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連載:ココが違う!海外DMOのリアル 北米を中心とした海外DMOの事情に詳しい公益社団法人日本観光振興協会 大須賀氏より、海外DMOの「リアルな取り組み」をお届けしていく連載。海外DMOとの違いから日本のDMOにおける課題をあぶり出すとともに、今後取るべき方針や具体的な施策について考える。 |
2025年3月25日に「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」を改正した観光庁。
これは観光地経営における科学的アプローチの強化を目的としたものだ。共通で設定するKPIの拡充に加え、観光地域づくり法人(DMO)の取り組みに応じたKPIの設定が別途求められている。
今回、同ガイドラインにおけるDMOの登録必須要件として、「持続可能な観光に対する住民満足度」を収集・分析できる仕組み構築が設定された。
広域連携DMO、都道府県DMOにおいてはこの限りではないが、その他のKPIを含めた指標の可視化に向け、各DMOはデータ収集・計測など多くの課題に直面していると耳にしている。
そこで本記事では、北米が実施する観光に関する住民意識調査の特徴について、独自の観点から紹介したい。必須KPIに加え、任意KPIとして住民意識調査の数値などを設定するDMOもあると考えられるため、参考になるものもあるはずだ。
文/大須賀 信(公益社団法人日本観光振興協会)
これまでの連載:
地域住民と対話・連携するきっかけに 北米の観光意識調査とは
今回は数ある調査の中から、北米の旅行・観光業界に特化した市場調査・コンサルティング会社 Longwoods Internationalによる「北米住民意識調査(Resident Sentiment Research Canada and United States)」を取り上げる。
これは、北米を本拠地とする世界的なDMO統括団体 Destinations International(DI)と共同で2018年から行われている調査だ。
経済開発による効果や環境への影響、オーバーツーリズム、生活の質など、観光に関するポジティブ・ネガティブ双方の側面について、住民がどのように認識しているかを多角的に見られるもので、前書きには次のように記されている。
「本調査は、観光地(デスティネーション)に対し、地域住民と観光について対話・連携していくため、より実態に即したエンゲージメント戦略を構築する機会を提供する。
住民意識を肯定的・否定的の両面から把握することで、観光地は地域パートナーとより効果的に連携し、観光振興施策への理解と支持を高めることが可能となる」
同調査は自記式アンケート形式で、米国在住の成人4,000人に対して2025年7月に、カナダ在住の18歳以上の成人1,000人に対して2025年8月に実施された。
回答者は大手オンライン消費者パネルの登録者から抽出された人々を対象とし、サンプルは地域、年齢、性別について人口構成比に応じた割合となるよう設計されている。
また、集計時には、米国国勢調査(United States Census)およびカナダ統計局(Statistics Canada)が示す人口分布に基づき、年齢、性別、所得、世帯規模、地域などの主要属性についてウェイト補正も行われている。

日本と北米、設問設計から見える観光地に対する意識の差
まず注目したいのは、同調査で設けられている計95問の質問項目だ。
各項目は次の11ジャンルに分かれており、「観光が雇用や投資など地域経済にどう影響を与えているか、それが住民の暮らしや地域社会をより良くしているのか」を理解するための調査であることが一目でわかるようになっている。
- Overall Sentiment About Tourism(全体的な観光に対する意識)
- Tourism Development and Growth(観光に関する開発と成長)
- Tourism Promotion(観光プロモーション)
- Economy(経済)
- Tourism Employment(観光産業の雇用)
- Quality of Life(生活の質)
- Environment(環境)
- Short-Term Rentals(短期賃貸宿泊施設)
- Involvement / Engagement with Tourism(観光への関わり方)
- Destination Reputation(観光地としての地域の評判)
- Consumer Confidence & Governments(消費者としての地域に対する自信と自治体機関)
一方、有名な観光地を有する日本の自治体による、同様の調査を複数見ると、このように住民の日常生活で見える範囲の質問がやや多く感じられる。
- あなたは、普段の生活(お住まいの周辺や通勤・通学路、よく利用する店舗など)のなかで、観光客をどの程度見かけますか
- あなたは、○○を訪れる観光客と関わりを持ちたいと思いますか
- 観光客と接触する機会はありますか
これらはあくまで、観光客に対する「見聞き」をベースとしたものだ。日本の調査では、「観光産業全体における地域社会の役割や効果を日常的にどう見ているか」といった視点を持つ項目が、相対的に少ないように感じられる。
求める回答を得るうえで必要な「○○の明示」
