政府は6月18日、令和6年(2024年)版の観光白書を閣議決定し、公表しました。
今回の観光白書では、主に「訪日外国人旅行者の地方誘客と消費拡大」に焦点をあてて分析を行っています。
訪日ラボでは全5回にわたり、インバウンド向け施策を実施している方なら読んでおきたい箇所をピックアップして説明してきました。最終回となる今回の記事では、「令和6年度に講じようとする施策」を解説します。
- 第Ⅰ部 令和5年観光の動向
- 第1章 世界の観光の動向
- 第2章 日本の観光の動向
- 第3章 インバウンドの地方誘客と消費拡大に向けて
- 1 インバウンド観光の現状と課題
- 2 地方部におけるインバウンド観光の動向と地域の取組事例
- 3 訪日外国人旅行者の地方誘客と消費拡大に向けて
- 第Ⅱ部 令和5年度に講じた施策
- 第Ⅲ部 令和6年度に講じようとする施策
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インバウンドは「消費額拡大・地方誘客促進」を重視
2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、以下の3つの戦略が掲げられています。
- 持続可能な観光地域づくり
- 地方を中心としたインバウンド誘客
- 国内交流拡大
「持続可能な観光地域づくり」では、高付加価値化や人材育成など、観光産業の収益力を向上させ、地域社会に好循環を生む仕組みづくりを推進することを目標としています。
また「地方を中心としたインバウンド誘客」では、政府は「消費額拡大・地方誘客促進」を重視した施策を行っています。主な内容は、以下の4点です。
- 特別な体験の提供など、コンテンツの整備
- 全国11モデル地域での高付加価値旅行者の誘致
- MICEの推進(海外ビジネス客の訪日・消費拡大)
- アウトバウンド・国際相互交流の促進
今回は、令和6年度に政府が実施予定の施策をピックアップしてご紹介します。
持続可能な観光地域づくり
地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化
ハード面の取り組みに加え、キャッシュレス化やシームレスな予約・決済ができるサイトの構築など、DX化によるソフト面の取り組みを推進します。
またITシステム活用による生産性の向上や従業員の待遇改善など、高付加価値化に向けた経営を行う事業者を積極的に支援することで、「持続可能な稼げる産業」への変革を促します。
観光DXの推進
全国の観光地のDXを推進するため、上記に加え、デジタルを活用したマーケティング強化モデルを構築します。また観光地域づくり法人(DMO)などを対象に、データに基づいた経営戦略の策定やマーケティング強化に向けた研修を実施します。DMOを司令塔とした観光地域づくりの推進
世界に誇る観光地を作るために、その司令塔となるDMOの形成を促進します。また、「世界的なDMO」の候補となる「先駆的DMO」に対する支援を通じて、観光による恩恵が地域にいきわたる仕組みの構築を促進します。訪日外国人の災害被害軽減
訪日外国人旅行者が安全・安心に旅行できる環境を整備するため、観光施設などの避難所機能強化、災害時の多言語対応強化に加え、医療機関におけるキャッシュレス決済環境の整備など訪日外国人患者の受入機能強化を支援します。
新幹線については、非常時に駅構内やウェブサイトなどで情報を多言語(英語、中国語および韓国語)で実施できているか、継続して検証を行います。
空港については、利用者が安全に避難し、安全・安心に空港内に滞在できるよう、非常時の情報提供(空港アクセスの被害や復旧状況の配信など)や自然災害を想定した訓練を実施します。
統計の整備や活用の推進
訪問地間の流動や利用交通機関の実態が把握できる訪日外国人流動データを公表し、戦略的なプロモーション施策への活用を促進します。また観光の実態を正確に把握するため、統計の精度向上やデータ活用拡大に向けて取り組みます。特にインバウンド消費動向調査については、広いデータ活用・分析を可能にするため、調査対象や調査方法の見直しに向けた検討を行います。
令和6年能登半島地震への対応
能登半島地震の被災地の風評被害を防ぐために、観光庁やJNTOのウェブサイトで正確な情報を発信するとともに、国内外の旅行者の旅行代金を割引する「北陸応援割」を実施し、観光需要を喚起します。また能登地域については、より手厚い旅行需要喚起策を検討します。関連記事:能登地震後、インバウンドの意識に変化は?訪日意欲は高水準
消費拡大に効果があるコンテンツの整備
アドベンチャーツーリズムの推進
コンテンツの磨き上げやガイドの育成などを支援することで、国内外の旅行者の消費拡大や満足度向上、安全・安心で楽しめる旅行環境の整備を図ります。また、Adventure TravelTrade Association(ATTA)と連携して魅力を発信するとともに、コンテンツの磨き上げと販路拡大に向けた取り組みを実施します。
アート・文化芸術コンテンツの整備
大阪万博に向けたコンテンツの磨き上げ
2025年の大阪万博に向けて、全国各地で文化資源を活用した観光コンテンツの磨き上げや創出を行います。また、日本文化の魅力について、デジタルコンテンツなども活用し、国内外に効果的に発信します。
ロケツーリズムの推進
映画やアニメのロケ地や舞台は、作品のファンがゆかりの地として訪れることにより、さまざまな経済波及効果を生みます。経済・社会的効果を上げるため、地域内の連携強化を図るとともに、コンテンツを「聖地巡礼」の促進に活用するなど、ロケツーリズムの推進に官民一体となって取り組みます。
