観光庁・観光DXセミナー(第3回):「稼げる地域」を目指す取組事例を紹介

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現在、観光庁では、観光分野におけるDXを推進し、旅行者の消費拡大や再来訪の促進、観光産業の収益・生産性向上を通じた「稼げる地域」の創出に取り組んでいます。その一環として、全4回のオンラインセミナー「Next Tourism Seminar 2024」を開催しており、10月22日に第3回が行われました。

第3回のテーマは「観光地経営の高度化」です。セミナーでは観光DXを推進するデータプラットフォームや、オープンデータを活用した福井県事例などが紹介されました。

本記事では、「Next Tourism Seminar 2024」第3回の内容を振り返り、「観光DXでなにから始めたらよいのかわからない」という方に、取り組みのヒントをお届けいたします。

関連記事:観光DXセミナー第2回振り返り:観光産業の生産性向上を目指す取組事例を紹介

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観光DXを通じた収益・生産性向上へ

セミナーの冒頭では、観光庁 参事官(産業競争力強化)付 山根氏が登壇。観光庁が進める観光DXの取組について説明がありました。

観光庁では、以下の4つの観点から観光DXを推進し、旅行者の体験価値を抜本的に向上させ、稼げる地域の実現につながる先進モデルを構築すべく、実証事業を行っています。

  1. 旅行者の利便性向上・周遊促進
  2. 観光産業の生産性向上
  3. 観光地経営の高度化
  4. 観光デジタル人材の育成・活用

また、山根氏は「人口減少が進む日本において、国内外との交流を促進する観光を地方創生の切り札と位置づけている」と述べ、観光DXを通じて観光産業の収益・生産性向上を図ることの重要性を強調しました。

加えて、観光DXの推進を契機とした観光地でのデータ活用の可能性にも言及。「農業や金融など観光以外の産業を含めたさまざまなデータを地域に集積することで、地域データベースは、観光産業を中心とした地域インフラになりうる」として、地域活性化におけるデータ利活用の必要性を説明しました。

全国観光DMP・高度化地域DMPの活用事例

続いて、公益社団法人日本観光振興協会の森岡氏が登壇。観光に関する統計やビックデータを閲覧できる「全国観光DMP・高度化地域DMP」の詳細と、地域での活用事例が紹介されました。

全国観光DMP・高度化地域DMPとは

日本観光振興協会では、全国各地域から集めた観光情報データ約12万件と、観光マーケティングデータを合わせて共有するデータプラットフォームを運営しています。

その中心となるのが、地域のマーケティングデータ戦略支援ツールである「全国観光DMP・高度化地域DMP」です。

全国観光DMPには、市町村別の宿泊統計などの統計データ、旅行者の消費動向などの観光ビックデータ、観光に関わる各種調査データなどが蓄積され、それぞれがオープンデータとして公開・共有されています。

全国観光DMPに蓄積された各種データは、「高度化地域DMP」のダッシュボード機能を用いて閲覧・分析・利用が可能です。データの可視化によって、各地の事業者や自治体で、月次の統計データの確認やビッグデータによるターゲット設定、観光資源の注目度の把握などに利用されているとしています。

高度化地域DMPの基本的な機能は、以下の4つです。

  1. 地域の観光概況(数か月先の予約状況の把握、過去との対比)
  2. 地域の来訪者分析(旅行者の属性や観光動向の把握)
  3. 地域の魅力分析(地域が保有する観光資源情報を数値化)
  4. 他地域との比較(訪問者数・旅行者属性・観光資源などを他地域と比較)

地域の魅力分析に関しては、日本観光協会が地方自治体や観光協会と共同で運営している観光情報サイト「JAPAN 47 GO(ジャパン・ヨンナナ・ゴー)」のアクセス分析も反映しているとしています。

地域の観光DXに関するアドバイザー派遣事業

全国観光DMP・高度化地域DMPの活用促進を目指して、同協会では2023年度から「地域の観光DXに関するアドバイザー派遣事業」を実施しているといいます。

「地域の観光DXに関するアドバイザー派遣事業」実証地域

  • 2023年度:群馬県・埼玉県・千葉県・長崎県
  • 2024年度:兵庫県・鳥取県・東京観光財団

地域の観光DXに関するアドバイザー派遣事業では、1年目にDMPの活用方法などをワークショップ形式で学びます。2年目には1年目に学んだことに基づいて、実際にデータを活用しながら事業を実施し、観光DMPを一つのソリューションとして観光地経営の改善などを目指していくとしています。

