訪日ラボが最新の口コミデータをもとに独自調査・発表している「インバウンド人気商業施設ランキング」。日本全国の施設のなかから1位に輝いたのが、福岡県にあるキャナルシティ博多です。
同施設は1996年4月に開業し、2026年に開業30周年を迎えた歴史ある商業施設でありながらも、直近のインバウンド来館者数がコロナ禍前を大きく上回るなど、高い人気を誇っています。
再開発による変化の激しい博多駅と天神エリアの間に位置しながらも、多くの人々から支持を得る裏には、施設運営者による口コミ活用を含めた“ある工夫”が見えてきました。
今回は、同施設を運営する株式会社 エフ・ジェイエンターテインメントワークスでキャナルシティ博多の運営に携わる2名に取材。取り組みの実態や、インバウンド対策を含む今後の展望に迫ります。

全国の商業施設でインバウンド評価1位 30年愛される秘訣は?
──「インバウンド人気商業施設ランキング[全国編]」で1位にランクイン、おめでとうございます。人気ポイント、外国語口コミ数ともに2位と倍近くの差をつけており、キャナルシティ博多という施設の強みを改めて感じました。
この結果は、とてもうれしかったです。以前、「インバウンド人気観光地ランキング[福岡編](2025年版)」で2位に選出いただいたのですが、その際に「あと一歩だったな」と悔しく思っていました。そのため、今回の結果は非常にありがたいなと感じています。
キャナルシティ博多は、1996年4月に開業して今年で30年を迎えました。「30年経ってもこういったランキングで高評価をいただけるのはなかなかないことだね」と社内のメンバーとも話していましたし、「買い物」「飲食」「エンタメ」が一体となったキャナルシティ博多の魅力やポテンシャルを改めて感じています。
──施設としての魅力はもちろんながら、インバウンドを含む各施策が実を結んでこの結果につながったのではないかと感じました。ちなみに、御社ではどのような体制で施設運用や販促に取り組んでいるのでしょうか。
エフ・ジェイ エンターテインメントワークスは、福岡地所の子会社としてキャナルシティ博多、木の葉モール橋本、パークプレイス大分の計3施設を運営し、福岡・大分の街づくりに取り組む企業です。
3施設はそれぞれ異なる個性をもっていて、たとえば同じ福岡県内の施設でも、キャナルシティ博多はインバウンドのお客様が非常に多いですが、木の葉モール橋本の来館客は周辺に住まわれている方が中心となります。当然ながら販促方法も大きく異なるため、それぞれのブランドを意識しながら、お客様が求める情報を鮮度高く出す方法を日々模索しています。
──キャナルシティ博多の場合、やはりインバウンド対策に重きが置かれているのでしょうか。
インバウンド担当が1名いて、外部パートナーとの連携に向けた調整や、訪日外国人の受入推進、環境向上などに取り組んでいますが、国内からも観光客を含む多くのお客様が訪れるのがキャナルシティ博多の特徴です。そのため、「インバウンド」「日本人」と完全に分けて対策をするのではなく、日本語が通じる・通じないにかかわらず、幅広いお客様に届くような訴求を意識しています。
──インバウンド担当者の定量的な目標などはありますか?
あくまで部分的な指標ではありますが、キャナルシティ博多には免税カウンターがあるため、利用者数や売上には目を向けています。ただし、定量的な数字だけでは測れないこともたくさんあるため、まだキャナルシティ博多に来たことがないお客様にどのようにして施設の魅力を伝えるか、満足いただける体験を提供してどう来館後の口コミ創出や再来訪につなげるかを考えながら、さまざまな施策を進めている状況です。
特別なことはしていない 差別化の本質は「継続」にあり
──先ほど「幅広いお客様に届くような訴求を」といった発言がありましたが、具体的にどのような取り組みをされているか教えてください。
Webサイトや館内サインの多言語化はもちろんながら、施設としてはインバウンド向けに何か特別なことをするのではなく、来てくださるお客様全員が楽しめるコンテンツを用意しています。
たとえば噴水ショーやキャナルアクアパノラマ(3Dプロジェクションマッピング)、IP(キャラクターなど著作権を有するコンテンツ)を活かした店舗が多いのはわかりやすい点かと思います。目で見て楽しめるものは言語の壁もありませんし、国境を超えても普遍的に楽しめますよね。こうしたコンテンツがしっかりと揃っているのが、キャナルシティ博多の魅力だと考えています。

もちろんインバウンド集客に向けた施策も実施してはいますが、インフルエンサー施策や訪日メディアへの出稿など王道といえるものがほとんどです。免税カウンターは2015年と爆買いブームの初期から設置していますが、口コミ活用を本格的に始めたのはここ数年のことです。
強いていえば、韓国向けのInstagramや中国向けのWeChatなど、インバウンドに訴求するためのSNSアカウントを別途立ち上げて、それぞれの国に合った情報発信をしていましたが、同様の取り組みをしている施設は他にもあると思います。
そんななかでもあえて「キャナルシティ博多の強み」を挙げるのであれば、「10年以上前からずっと発信し続けていること」ではないでしょうか。先人たちが前例のないなかで取り組みを始め、止めることなく続けている。こうした努力の積み重ねが、今の成果につながっていると感じています。
──先行者利益はたしかにありますよね。ちなみに、キャナルシティ博多ではこれまでどのターゲットに向けて、どのような施策をされてきたのでしょうか。10年ほどの間に変化などはありましたか?
