2015年ごろに訪日中国人による「爆買い」など、いわゆる「モノ消費」が大きな話題を呼びました。
観光庁の「令和6年版観光白書について」によると、2023年の観光・レジャー目的で訪日した旅行者の宿泊費、娯楽等サービス費、交通費が2019年と比較して大きく増加するなど、体験消費を含む「コト消費」の成長の兆しが見られています。
昨今ではそれをさらに発展させた「トキ消費」や「イミ消費」も注目を集めています。
インバウンド需要の拡大に伴い、実店舗を有する事業者は、これまで以上に「コト消費」のトレンドを取り入れ、商品開発や販売方法に活かす必要に迫られています。
本記事では、コト消費やトキ消費・イミ消費の概要と、店舗で実施可能な「コト消費」の商品拡大について解説します。
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コト消費とは
コト消費は、インターネットの普及による消費者心理の変化を背景に、存在感を高めてきました。モノ消費からの変遷、および代表的なコト消費の種類について解説します。
モノ消費との違い
「コト消費」と「モノ消費」には、その消費対象に明確な区分が存在します。
消費者庁によると、モノ(商品)を購入して所有する消費形態を「モノ消費」と呼ぶ一方、旅行や習い事、芸術鑑賞などの機会やサービスを消費する形態を「コト消費」と定義しています。
「コト消費」は体験消費ともいわれ、「体験する」「訪れる」「鑑賞する」など、体験そのものに価値を見出してお金を使う消費行動を指します。
食事や宿泊、マッサージ体験、アクティビティなどといった類のものはこの「コト消費」に該当し、近年市場を賑わせています。
モノ消費からコト消費へ、トレンド変化の背景
消費対象が「モノ」から「コト」へと緩やかに変化している背景としては、日用品や家電など物質的な豊かさを手に入れることのできる消費者が増え、商品自体の機能を求める消費意欲が社会自体で薄れてきたことがあります。
現代社会では、国内市場が成熟したことにより、「モノ」への相対的価値が低下しているといわれています。インターネットの普及によりECサイト等が発達し、商品が安価に入手しやすくなったことも一因でしょう。
インバウンド市場もモノ消費からコト消費へ少しずつシフトしています。
観光庁の調査によると、2023年に観光・レジャー目的で訪日した外国人旅行者1人当たりの消費単価は2019年比で3割ほど増加。なかでも宿泊費、娯楽等サービス費、交通費が大きく増加するなど、体験消費を含む「コト消費」の成長の兆しが見られます。
また、「インバウンド消費動向調査」の2023年年間報告書では、「訪日前に最も期待していたこと」として「日本食を食べること」がトップの83.2%を占めており、次いで「ショッピング(60.9%)」「繁華街の街歩き(51.7%)」「自然・景勝地観光(49.4%)」が位置しています。
日本製品はすでに買い揃えてしまったという現状から、物質的な豊かさではなく体験・サービスといった「コト消費」により、精神的な豊かさへの需要が高まっていることがうかがえます。
7種類のコト消費
- 純粋体験型:宿泊施設への宿泊、およびスキーやツアー等のアクティビティなど、「体験」を商品として企業が提供することで見込まれる消費
- イベント型:デパートなどの商業施設におけるイベントの開催による消費
- アトラクション施設型:商業施設へ映画館や美術館を併設することにより見込まれる消費
- 時間滞在型:魅力的な空間への長時間滞在を目的とした消費
- コミュニティ型:商業施設内において、情報共有を目的にコミュニティを醸成した場合に見込まれる消費
- ライフスタイル型:インテリアショップや雑貨屋が、顧客のライフスタイルに合わせ商品を組み合わせて販売することにより見込まれる消費
- 買い物ワクワク型:店内のレイアウトや雰囲気など見せ方の工夫により、見込まれる消費
参考:川上 徹也「コト消費」の嘘 (角川新書)
コト消費の次に注目が集まる「トキ消費」「イミ消費」とは
本項では、コト消費の次にトレンドになるとされる「トキ消費」と「イミ消費」のそれぞれの定義について解説します。
トキ消費とは
消費者庁によると、近年とくに若者の消費形態は、「コト消費」から「トキ消費」に移行しています。
「トキ消費」とは、その時、その場所でしか体験できないスポーツイベントやフェスなどで、感動をほかの参加者らと共有するとともに、自らも参加者として盛り上がりに寄与し一体感を得る消費形態のことです。