たとえば千葉県では、人流分析と広告配信を組み合わせて活用を検討しており、観光客の周遊状況を確認し、滞在時間や消費額の増加につながるようなターゲット分析・広告配信を進めています。

群馬県では、県内の自治体DMOに向けて、観光地のKPI情報(訪問者数・消費額など)を提供しており、さらに宿泊者の予約状況を可視化して、先々の政策検討への活用を目指しています。

観光DX推進事例:福井県

次に、観光DXの優れた事例として公益社団法人 福井県観光連盟(福井県DMO)の観光地域づくりマネージャーである佐竹氏が登壇。DX推進による「稼げる観光地」を目指す福井県の取り組みが紹介されました。

福井県では、観光DXを「目標達成のための手段」と位置づけ、地域事業者が安定して収益を上げられる観光地づくりに取り組んでいます。

佐竹氏によると、収益を上げる観光地には、「集客ポイント」(自然・歴史・フォトスポットなど)と「キャッシュポイント」(宿泊・飲食・体験など)の両方が必要だといいます。

稼げる観光地を目指すには、正確なデータに基づいた戦略と行動が欠かせません。そこで福井県DMOでは、地域のプレイヤーや各市町の観光協会に観光マーケティングデータを提供し、データに基づいた観光地域づくりを支援しているといいます。

具体的には、県内90エリアでの観光アンケートや宿泊施設の予約データなど、さまざまな情報を収集・蓄積してオープンデータ化しているほか、過去には土産物店のPOSデータ、Google ビジネスプロフィールのインサイトデータなども分析を行いながら、分析結果の公表をしているといいます。

さらに、蓄積したデータを活用するために「FTAS(福井県観光データ分析システム)」を開発し、地域の関係者が自身でデータを分析・活用できる仕組みが整備されています。

佐竹氏は「観光をできるだけデータで説明することが重要」と述べ、データに基づく施策を実行し、結果を再び分析して次の施策につなげることで、施策の成功率を高められると語りました。

今後は、過去のデータをもとにAIを使った需要予測や自動化された観光アドバイス、観光客向けコンシェルジュ機能などの導入も検討しており、効率的かつ効果的な取り組みを目指しているといいます。

またインバウンドの実態把握も行い、北陸3県での実証実験を通して、積極的に集客に取り組んでいくとしています。

福井県DMOの取り組みについては、第2回観光DXセミナーの振り返り記事でも詳しくご紹介しているので、ぜひご覧ください。

関連記事:観光DXセミナー第2回振り返り

地域企業におけるデータ活用の現状と課題

続いて、中小企業庁 事業環境部調査室の田中氏が登壇し、地域企業におけるデータ活用の現状と課題について発表がありました。

政府は2015年に地域経済分析システム「RESAS」を導入し、企業によるデータ活用の推進を図っています。RESASは、人口動態やまちづくり、地方財政、観光など、地域経済に関するさまざまなビッグデータを地図やグラフで表示できるツールです。

2022年12月には「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が閣議決定され、企業のデータ利活用に向けた支援を一層強化する方針が示されました。

しかし、現状について田中氏は「規模の小さい地域企業では、残念ながらほとんどRESASは活用されていない」と述べ、地域の企業から「統計データを活用できるとは思わなかった」「使い方がわからない」といった声が多く、データ活用やDXの進展が遅れている実態を指摘しました。

DXが進まない理由と取り組みの注意点

地域企業におけるDXが進まない理由やデータ利活用の注意点として、田中氏は「3つの誤解がある」と説明します。

データ活用の3つの誤解

  1. データ活用の誤解
  2. 提供者の誤解
  3. 利用者の誤解

1. データ活用の誤解

データの活用には、マクロ視点とミクロ視点の2つが必要です。

マクロ視点では課題の発見や目標設定のためにデータを使用し、ミクロ視点では目標を達成するための具体的なデータ活用が求められます。

それぞれの視点で必要なデータや活用方法は異なるため、データ活用にあたってはまず目的と取り組み内容を整理し、本当に必要なデータを選ぶことが重要だと田中氏は話します。