関連記事:ロケツーリズムとは?ドラマや映画で地方観光客が増加/経済効果31億円の成功事例も
地域の食材を活用したコンテンツの整備
ガストロノミーツーリズムの推進
地方公共団体などに対して、文化的価値をわかりやすく伝える「食文化ストーリー」を発信するモデル事例の形成を支援し、食文化の魅力発信を推進します。
またインバウンドの地方誘客を促進するため、先進的な観光地域創出に向けて食の専門家による伴走支援などを行います。
酒蔵ツーリズムの推進
酒蔵の観光化や、国内の酒蔵やワイナリーなどを巡る「酒蔵ツーリズム」を推進し、日本産酒類の認知度向上を図ります。
日本酒、焼酎・泡盛などのユネスコ無形文化遺産への登録
「伝統的酒造り」は現在ユネスコ無形文化遺産へ提案中で、2024年12月に審議が見込まれています。登録に向け、引き続き様々な広報活動に取り組む予定です。
関連記事
魅力ある公的施設の公開・開放
迎賓館赤坂離宮や京都迎賓館、皇居といった文化的価値の高い公的施設において、一般公開の拡大や複数言語対応ウェブサイトなどの活用、特別ツアー実施など、新たな参観者層の取り込みや魅力度向上を促進しています。
消費税免税店の拡大によるショッピングツーリズムの推進
外国人旅行者向けの消費税免税制度については、「令和6年度税制改正の大綱」において、出国時の購入品確認の際に免税販売が成立する制度に見直すことが決まりました。これを踏まえ、旅行者の利便性の向上や免税店の負担軽減に配慮しながら、新制度の詳細を検討します。
地方誘客に効果があるコンテンツの整備
国立公園の魅力向上とブランド化
国立公園に国内外の利用者を呼び込み、保護と利用の好循環を作るための取り組みを実施します。また訪日外国人の体験満足度を向上させるため、多言語解説の整備や展示パネルの多言語化など、一体的な整備や魅力発信を行います。
また高付加価値観光を実現するためにコンテンツの充実などを行うとともに、ウェブサイト・SNSなどを通して国立公園の魅力を発信し、利用を促進します。
国際競争力の高いスノーリゾートの形成
スキー・スノーボードを楽しむ訪日外国人旅行者が増加している背景から、高付加価値化に寄与するリフト・ロープウェイの新設やDX対応を対象として、スノーリゾートの取り組みを支援します。
またJNTOは、スキー人口が急増中の中国や日本のパウダースノーへの関心が高い米国・オーストラリアにおいて、現地旅行会社との連携強化を図るとともに、スノーアクティビティやウインタースポーツに関するプロモーションを実施します。
歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進
お寺や古民家などでの宿泊・滞在型コンテンツを軸に、地域資源を活用した高付加価値化を推進しつつ、歴史的建築物の再建築、情緒ある景観の再現に対して支援を行います。
文化観光の推進
訪日外国人が文化財への理解を深められるよう、博物館や美術館などの文化施設において、多言語化やWi-Fi・キャッシュレス環境整備、国内外への宣伝などの取り組みを引き続き支援します。また、観光資源としても有効な文化財について、デジタル技術を活用した多言語解説を観光施策と連携させながら整備します。
スポーツツーリズムの推進
スポーツによるまちづくりを推進していくため、新たな事業展開へのチャレンジを支援するとともに、「地域スポーツコミッション」の運営を担う人材の育成に向けたマッチングを促進します。
また地域を活性化させるため、実証モデルの効果検証やプロモーションを実施することで、訪日意欲の喚起や地方誘客を促進します。
関連記事:【事例紹介】スポーツツーリズムとは?地域活性化への効果も紹介
農泊の推進
農山漁村の所得向上と関係人口の創出を図るため、実施体制の整備や経営の強化、観光コンテンツの磨き上げ、国内外へのプロモーションなどを一体的に支援します。
離島における観光振興
離島にある資源を活用して若者や旅行者らが離島へ向かう流れを活性化するため、SNSなどでの情報発信やデジタルの活用、関係人口の創出に向けた施策などを行う地方公共団体を「離島活性化交付金」により継続的に支援します。
戦略的なプロモーションの実施
新規訪日層の開拓
JNTOは、欧米豪を中心に存在する「海外旅行には頻繁に行くが日本を旅行先として認識していない層」に対して、海外旅行のきっかけになるような広告を展開し、旅行先としての日本の認知度を高め、新規訪日層の開拓を図ります。
またアジア10市場(中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンおよびベトナム)については、ライトリピーター(訪日2〜5回)を対象に、地方誘客を強化するための施策を行います。
大規模イベントを活用した情報発信
大阪万博を機に日本各地で食や文化の体験をしてもらい、地域の魅力を認知してもらうため、観光コンテンツの充実や地域周遊の促進、受け入れ環境整備を引き続き実施します。また、観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」による情報発信を実施します。
また2027年に行われる国際園芸博覧会に向けて、日本の高品質ないけばな、盆栽、日本庭園などを、各国への参加招請や博覧会などを通じて発信します。
各分野と連携した情報発信
大使館や総領事館などを活用した観光プロモーションの推進