ベースは東アジア(韓国・台湾・中国)で、これは初期からほぼ変わっていません。中国と台湾のお客様比率の入れ替わりはありますが、福岡という土地柄か韓国からのお客様は安定して多いですね。インバウンドの総数も増えていて、コロナ禍前を大きく上回る来館者数となっています。
また、近年は訪日タイ人のお客様も増えています。タイのお客様は春に多く訪日されるため、旅行モチベーションが高まった際にキャナルシティ博多を想起してもらえるよう、訪日シーズンに先駆けて訪日客向けメディアに出稿するなどのアプローチを行っています。
──こうしたターゲットや訴求方法の判断は、どのようにされているのでしょうか。
一番の判断軸は、これまでの成功体験や試行錯誤した経験ですね。これらや、インバウンドコンサルティングサービスの一環として支援会社から共有いただいているレポートの結果を踏まえて担当者レベルで戦略を練り、部署内で相談しながら決めています。
特に役立っているのは、販促施策の費用対効果や国別の動向が振り返れるレポートです。現状、レポートはキャナルシティ博多事業部内での共有にとどまっていますが、今後は他部署のスタッフにもインバウンドの実態を知ってもらうために共有していこうと考えています。
当社も企業である以上、担当者の異動などがあるため、属人化は一つの課題です。誰が担当になっても一定の施策レベルを維持できるよう、こういったデータは有効活用していきたいです。
口コミから得たポジティブな発見 Next Stepはリピーター創出
──口コミ分析を始められた経緯についてお聞かせください。
以前より、口コミは何よりもマーケティングに欠かせないと思っていました。予算に限りがある以上、インフルエンサー施策にも限界はありますし、そもそもどんなに頑張ってもインフルエンサーの発信だけで全世界に情報を届けることはできません。口コミは自然発生的に情報を広げてくれますし、課題の可視化にもつながります。
ただし、改善点が口コミ一つひとつに分散して記載されていたり、「あるお客様は悪いと書いていても、別のお客様はそれを褒めている」といったように、どう評価していいかわからなかったりする点が、分析を進めるうえで課題でした。施設運営者としては、良い内容に目が向きがちだったこともあり、客観性をもって課題提案をしてくれるツールを探して、導入を決めました。
── 実際に口コミ分析を始めてみて、気づきや変化はありましたか?
当社にはもともと「お客様の声を聞くのが大事」という考えがありながらも、直接話す機会があるのはインフォメーションセンターや情報サービスセンターのスタッフなど一部に限られているのが実情です。私たちのような運営スタッフは、口コミから感覚的にお客様の声をとらえていましたが、ツールの導入以降は全体の傾向を含めてより細かく分析、把握ができるようになりました。
これによって、情報発信の工夫がしやすくなりましたし、出店店舗へのお声なども各店舗の営業担当からフィードバックできるようになっています。施設のハード面へのご意見は早急な対応が難しいケースも多いですが、社内共有するなど新たな働きかけにもつながっています。
口コミ分析を始めてからの発見としては、施設の美しさにまつわるお声の多さです。私たちは老朽化が昨今の課題だと思っていたのですが、「昔からある建物だけどきれいだ」「清潔感がある」といったポジティブなお声も多く、悲観的になりすぎる必要はないのだなと気づかせてもらえました。
一方で、これは空間づくりとして意図的な面もあるのですが「迷いやすい」「目的のお店を探しづらい」といったお声もあるので、このあたりは引き続き対策を考えていきたいなと思っています。
── 先ほど、コロナ禍前を大きく上回るインバウンド来館者数という話もありましたが、今後インバウンドに向けてどのようなアプローチを考えていますか?口コミ活用・分析と併せて今後の展望をお聞かせください。
継続的に情報発信をし続けてきた甲斐もあり、多くのインバウンドのお客様にキャナルシティ博多へお越しいただいていますが、直近の課題は「リピーターを増やすこと」だと考えています。
たとえば、物理的距離の近さから多くの訪日韓国人が福岡県に訪れていますが、新しいスポットを求めながらも「キャナルシティ博多は何回来てもいいね」と思っていただくにはどうしたらいいか。もちろん店舗の入れ替えや発信方法、施策など、私たちの工夫次第な部分もありますが、口コミでお客様に新たな発見を共有してもらうこともリピーター創出には重要です。自社の発信と口コミ創出の両輪をうまく回せたらいいなと思っています。
口コミ分析によって、「これまでやってきたことが間違いではなかった」という手ごたえを得られたので、今後も鮮度高い情報の発信は継続的に実施していきたいです。一方で、まだ「口コミを見る」でとどまっていた部分もあるので、今後はより部署内での具体的な施策に落とし込んだり、他部署へ改善に向けた働きかけをしたりと、アクションにもつなげていきたいと考えています。いずれもしっかりとした分析のもとに成り立つものだと思うので、引き続き改善に取り組んでいきます。
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<参照>
- 訪日ラボ
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