「地域との対話を可能にする」勝山DMOの観光データ活用

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観光データ活用は観光地域づくり法人(DMO)が抱える課題の一つです。先月ご紹介した観光庁「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」では、「各種データの収集分析、データに基づいた戦略の策定」が、DMOの機能の一つに挙げられています。

一方で、「DMOにおける組織運営等に関する実態調査」に回答した158団体のうち、半数超のDMOが「データを分析して戦略策定に繋げるノウハウの不足」「戦略策定を行う上で分析に必要なデータが不足している」と回答しています。

ノウハウやデータの不足の組織は、データ活用にどう対応すべきなのでしょうか。事例として、必ずしもリソースが十分でないにもかかわらず、データの分析と活用を推進しているDMOに学ぶ価値がありそうです。

そこで今回は、福井県の地域DMOである勝山市観光まちづくり(株) (以下、勝山DMO)の事例から、そのヒントを探っていきましょう。

文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)

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「すべての情報データをDMOに集約する」ことを目指して

オンラインイベント「注目DMO Meet Up!」(地方創生パートナーズネットワーク主催)は、重要テーマに独自の手法で取り組むDMOの声を聞き、その分野の専門家との意見交換を通じて各DMOが実践できるヒントを明らかにすることを目的に、7月17日に第1回が開催されました。

この日は「観光データ活用」をテーマに勝山DMOの今井三偉取締役/マネージャーが登壇。広域連携DMOや県観光連盟に加え、地域内のありとあらゆる情報源から観光データを収集して、どのように分析と活用を行っているかを語ってもらいました。

福井県立恐竜博物館を有する勝山市では、今年3月の北陸新幹線延伸を追い風に、来訪者が順調に増えています。(株)ナビタイムジャパンが提供する訪日外国人向けの観光ナビゲーションアプリの利用状況によると、勝山市の2024年3月~5月の外国人滞在数は前年同期比で24倍の伸びを見せ、全国の自治体で2位になったと発表されました。外国人訪問者の位置情報データから、2023年7月にリニューアルされた福井県立恐竜博物館に加え、大師山清大寺越前大仏などが日本特有の風景として外国人に評価された、と分析されています。

勝山DMOでは、訪問者の16%が勝山市内に宿泊、年齢層では20代が中心であるといった地域内のデータだけでなく、福井市(宿泊が30%)、永平寺市(年齢層は50代が中心)など、近隣のデータとも比較することで、弱みや伸びしろを把握しようとしています。

データ活用について今井さんは、「すべての情報をDMOに集約すること」を組織の役割としているといいます。道の駅の運営など地域商社としての自社データや、域内観光事業者から集めた独自アンケート、広域連携DMOの中央日本総合観光機構や福井県観光連盟といったマネジメント地域が重なる各DMOが提供するデータなど、自前主義にこだわらず活用可能なあらゆるデータを収集しています。

中央日本総合観光機構の分析ダッシュボード
▲中央日本総合観光機構の分析ダッシュボード(画像提供:勝山市観光まちづくり)

中央日本総合観光機構の分析ダッシュボードからは、インバウンド観光客のデータを入手し、実証検証や導線の把握に活用しています。たとえば「金沢に来た観光客は次にどこへ行っているのか?」といった疑問に対しては、複数の県を対象にした広域連携DMOのデータが有効です。
福井県観光連盟が運営する福井県観光データ分析システム「FTAS」
▲福井県観光連盟が運営する福井県観光データ分析システム「FTAS」(画像提供:勝山市観光まちづくり)

福井県観光連盟が運営する福井県観光データ分析システム「FTAS」は、県内の観光地人流データやアンケート結果を集約。各地のエリア満足度やリピート意向のランキングなどの各種データが、誰でも閲覧できるように公開されています。勝山DMOでは、域内の飲食や宿泊事業者にこのオープンデータを見てもらうことで直近の情報を把握し、人員配置など経営判断に活用することを勧めています。

勝山DMOが域内で収集するデータ一覧
▲勝山DMOが域内で収集するデータ一覧(画像提供:勝山市観光まちづくり)

域内の独自データとしては、恐竜博物館前のショップ「ジオターミナル」や道の駅を運営する勝山DMOの自社データを域内事業者に公表するとともに、宿泊施設が持つデータを収集させてもらい、各事業者には不利益にならない形で集計、分析して地域データとして共有しています。

また、域内全観光施設Googleビジネスプロフィールの管理も行っており、顧客の評価や定性的なコメントを把握しています。観光客の「恐竜をもっと押し出してほしい」「子供が遊べるものが欲しい」というニーズに対して、撤去される予定であった恐竜博物館前の恐竜のモニュメントを道の駅に再設置するなど、収集した顧客の声から滞在時間を延ばすための施策につなげた例もあります。

アナログな手法に戻して、データ取集が増えた外国人アンケート

「何のためにデータ活用を推進するのか?」今井さんは2つの目的があると言います。1つは地域関係者に対する「説得材料」。各社が日々ビジネスに取り組む中で、実感と本当の評価は違う。定性的な見方からのプロダクトアウトではなく、マーケットイン型で観光客に対するサービスを磨き上げられるように、顧客の声からデータをわかりやすく集計して、事業者に対する対面での説明会を行っています。

