不確実性の高い時代におけるDMOの役割は?今必要な8つの力と4つのアクションを解説【観光地域づくりセミナー2026レポート】

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今年2月に東京・四谷で開催された日本観光振興協会主催の「DMO観光地域づくりセミナー2026」。本セミナーでは、観光を取り巻く世界的なトレンドや日本におけるDMOのあり方について、多角的な議論が行われました。

セミナーは、旅行・観光産業のコンサルティングに特化したNextFactor社のCEO カサンドラ・ギルバートソン氏による「世界の最新観光トレンド」から講演が始まりました。

本記事では、観光地マネジメントの変遷と世界のDMOが直面する最新トレンドについて語られた同講演の内容を中心に、セミナーの様子をレポートします。

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世界のトレンドを紹介 「DMO観光地域づくりセミナー2026」の概要

DMO観光地域づくりセミナー2026」は、日本観光振興協会DMO支援の一環として開催しているもので、観光地域づくりに携わる実務者や自治体関係者を主な対象としています。

今回のテーマは、観光地の持続可能な発展に不可欠な「スチュワードシップ(責任ある管理)」と地域連携の強化です。従来の観光プロモーション中心の役割から、地域全体の価値を高めるマネジメントへと変化するDMOの現在地が共有されました。

セミナー当日は、以下のようなプログラムを通して、活発な意見交換が行われました。

  • 世界の最新観光トレンド紹介
  • デスティネーション・スチュワードシップについて
  • 日本のDMO事例紹介
  • トークセッション
▲「DMO観光地域づくりセミナー2026」のポイント:公益社団法人 日本観光振興協会ニュースリリースより
▲「DMO観光地域づくりセミナー2026」のポイント:公益社団法人 日本観光振興協会ニュースリリースより

今は観光の転換点 DMOに課せられる“新たな責任”とは

セミナー冒頭の講演「世界の最新観光トレンド」に登壇したNextFactorのCEO カサンドラ氏は、まず「私たちは今、観光の大きな転換点に立っています」と説明しました。同氏はその背景として、3つの外部要因を挙げています。

  1. 地政学的な緊張の高まり
  2. 経済の不安定性
  3. 気候変動や社会課題の深刻化

地政学的な緊張の高まりによる国際情勢の変化は、旅行者が「どこへ行くか」「何をするか」といった意思決定に大きな影響を与えます。カサンドラ氏は「旅行そのものの流れが変わっている」と述べました。

また、インフレや為替変動といった経済面での変化によって、今は旅行者だけでなくDMOにも機敏さが求められています。これに加え、自然資源や地域社会への依存度が高い観光産業に携わる人々は、環境保全や地域課題に対して、より強い管理責任が求められている状況です。

こうした課題や変化と向き合わなければならないなかで、DMOに対する期待は大きく広がっています。カサンドラ氏は、現在のステークホルダーのスタンスやDMOが置かれる立場について、次のように説明しました。

「地域住民は、自分たちの住む地域がどのように発展していくのか、これまで以上に強い関心をもつとともに、推進力を求めています。また、政府や投資家がリターンとして求める成果も、単なる観光収入だけでなく、地域経済や社会への波及効果まで含めた広く深いレベルのものになりつつあります。

そんななか、旅行者の意識にも変化が見られるようになりました。以前から求められていた『オーセンティシティ(本質的な価値)』に加え、どのように観光への責任を果たしているか、どのようにしてコミュニティを管理しているかといった『レスポンシビリティ(与えられた役割)』を示さなければならないのが現在です。そして、これはDMOの責務だといえます」

▲NextFactor CEO カサンドラ・ギルバートソン氏:訪日ラボ撮影
▲NextFactor CEO カサンドラ・ギルバートソン氏:訪日ラボ撮影

変わり続けるDMOの役割を「Futures Study」から振り返る

DMOの役割の変遷について、カサンドラ氏はNextFactorも参画する世界的なDMO統括団体 Destinations International(DI)によるレポート「Futures Study」の内容を振り返りながら、説明しました。

同レポートは、2014年より2~3年に一度のペースで発表されているもので、世界のDMOに向けて求められる役割や戦略的にロードマップを描く方法が示されています。同氏は「これまでの道のりと現在を比較することで大きな変化が見える」とし、各レポートの主題に触れました。

2014年

マーケティングの変革」を主題に、一方的な情報発信からエンゲージメントへの移行、デスティネーション・マネジメント(観光地管理)における業界間での連携・協力体制構築に言及。

2017年

「コンテンツキュレーター」としてのDMOの役割について言及。SNS活用やBIツールの採用による調査データの利活用に加え、プレイスメイキング(居心地のよい場所づくり)についても示されている。

