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連載:ココが違う!海外DMOのリアル 北米を中心とした海外DMOの事情に詳しい公益社団法人日本観光振興協会 大須賀氏より、海外DMOの「リアルな取り組み」をお届けしていく連載。海外DMOとの違いから日本のDMOにおける課題をあぶり出すとともに、今後取るべき方針や具体的な施策について考える。 |
「インバウンド(訪日外国人旅行)消費額は9兆円を突破。半導体・電子部品を上回り、自動車に次ぐ第2位の輸出産業規模に成長。日本経済の大きなけん引役となっている」──観光産業に従事している皆様であれば、このフレーズをよく耳にしているはずだ。
実際、アメリカ合衆国の現政権による関税政策などを見ると、貿易ではなく「インバウンドで稼がなくては」と思う人もいるだろう。一方で、「外貨を稼いでいるのだから輸出と同じだ」という認識で、気にも留めず話を終わらせてしまっているケースも多いかもしれない。
そこで今回は、カナダのDMO(観光地域づくり法人)・CVB(コンベンションビューロー)17団体で構成されたCanadian Destination Leadership Council(CDLC)による興味深いリサーチを紹介する。カナダのインバウンド戦略の「その先」をみた貴重な資料だ。日本のインバウンド戦略の未来を予測するうえで、大きなヒントになることは間違いない。
文/大須賀 信(公益社団法人日本観光振興協会)
これまでの連載:
- 第1回:海外のDMOと日本のDMOの違いとは?
- 第2回:「Tourism for All」を考える
- 第3回:北米のDMO統括団体の活動とは?
インバウンド=輸出・雇用・投資拡大のドライバーととらえるカナダ
2026年2月、北米を本拠地とする世界的なDMO統括団体 Destinations International(DI)に加盟するCDLCが、「The Impact of the Visitor Economy on Canadian Exports(観光産業がカナダの輸出にもたらす影響)」というレポートを発表した。なお、同レポートはDIの委託を受けたEY-Parthenonが調査を実施しており、資料はDIの許可を得て掲載されているものとなっている。
同レポートの冒頭には、連載第1回でも紹介したCommunity Vitality Wheel(社会の活力の車輪)が当然のように掲示されていた。これは、「訪れてよし」「住んでよし」を「働いてよし」「投資してよし」に確実につなげる(=観光産業が国外からたくさんの人を呼び込むことで、雇用や投資を生み出していく)ことを基本にしたものだ。

このサイクルを回すことは、「インバウンドの増加を確実にカナダの輸出産業の拡大に結びつけ、国内の雇用・投資拡大にもつなげる」という意思の表れである。
つまり、カナダは「インバウンド=単なる輸出」ではなく、「インバウンド=観光産業以外の輸出産業や国内の雇用・投資拡大のドライバー(駆動力)」ととらえているということだ。実際、カナダはさまざまな数値やナラティブの構築を通して、観光産業の重要性や輸出に大きく貢献する様子を明確に示している。
なお、レポート内には次のような記述も存在する。
「観光産業は貿易と投資を戦略的に可能にする役割を持っている。海外からの訪問者は、時間が経てば貿易へと成熟する商業的な関係を創り出す。国際会議や商業イベントは商談成立やパートナーシップの確立、商業分野ごとの発展のプラットフォームになる。訪問者の需要増大による航空路線の拡大は貿易回廊を大きくし、輸出性向の強い産業の拡大に資する。強い国家ブランドは国家の評判を高め、自国企業への信頼感や海外市場へのアクセスを向上させる」
これを読むと、日本では「インバウンドの国内での食品消費が日本の農産品輸出につながる」といった話が一部で挙がりながらも、国家として「インバウンドの増加がどのようなメカニズムで“日本”という国家的なブランドや自国産業全体へ利益をもたらすか」までは語られておらず、まだ課題があると感じさせられる。
インバウンド増と輸出増の関係性 試算のステップを解説
しかし、カナダはどのような統計処理をして「インバウンドはカナダの輸出の拡大に寄与する」と結論づけているのだろうか。
レポートでは「非居住者のカナダへの訪問者数が1%増加すると、およそ2年間で10億6,000万カナダドル(およそ1,150億円)の輸出増につながる」と試算しているのだが、この結論に至るまでのステップは大きく次の2つに分けることができる。
1. 観光産業が経済に貢献するメカニズムを確認
レポート内では、4つのテーマから観光産業が経済に貢献するメカニズムを読み解いている。
- 貿易回廊(トレード・コリドー)の開発:国際観光需要は、新たな航空路線開設のきっかけとなることが多い。新路線が就航すると、旅客輸送だけでなく貨物輸送のための重要なインフラも整備される。こうした接続性の向上により、カナダの輸出企業、特に農産食品、水産物、高付加価値の生鮮品といった分野に関わる企業は、世界市場への効率的なアクセスが可能になる。
- ビジネスイベントの役割:DMO・CVBなどを含むデスティネーション・オーガニゼーション(DO)は、主要な国際会議や業界イベントをカナダに誘致するうえで重要な役割を担っている。世界の意思決定者が一堂に会するこうしたイベントは、カナダ企業のイノベーション発信や取引交渉、ライフサイエンス・先端製造業・クリーンエネルギーなどといった分野における戦略的パートナーシップ構築の機会を創出する。
- 貿易の多角化:カナダでは、観光産業を通じてアジアや欧州といった既存市場に加え、世界各地の新興市場と強固な関係を構築し、貿易多角化の取り組みを進めている。日本、韓国、中国、ASEAN諸国といった国々からの訪問者は、すでに観光産業のみならず、長期的な貿易協定や商業的な関係構築にも貢献している。
- 国家アイデンティティとグローバルブランド:観光産業は、カナダの国家アイデンティティとグローバルブランドを発信する強力な手段として機能している。海外から訪れた人すべてがカナダの価値観を体験することで、世界におけるカナダ製品・サービスへの信頼や国際市場におけるカナダの評価向上につながる。

