近年、聖地巡礼を契機としたインバウンド集客が注目されています。国内外の誘客に効果があることから、旅行会社や自治体をあげた地域活性の手段として活用されているのです。
本記事では、聖地巡礼によるインバウンド集客の可能性を掘り下げるとともに、実際に施策として取り組む際のポイントや事例を解説します。
インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)
観光庁が「聖地巡礼」を推進
聖地巡礼は、マンガやアニメ、映画などの舞台・ロケ地となった場所を訪れることを意味します。作品のロケ撮影をあらたに誘致したり、地域が舞台となっている作品を活用して観光客を呼び込む聖地巡礼は、観光地に3つの経済効果をもたらすとされています。
1つ目は、ロケの受け入れによって発生する宿泊費・食費などの「直接的経済効果」。2つ目は、ロケ地を訪れる観光客によって発生する食費・おみやげなどの「間接的経済効果」。そして3つ目は、メディアへの露出を広告宣伝費に換算した「広告換算効果」です。
政府が公表した「観光白書」においても、ロケ地を観光資源として活用し、観光客に地域のファンになってもらう旅行スタイルは「ロケツーリズム」と呼ばれ、推進されています。
関連記事:2024年度、政府が進めるインバウンド施策とは【令和6年版観光白書 徹底解説(5)】
聖地巡礼によるインバウンド集客の可能性は?
さまざまな効果を生み出すとされる聖地巡礼ですが、インバウンド集客においても同様の効果が期待できるのでしょうか。ここからは、今後の可能性について解説します。日本のコンテンツ市場は成長傾向 「ロケ地巡り」も世界的トレンドに
日本のコンテンツ産業における海外展開の市場規模は右肩上がりに拡大しています。
内閣府が発表した資料によると、日本のコンテンツの海外における売上市場規模は2022年時点で4.7兆円と推計され、なかでもアニメは全体の約3割にあたる1.5兆円にのぼります。
市場成長の背景には、コロナ禍による外出制限があります。この機会が、これまで一部のファンにしか知られていなかった日本のコンテンツが多くの人々に広まるきっかけとなりました。
関連記事:【前編】クールジャパン戦略とは?これまでの取り組みや、コロナ禍による変化を読み解く
次に、世界のトレンドについても見てみます。
エクスペディアが発表した2025年の旅行トレンドには、前年に引き続き「ロケ地めぐり旅」が入りました。調査によると、世界の旅行者の62%が「映画やテレビ番組に影響されて旅行先を検索したことがある」と回答しており、多くの人が旅行においてメディアの影響を受けていることがわかります。
関連記事:エクスペディアが2025年の旅行トレンドを発表 「第の旅先」や「買い物旅行」など
次回「聖地巡礼したい」訪日客は1割 今後増加なるか
観光庁が公表した「インバウンド消費動向調査(2023年)」を見てみると、「次回の訪日でしたいこと(複数回答)」として、「映画・アニメ縁の地を訪問」と回答した人は10.9%でした。
これは他の体験型コンテンツである「温泉入浴」(48.2%)、「自然・景勝地観光」(45.9%)、「美術館・博物館等」(17.7%)などに比べると低い数値です。しかし、近年消費者のニーズがコト消費に移り変わっていることから、今後も日本ならではの体験をしたい人は増えていくでしょう。
このように、今の時点で日本で聖地巡礼を行う観光客は一部であるものの、コンテンツ市場の成長や世界的なトレンドといった追い風が吹いています。今後、聖地巡礼を行うために訪日する人は増えるかもしれません。
聖地巡礼でインバウンドを集客するための条件は?
