酒蔵ツーリズムとは、お酒の醸造や貯蔵をする蔵である酒蔵を観光コンテンツとして誘客したり、楽しむ観光の一形態です。酒蔵の見学ツアーや試飲などが含まれます。
近年、地方における観光振興として、酒蔵ツーリズムの誘客効果に期待されています。観光庁の呼びかけによって設立された日本酒蔵ツーリズム推進協議会を中心に、各地で様々な酒蔵ツーリズムが展開されています。
この記事では、各地での酒蔵ツーリズムの事例と、採用されているインバウンド対策について紹介します。
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酒蔵ツーリズムとは?
酒蔵ツーリズムは、日本酒や焼酎といったお酒を造る施設の見学や、作る体験、またそこでしか手に入らないような品をコンテンツとする観光です。
地域活性化へのポジティブな影響が期待されています。地域が一丸となって異業種連携を取りながら地域活性化を目指すことが、酒蔵ツーリズムの基本理念です。
お酒の原材料や加工の地を巡りながら、その地域ならではの郷土料理や伝統を体験する形態が主な体験内容となります。
日本酒や焼酎、泡盛、ワイン、ビールなどといった各地の酒造を巡り、お酒を味わいながら地元住民とのふれあいを楽しみます。
日本酒蔵ツーリズム推進協議会の動き
観光庁によって設立された「日本酒蔵ツーリズム推進協議会」は、日本酒や焼酎などといった日本で製造されたお酒を盛り上げることで、それらを観光資源として生かすことを目的としています。加えて、地域の魅力を発信することを目指し、地域活性化を図るために発足されました。
さまざまな自治体および企業と協力し、日本における食文化の発信および地域の活性化を目指しており、「日本の酒キャンペーン」などの活動をしています。
日本酒蔵ツーリズム推進協議会が主に推進している取り組みとして、酒蔵の見学および体験、地域の酒蔵をまわるスタンプラリーの開催、訪日外国人に向けたツアーの開催があります。
この中にはすでに地方自治体が取り組んでいるものもありますが、酒蔵ツーリズムの知名度がいまだに低いのが現状です。
そこで、日本酒蔵ツーリズム推進協議会を通した講演会や意見交換会などの活動により、課題を解決する方法を模索しています。
酒蔵ツーリズム展開の4事例
酒蔵ツーリズムを地域活性化に生かすために、各地域ではどのような事業を展開しているのでしょうか。この項では、4つの地域における事例を紹介します。
1. 酒蔵ツーリズム(佐賀県鹿島市)
佐賀県鹿島市は県内でも有数のお酒の産地であり、先程紹介した「鹿島酒蔵ツーリズム」が開催された地域でもあります。鹿島市の酒蔵をまわり蔵人と交流しつつ、お酒や食、さらには歴史などの文化を体験ができる点が、「鹿島酒蔵ツーリズム」の見どころです。このように酒類と地域特有の文化を組み合わせることで、国内外へ地域の魅力を発信し、地域全体の活性化を図っています。佐賀県は、西南部に位置する多良岳山系によって清水や質の良いお米に恵まれており、江戸時代から現在まで続く酒蔵が6蔵あります。
その中の1蔵である「富久千代酒造」で醸造された「鍋島 大吟醸」はとても有名です。2011年に開催されたIWC(インターナショナルワインチャレンジ)の日本酒部門において、世界一の栄誉ともいわれる「チャンピオン・サケ」に選ばれました。
これによって、「世界一のお酒が生まれたまち」として各地から注目を浴び、来訪者も増えました。
2. 利根沼田酒蔵ツーリズム(群馬県利根沼田地域)
群馬県の北部に位置する利根沼田地域は利根川の源流などの豊富な自然に恵まれており、天然水を活用した酒蔵やワイナリーがあります。日本酒造、ビールメーカーおよびワイナリーが協働で「利根沼田酒蔵ツーリズム」を開催しています。タクシーを利用した酒蔵ツーリズムを提案しており、毎週金曜日から月曜日までの4日間限定で開催しています。各酒蔵では、おすすめの利根沼田観光スポットも紹介しており、お酒だけではなく、地域の文化や歴史にも触れられるツアーを楽しむこともできます。
3. 海の京都酒蔵めぐり(京都府)
京都は気候と土壌に恵まれており、質の良い米や名水はもちろん、脈々と受け継がれてきた技術がそろっている酒処となっています。古都である京都ならではの魅力として、文献に伊勢神宮にお酒を伝えたとの記述がある点や酒造りの名人である羽衣天女の伝承など、お酒と歴史の関係もあります。
「海の京都酒蔵めぐり」では酒蔵をきっかけとして、地域における食文化、自然および歴史などの観光資源を生かした地域活性化を図る施策が行われています。
「海の京都観光推進協議会」が主体となって、試飲の企画やイベントへの出店支援などを積極的に行っています。