加えて、日米の質問票を見比べて感じる明確な違いが「主語の明示」だ。
これは文脈依存度が高く、主語を省略しても推測でなんとなく通じてしまうハイコンテクスト文化の日本語と、主語の明示や明確な言語化が求められるローコンテクスト文化の英語といった言語の特性に起因するところもあるだろう。
しかし、日本語のネイティブスピーカーとして文脈から推測して回答できる設問でも、厳密には分けて尋ねるべきものが実は多いのではないかと感じることがたびたびある。
実際にあったケースを例に挙げてみよう。
- ○○は魅力的な観光地である
- ○○が観光・レジャーで評価されることに誇りを感じる
ある調査では、上記の質問に「思う」「思わない」を点数化して回答するよう求めていたが、主語は明示されていなかった。
これでは個人として回答すべきなのか、住民として回答すべきなのかわからず、区別されぬまま答えられてしまう可能性も否定できない。また、項目によっては住民としては「思う」と回答したいが、個人としては「思わない」と回答したいものもあるだろう。
対する北米住民意識調査では、次のように「I(私)」と「We(我々=住民)」が設問ごとに明確に示されている。
- I’m proud to call this area my home(私はこの地域を故郷と呼ぶことに誇りを感じる)
- We need planned and controlled tourism development(我々住民はきちんと計画され、コントロールされた観光開発を必要としている)
「個としての私」と「住民社会に属する私」を明確に意識しながら回答してもらえれば、認識のズレも少なくなるはずだ。このあたりは、今後日本で調査を行ううえで気をつけるべきところだと私は考えている。

専門用語を使っていないか? 回収率向上のための工夫
また、質問の仕方についても着目したい。有名観光地を有する日本の自治体の調査をいくつか確認した際に気になったのが、回答側にかなりの頭脳労働を要求する設問の多さだ。
- 「~はありますか」「~は何ですか」「~したいと思いますか」「あてはまるものをすべてお答えください」といったように、質問票のなかに複数の表現が混在し、読解力を要する
- 設問ごとに選択肢の数が大きく変わる
- 「とてもそう思う~思わない」「大変満足~大変不満」といったように感情を段階化するなど、回答に負荷のかかる設問が多く存在する
憶測だが、日本では「せっかく実施するのだから」とあれもこれも盛り込んでしまうのだろう。
しかし、「回答が面倒だ」「難しそう」と思われてしまうとそもそもの回答数(回収率)にも影響が及ぶため、注意が必要だ。
対する北米住民意識調査では、設問に対する回答が「Agree(同意する)」「Neutral(どちらでもない)」「Disagree(同意しない)」の3段階で答えられるようになっていて、一貫している。同じ頭の使い方でテンポよく回答できる設計をすれば、設問数が多くても無理のない回答が可能になるはずだ。
また、専門用語をわかりやすい言葉に置き換えることも忘れてはならない。
自治体や観光産業に従事する人間が日ごろ使う言葉のなかには、たとえば「入域観光客数」「客室単価」「宿泊供給量」「高度な経営人材」「経済効果」といったように、住民に馴染みのない単語も存在する。これらを説明なく使用してはいないだろうか。
特に日本語は、簡潔に表せる専門用語に漢語が多い。「客室単価」であれば「ホテルや旅館の1部屋あたりの料金」といったように、あえて「やさしい日本語*」を意識した文体にするのも重要だ。
ちなみに、北米住民意識調査では「Tourists are respectful of our natural areas(観光客は私たちの自然地区を尊重している)」といったように、すべての文章に極めて平易な英語が用いられている。
昨今の日本でも、外国にルーツを持つなど、日本語が母語ではない住民が1割以上を占める自治体が増えている。なかには、4割に迫るところもあるほどだ。
そうなると、住民に対して行う意識調査でも、やさしい日本語*に加えて多言語対応が必要かもしれない。しかし、残念ながら観光に関する住民意識調査を「日本語以外で」行っている自治体はほぼ存在しないのが日本の現状だ。
*やさしい日本語:難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のこと。日本に滞在・在留する外国人が増加するなかで共生社会を実現すべく、2020年には「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」が出入国在留管理庁と文化庁によって作成されている。
プロモーション・経済・雇用など 北米はかなり踏み込んだ項目も
北米で強く問われる経営責任と透明性
北米住民意識調査のなかで私が気になったのは、「観光プロモーション」に関する項目だ。
- 自分の故郷を表す観光広告の手法を好ましいと感じる
- 私の住む自治体はプロモーション財源をきちんとサポートしている
- 私の住む自治体はプロモーションを上手にやっている
- 自分の地域の観光マーケティングは多様性を反映している
- プロモーションをしなくても観光客が来るくらいすばらしい地域なので、プロモーションは必要ない
などといったように、全95問のうち10問がこの項目に割かれている。日本でここまで住民の声を気にして質問しているケースは、あまりないだろう。