実際に聖地巡礼でインバウンド客を集客するには、どのようなポイントを押さえておくべきでしょうか。
今回は、観光庁が発表した資料をもとに、「グローバルに支持されるコンテンツの特徴」を4つ紹介します。
1. 没入感を得られる
没入感とは、まるでその世界に入り込んだような感覚のことをいいます。映画やテレビで描かれた世界を実際に体験できることは、まさに聖地巡礼の魅力です。そのためには、ただ単にロケ地を訪れるだけでなく、作品で登場した食事を実際に味わったり、地元の文化や伝統を体験したりすることも含まれます。そのため、参加型の体験を通して、観光客が物語の世界観を感じられるようにコンテンツの設計を行うことが重要です。
2. 作品について新しい発見がある
聖地巡礼を目的に訪れる旅行者は、その作品について新しい発見や気づきを求めています。
実際にロケ地を訪れ、作品制作の裏側を学んだり、撮影地の歴史や文化を理解したりすることで、観光客は好きな作品の新しい視点を得ることができます。地域への訪問が、新たな学びを与える機会となることが必要です。
3. その地域について新しい発見がある
聖地巡礼においては、作品だけでなく訪れた地域についても、観光客が魅力を発見できることが重要です。作品が「地域を知る窓」となるように、景観や文化、歴史、現地の人との交流といった地域の魅力を提供することも、聖地巡礼において欠かせない要素となります。
4. コミュニティとのつながりを感じられる
ファン同士の交流も、聖地巡礼の大きな魅力です。
観光客同士が作品について知識を共有したり語り合ったりすることで、コミュニティへの帰属意識が育まれます。
全国にある聖地巡礼スポット7選
ここからは、漫画やアニメなどを活用して、聖地巡礼スポットとして集客に成功した事例をご紹介します。
埼玉県久喜市「らき☆すた」
埼玉県久喜市は、2007年に放映開始したアニメ「らき☆すた」で一躍有名になりました。久喜市にある鷲宮神社をモデルとした場面が作中に描かれており、それをきっかけに全国のファンが駆けつけるようになったのです。
当時はまだ「聖地巡礼」という言葉が一般的ではなかったものの、鷲宮町(現在は久喜市と合併)はこうした機会が地域活性化につながるチャンスと捉え、地元商店でオリジナルグッズを販売したり、出演声優を呼んだイベントを開催したりと、地域全体でアニメファンを受け入れる体制を整えました。
ファンと丁寧に信頼関係を築く取り組みが功を奏し、多くの人が「らき☆すた」をきっかけとして「久喜市鷲宮」のファンにもなりました。作品をきっかけに地元を活性化させた鷲宮の例は、「レジェンド聖地」と称されています。
神奈川県湘南地区「スラムダンク」
神奈川県の湘南地区は、漫画「スラムダンク」の舞台として有名です。
中国や台湾などを中心に世界各国にファンがいることから、代表的な聖地である「鎌倉高校前駅」をはじめ、多くの外国人観光客が湘南地区に訪れています。
もともと鎌倉高校前駅付近には目立つ観光地などはありませんでしたが、神奈川県はこうした人気を受け、アニメや漫画の舞台となったスポットをまとめたガイドブックや、外国人観光客向けの観光地を紹介するサイトを公開し、インバウンド需要に対応しています。
現地オプショナルツアー・アクティビティ専⾨の予約サイト「KKday」においても、「スラムダンク聖地巡礼ツアー」として、作中で登場したスポットなどを1日かけて巡る訪日外国人向けツアーが販売されています。
茨城県東茨城郡大洗町「ガールズ&パンツァー」
茨城県東茨城郡大洗町は、アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台のモチーフとして知られており、作品を地域活性化につなげていることで有名です。
例えば、地元で開催されている「大洗あんこう祭り」では、出演声優を招待しトークショーや関連グッズの販売などを行いました。その結果、3万5,000人程度だった来場者数は、その年には6万人にまで増加しました。
ほかにも、県内を走行する鹿島臨海鉄道において、キャラクターのデザインをあしらったラッピング車両を運行するなど、地域全体で聖地巡礼を活用した町おこしに取り組んでいます。
静岡県沼津市「ラブライブ!サンシャイン!!」
静岡県沼津市は、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台として知られています。
市内の商店に作品のコーナーを設けたり、商店街のアーケードに登場人物のイラストを飾ったり、ラッピング電車・バスを運行するなど、作品をさまざまなシーンで町おこしに活用しているのが特徴です。
沼津市が運営する観光サイトでも、作品のロケ地を巡るおすすめプランを紹介しており、作中で登場した風景を観光客が実際に楽しめるよう工夫がされています。
