「レジリエントな観光」や「観光レジリエンスサミット」など、近年の観光業において「レジリエント(レジリエンス)」という言葉が使われ始めました。
レジリエントは本来「回復力のある」「復元力のある」などを意味する英単語ですが、観光業においてはどのような使われ方をするのでしょうか。
本記事では、観光業における「レジリエント(レジリエンス)」の意味を紹介します。この言葉が注目されている背景や、日本や世界における「レジリエントな観光」への取り組みについても解説していきます。
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「レジリエントな観光」とは
2024年9月21日にブラジルで行われたG20観光大臣会合で、日本が「レジリエントな観光」の推進に関する取り組みについて発信しました。また、詳細は後述しますが、2024年11月9日には仙台市で「観光レジリエンスサミット」が開催される予定です。
今注目が高まる「レジリエントな観光」とは、どのような観光のことをいうのでしょうか。
「レジリエント」とは
レジリエントは直訳すると「回復力のある」「復元力のある」という意味を持つ英単語ですが、ビジネスにおいては「困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」と形容され、「レジリエントな人」「レジリエントな企業」などという使い方をされます。では、これを観光業に置き換えるとどういった意味になるのでしょうか。
日本における「レジリエントな観光」について言及しているページなどを読み解くと、「災害や政治、経済などの外部環境の変化に強く、困難に対しても柔軟に乗り越えられる観光(そして、その体制づくり)」のことを指しているようです。
たとえば以下が、レジリエントな観光を実現するための取り組みとして挙げられます。
- 感染症の流行や自然災害、政治的・経済的変動などの外部要因に柔軟に対応できる安全体制整備
- オンラインツアーやバーチャル体験の提供
- G20観光ワーキンググループ会合などを通じた国際協調
レジリエントな観光を強化すれば、観光事業の継続や迅速な再開が可能になるだけでなく、長期的な視点で観光地の発展を支える基盤が強化されるでしょう。
観光業界で「レジリエント(レジリエンス)」が注目されている背景
観光業界においてレジリエントな取り組みが注目されている背景には、以下のような要因があります。
- 自然災害の増加と影響の深刻化
- 新型コロナウイルス感染症の長期化
- 上記のような突発的な出来事に対する観光業の脆弱性
- 事業継続への取り組みの遅れ
- 地域経済への影響の大きさ
日本は地震、台風、豪雨などの自然災害が多い国です。とくに近年は気候変動の影響もあって災害の頻度や規模が増大しています。観光が経済成長の柱として期待されている一方、観光関連事業者がこういった自然災害の影響を受けることは少なくありません。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、国内外からの旅行者が激減し、観光関連事業者の経営に深刻な影響が及んだことも、レジリエントな観光が注目されている理由のひとつです。観光業は外的要因によって影響を受けやすい傾向にあり、災害や危機が発生すると事業運営に何かしらの悪影響を及ぼします。とくに中小企業が多い観光関連事業者は、財務基盤が脆弱で危機への対応力が弱い傾向にあるといえるでしょう。
上記で述べたような背景から、観光業界において災害や危機に強く、柔軟に対応できるレジリエントな取り組みの重要性が高まっています。
具体的な施策としては、BCP(事業継続計画)策定や危機管理体制の構築、デジタル技術の活用などを通じて、環境、文化、社会、経済など多面的な観点から観光業の持続可能性を高めていく必要があります。
<参照>
日本観光振興協会:BCP作成で持続可能な観光経営を!