2019年

「スチュワードシップ」や地域との連携といった今回のセミナーにつながるテーマに加え、デジタルを主軸にしたマーケティング機会や対話の創出についてもフォーカス。

2021年

政府などを含むすべてのステークホルダーとの連携に加え、持続可能性や地域の価値観や本質、文化に基づいたブランドづくりの重要性を提言。

2023年

DMOのリーダーによる「コミュニティリーダーシップ」の重要性と、AIなどといった「テクノロジーの採用」によるステークホルダーや旅行者の変化を解説。

観光の未来づくりに向けて必要な「8つの力」

なお、2025年に発表された最新レポートでは、観光のあり方の再形成によって拡張するDMOの役割が示されています。カサンドラ氏は、DMOが観光地の未来そのものを設計する存在へ進化するにあたって必要な「8つの力(8 Forces)」を、次のように提示しました。

  1. 提言と影響力による投資の確保:政府や自治体に対し、資金の必要性を訴えるだけでなく、効果を納得感のあるストーリーで示す。
  2. 経済・地政学的な不確実性への対応:ローカルから国境を越えた複雑な問題まで、柔軟性ある対応を行う。
  3. 組織の変革:課せられた役割に対し、組織をどのように変え、新しい方法で運用していくかを考える。
  4. プレイスメイキング:観光客や住民といった「人々」のためだけでなく、経済的繁栄に貢献するビジネスオーナーにとっても価値のある場所をつくる。
  5. AI活用と真正性を両立させたマーケティングの実施:AIに対する本質的な不信感の払拭に向け、真正性のある活用と連携を進める。
  6. 戦略的なイベント誘致:住民や観光地のブランド、価値観と一致するイベントを誘致し、より密なコミュニティの構築や影響力の創出に作用させる。
  7. 再生型観光の促進と長期的なレジリエンス(回復力)の構築:観光地をよりよくするだけでなく、関連するコミュニティや組織そのものの改善、回復に取り組む。
  8. 将来を見据えた人材と組織づくり:長期的な視点をもって、DMOおよび観光地内に訪問者のサポート体制や産業を支える労働力を確保する。

「8つの力」を体現する先進事例:アメリカ・テキサス州ダラス

これらを実践し、すでに一定の成果につなげている事例として、カサンドラ氏はアメリカ・テキサス州ダラスを紹介しました。

ダラスは、地域の価値観に沿った戦略的なイベント誘致を実施し、サッカーの世界選手権大会「FIFAワールドカップ2026」の誘致に成功しています。同大会は一時的な集客にとどまらず、ダラスのインフラ整備や世界に向けたブランド力向上といった中長期的な価値創出につながるものです。

このほかにも、ダラスはミシュランガイドの導入などを通じて、「美食」に焦点を当てた体験価値向上に注力しています。

ダラスの戦略でさらに特徴的なのが、観光収入の資金調達モデルです。宿泊税に加え、Dallas Tourism Public Improvement District(DTPID)と呼ばれるエコシステムによって客室料金の2%を賦課金として徴収。財源を拡大することで、予算増と既存施設のアップデート、コンベンションセンター再開発などの都市プロジェクトを実現しています。

カサンドラ氏はこれらの取り組みについて、「観光振興だけでなく、今後長きにわたって地域住民や経済にポジティブな影響を与えるだろう」と見解を述べました。

APACと世界のDMO、抱える課題の共通項と違いは?

カサンドラ氏は続いて、「Futures Study」の調査結果をもとに、世界各国のDMOが直面する課題の傾向について説明しました。

まずは、APAC(アジア太平洋地域)と世界の比較です。APACでは、トップ3に「住民意識とコミュニティの関与」「サステナビリティとリジェネレーション(持続可能性と再生)」「政府への働きかけと重要性の認知強化」がランクインしました。

APACで1位となった「住民意識とコミュニティの関与」は世界ランキングでは5位となっており、「APACでは特にこの領域に関心が高いことがわかる」とカサンドラ氏は述べています。

なお、世界ランキングでは「政府への働きかけと重要性の認知強化」が1位となっています。特に重要かつ懸念事項として挙げられたのが、資金に関する不確実性です。

調査では、世界のDMOの42%が「今後3年以内に資金の一部またはすべてがリスクにさらされる」と回答しており、カサンドラ氏は「観光が地域社会にもたらすインパクトを積極的に発信するとともに、従来の資金モデルに依存しない収益源の多角化が必要」だと指摘しました。

▲Top 25 Trends:Destinations International「DESTINATION NEXT 2025 Futures Study」より抜粋
▲Top 25 Trends:Destinations International「DESTINATION NEXT 2025 Futures Study」より抜粋

同調査では、世界各国のDMOが採用している戦略についても、ランキング形式で紹介されています。APACでは、「長期戦略を明確にする包括的な観光地マスタープランの策定・主導」が1位に入りました。

カサンドラ氏はここで、「将来を見据えてどのような観光資源体験が必要かを考えなければ、そもそもマーケティングする対象がなくなる」と感じた自身の体験を紹介。競争が激化するなかでは短期的な施策実施でなく、観光地の将来像を見据え「何を売るか」から設計することが重要だと強調しました。