4. 酒都・西条酒蔵通り(広島県東広島市西条)
広島県東広島市西条は、酒蔵が並ぶ風情ある街並みが特徴の銘醸地の1つであり、2008年には経済産業省から「近代化産業遺産群続33」に選出されています。各地にある酒蔵では、お酒の試飲販売はもちろん、蔵の見学や酒蔵を改装した飲食店、藍染めの体験などさまざまなことを楽しめます。JR西条駅から1kmの範囲に7社の酒蔵が集まっている「酒蔵通り」では、ボランティアガイドによる案内もあるため、気軽に酒蔵ツアーを楽しめます。
酒蔵ツーリズムに必要なインバウンド対策
紹介したように、各地域ではその土地の魅力を生かしながら、酒蔵ツーリズムを行っています。しかしどんなに素晴らしい酒蔵ツーリズムを開催しても、ターゲットの目に留まらなければ、地域活性化につなげられません。そこでこの項では、より効果的な集客をするための情報発信の方法や、現地でのインバウンド対策などについて紹介します。
SNSでの配信
SNSによって爆発的に拡散されることで、人気や注目度が飛躍的に向上することが少なくありません。そこで大切なのが、多言語対応です。訪日外国人観光客をターゲットとした場合、日本語のみのホームページではターゲットが得られる情報が極端に少なくなってしまう恐れがあります。
英語表記に対応するだけでもターゲットの幅が広がるため、もしまだ多言語対応していない場合は検討してみるのも良いかもしれません。
ほかに企業がよく行う方法として、インスタグラム等を使用したインフルエンサーマーケティングがあります。この方法を利用することで宣伝効果だけでなく、実際の利用者の声が聞けることによる利益も生まれます。
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交通事業者との提携
情報発信の次に大切なこととして、公共交通機関の利用が簡便か、といった点があります。国内外問わず、観光客はその土地に不慣れである場合が多いため、アクセスの良さを重視する観光客は少なくありません。鹿島酒蔵ツーリズムでは、6蔵をまわる無料バスツアーを設けていました。
また、遠方から来る観光客のために、JR九州と提携した日帰りの旅も企画していました。バスツアーでは、マイクロバスを貸し切り、各酒蔵のほかに、地元の観光スポットやお祭りの会場なども楽しめます。
JR日帰りの旅では、専用特急列車に乗って、各酒蔵での試飲が楽しめるほか、お土産におちょこやおつまみなどももらえます。
通訳ガイド
先程も紹介した通り、インバウンド対策において、多言語対応は必要不可欠となります。情報発信の場だけではなく、実際に酒蔵ツーリズムを行う際にも多言語対応が行われているか否かは、訪日外国人観光客にとって注目すべきポイントでしょう。日本語に不慣れである訪日外国人観光客のために、通訳ガイドを同行させることで、安心してより充実したツアーを楽しんでもらえるでしょう。2017年には、日本酒蔵ツーリズム推進協議会と、通訳案内士を多く抱えているNPO日本文化体験交流塾 / True Japan Tour株式会社が提携した事業を展開しています。
題して、「通訳案内士向け酒蔵研修ツアーin会津」を行い、酒蔵見学や試飲を通して歴史的な資源を見学するツアーとなっており、2017年に開催された際は、約40名の通訳案内士が参加しました。
インバウンド誘客で地方を活性化する
日本の酒蔵ツーリズムに魅力を感じる訪日外国人観光客は多くいると考えられます。酒蔵やそこで開催されているイベントなどの情報を積極的に発信することで、より多くの集客が望めるでしょう。しかし、多言語対応等も視野に入れなければ、インバウンドの目に留まりにくいことも予想されます。紹介した対応策を参考にインバウンド対策を実践することで、より効果的な集客が期待できます。酒蔵ツーリズムを国内外に広く、また的確な方法で知らせることは、酒蔵ツーリズムをさらに広く展開しインバウンドを魅了することにつながります。そうすることで、地方における観光業をより振興できる取り組みとなるでしょう。
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
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詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
→「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
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