岐阜県飛騨地方「君の名は。」
2016年に公開された映画「君の名は。」では、作品の舞台とされる場所が日本各地に存在しており、岐阜県飛騨地方もそのひとつです。
映画に登場した「組紐」を体験できる施設や、登場人物たちが食した五平餅、物語の風景そのもののロケ地での写真撮影が人気となり、2017年における飛騨市全体の観光客数は約113万人と、2016年に比べて約12.4%増加しました。その中でも、特に人気の高い古川町では、観光入込客数が公開前年度比で約20%伸び、約70万人が訪れたとされています。
ロケを誘致し、自分たちで「聖地」を作る事例も
もともとあった作品を活用するだけではなく、自分たちでロケを誘致して「聖地」を作った事例もあります。
佐賀県内で行われるロケ撮影を支援する佐賀県フィルムコミッション(以下、佐賀県FC)は、東南アジアの作品を積極的に誘致しています。
2013年に県内で撮影され、タイで大ヒットした映画「タイムライン」をきっかけに、佐賀県のタイ人宿泊者数は370人から1万290人まで増加しました。
一般的に自治体がロケ誘致を進めるのは難しいと言われていますが、佐賀県FCはライバルが少ない海外市場をターゲットに絞り、さまざまな工夫を行うことで集客に成功しました。この成功をきっかけに、佐賀県FCはその後もマレーシアをはじめとした海外作品のロケ誘致に取り組んでいます。
佐賀県は、地方がインバウンド客を長期的に集客できるモデルケースとして評価されています。
関連記事:マレーシアの人気ドラマ、舞台は「佐賀」 ロケ誘致で地域を盛り上げるフィルムコミッションの挑戦
長期的な視点を持ち、地域で連携することが重要
聖地巡礼におけるインバウンド集客の可能性と、実際にインバウンド誘致を行う際のポイントや事例を解説しました。
ここで意識しておきたいのは、地域が作品の舞台になったとて、必ずしも地域活性化が成功するわけではないということです。「観光客をたくさん集める」といった短期的な利益にとらわれず、地域全体で協力して、制作側やファンと関係を築いていくことが、持続的な地域振興につながります。
難易度は高いものの、長期的な地域活性化につながる聖地巡礼には、大きな可能性があります。地域や作品ごとに特性があることを理解し、過去の成功・失敗事例を参考に進めていくのが良いでしょう。
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!
<参照>
内閣府:新たなクールジャパン戦略
観光庁:
外務省:ゼロからレジェンドへ。アニメ聖地巡礼で地域振興の先駆者「久喜市鷲宮」と「らき☆すた」の取り組み
全国町村会:埼玉県鷲宮町/アニメを活かした町おこし~地元とファンの交流を成功に導いたものとは~
国土交通省:令和6年版観光白書
内閣府ホームページ:平成 28 年度内閣府委託調査事業「クールジャパン拠点連携実証調査」報告書
KKday:スラムダンク聖地巡礼1日ツアー(東京発 - 電車+タクシー)
沼津観光ポータル:「ラブライブ!サンシャイン!!」のロケ地を巡ろう!
【4/3開催】最新調査から読み解く!訪日中国人の消費トレンドと今後の対策
訪日中国人の消費傾向は、ここ数年で大きく変化しています。
「どんな商品・サービスが求められているのか?」
「購買行動はどのように変化しているのか?」
最新の市場データをもとに、今後の戦略に役立つインサイトをお届けします。
本セミナーでは、訪日中国人市場を熟知した専門家が、最新の消費トレンドを分析し、今後のビジネスに活かせるポイントを解説。
データを元にしたリアルな現況を知ることで、競争が激化するインバウンド市場での成功へのヒントが得られます!
<本セミナーのポイント>
- 今後のインバウンド戦略に役立つ最新情報が学べる!
- 中国市場に精通した専門家による実践的な解説!
- 最新データをもとにしたリアルな市場状況が分かる!
詳しくはこちらをご覧ください。
→【4/3開催】最新調査から読み解く!訪日中国人の消費トレンドと今後の対策
【インバウンド情報まとめ 2025年3月前編】万博まであと1か月!インバウンド需要は?JNTOの方針は? ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。
この記事では、主に3月前半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→【万博まであと1か月】インバウンド需要は?JNTOの方針は? ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年3月前編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!