本連載では、ローカルビジネスコンサルティング・店舗マネジメント業を行い、デジタル、アナログ両面で小売・飲食・宿泊業、観光業に豊富な経験を持つ永山氏が、知っているようで意外と知らない「インバウンド対策の基本」について解説します。
第2回のテーマは、「訪日外国人に対して何をどう売るか」です。
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<プロフィール>
永山卓也:株式会社ユニットティ代表取締役

ローカルビジネスコンサルティング、店舗マネジメント業を行い、 デジタル、アナログ両面で小売・飲食・宿泊業、観光業に豊富な経験。各都道府県の地方自治体、地域団体などを中心にセミナー、講演実績多数。株式会社ユニットティ代表取締役。観光庁 2025年度 地域周遊・長期滞在促進のための専門家。Googleビジネスプロフィール(Googleマイビジネス)ダイアモンドプロダクトエキスパート。Google Maps, Google広告プロダクトエキスパート。東京観光財団 観光おもてなしアドバイザー。京都府観光連盟 観光アドバイザー。株式会社movが運営するお客様の声のDXサービス「口コミコム 」テクニカルアドバイザー&インバウンド業界最大級メディア「訪日ラボ」アドバイザー。
本当の多言語対応は、相手に合わせた「チューニング」
前回の連載では「なぜ今、インバウンド対策は必要なのか?」という話をしました。第2回となる今回は、より踏み込んで「具体的に何をどう売っていくべきか」という話をしましょう。
皆さんは外国人にお店やメニュー、商品をどう翻訳し情報を伝えているでしょうか。
もしかすると、とりあえず翻訳アプリで日本語訳をし、その情報を記載しているかもしれません。もちろん何もしないよりは良いでしょう。
ただ、お店をもっと繁盛させたい、地域をもっと盛り上げたい、競合も多言語対応をはじめたなど、様々な背景から「何かしたいけど、どうすればいいかわからない」という悩みを持つ方も多いのではないかと思います。
実際、単にメニューを翻訳するだけで本当に多言語対応を完了させていいでしょうか。
問題は翻訳の精度ではなく、相手の文化や前提知識に合わせて「チューニング」できているかどうかです。
「とんかつ」をどう伝えるのか
訪日外国人に限らず、消費者が来店し店舗を利用したり商品を購入したりするまでには、基本的に「認知」「興味」「欲求」「行動」という段階を順にクリアしていく必要があります。これをインバウンドに当てはめると、多くの事業者が「行動」に至るまでのどこかの段階でつまずいていることに気づきます。
日本語は、多くの国・地域の旅行者にとって難しい言語です。その言語に馴染みがなく、単語が1文字も読めない場合、どうすれば商品の魅力を伝えられるか考えないといけません。
多くの場合、インバウンド向けに用意されているものはただ日本語を翻訳しているだけで、インバウンド向けにチューニングされていません。
たとえば、「とんかつ」をただ「Tonkatsu」と英訳する。意図してやっているなら別ですが、何も考えずに翻訳するのは日本人向けの情報をただ並べているだけになってしまいます。
さらに言うと、「ブランド豚」「秘伝のソース」なども、日本人向けにはアピールポイントになったとしてもとんかつを知らない外国人には響きません。
私たち自身で考えてみても、日本人が英語も漢字も使わない言語の国に旅行に行ったとして、その国の人向けの説明では、得体のしれない料理に目をひかれたり興味が湧いたり、欲求をそそられるというのは非常に難しいでしょう。
まず「これはどんな肉で、どう調理された、日本のどんな文化の料理なのか」という前提情報を提示しなければ、興味の入り口にすら立ってもらえないのです。
外国人が自分たちの商品をどう認識しているか
私がよく例に出すのが、焼肉屋の牛タンです。
日本では牛タンは焼肉屋で当たり前に出るメニューですし、大好きな人が多い食べ物です。そのため「当店自慢の牛タン!」と掲示したり、売り文句として情報発信すると思います。しかし海外では牛の舌を食べることに馴染みがない場合も多く、むしろ「気持ち悪い」と感じてしまう人もいます。それなのにいきなり牛タンを推されたら、「この店は自分たち向けじゃない」と入店してもらえない可能性があります。
もちろん、国や文化によって商品がどのように認識されているかは異なります。外国人でひとくくりにせず、まずは自分たちの地域にどこからどれだけの人が来ているか、把握しておく必要があります。
相手にとって馴染みのない商品を売るのは、ハードルが高いことです。それでもアピールしたいなら、そのハードルを下げる表現が必要になります。ほかに外国人に喜ばれる要素があるならまずはそこから伝えるなど、工夫することがとても重要です。
