VRIO分析(ブリオ分析)は自社が持つ経営資源を最大限に活用し、競争優位性を評価するためのフレームワークです。
競争が激しい市場で自社の強みを明確にし、優位性を築くための重要な手法として知られています。
インバウンド需要が高まる中、VRIO分析を活用することで、独自性のある観光資源やサービスを見出し、インバウンド集客の施策に組み込むことができます。
この記事では、多くの企業が実践しているVRIO分析について、基本的な概念から実践的な活用方法までわかりやすく解説します。注意すべきポイントも解説しますので、最後までご覧ください。
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VRIO分析とは
VRIO(ブリオ)分析は、自社の競争優位性や経営資源を評価するためのフレームワークです。
当時、アメリカのビジネススクールで経営資源に基づく戦略論(通称RBV)の重要性に注目が集まっており、VRIO(ブリオ)分析はこのRBVの中で提唱されています。
経営資源の強みや弱みを分析
経営学分野において、VRIO分析は企業が持つ経営資源の、独自の強みや弱みを分析するフレームワークと定義づけられています。経営資源とは「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つを指します。
VRIO分析の発案者は、アメリカの経営学者でありユタ大学の教授であるジェイ・B・バーニー氏です。バーニー教授は、経営戦略策定に有用なフレームワークとして、VRIO分析を著書で提示しました。
分析項目は、VRIO分析の頭文字に相当する4つの要素から成ります。
- Value(経済的価値)
- Rarity(希少性)
- Imitability(模倣可能性)
- Organization(組織)
これらの視点から、企業における競争優位性の維持と、その向上を図るのがVRIO分析を採用する目的です。
ただし、分析した要素はただ無造作に並べるだけでは活用できません。一覧表やフローチャートといった表示方法、俯瞰のためのツールを用いることで、企業の強みや弱みの発見につながります。
前提条件となる3C分析
VRIO分析を活用するにあたっては、3C分析の事前の実施が推奨されます。3C分析は、VRIO分析と同じくフレームワークのひとつです。- 市場(Customer)
- 競合(Competitor)
- 自社(Company)
3C分析の特徴は、市場や競合他社などの外的な要因を分析し、自社の戦略の決定に活用できる点にあります。
3C分析の目的は、自社の置かれた環境からKSF(Key Success Factor)、つまり成功要因を抽出する点に置いています。3つのCを分析し、事業における成功の条件を導くことは、企業体の戦略決定において大きな役割を果たすでしょう。
3C分析の特徴として注目すべき点は、外部要因に偏りすぎない点です。市場や競合といった外的要因だけでなく、自社という内部要因も分析対象に含めることで、現実に即した戦略を立てることができます。
VRIO分析の4つの視点
前提として3C分析を行った後は、VRIO分析に移っていきます。VRIO分析は、自社の経営資源が競争優位性を持つかどうかを評価するために、以下の4つの視点から確認します。それぞれの視点と、その際に確認すべきポイントを以下にまとめます。
Value(経済的価値)
Value(経済的価値)は、企業が持つ経営資源が顧客のニーズに適切に応えられるか、企業の売上を左右するものかを判断する指標です。下記のようなポイントを評価します。
- 顧客が求める価値を生み出しているか
- 自社の資源や能力が市場のニーズやトレンドに応えているか
- 業界での競争を有利に進める助けになるか
- 新たなビジネスチャンスを生み出せるか
経済的な観点から経営資源を評価し、競争で劣位にあるかどうかを判断します。この経営資源には、企業が保有する設備や製品やサービス、従業員のスキルなど多岐にわたる要素が含まれます。
Rarity(希少性)
Rarity(希少性)は、経営資源が競合と比べてどれだけ独自性を持っているかを評価する指標です。Rarityは以下のポイントを考慮して評価しましょう。
- 資源や能力が市場で独自性を持っているか
- 競合他社も同じような資源や能力を持っていないか
独自性が高ければ希少性も高まり、競争優位性を活かして市場シェアを拡大しやすくなります。
Imitability(模倣可能性)