大使館や総領事館が運用しているSNSアカウントを活用して、外務省やJNTO、地方公共団体などが発信したコンテンツや、各国のトレンドを踏まえた独自コンテンツを発信することで、日本への関心・理解の促進を図ります。
クールジャパンの海外展開
海外にて地域資源を活用した日本製品の認知度を高めるため、バイヤーなどの招へいを通じて、製品の魅力に触れる機会を設けます。また伝統的工芸品の産地の風景や、工房で職人が制作する様子を撮影した動画を英語字幕付きで作成しYouTubeなどで配信することで、伝統的工芸品の需要と産地の活性化につなげます。
関連記事:【前編】クールジャパン戦略とは?これまでの取り組みや、コロナ禍による変化を読み解く
日本食・日本食材の海外への情報発信
訪日外国人旅行者や現地の一般消費者に対して日本食の興味向上を促すため、プロモーションを実施します。また、訪日外国人旅行者が帰国後も購入できるよう、海外で日本産の食材を積極的に使用する飲食・小売店を「日本産食材サポーター店」として認定する取り組みを推進します。
MICEの推進
「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」や大阪万博の開催を踏まえ、政府として各種国際会議を積極的に開催するとともに、政府一体となったMICEの誘致・開催の支援を進 め、国内でのMICE開催案件の増加を図ります。
また開催地としての地域の魅力を向上させるため、歴史的建造物や文化施設などを会場にしたユニークベニューの活用を促進します。
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インバウンド受入環境の整備
航空ネットワークの回復と強化
航空ネットワークの維持・活性化に向けて、空港使用料や航空機燃料税の軽減、空港会社への無利子貸付など必要な支援を行います。またサステナブルツーリズムへの対応として、持続可能な航空燃料の導入などの脱炭素化を推進します。
労働力不足への対策としては、区域内での無人自動運転の導入に向けた実証実験の実施など、先端技術を利用した自動化を推進します。
また、ビジネスジェット(プライベートジェット)の利用環境を改善し、高付加価値旅行者の需要等に応えます。
国際拠点空港の整備・アクセス向上
首都圏空港の発着容量を年間約100万回に拡大するため、羽田空港や成田空港にて基盤整備や旅客ターミナルの再構築、空港アクセスの利便性向上などを進めます。
関連記事:「新しい成田空港構想」国交省へ提出、インバウンドへの影響は?
訪日クルーズ本格回復への取り組み
2025年までに訪日クルーズ利用客250万人、外国クルーズ船寄港回数2,000回を達成するため、受入環境の整備やプロモーション活動、船内コンテンツ造成などを支援します。またクルーズ寄港地ではイベント開催や体験乗船を実施し、地域住民の理解を促進します。2025年までに、外国クルーズ船が寄港する港湾数を100港とすることを目指します。
MaaSなど新たなモビリティサービスの基盤整備の支援
観光地内の周遊性を高めるため、シェアサイクル導入の促進やタクシー利用環境の整備を進めます。特にタクシーについては、多言語対応やキャッシュレス決済対応のほか、空港・主要駅における訪日外国人対応タクシー乗り場・入構レーンの設置なども行います。
出入国に関する受入体制の確保
政府は観光立国の実現に向けて、空港での入国審査待ち時間を20分以内にすることを目標にしています。そのため、世界初の出入国審査パッケージ導入や世界最高水準の技術を活用し、革新的な出入国審査の実現を目指しています。
訪日外国人対応の推進
大阪万博に来場する訪日外国人旅行者の受入に向け、CIQ体制の強化や外国人にわかりやすい表示の整備など、社会全体のICT化を推進します。また、全国各地での関連イベント開催や地域周遊の促進を実施するとともに、観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」による情報発信をすることで、外国人来訪者を全国に誘客して、万博の開催効果を日本全体に波及させることを目指します。さらにオンライン上で万博にバーチャル参加できるような仕組みや、日本の魅力的なコンテンツにアクセスできるような環境整備も推進し、来場前や来場できない訪日外国人にもアプローチを行います。
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▼この連載の記事
- 世界・日本の観光動向は?【令和6年版観光白書 徹底解説(1)】
- インバウンドの現状と課題は?【令和6年版観光白書 徹底解説(2)】
- インバウンドの地方誘客と消費拡大の動向は?取り組み事例も紹介【令和6年版観光白書 徹底解説(3)】
- 2023年度に日本政府が行ったインバウンド施策を紹介【令和6年版観光白書 徹底解説(4)】
- 2024年度、政府が進めるインバウンド施策とは【令和6年版観光白書 徹底解説(5)】
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<参照>
観光庁:「令和5年度観光の状況」及び「令和6年度観光施策」(観光白書)について
【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか
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