飲食店向けのアンケート集計報告
▲飲食店向けのアンケート集計報告(画像提供:勝山市観光まちづくり)

第2の目的は「事業としての分析」。「データ分析は事業を回すための必須事項。普通の企業がやっていることをDMOでやらない手はない、公共セクターでもやるのは当たり前だと思った」と、民間企業での勤務経験がある今井さんは言います。しかし、地方の観光地でそれを推進する苦労もあるそうです。

越前大仏で雲海特別観覧の事業を始めた際に、外国人観光客がどの国や地域から来ているのか、QRコードでアンケートを集めようとしたところ、ベテラン中心の施設スタッフからは「デジタルは苦手」「外国人に説明できない」といった声が挙がりました。そこで、紙にシールを貼ってもらうという「アナログな手法にダウングレード」したところ、訪問客に説明をする必要がなくなった現場の負担感はなくなり、アンケート収集数も増える結果となりました。

紙とシールでの収集に変えた来訪客の国籍調査
▲紙とシールでの収集に変えた来訪客の国籍調査(画像提供:勝山市観光まちづくり)

なぜ、DMOがデータの取得を行うのか。最後に今井さんがまとめてくれました。「一般企業がやっていることと同じことに取り組む。まずは分析できなくてもいいから集められるデータを集めて、お店から観光施設まで見てもらう。現在のITツールは以前より簡単に使えるように進化しており、高齢化が進む地方の観光地において先陣を切って集約を行うのが、DMOがデータ活用を推進する意義である。そうして人材と観光と農業も含めた地域産業が回っていくようにしたい」

足しげく通って、データの価値を理解してもらうことが大事

イベントの後半は、(株)ナイトレイの山口翔シニアマネージャーが参加し、DMO運営者とデータのスペシャリストとの対談形式で、DMOのデータ活用について掘り下げていきました。

山口「説得材料と事業分析をデータ活用の目的と明確にしている点、広域連携DMOなどのデータをそれぞれ何に使うかという意図がはっきりしています。しかし、データを説得材料にするには、勘と経験を大事にする方も多くて、ご苦労もありますよね」

今井「はじめから改善提案を持って行っても、なかなか聞いてもらえません。スタッフには『意味もなく通ってくれ』と言っています。データを地域とのコミュニケーションに使うためにはまず、『今井さんが言うなら1回やってみよう』という状態まで関係性を築くのが大事です」

勝山DMOの今井三偉さん、ナイトレイの山口翔さん
▲勝山DMOの今井三偉さん、ナイトレイの山口翔さん

山口「広域連携DMOや地域連携DMOと違う、地域DMOならでのデータの見方は、どこがポイントですか?」

今井「地域DMOは地域の事業者側に伴走支援しながらデータを取得し、地域にお金が落ちるスキームまで考えるのが仕事。人口減少でプレイヤーが減っている地域で、活力ある若手事業者も観光を通して盛り上げるために、地域の事業に結びつくデータの取得を意識しています」

山口「いまDMOにデータを扱える人材は何人いるのですか?」

今井「道の駅の要因も含めて29名いるスタッフのうち、データを扱える部門には4名、仮説を立てて検証できるのは私ともう1人いるかという感じで、本を読んだりして日々勉強しています。日本人のデータは取得や分析はやりやすいのですが、インバウンドについては右往左往しています。県は香港台湾を主要ターゲットにしていますが、域内ではドイツが2位とか想定と違う層が来て、SNSなどどこで情報取得しているのだろう?とか、悩みながらやっていますが、いい勉強方法はありますか?」

山口「総務省や経産省からデータ分析の動画が無料で公開されています。Googleもデータ分析の研修をやっています。Facebookなどのコミュニティに参加すると、詳しい人から教えてもらえたり、実務で失敗してどうリカバリーしたかなど体験談を聞けたりするのも良いです」

今回「DMOのデータ活用」をテーマに事例を聞いた中で、冒頭紹介したDMOの実態調査で過半の団体が挙げた、「データを分析して戦略策定に繋げるノウハウの不足」「戦略策定を行う上で分析に必要なデータが不足している」という課題は、当初は勝山DMOにも当てはまっていたと思われます。

まずは分析できなくてもいいから内外から集められるデータを集めてみる。それをDMOが率先して地域の事業者にわかる言語で対話し、その価値を理解してもらうといったプロセスは、同じくリソース不足に悩むDMOが参考にできそうです。データのスペシャリスト人材をどう調達するかよりも、地域に向き合っているDMOのスタッフがデータをかき集めて、最初は自信がなくても何とか勉強して、地元の人々に通じる言語で会話を積み上げていくことで、データの活用を浸透させていくこと。勝山DMOが現在までたどってきたプロセスには、他の地域DMOにとっての重要なヒントがあると言えそうです。

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    この記事の筆者

    萩本良秀

    萩本良秀

    地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター。民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など、観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

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