この表は、「何をすればどのような理由でどんな効果が出せるか」がテーマごとにわかりやすく示されている。これを見て私は、「日本の観光産業で今必要なのは、このような明確な言葉ではないか」と強く感じた。
日本国内で観光産業に従事している人々のなかに、「外貨を稼いでいる」という意識はすでにあるかもしれない。しかし、現段階で「自分たちがやっていることは、日本のモノやサービスの輸出に貢献している」と捉えられている人は、まだ少ないのではないだろうか。
日本が国としてインバウンド6,000万人時代を目指すにあたり、観光産業に従事する人それぞれがどのような役割を担っていくべきなのか。意識づけるための言葉の共有は必須だと、私は考えている。
2. モデリングフレームワークと分析過程の提示
次に紹介するのは、具体的な分析方法だ。しかし、筆者もこの分野で専門的知識を有しているわけではないので、概要をお伝えするにとどめる。
レポート内で収集・紹介されているデータは、以下のとおりとなっている。
1:カナダの四半期ごとの非居住者の訪問数(2002年第1四半期から2025年第2四半期まで)

2:同時期のカナダのモノとサービスの輸出額

3:カナダの輸出額の95%を占める24か国(地域)の一覧
日本以外には、韓国・オーストラリア・中国・アメリカ・メキシコ・インドなどといった国・地域が挙がっている。

