スペイン巡礼と四国遍路、受入体制に大きな差。今後の四国がとるべき対応は?【「巡礼ツーリズム」連載 vol.3】

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アウトドアツーリズムの人気が高まるなか、外国人観光客の間で注目されているのが「pilgrimage(巡礼)」です。

巡礼とは、宗教的な史跡を訪ねたり巡礼路を歩く旅のことで、古くから世界各地で行われてきました。日本では四国八十八ヶ所巡り、熊野古道など、海外ではスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路などがその代表例です。

本来は宗教的な理由から行われていたものですが、現代では信仰の有無を問わず、アクティビティの一環として行う人が増加。「巡礼ツーリズム」とも呼ばれ、各地の自然や文化、歴史を体験できる旅行として、特に欧米を中心に人気です。

地方への誘客促進策としても期待が高まる巡礼ツーリズムについて、訪日ラボでは各地の取り組みを不定期の連載形式でお送りしています。第三弾となる今回は「受入体制」について。世界的な知名度も高いスペインのサンティアゴ巡礼と日本の四国遍路を比較し、受入体制の取り組みと課題についてまとめます。

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巡礼ツーリズムとは?

巡礼ツーリズムとは、世界各地の宗教的な史跡や巡礼地を訪れる旅行のことです。日本では「巡礼」と聞くと宗教的なイメージが強いですが、ハイキング・トレッキングのようなアクティビティの一環として気軽に参加する旅行者も多くいます。

宗教的な制限や参加目的を問われることはほとんどなく、地域の風習をじっくり体感できる良質な旅行コンテンツとしても支持されています。

また、巡礼ツーリズムの一種として、四国八十八ヶ所を巡る「お遍路」に関連した旅は「遍路ツーリズム」と呼ばれることもあります。

巡礼ツーリズムに注目が集まる一方、課題となっているのが受入態勢の強化です。外国人の対応に慣れていなかったり、地域の人たちの理解を得る必要があったりと、古い歴史と伝統を受け継いできた巡礼路ならではの課題が散見されます。

巡礼ツーリズムについては、「世界で注目高まる「巡礼ツーリズム」とは?その特徴とインバウンドへの影響を解説【「巡礼ツーリズム」連載 vol.1】」もご確認ください。

年間40万人以上が参加するサンティアゴ巡礼

巡礼ツーリズムで最も成功していると言われるのが、スペインのサンティアゴ巡礼です。スペイン北部にあるキリスト教の聖地「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」を目指す巡礼の道で、ヨーロッパ各地から聖地へと続くいくつものルートが伸びています。最も人気のあるフランス南部からスペイン北部を横断する「フランス人の道」の総距離は800〜1,000kmほど。徒歩で約1か月もの道のりです。

サンティアゴ巡礼はスペイン語で「道」を意味する「カミーノ」とも呼ばれ、大陸を超えて世界中から巡礼者が集まります。

2023年にサンティアゴ巡礼に参加した人は過去最高の44万6,038人を記録。そのうち約55%が外国からの巡礼者です。2024年は7月末までの統計で、巡礼者はすでに27万4,750人となっており、年間で50万人を超えるとの予想もあります。

サンティアゴ巡礼はスペインの大小さまざまな都市や町を巡り、地域の自然や文化に触れることができる点が大きな魅力。「牛追い祭り」で有名な町・パンプローナなどの観光地に立ち寄れるほか、人口1,000人程度の小さな村にも滞在することができます。スペインの多様な文化と景観を楽しむことができることも人気の理由です。

<参照>

サンティアゴ巡礼公式サイト:Información Estadistíca Oficina del Pergrino

スペイン巡礼と共通点の多い四国遍路

巡礼ツーリズムの“優等生”であるサンティアゴ巡礼と、日本の四国4県を巡る「四国遍路」には、実はたくさんの共通点があるのをご存知でしょうか。

四国遍路とは、四国4県をぐるっと一周するように伸びる日本を代表する巡礼路です。弘法大師(空海)に縁のある88か所の霊場(寺)を巡るもので、総距離は1,200km以上。徒歩では40〜60日ほどかかります。

四国遍路とサンティアゴ巡礼の共通点としては、例えば次のような点が挙げられます。

  • 徒歩での巡礼の場合、1か月以上かかる
  • 多くの町や村を訪れることができ、地域の自然・人・文化に触れる機会が多い
  • 巡礼者同士の交流や、地元の人たちとの交流が重要な要素(目的のひとつ)となっている  
  • 巡礼者特有の服装やお印がある   など

サンティアゴ巡礼と四国遍路は、ともに歩きの場合は1か月以上かかります。巡礼者は30日以上の長期滞在中に、有名観光地以外にも多くの地域を訪れることができ、より深く自然や文化、その土地の人々を知る機会に恵まれます。

ルート上で顔見知りになる巡礼者もいて、宿泊先で再会したり、旅の話を共有したり、他者との交流も長期の巡礼路の醍醐味でもあります。また、サンティアゴ巡礼では、巡礼者の印としてホタテの貝殻を身につける習慣がありますが、四国遍路も笠や杖、白衣などを身につけて参加する人が多くいます。


スペイン巡礼に国際的な巡礼者が多い理由

共通点の多いサンティアゴ巡礼と四国遍路ですが、巡礼者の数は圧倒的にサンティアゴ巡礼の方が多いのが現状です。サンティアゴ巡礼が国際的な人気を集める大きな理由は「外国人でも参加がしやすいこと」。強力な受入体制が大きな鍵となっているようです。

