【連載:マーケティング用語・施策の基礎解説】 |
マーケティング戦略では、ターゲット分析が欠かせません。その際、「どのような人に、どのような消費傾向があるか?」を考え、ペルソナを設定します。
ペルソナを作るための分析手法の一つがサイコグラフィックです。これは、顧客の価値観・ライフスタイル・趣味・行動パターンなどを分析する手法で、デモグラフィック(属性情報)だけでは分からない深層的な動機を把握できます。
本記事では、サイコグラフィックと他の分析手法の違い、重要性、具体的な活用方法について解説します。
関連記事:ペルソナとは?意味・マーケティングへの活用・どう設定する?ターゲットとの違いも解説
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サイコグラフィックとは?
ペルソナを明確にするために、市場を細かく分け、見込み顧客をグループ化する手法を「セグメンテーション」といいます。
セグメンテーションを行う際によく用いられる分類方法に、「サイコグラフィック」「デモグラフィック」「ジオグラフィック」「行動変数」の4つがあります。
まずは、サイコグラフィックの特徴や、他の分類方法との違いを詳しく説明します。
サイコグラフィックについて
サイコグラフィック(Psychographics)は、「心理学的属性」と表現されます。これは、見込み顧客の気持ちや考え方など、表面上ではわからないパーソナルな指標です。
たとえば終活関連の商品を販売するとき、ターゲットはおもに高齢者になるケースが多いでしょう。この時点でペルソナの条件に「高齢者」という項目が設定されますが、これはサイコグラフィックではありません。
サイコグラフィックの要素となる指標は次のようなものです。
- 悩みやストレス
- 宗教観などの信念
- 趣味・嗜好
- 性格
- 価値観
- ライフスタイル
つまりサイコグラフィックは、性別や年齢のように外見から推測できる情報ではなく、価値観やライフスタイルなど、本人の内面を知ることで初めて分かる要素です。
先ほどの終活関連の商品の例であれば、以下がサイコグラフィックの抽出例になります。
- 家族との関係性を大切にする
- 趣味や特定の活動に情熱を傾けている
- シンプルかつ合理的に済ませたい
サイコグラフィックとデモグラフィックの違い
デモグラフィック(Demographics)とは、人口統計学的な属性を指し、性別・年齢・職業などの社会的な特性に基づいてグループ分けする手法です。
統計データをもとに、顧客層の分析や市場を細分化する際に活用されます。
サイコグラフィックが「価値観やライフスタイル」などの心理的要素を分析するのに対し、デモグラフィックは「個人の属性データや履歴」に基づいた分類が特徴です。
具体的には、性別・年齢・職業・収入・家族構成などがデモグラフィックの代表的な指標です。
先ほどの終活関連の商品の例であれば、以下がデモグラフィックの抽出例になります。
- 年齢: (例:10代、20-34歳、65歳以上など)
- 性別: (例:男性、女性)
- 居住地: (例:国、都道府県、市区町村、都市部、地方部など)
- 所得・収入: (例:年収300万円未満、500万~700万円、世帯収入など)
- 職業: (例:会社員、公務員、自営業、学生、無職など。業種や役職で細分化することも)
- 学歴: (例:高校卒業、大学卒業、大学院修了など)
- 家族構成: (例:独身、既婚(子なし)、既婚(子あり)、ひとり親世帯、三世代同居など)
- 民族・人種: (※国や地域によっては重要な変数となります)
サイコグラフィックとジオグラフィックとの違い
ジオグラフィック(Geographics)とは、「地理的属性」をいいます。国や地域、都市の大きさ、発展の度合い、気候、歴史・文化、そして宗教など、地理的要因によって属性が決まる点が特徴です。