2位以降は、「データに基づく多角的なKPI(重要業績評価指標)の確立」「観光と経済開発の連携強化」といった項目が並びます。前者は、宿泊数や来訪者数といった従来型の指標だけでなく、経済的・社会的・環境的な影響を含めた観光の価値評価を指し、DMOが語るべきストーリーそのものを変える取り組みです。後者は、観光を地域経済全体の成長と結びつけて推進していく視点が重要視されています。

カサンドラ氏は、興味深い変化としてデータ管理やテクノロジー活用の重要性が急速に高まっていることに触れました。この項目は、最新調査で世界ランキング8位にランクインしていますが、2023年の前回調査から35ランクもアップしています。「AIをどう使うか」という問いは、マーケティングだけでなく、組織運営やコミュニティとの関係構築など、あらゆる面から考えなければならないものに違いありません。

今後向き合うべき4つの変化と取るべきアクション

ここまでの内容を踏まえ、講演ではDMOが「向き合うべき変化」と「取るべきアクション」について、それぞれ4つの項目が紹介されました。

DMOが向き合うべき変化としては、「8つの力」と共通する以下の項目が挙げられています。

  1. AI活用と真正性の融合
  2. プレイスメイキング
  3. 再生型観光の促進
  4. 危機に耐えられる組織への変化

また、取るべきアクションとしては以下の4つが明示されました。

  1. 政府や住民に対し、DMOや観光資源の価値を継続的に発信する
  2. 組織のケイパビリティを広げる
  3. 組織効率を高めるためのAI活用
  4. 柔軟性・適応力の向上とレジリエンスの構築

双方は密接に連携しています。カサンドラ氏は「AIはすでにコンテンツやマーケティングのあり方に加え、旅行者の意思決定のプロセスまでも大きく変えつつある」と述べたうえで、本物の体験や信頼できる情報の価値が高まっていると説明。「地域の人々や体験提供者によるリアルなストーリーの発信などを通して、旅行者に『ここは本物の場所で、本物の人々がいる。ここで時間とお金を使いたい』と思ってもらうことと、AI活用を両立させる必要がある」と語りました。

予算が限られているDMOにとって、AI活用は組織効率向上の文脈でも重要です。ただし、利用にあたっては組織内でのAI利用ポリシーの策定や、地域の価値観と合致しているかといった確認作業も忘れてはいけません。カサンドラ氏は「あらかじめ自分たちのマンデート(任務)を明確にしておくことで、YES / NOの判断が容易になる」と述べました。AI活用においては、観光業界以外とのパートナーシップ構築や機会創出も必要だとしています。

このような組織のあり方や方針の明確化は、投資の呼び込みや地域の価値向上、「プレイスメイキング」や「再生型観光の促進」においても役立ちます。「Futures Study」の調査では、旅行者の84%が目的地選びにおいて持続可能性を非常に重視しているといった調査結果も出ており、DMOが継続的に価値を発信する重要性がうかがえます。

また、不確実性の高い現代においては「危機に耐えられる組織への変化」も欠かせません。カサンドラ氏は「長期的な戦略設計をしながらも、その考えに固執しすぎない柔軟性が求められる」としたうえで、人材育成や労働力不足の課題にも真剣に向き合う必要があると補足しました。

目指すは観光地形成のエージェント

カサンドラ氏は、これからのDMOに求められる姿勢について「明確な目的を持ち、地域と協働しながら取り組む姿勢が不可欠」だとあらためて強調。そのうえで重要となるのは「組織の現在地を見極めること」だと述べました。

ここまで説明した「8つの力」をどれだけ身につけられているか確認し、向き合うべき変化や取るべきアクションと照らし合わせること。そして、不足している取り組みを実践していくことが、これからのDMOに欠かせない要素だといえます。

一方、持続可能性や人材にまつわる課題は個々のDMOにかぎらず、業界共通の課題です。これらに対しては、知見の共有などを通した連携強化が求められます。

観光は本来、一部の企業や人の利益にとどまる産業ではありません。その土地に属する全員が恩恵を受けられるよう、DMOは「コミュニティのリーダーかつ観光地の形成者として変化をもたらすエージェントになる必要がある」とカサンドラ氏は語りました。そのためには、成功事例の共有などによる全体レベルの底上げやDMOの仕事に対して理解を深めてもらうための働きかけも忘れてはなりません。

観光を取り巻く環境が大きく変化する今、すでに変化しようと動き始めるDMOも存在します。同氏は最後にこのように語って講演を締めくくりました。

「私たちは今、何を選択し、どう行動するかが問われるエキサイティングな時代にいます。3年後、みなさんがかかわる観光地は今よりも強く、回復力があり、地域社会から価値があると思われる場所になれているでしょうか?

未来は目的を明確にし、地域社会と足並みをそろえながら幅広い分野をリードする能力を備えたDMOのものです。すでに始まっている変化をどう受け止め、そのなかでどのような役割を果たすか、ぜひ考えてみてください」

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<参照>

Destinations International:DestinationNEXT Futures Study

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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