1. 多言語対応の充実

サンティアゴ巡礼の公式サイトはスペイン語以外に英語にも対応しています。また、サンティアゴ巡礼は世界中に300以上の「友の会」があり、それぞれの地でサンティアゴ巡礼に関わる情報発信や普及活動を行っています。

日本にも2008年に「NPO法人日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」が発足し、日本語の情報サイトもオープン。自国の言語で、サンティアゴ巡礼の歴史や宗教的背景、歩き方や注意点など必要な情報を得ることができます。

<参照>

2. サポート体制が充実している

サポート体制が手厚い点もサンティアゴ巡礼の大きな特徴です。

サンティアゴ巡礼のルートの中で、最も巡礼者の多いフランス人の道のスタート地点はフランス南部の町・サンジャン・ピエド・ポーです。この町には「巡礼事務所」があり、巡礼者はここで「クレデンシャル(巡礼手帳)」を受け取ります。巡礼手帳は巡礼者である事を証明するもので、手帳を見せることで巡礼者専用宿(アルベルゲ)への宿泊が可能です。巡礼事務所ではこのほかに、ルート全体の地図、宿の詳細なリスト、緊急連絡先など、巡礼者が必要な情報をすべて提供してくれます。

また、ルート上の主要な町には巡礼センターが設置されていて、巡礼者をサポートするボランティアが常駐。スペイン人だけでなく世界中からボランティアが集まっており、日本人のボランティアがいる場合もあります。体調や歩き方など巡礼に関するさまざまな相談に対応したり、巡礼中に出てきたさまざまな疑問(宗教や文化に関する質問など)も丁寧に解説してくれます。

3. 巡礼者が道に迷わない工夫

サンティアゴ巡礼には、巡礼者が道に迷わない仕組みが整っています。

ルート上には、黄色い矢印や貝殻のマークなど巡礼路を示す印が至る所にあり、言葉が理解できなくてもルートを間違えないよう工夫がされています。家の壁に貝殻マークのタイルが埋め込まれている場合もあれば、道路や街路樹に黄色いペンキで矢印が書いてあることも。地域の人たちが率先してルート整備に協力していることがわかります。

さらに、巡礼路は森や山など自然の中を歩く場面も多いですが、天気によっては道が崩れていたり、歩きにくくなっていたりする場合も。そうした道の状態をリアルタイムで英語とスペイン語で発信しているサイトもあり、巡礼者は安全に旅を続けることができます。


4. 宿泊施設が豊富

サンティアゴ巡礼は宿泊施設の豊富さも特徴のひとつです。アルベルゲと呼ばれる巡礼者専用宿のほか、民営のホテルやゲストハウスも多くあり、宿泊に困ることはほとんどありません。アルベルゲの料金は一泊10ユーロ前後の場合が多く、30日以上の長期滞在であっても旅費のハードルが比較的低い点も魅力です。

また、5〜10kmごとに町があるので、その日の体調や気分によって宿泊地と宿を選ぶ楽しさもあります。宿と飲食店が併設している場合も多く、小さな町でも食べる場所に困ることがない点も外国人には嬉しいポイントです。ベジタリアンヴィーガン対応の飲食店も多く、食の多様性への対応も進んでいます。

四国遍路の課題点

外国人巡礼者の受入体制が整っているサンティアゴ巡礼と比べると、四国遍路には解決すべき課題がいくつか身けられます。外国人誘客促進に向けたポイントをまとめます。

1. 多言語対応と情報発信

多言語対応に関しては、四国4県の観光協会や四国遍路に関わる団体などが、webサイトの多言語化や英語のパンフレット制作などに着手しています。

しかしサンティアゴ巡礼や、世界遺産でもある熊野古道と比べると、圧倒的に情報量が少ないのが現状です。英語で翻訳された四国遍路のガイドブックも数が少なく、外国人お遍路さんからは「情報を探すのが大変だった」「もっと宗教的背景や地域の文化を深く知りたい」といった声も聞こえます。

2. 宿泊施設の少なさ

四国遍路の宿の少なさも大きな課題です。四国遍路のルート上には多くの過疎地域(人口減少地域)があり、慢性的に宿の担い手が不足しています。コロナ禍により閉鎖したホテルも多くあり、宿不足はより一層深刻化しています。

日本人のお遍路さんの場合、事前に全ての日程の宿を予約していく人もいますが、外国人は事前に知ることのできる情報が少ないため、それも難しい場合もあります。以前は寺が運営する宿坊もありましたが、現在運営されているのは数える程度しかありません。また、サンティアゴ巡礼と比べると宿代が高額である点も課題とされています。

3. 地域間連携の強化

四国遍路の全長は1,200kmあり、ルートは四国4県を跨いでいます。各地で四国遍路のプロモーションや課題解決に向けた取り組みが進んでいますが、海外からの誘客促進に向けては、より一層の広域連携が必要です。

広大な遍路道において足並みを揃えるのは簡単ではありませんが、サンティアゴ巡礼など成功事例を参考にしながら抜本的な解決策が求められています。

外国人誘客に向けて受入体制の強化が必須

世界的な盛り上がりを見せる巡礼ツーリズム。地方への誘客促進やエリアマーケティングに効果的であり、旅行者の長期滞在化も狙うことができます。課題である受入体制を強化し、地域が一体となって戦略的なプロモーション策に取り組めば、現地のインバウンド観光の起爆剤になることも可能です。

四国遍路は現在、四国4県と民間企業や各種団体が協力して世界遺産登録も狙っているとのこと。今後の取り組みに注目が高まっています。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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