目的が不明確なままデータを使おうとすると「何をすればいいのか分からない」といった混乱が生じやすくなると指摘しました。

2. 提供者の誤解

よくある例として、データ提供者は、「多くのデータを用意すれば利用者に喜ばれるだろう」と考える傾向にあるといいます。

しかし、特にデータ活用に苦手意識を持つ人にとっては、情報が多すぎることで、逆に「ありがた迷惑」になってしまうと田中氏は指摘します。「情報や機能が多ければ多いほど、かえってやる気を失わせる原因になる」とし、提供側と利用側の意識にズレがあると述べました。

観光DXの推進においては、データ活用に不安を持つ人でも参加しやすくなるような配慮が求められていると語りました。

3.利用者の誤解

データ活用では、KGIKPIといった評価指標の設定が重要とされていますが、それだけでなく、具体的な行動計画もあわせて策定することが不可欠です。また、評価指標の主体が自治体なのかDMOなのか、観光事業者なのかによって目標も異なるため、各プレイヤーがしっかりと目標を設定し、具体的なアクションを考えることが重要だといいます。

たとえば、訪問者数が増加しても宿泊者数が増えるとは限らず、宿泊者数が増えても地域の消費額が必ずしも増加するわけではありません。さらに消費額が増えたとしても、営業利益に結びつくとも限りません。

評価指標は目安として重要ですが、指標が良いからといって観光振興が成功しているわけではありません。田中氏は、「営利法人として経営戦略や経営環境分析も不可欠である」と、データ活用のポイントを説明しました。

中小企業庁ではデータの利活用推進に向けて、地域経済分析システムRESAS(リーサス)を活用し、データ活用が苦手な地域企業の経営者を対象に「経営環境分析実践講座」を全国で実施しており、受講者の9割以上が「データを活用したくなった」という成果も出ているとのことです。

田中氏は「各地域における観光DX関係者が孤立しないよう、データ活用が苦手な地域企業が一歩を踏み出すためのきっかけが必要」と述べ、今後も地域経済分析システムRESASを中心に積極的にデータ活用の支援を行う予定だと語りました。

Google ビジネスプロフィールの活用

セミナーの最後はGrow with Google 講師の市原氏(所属:株式会社エージェント)が登壇し、Google ビジネスプロフィールの登録方法について解説しました。

Google ビジネスプロフィールとは、 Google のサービス(Google 検索や Google マップなど)上に各事業者のビジネス情報を表示して、事業者自ら編集・管理できるサービスです。

営業時間や電話、自社サイトへのリンク、メニュー情報といった店舗や宿泊施設の詳細な情報を記載でき、店舗の写真や動画の掲載も可能です。予約リンクなども活用でき、すべて無料で利用できます。登録したビジネス情報がさまざまな言語に自動翻訳されるため、インバウンド対策にも効果的です。

Google ビジネスプロフィール活用のメリット

Google ビジネスプロフィールを導入するメリットについて市原氏は、以下の点を挙げています。

  • オンラインで公開するビジネス情報を自分たちで管理し、常に正確な情報を発信できる
  • Google マップ上での検索状況など、利用者のデジタルな足跡を拾うことができ、マーケティングに活用できる
  • 口コミを通じてユーザーとの交流できる
  • 情報発信によって新規顧客にアピールできる

さらに、Google ビジネスプロフィールを登録する際の注意点として、市原氏は「しっかりと基本情報を登録すること」と説明。「Google ビジネスプロフィールの情報を見る利用者の40%以上はまず営業時間を見る」としたうえで、基本情報だけでもしっかり記載することの大切さを強調しました。


以上、「Next Tourism Seminar 2024」第3回(テーマ:観光地経営の高度化)のレポートをお届けしました。本セミナーのアーカイブはこちらからご覧いただけます。

訪日ラボでは、第1回・第2回ともに観光DXセミナーの内容をご紹介しています。

「Next Tourism Seminar 2024」を振り返る:

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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