ここから透けて見えるのは、北米の住民が自治体やDMOのプロモーションに向ける監視の目だ。宿泊税など公的財源を投じているため当然のことだが、厳しく責任が問われている様子がうかがえる。
日本の自治体やDMOも、こうした機会に日ごろの活動を問うてみると、経営責任や透明性の観点から有効性を見出せるはずだ。
設問内で経済・雇用貢献・キャリアアップをアピール
また、北米の調査では「経済」に13問、「観光産業の雇用」に6問が割かれ、全問の20%を占めている。
観光が新たな定住者や投資を呼び込めているか、生活の質向上や雇用増加に貢献しているか自ら住民に問うている点も、特筆すべきところだと言えよう。
日本でも昨今、宿泊税導入が急速に進んでいる。こうした税金が地域社会にきちんと効果をもたらしているか可視化する必要性は、今後より増すはずだ。
北米住民意識調査では、「観光客の支払う税がなかったら住民負担はもっと増える」「プロモーションだけでなく公共サービスにも使われるべきだ」「インフラの消耗を補うためにも税は使われるべき」などといった設問も存在している。こうした項目は、ぜひ日本の調査でも参考にしたいところだ。
なお、観光産業の雇用についても増加を示すだけにとどまらない具体的な設問が並んでいる。
- 観光産業はエントリーレベルの雇用機会を多く提供している
- 観光産業はやりがいがあり、きちんと見合った給与を出す職業機会を提供している
- キャリアアップの機会が観光産業には多くある
といったように踏み込んだ質問もされており、参入のしやすさとキャリアアップの可能性がメッセージとして示されているところにも注目したい。
住民の回答から自らの存在意義を示す北米DMO
最後に紹介するのは、「観光への関わり方」についての設問だ。全95問中10問がこの話題に割かれている。
- この地域の観光に関するニュース・情報はきちんと知らされ、アップデートされている
- 地元観光に関するニュースに触れると、何が起きているか興味を感じる
- 友人や家族がこの地を訪れるときには自慢していろいろ見せたい
- 知らない観光客のなかにいても、自分はこのエリアのアンバサダーのように感じる
- 他の地域を訪れると、自分の地域のよさに改めて感謝の意を感じる
こうした設問からうかがえるのは、北米のDMOが活動のなかで大事にしている「地域との連携」や「地域住民が共有する価値観に基づいた観光地域づくり」といった考え方だ。
観光と住民との深いつながりや土地への愛着・誇りが生まれているかを問うことで、自らの存在意義を見出しているのだろう。
使い回し・やりっぱなしから脱却し有益な情報獲得を
最初に紹介した、観光庁によって直近改正された「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」。これを前提にまとめられた「観光地域づくり法人(DMO)によるKGI・KPI計測に係る手引書」では、「持続可能な観光に対する住民満足度」が必須KPIとなっている。各自治体やDMOでは、具体的な質問事項の設定を進めていることだろう。
同様の項目は北米住民意識調査でも重要視されており、「環境」に関する項目は8問設定されている。
「観光に関する開発と成長」「経済」「観光産業の雇用」「生活の質」も含めると、「持続可能な観光」につながる設問は全体の半数を超えるほどだ。
国際基準と照らし合わせても、持続可能な観光について多様な切り口で住民に問う姿勢は広く求められている(観光への関わり方で住民からポジティブな評価を受けていることが前提ではあるが)。
そのためには、前年度の使い回しや事業者に委託しっぱなしにすることなく、手引書にある設問案にとどまらない、今回の記事で紹介したような視点を今後のあらゆる調査に盛り込んでいくことは欠かせない。
いま一度、さまざまなバックグラウンドを持つ回答者(住民)の立場に立って、「自分たちが問いたい地域の声はどのようなものか」を考えてみてはいかがだろうか。
著者プロフィール:大須賀 信
公益社団法人 日本観光振興協会 事業推進グループ 観光地域づくり・人材育成部長

千葉県出身。米系航空会社などを経て2018年より地域連携DMOの(一社)秋田犬ツーリズムへ。2022年3月まで事務局長を務めた後、同年4月より(公社)日本観光振興協会へ。企画政策や交流促進を担当した後、観光地域づくり・人材育成部門観光地域マネジメント担当としてDMOのサポート、海外事例などの情報発信などを手がける。
観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家、東京都 観光まちづくり アドバイザー(東京都・東京観光財団)、秋田県観光振興ビジョン有識者会議委員(秋田県)。
Destinations InternationalのSocial Impact Committee所属。PDM(Professional in Destination Management), Intellectual Capital, Business Intelligence (Sales, Services, Marketing and Communications)の5種全種の資格取得。
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