日本では身近な食べ物が評価されることも
うどんやたまごサンドなど、今まで海外から注目されていなかったにも関わらず急激に人気になった商品があります。
どちらも日本人にとっては「今さら?」と思うほど当たり前にある食べ物ですが、これまで外国人にはほとんど知られておらず、ある時「これおいしいですよ!」と外国人が閲覧するコンテンツで取り上げられたことで急激に認知されるようになりました。
日本で愛されている食べ物はほかにも数多くあり、私はそうした食べ物ももっと評価されていいのではないかと感じます。
日本食には、その料理発祥の国の味とは異なる独自の進化を遂げたメニューもたくさんあります。中華料理やピザだってそうです。それは彼らにとって「日本でしか味わえない特別な体験」に変わります。
しかしながら、実際のお店ではそういった情報発信やアピールをしていないことが多いです。
外国人によく利用される店とそうでない店の差は、「認知」「興味」「欲求」という消費行動の流れにおいて、きちんと情報発信ができていて、魅力的かつ適切に伝えられているかどうかにあります。そうした発信が上手に出来ておらず、インバウンド対策はしているのにもったいない状態になっている店はたくさんあると思います。
都市部以外にもチャンスがある
「うちは地方だし、有名な観光地もないから……」と諦める必要はありません。実は、地方こそインバウンドのチャンスが眠っています。
インバウンド対策に限ったことではありませんが、情報収集ツールにおけるSNSは情報の「点」は多いですが、「まとめ」が不足しています。特定の情報のPRしかできないため、有名観光地の情報は溢れていますが、少し離れたエリア単位の情報は少ないままです。
そのため、意外と「地方名 観光」といった検索キーワードでもコンテンツがヒットしないことが多いのです。地方の知名度によっては、そもそも検索すらされていないこともあるのですが……。
外国人観光客の行動範囲は想像より広い
東京駅近辺の観光案内所で外国人にヒアリングしていると、「今から京都や大阪に行ってくる」と言う人をよく見かけます。
東京から京都までは、新幹線で2〜3時間。日本人は旅行と考えますが、訪日外国人には日帰り圏内と捉えているような旅行者も結構いるのです。つまり、同じように都市部から数時間で行けるエリアなら十分に来てもらえる可能性があります。
しかも、エリア全体ではなく「このお店に行きたい」「この体験がしたい」という理由だけでその土地に訪れる、いわゆる“一本釣り”も十分にありえます。(伝わりやすさを重視し、あえてこう表現しています)
「なぜそこに行く必要があるか」理由を作る
一方で、「インバウンドに選ばれる理由」を履き違えたまま、実際のニーズとかみ合っていないケースも見られます。
たとえばイルミネーション。シーズン期間、外国人が多く訪れる大都市にもイルミネーションを楽しめる場所は数多くあります。そのため他とは違う魅力が伝わらないと、旅行中の限られた夜の時間を使ってまで、遠方に足を運ぼうとは思いにくいでしょう。
重要なのは、その土地でしかできない体験です。なぜその場所で体験する必要があるのかという必然性やほかにはない優位性、明確な差別化がなければ、旅行者に積極的に選ばれることは難しいでしょう。
たとえば「熊野古道」が高い人気を集めているのは、「修験者の世界観に触れられる場所」としての価値が十二分に伝わっているからです。
実際には、必然性や優位性、差別化できる要素があるのに、発信者側がそれを言語化できていないことも非常に多くなっています。
価値は、理解できる形になって初めて伝わる
私がアイルランドを訪れた際「ギネスブレッド(ギネスビール入りのパン)を買ったほうがいい」と勧められました。現地では広く親しまれている商品ですが、正直、言われなければ気づかずに通り過ぎていたと思います。実際に食べてみておいしさに気づき、最終的にはバッグがいっぱいになるほど買ってしまいました。でも実際にお土産としては売られていません。
日本の食や体験にも、これと同じことが言えます。
私は、日本に来た人には「揚げたてのカレーパン」を食べてもらうようにしています。揚げたてじゃないものとは全く違う美味しさがあると思うからです。しかし、旅行者がそれに自発的に気づくことは残念ながらほぼありません。(日本人でも気づいていないかもしれませんが)
こうした教えられなければ見逃してしまう価値を、相手が理解できる形に整えること。それが、「インバウンド向けにチューニングする」ということです。
まずは自分たちの商品を全く知識のない旅行者の目で一度見つめ直してみると、新しいヒントが隠されているかもしれません。
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