インバウンド需要は5.3兆円、その市場規模を他産業と比較してみた:「観光立国」は日本を救う鍵になるか

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コロナ禍が明け、ますます注目が高まる日本のインバウンド市場。2023年時点で、その市場規模は5兆2,923億円にまで達しています。国内輸出産業の中でも第3位につけており、日本経済に大きな影響を与えうる産業としても期待されています。

今回はそんなインバウンド市場について、現状と今後の期待感、課題をまとめます。

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インバウンド需要(訪日旅行消費額)は5.3兆円、輸出産業第3位の規模

コロナ前の動向から振り返ってみましょう。2016年に政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、「2020年までに訪日外国人旅行者数4,000万人・訪日旅行消費額8兆円、2030年までに同6,000万人・同15兆円」という目標を設定。コロナ前の2019年は訪日外国人旅行者数3,188万人、訪日旅行消費額4.8兆円とそれぞれ過去最高を記録し、目標に向けて市場は順調に拡大していました。

その後、コロナ禍で市場はほぼ完全にストップしたものの、2022年10月の水際対策大幅緩和、さらに円安などの影響もあり外国人観光客が再度増加。急速に市場が拡大してきています。

観光庁が発表した訪日外国人消費動向調査によると、2023年のインバウンド消費額は5兆2,923億円(約5.3兆円)。財務省貿易統計で発表されている他産業の輸出額と比較すると、1位の自動車と2位の半導体等電子部品に次いで第3位の額となっています。

▲2023年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成
▲2023年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成
コロナ禍の影響を受けていた前年2022年のインバウンド消費額は0.9兆円と、輸出額上位の品目には大きく及ばない水準でした。インバウンド市場の回復・拡大が急速に進んでいることがわかります。
▲2022年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成
▲2022年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成

コロナ前の2019年と比較すると、昨今の半導体業界の盛り上がりや、円安が輸出産業全体に影響していることもあり、順位はひとつ落としています。

ただし、その需要自体は4.8兆円(2019年)から5.3兆円(2023年)に0.5兆円ほどアップし、過去最高の額となっています。

▲2019年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成
▲2019年インバウンド消費額と主要品目別輸出額比較:観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「財務省貿易統計」より訪日ラボ作成

2024年は、まだ回復しきっていない中国市場の回復・拡大なども控え、さらなる市場の拡大が見込まれます。


※追記:なお観光庁資料では、「化学製品」関連産業を一つにまとめて計上しており、2019年はインバウンド消費が第3位とされています。本記事では、財務省の統計データ及び経済産業省資料に準拠する形でグラフを作成しています。

観光立国は日本を救う鍵になるか

2023年に2,500万人であった訪日外客数は、2024年には過去最高の3,310万人になると推計されています(JTB 旅行動向見通しより)。現在の成長ペースを維持できれば、インバウンド消費額は2027年に10兆円規模に達するとの予測もあります(ニッセイ基礎研究所 中期経済見通しより)。

国内の主要産業のうち10兆円規模の市場としては、コンビニエンスストア市場(約12兆円)、子ども関連市場(約11兆円)、人材市場(約10兆円)などが挙げられます。インバウンド市場は今後、国内産業においてさらに重要な立ち位置を占めるようになると言えるでしょう。

「安いニッポン」言説…観光で稼ぐ国は「途上国」なのか?

インバウンドで稼ぐ」という話題が出ると、必ずと言っていいほど登場するのが「安いニッポン」言説。円安が進み日本の物価が他国に比べて低いことで観光客が集まっている、つまり日本は「安いから行きたくなる国=途上国」に成り下がったのだ、という見方です。

しかし、世界観光機関UNWTO / UNtourism)が発表したデータを見ると、上位の国としてランクインしているのはアメリカ、フランス、スペインなどであり、観光業で稼いでいる国々の多くが、いわゆる先進国であることがわかります。「観光で稼ぐ国=途上国(安い国)」という言説は必ずしも正しくなく、先進国でも積極的に観光客を受け入れていることがわかります。

そもそも「価格が安いから」というだけで、ここまで観光客が集まるでしょうか。2022年5月に世界経済フォーラムで発表された「旅行・観光開発指数ランキング」では、世界117か国中、日本は総合順位で初の首位を獲得。他にも米国の大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が「世界で最も魅力的な国ランキング」2023年版で日本を1位に選出するなど、日本を観光関連のランキング上位に選ぶ調査データは、ここでは挙げきれないほど多く存在しています。日本に観光客が集まるのは、「旅行先としての日本」が世界から高く評価されているからこそなのです。

コロナ後、世界全体の海外旅行市場が急拡大しているなかで、今後も海外から多くの旅行者が日本を訪れることが期待されます。

ただし日本の場合、他国と比較して物価が安すぎるのも事実であり、インバウンドに対する正しい価格設定とマーケティング戦略が今後の課題です。「観光で稼ぐのは悪ではない」という認識を広め、「稼ぐ観光」を実現するための意識改革が必要となります。

日本のインバウンド戦略、課題は:稼ぐ観光・オーバーツーリズム・人手不足

インバウンド市場の急拡大には、課題もあります。一つが先程も言及した「稼ぐ観光」。観光客による消費を正しく地域経済・日本経済に還元するため、日本政府観光局JNTO)は「高付加価値旅行」などの戦略を推進しています。こうした流れに沿ってプライシングやマーケティング戦略の見直しを行う企業・自治体がある他、一部地域では「観光税」のような制度の導入も検討されています。

次に、オーバーツーリズムの問題があります。外国人旅行者の日本国内での訪問先は、利便性が良く知名度の高い大都市や有名観光地に集中しており、他地域への訪問は少ない状況です。コロナ禍が明け、久しぶりに訪日する人々はとりわけ人気の観光地を目当てに来る傾向があります。その結果、一部の観光地では観光客の過剰な増加による地域社会への負担が問題となっています。道路の渋滞やバスなどの公共交通機関の混雑、周辺の自然環境への悪影響など、地域によって発生する問題は様々です。

一方で、オーバーツーリズムの問題を「地方誘客のチャンス」と捉えることも可能です。混雑する有名観光地を避けるリピーター客や、人とは違った文化体験を好む外国人観光客にとっては、今こそ地方の魅力をしっかりアピールする時であるともいえます。質の高い観光体験の提供や情報発信の強化によって外国人観光客の地方誘客が進めば、地域経済全体の活性化に繋げることも可能となるでしょう。

他に課題として、業界全体の成長に伴う人手不足も顕在化しています。この問題に対処するためには、デジタルトランスフォーメーションDX)の推進や、労働環境の改善、適切な給与設定による労働力の確保が必須です。需要に対する供給力が追いついていない状態を打破するためにも、行政、民間、そして地域住民等、様々なステークホルダー同士が協力して取り組むことが必要です。

今後、さらなる成長が期待されているインバウンド市場。今ある課題を見つめ、日本経済を持続可能な形で支える「観光立国」のあり方を、改めて業界全体で考えるべき時なのではないでしょうか。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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