4:ここまで紹介したデータでパネルデータ分析を実施する


数式の冒頭に記載されている「Exports_it」は、四半期におけるそれぞれの国・地域向けカナダ輸出額を表すものだ。四半期はt、国はiで示されており、本分析における主要な従属変数である。
「Tourism_it」は、四半期にそれぞれの国・地域からカナダへ入国した非居住者訪問者数を表しており、本分析における主要な独立変数だ。
なお、モデルにはコントロール変数(X_it)が加えられている。これは、国ごとの構造的・文脈的な差異を考慮し、観光の効果と分離することを目的としたもので、具体的には以下を含んでいる。
- GDP:相手国の経済規模および購買力を反映
- 国土面積:国土の大きい国は、より多様な経済構造や貿易パターンを有する可能性があるため、変数に反映
- 内陸国か否か:海上貿易ルートへの直接アクセスの有無を反映(輸出物流に影響を与える可能性があるため)
- コモンウェルス加盟国か否か:観光および輸出の双方に影響を与えうる歴史的な貿易関係や文化的結びつきを捉えるため、変数に反映
- 共通言語(英語)の有無:コミュニケーション障壁を低減し、旅行および貿易の双方を促進する可能性があるため、変数に反映
- 主要都市間距離:トロントと各相手国最大都市との距離を測定。貿易の重力モデルにおける重要な要素である物理的近接性を反映
データでインパクトを示すカナダの取り組み 日本は何を学べる?
全体を通して見ると、同レポートはとにかく「具体的、明快」であるといえる。メカニズムとして述べられていた新規航空路線の開設についても、以下のように言及されていた。
「たとえば、ウエストジェット航空による2024年の東京およびソウルへの環太平洋路線拡大は、観光需要を背景としたものであったが、結果、貨物収益が前年比60%増となった。現在、これらの便はアルバータ産牛肉や太平洋沿岸の水産物といったカナダの輸出品をアジアへ輸送しており、観光主導の接続性が直接的に貿易を支えていることを示している。
また、カナダ大西洋地域では、季節的観光需要が欧州向け直行便の維持を支えており、これらの便は活魚や活ロブスターなどの海外出荷にも活用されている。十分な観光需要がなければ、これらの路線の多くは経済的に成立せず、輸出企業の主要市場へのアクセスが制限される可能性がある」
さらに、国家アイデンティティとグローバルブランドについても、このように高らかに述べられている。
「ビジター・エコノミーは、カナダの国家アイデンティティとグローバルブランドを発信する強力なチャネルである。国際訪問者は、持続可能性、イノベーション、文化的多様性といったカナダの価値観を直接体験する。これらの体験は海外におけるカナダの認識を形成し、カナダ製品・サービスへの信頼を高め、国際市場での評価を強化する。
強固な国家ブランドは、輸出競争力を高め、長期的な貿易関係を支える。訪問者のポジティブな体験は、カナダのブランド価値を補強する。
たとえば、環境保全への取り組みや包摂的な社会への理解は、海外消費者の購買選好や企業の意思決定に影響を与えうる。ビジター・エコノミーのインフラ整備、文化プログラム、デスティネーション・マーケティングへの戦略的投資は、カナダのブランドを貿易目標と整合させながら強化するために重要である。国家ブランド戦略にビジター・エコノミーを統合することで、カナダは国際的評価を高め、新たな輸出成長と国際協力の機会を切り開くことができる」
日本でも全国に数百のDMOがあり、たくさんの職員の方がインバウンドを呼び込むべく日々の業務に邁進されていると思う。自分たちの業務がこのように「ダイナミックな効果を出しうるものだ」と認識できるだけでも、モチベーションが上がるのではないだろうか。おそらく、他の観光産業に従事される方も同様だろう。
また、日本においては、昨今のオーバーツーリズム問題に端を発した観光、特に外国人旅行者に批判的な住民感情や社会的な雰囲気が一部に存在することも忘れてはならない。これに関しては物理的な課題解決も当然必要だが、社会におけるコンセンサスの欠如も原因として大きいと思われる。
こういった問題は、同レポートのように丁寧なナラティブの構築と結果の提示でかなり緩和できるはずだ。インバウンド6,000万人時代を目指すからこそ、「インバウンドの輸出産業への貢献」といった視点からのデータ提示は、観光産業従事者だけでなく受け入れる日本社会全体にとって必要性の高いものだと私は感じている。
著者プロフィール:大須賀 信
公益社団法人 日本観光振興協会 事業推進グループ 観光地域づくり・人材育成部長

千葉県出身。米系航空会社などを経て2018年より地域連携DMOの(一社)秋田犬ツーリズムへ。2022年3月まで事務局長を務めた後、同年4月より(公社)日本観光振興協会へ。企画政策や交流促進を担当した後、観光地域づくり・人材育成部門観光地域マネジメント担当としてDMOのサポート、海外事例などの情報発信などを手がける。
観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家、東京都 観光まちづくり アドバイザー(東京都・東京観光財団)、秋田県観光振興ビジョン有識者会議委員(秋田県)。
Destinations InternationalのSocial Impact Committee所属。PDM(Professional in Destination Management), Intellectual Capital, Business Intelligence (Sales, Services, Marketing and Communications)の5種全種の資格取得。
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<参照>
Canadian Destination Leadership Council:Impact of the Visitor Economy on Canadian Exports
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