「レジリエントな観光」に関する日本・世界の動向
レジリエントな観光を実現するためにどのような動きがあるのでしょうか。日本・世界の動向を紹介していきます。
「世界観光レジリエンスデー」の制定
国連は、毎年2月17日を「世界観光レジリエンスデー(Global Tourism Resilience Day)」に制定しました。観光産業のレジリエンス(回復力・強靭性)強化の重要性を認識し、持続可能な観光の推進を目指すものです。
「世界観光レジリエンスデー」の制定は、観光産業のレジリエンス強化と持続可能な発展に向けた国際的な取り組みの一環です。日本を含む世界各国がこの方向性に沿って観光政策を展開していくことが期待されます。
<参照>
United Nations:Global Tourism Resilience Day 17 February
G20観光大臣会合の開催
G20観光大臣会合はG20メンバー国の観光大臣や国際機関の代表らが一堂に会し、世界の観光市場や各国の観光政策の動向などを踏まえながら、観光分野の世界的課題について議論する場です。
2019年に北海道・倶知安町で開催されたG20観光大臣会合以降は、レジリエントな観光に関する取り組みを推進しています。2024年9月にブラジルで開催されたG20観光大臣会合では、持続可能で強靭かつ包摂的な観光の推進が主要テーマとして掲げられました。
G20観光大臣会合は、国際的な協調と知見の共有を通じて、レジリエントな観光の実現に向けた重要な役割を果たしています。
<参照>
観光庁:G20観光大臣会合に堂故副大臣が出席 ~持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指し、ベレン宣言を採択~
「観光レジリエンスサミット」の開催
2024年11月9日から3日間、宮城県仙台市で「観光レジリエンスサミット」が開催されます。観光分野における危機対応力の強化を目的とした国際会議で、サミットの受け入れ準備業務に対応するため、6月には「観光レジリエンスサミット推進室」を新設しています。
「観光レジリエンスサミット」は観光庁が国連世界観光機関(UN Tourism)と連携してはじめて企画したもので、自然災害やパンデミックなどの危機に対する観光産業の強靭性(レジリエンス)をテーマに議論が行われる予定です。
日本が東日本大震災やコロナ禍の経験から得た観光レジリエンスに関する知見を各国・地域と共有し、取り組むべき政策を日本主導で世界に発信することを目指しています。「観光レジリエンスサミット」を通じて、世界の観光産業の危機対応力強化に向けた議論が深まることが期待されています。
また、仙台市は観光レジリエンスサミット開催を記念して、全3回の観光危機管理ワークショップを実施しています。市内の観光関連事業者らを対象に、観光レジリエンスの専門家が観光危機管理の重要性などについて講演するとともに、全3回のワークショップを通して意見交換を行いました。
これらの取り組みを通じて、仙台市は災害に強いレジリエントな観光都市づくりを目指しています。
<参照>
仙台市: 「観光レジリエンスサミット」の開催
「レジリエントな観光」に関する国内での取り組み例2選
日本国内では仙台市で「観光レジリエンスサミット」が開催されるほか、ほかにもレジリエントな観光を実現するための取り組みを行っている自治体があります。ここでは仙台市と京都市の事例を紹介します。
1. 仙台市
仙台市では「レジリエントな観光」の実現に向けて、AIを活用した観光案内などいくつかの重要な取り組みを行い、今後も積極的な方針を打ち出しています。
「杜の都」とも称される緑豊かな景観が魅力的な仙台市では、緑を基軸としたまちづくりが進められています。観光客にとっても魅力的な都市空間を創出し、レジリエントな観光地としての価値を高めていく方針です。
一方で、地震や津波、そして風水害などといった災害についての懸念もあります。とくに日本語がわからない訪日外国人にとって、こういった災害への備えは重要な要素のひとつとなります。そこで仙台市では、訪日外国人向け災害情報提供アプリ「Safety tips」の活用を推進しています。
14か国語15言語で情報を提供するほか、外国人受入可能な医療機関の情報を提供するなど、訪日外国人旅行客や在住外国人向けに災害時に役立つさまざまな機能が盛り込まれています。自然災害の多い日本において、訪日外国人が安心して過ごせるよう、「Safety tips」を通じて緊急情報を多言語で提供しているのです。
これらの取り組みを通じて、仙台市は自然災害や感染症などの危機に強い、レジリエントな観光地としての地位を確立し、持続可能な観光産業の発展を目指しています。
2. 京都市
多くの外国人観光客が訪れる京都市でも、レジリエントな観光を実現する取り組みが実施されています。京都市は 2016年にアメリカの慈善事業団体による「100 のレジリエント・シティ」 プロジェクトに参加する世界100都市のひとつに選定されていて、これを機に「京都市レジリエンス戦略」の策定に取り組んできました。
京都市では直下型地震や南海トラフ地震などといった自然災害のほか、少子高齢化の影響などによる人口減少、景観の保全・継承などについて課題感を示していて、「レジリエント・シティ・京都」を実現するためにも以下の6つの分野を重点的取組分野に設定しています。
- 災害に強いまち
- 環境にやさしいまち
- 快適で安心安全なまち
- 豊かに暮らせるまち
- 支え合い、助け合うまち
- 人が育つまち
たとえば「人が育つまち」の取り組みでは、レジリエント・シティの未来の担い手を、まちぐるみで育む取り組みを推進するほか、誰もがあらゆる場で活躍できるレジリエンスな社会環境の構築・整備を進めるなどの方針を掲げています。
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