歴史と伝統を後世に残し、観光産業の持続的な発展のために

日本の価値ある歴史的・伝統的な観光資源を後世に残し、高付加価値なサービスを提供し続けていくために、ラグジュアリートラベルの誘致が必要不可欠だといいます。

山積している課題とそれをどのように解決できるのか、宮山氏に伺いました。

長い歴史を持つ料亭や旅館が今も消え続けている

「海外の富裕層って、日本とは桁が違うんですよね。世界には相続税がない国がありますが、そういった国では生まれながらにして500億とか1,000億の資産を持っていたりします。日本に生まれるとそういう感覚はなかなかわかりませんよね。

一方日本では、今も歴史のある旅館や料亭が姿を消しています。それは建物に相続税がかかるからです。

例えば旅館のご主人が亡くなると、相続税を払うために結果として建物を取り壊すしかない...という話になってしまう。非常にもったいないことです。

保存する場合でもやはり資金繰りに困り、中国系の外資に買われてしまう例もみられます。

税制度の見直しを含め、こうした状況を変えなければならないと思います。」

「安すぎる」日本の高品質なサービス

「これは常々いわれていることですが、日本の宿泊施設はマークアップ率が低いということです。

最近ではようやく一泊10万円という価格帯の宿泊施設も増えてきましたが、安いところでは今でも一泊1万5,000円以下で泊まれる旅館も多くあります。

しかしそれで朝晩の食事を出して、三つ指をついてお迎えするような高い接客レベルを提供することは、価格に全く見合っていません。」

「良い人材に良い給料をはらうため」に

「だからこそ、観光をもっと高付加価値な産業にしていかないといけません。利益率を30%以上、場合によっては50%以上乗せるくらいの価格帯に変えていかないと儲からないし、いい人材にいい給料を払えないですよね。そうすると提供できるサービスのクオリティも維持できなくなってしまう。

もちろん値段だけ上げればいいわけではなく、いかに付加価値を上げるかを考えないといけません。」

できることから付加価値を高めていく

「施設をつくりかえること以外でも付加価値を上げることはできます。例えば、食事で扱う野菜はすべて無農薬野菜を使うというだけでも大分変わります。

設備投資には多大なコストがかかりますし、宿泊施設単体だけではやれることにも限りもありますから、行政の力も必要でしょう。

できることからクオリティを上げて、適正な利益をとっていかないと日本の観光産業はますます貧しくなります。この状況を打開するために、ラグジュアリートラベルは必要なのです。」

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日本を訪れる外国人旅行者の間で、特に人気が高いアクティビティが「桜の鑑賞」です。桜の開花時期に合わせて日本を訪れる外国人も多く、日本の重要な観光資源の一つとなっています。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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