Imitability(模倣可能性)は、希少性と関連した評価項目で、競合他社が自社の経営資源をどれだけ模倣しやすいかを分析します。Imitabilityを評価する際には、以下のポイントを確認します。
- 模倣や代替が難しいか
- 高度な技術や専門知識が必要で簡単に再現できないか
- 長期間にわたって維持できる特性を持っているか
模倣が難しいほど希少性が高まり、市場での優位性が強化されます。この経営資源には、長年の研究開発で築いた技術や、企業文化、組織力などが含まれます。
Organization(組織)
Organization(組織)は、経営資源を活用し続けるための組織能力を評価する指標です。その資源や能力を活用し、競争優位性を持続するための仕組みや組織が整備されているかを判断します。
- 資源や能力を有効活用するための組織体制が整っているか
- 人材やITシステム、プロセスが効率的に連携しているか
- 戦略的に経営資源を活かす仕組みがあるか
たとえ希少性が高く模倣困難な経営資源を持っていても、それを活用し続ける組織の体制が整っていなければ、優位性を持続するのは難しくなります。組織については、企業の構造、管理システムに留まらず、企業文化や人材採用・教育など、内部の多様な要素に関連しています。
VRIO分析のやり方
VRIO分析は、使用方法まで体系付けられています。使用するためのプロセスを紹介します。1. 分析の目的を明確にする
まず、VRIO分析を実施する目的を明確にします。これにより、どの資源を重点的に評価するべきかを絞り込むことができます。たとえば以下のような目的が考えられます。
- 新規事業の立ち上げで競争優位性を確認したい
- 既存事業の強みと弱みを再評価し、改善ポイントを見つけたい
2. 経営資源を洗い出す
自社が持つ経営資源をリストアップします。
有形資産(設備、技術)、無形資産(ブランド、特許)、人的資源(スキル、ノウハウ)、組織力(企業文化、管理プロセス)など、企業活動に関連するリソースを網羅します。
3. 分析対象(競合他社)を選定する
次に、比較対象となる競合他社を選びます。Rarity(希少性)やInimitability(模倣可能性)を評価する際には、競合他社との比較が欠かせません。
ただし、選ぶ競合によって評価結果が異なるため、同規模で、企業レベルや経営状況が近い競合に絞って分析を始めるのが効果的です。
4. VRIOの4つの視点で評価する
続いて、リストアップした経営資源を4つの視点(経済的価値、希少性、模倣可能性、組織)で「V→R→I→O」の順に評価します。
評価対象の経営資源は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」であることを先に示しましたが、これは企業の事業が持つ「バリューチェーン」の各工程を含むものです。
バリューチェーンとは、企業が消費者に対し提供する価値が生み出されるまでの工程です。企業が消費者に提供する価値には、商品を入手したあとのアフターケアも含まれます。
製造業であれば仕入れと購買、製造、広報、営業、またその後のカスタマーサポートが存在します。4つの評価指標にYESまたはNOで判定をくだしていきます。
具体的な評価方法
実際に評価をくだしていく過程を説明します。
経済的価値においてYESの判断が出た場合、希少性へと進みます。同様に、希少性がYESであれば、模倣可能性へと進みます。
こうして4項目について確認し、4つの視点すべてで良好な結果が出るか、あるいはどの段階でNOが出るかを確かめます。
NOが出た場合、その項目に問題点があります。YESは、OKやGOODと置き換える場合があります。
1 |
2 | 3 | 4 | ー |
経済的価値(Value)
|
希少性(Rarity) |
模倣可能性(Imitability) |
組織(Organization)
|
市場における優劣 |
NO | (Vに対する評価項目がYESでなければ評価しない) | (Rに対する評価項目がYESでなければ評価しない) | (Iに対する評価項目がYESでなければ評価しない) |
競争劣位 |
YES | NO | (Rに対する評価項目がYESでなければ評価しない) |
(Iに対する評価項目がYESでなければ評価しない) |
競争均衡 |
YES | YES | NO | (Iに対する評価項目がYESでなければ評価しない) |
一時的な競争優位 |
YES | YES | YES | NO |
持続的な競争優位 |
YES |
YES |
YES |
YES |
経営資源の最大活用(資源が成果につながる状態) |