「トキ消費」の特徴としては、同じ体験は二度と出来ないという「非再現性」と、コンテンツではなく参加そのものが目的である「参加性」、そして参加による貢献度が実感可能な「貢献性」の3要素を基軸に持ちます。
イミ消費とは
2011年に発生した東日本大震災以降広まっているのが「イミ消費」です。「イミ消費」とは、体験や物質的な価値だけでなく、商品やサービスの選択を通じ、社会貢献の実現を目的とした消費行動を指します。
ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリストの竹田クニ氏によって提唱されている概念で、「環境保全」「地域貢献」「フェアネス」「歴史・文化伝承」「健康維持」などをキーワードとし、商品やサービスの機能だけでなく付帯する社会的かつ文化的価値への共感が、消費における重要な判断基準となっています。
「イミ消費」の拡がりにより、外食産業では生産者支援や自社農場化、無化学調味料、無添加などの施策に取り組む事業者が増加傾向にあります。
コト消費の需要を取り込むには
コト消費需要を取り込むために、店舗でどのような販売促進が可能か、3つのアイデアを紹介します。
1. イベントの開催やコミュニティの形成
店舗においてコト消費の需要を喚起してインバウンド消費の拡大を図るためには、季節に合わせたイベントやその時しか味わえない独自のイベントなど、「非再現性」を打ち出したイベントの開催が有効です。
また、ワークショップやセミナーなどを定期的に開催することでコミュニティーを醸成し、コト消費が生まれやすい体験の場を提供することが重要です。
2. 居心地の良い・楽しい空間の提供
また、コト消費の一つである「時間滞在型コト消費」につながる施策として、居心地が良い、あるいは非日常を体験できる楽しい空間を提供することもまたインバウンド集客においては重要です。
カフェを併設した書店などが代表的で、まさに長時間滞在が可能な空間の提供により、そこで時間を過ごすという「コト消費」につながっているといえるでしょう。
モノが溢れている現代において、小売店はただモノを販売しているだけでは売上拡大は見込めません。たとえば「遊べる本屋」をコンセプトとしているヴィレッジバンガードのように、商品の陳列においても工夫を凝らし、魅力的な購買体験を消費者に提供することが大切です。
3. 買い物空間の演出、オフラインとのシームレスな購買体験
EC市場の拡大により、購買において実店舗を選択する消費者は減少傾向にありますが、「店頭で購入したい」というニーズも一定数存在しています。
商品の入手だけを目的とすれば、消費者はECを利用しその目的を果たすことができます。しかし「コト消費」を求める心理は、店内のディスプレイや商品の配置、店員のおすすめやアドバイスにより購入を検討する時間そのものを楽しみたいというニーズを生み出します。
また実際に商品を手で触りながら比較検討が可能な点も実店舗の強みです。
こうして店頭で実際に確認した商品をオンラインで購入できるような仕組み、あるいは反対にオフラインで確認した商品やオーダーした商品をオフライン(店頭)で受け取るような仕組みを「OMO(Online Merges with Offline)」と呼びます。
オンラインサービスは、消費者にとっては支払いに現金が不要なだけでなく、店舗にとっては顧客情報の取得や管理ができるというメリットもあります。
今後はこうした購入の体験を重視しながら、オンラインとオフラインの強みを使い分けるビジネススタイルを運用していくべきでしょう。
最新の消費傾向に合わせ、店舗の工夫を
消費者心理の変化、および国内市場の成熟を受けて拡大してきた「コト消費」は、新たな消費行動である「トキ消費」や「イミ消費」へと発展しつつあります。
新型コロナウイルスの拡大も相まり、購買体験の価値が再度問われている現在、小売店をはじめとした実店舗を有する事業者は、集客施策を今一度見直す必要があります。
最新の消費動向に留意した上で、商品陳列の見直しや、オンラインイベント・セミナー等の開催、キャッシュレス決済導入などの施策実施により、消費者への幅広い選択肢の提供が可能となるでしょう。
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<参照>
観光庁:令和6年版観光白書について(概要版)
観光庁:インバウンド消費動向調査の結果
消費者庁:第1部 第2章 第2節 (1)若者の消費行動
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