4項目すべてにYESが出たら、その経営資源は持続的な競争優位の状態にあると判定されます。逆に、4項目すべてにNOが出たならば、他社と比べて競争において不利な状況にあるか、競争力がない状態と考えられます。
保有している経営資源の価値はなく、事業の打ち切りを検討する必要が生じます。
これら極端な結論でない場合、どの要素が足りていないかによって市場における優劣が分類できます。VRIO分析には、ポテンシャルがありながら活かせていない経営資源を発見する効果もあります。
分析のツール(一覧とフローチャート)
VRIO分析を実施するにあたり、一般的に用いられるのは上記に示す一覧表ですが、フローチャートを用いる場合もあります。どちらを用いたとしても分析結果は同等に算出されます。
一覧表の特徴は、多くの情報を扱える代わりに、評価のための負担が大きい点です。
分析する経営資源について、個々の要素全てをYESとNOではっきり切り分けていくため、大型の戦略や計画の分析に向いているでしょう。
一方、フローチャートの特徴は、使用する情報が最低限に留まるため、評価の負担を抑制できる点です。チャートに沿ってNOが出た段階で該当する経営資源の分析を停止することから、個別に細かく見る一覧表よりも、多くの経営資源を分析できます。
結果は変わらないものの、プロセスには違いがあります。向き不向きを考慮した上で、状況に合ったツール選択が分析の効率や効果を左右する鍵となるでしょう。
5. 戦略に反映させる
評価結果をもとに、経営戦略や施策を立案します。- 強みを活かす:優位性のある資源を中心に市場シェアを拡大する戦略を構築
- 弱点を補完する:改善が必要な資源に投資する、またはパートナーシップを活用する
- 競争環境に適応:分析結果を基に競合他社との差別化を図る
最初に設定した目的に合わせて、適切な戦略に落とし込んでいきましょう。
VRIO分析の注意点
VRIO分析には注意点があります。正確な分析に欠かせない内容となるため、実施する際に確認しておく必要があります。1. 事前に外部環境の分析を行う
VRIO分析の実施にあたっては、事前に外部環境の分析を実施しておかなければなりません。VRIO分析の1問目には、「企業にとっての機会、ならびに脅威」の設問があります。
分析の効果を最大限に理解するためにも必要な措置です。
機会と脅威の詳細を把握したい場合、ファイブフォース分析(業界の収益性を分析するフレームワーク)、PEST分析(マクロな視点で経営環境を分析するフレームワーク)、SWOT分析(意思決定のための現状を分析するフレームワーク)などの併用が効果的です。
2. 判定項目を明確に設定する
VRIO分析を実施する際、判定基準となる項目は明確に設定することが重要です。
分析の基盤となるのは正確なデータであり、さらにそのデータを評価するための判定基準も同じくらい重要であることを認識しておきましょう。
ただし、項目の定義や要件の設定に過度に時間をかけると、分析に使うデータが現状とかけ離れてしまうリスクがあります。このようなギャップを防ぐためにも、詳細さと迅速性のバランスを取ることが大切です。
また、外部との比較を行う際、ターゲットが異なる場合は適切な対象にならない可能性があります。同業種であっても、比較対象の選定には慎重さが求められます。
3. 定期的な見直しと改善を行う
VRIO分析で経営資源が競争優位と評価された場合でも、その優位性が永続するわけではないことに注意が必要です。
2000年代以降、デジタル技術の進化や国際化の進展により、外部環境は絶えず変化し、多様化が進んでいます。その結果、顧客が求める価値基準も固定的ではなく、時代やトレンドに応じて変わっていきます。
そのため、最新のトレンドを敏感にキャッチし、必要に応じてVRIO分析を繰り返し行い、判断を見直すことが重要です。
経営戦略を立案するためのフレームワークVRIO分析
VRIO分析は経営学の中で生まれたアカデミックな内容であり、ジェイ・B・バーニー教授が発表した当初は実務で活用するには不向きと考えられていました。 しかし、評価のためのツールや手法が確立されたことにより、今ではその有用性が認められ、経営戦略の立案に有効なフレームワークの一つとなっています。この分析を適切に活用することで、企業が持つ経営資源の価値を正確に評価し、効果的な経営戦略の立案に役立てることができます。また、VRIO分析を行う際には、他のフレームワークと組み合わせて、自社の課題や最適な戦略をより深く見つけ出すことが重要です。
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