宗教という言葉がサイコグラフィックの説明でも登場しましたが、サイコグラフィックが「価値観や宗教観などの信念」と個人の考え方に視点が及ぶのに対し、ジオグラフィックは地域や組織・集団といった「どこに属しているか」ということや気候などによって細分化する手法です。
先ほどの終活関連の商品の例の場合、以下がジオグラフィックの抽出例です。
- 日本
- 東京
- 新宿在住
- 人口密度が高い
- 下町育ち
サイコグラフィックと行動変数(ビヘイビアル)の違い
行動変数は、「ビヘイビアル」とも呼ばれ「行動学的属性」を意味します。マーケティングでは、購買行動の特徴から実生活における行動パターンまで幅広く対象とします。
具体的には、買い物の頻度、曜日、時間、購買履歴、購買経路などが行動変数です。
行動変数はサイコグラフィックの指標であるライフスタイルと似た項目ですが、サイコグラフィックが繰り返しお伝えしているように気持ちや考え方など心理的な切り口となります。これに対し、行動変数は時間や頻度などデータ化できる行動が切り口になります。
これらは顧客がどのような種類の行動をとるか、あるいは購買プロセス上のアクションを示していますが、行動変数はさらに、以下のような客観的・定量的に測定しやすいデータも重要な要素として含まれます。
関与度・活動頻度
- 終活関連の情報収集頻度(例:終活サイトを月1回以上見る、関連書籍を年数冊読む)
- 終活セミナーや相談会への参加経験・頻度(例:参加経験あり、年に1回程度参加)
- エンディングノートの記入状況(例:購入済みだが未記入、一部記入済み、ほぼ完成)
- 家族との終活に関する相談頻度(例:まだ話していない、時々話題にする、具体的に相談済み)
- 生前整理の進捗度(例:未着手、一部開始、ほぼ完了)
検討・契約プロセス
- 終活を意識し始めてから最初の契約(例:葬儀の生前契約、遺言作成サポートなど)までの期間(例:1年未満、3年以上)
- 比較検討した葬儀社や石材店、サービスの数(例:1社のみ話を聞いた、3社以上から資料請求・比較した)
- 葬儀の生前契約の有無・加入時期・契約先の種類(例:互助会、葬儀社、保険)
- 遺言書の作成状況(例:未作成、自筆証書遺言を作成済み、公正証書遺言を作成済み)
- お墓の状況(例:すでに用意がある、これから探す必要がある、墓じまいを検討中)
情報収集・利用チャネル
- 終活サービスや情報を知ったきっかけ(例:テレビ・新聞広告、知人の口コミ、自治体の広報誌、ケアマネージャーなどの専門職からの紹介、Web検索)
- 契約に至った主な経路(例:葬儀社の窓口で直接、Webサイト経由、銀行や士業からの紹介)
- 最も信頼している情報源(例:公的機関の発行物、専門家の書籍やWebサイト、家族や知人の経験談、懇意にしている寺院)
サイコグラフィックが重要な理由
上記で解説した4つの切り口がセグメンテーションの方法です。セグメンテーションは1950年代から活用が始まったとされますが、近年になってサイコグラフィックを重視する傾向が強まっています。
マーケティング戦略のペルソナ設定は具体的なイメージを描く必要があります。
多く用いられるデモグラフィックでは、25歳の女性という外側だけは描けます。しかし、彼女の考え方や好みが自社商品に興味を示すかどうかはわかりません。
サイコグラフィックは心理的側面からの分類方法であり、25歳の女性がどのような好みを持ち、何に悩んでいるかにアプローチします。
商品やサービスが飽和状態にあり消費の多様化が進む現代社会において、数ある選択肢から自社製品を選んでもらうためには、より個人的なニーズに寄り添う必要性があることから、個人の気持ちや考え方などから分類するサイコグラフィックが役立ちます。
デモグラフィックやジオグラフィックが、性別なら男性か女性といった画一的なセグメンテーションなのに対し、サイコグラフィックや行動変数は個性が反映され幾通りも指標があげられるセグメンテーションと言えるでしょう。
サイコグラフィックを用いるメリット
サイコグラフィックにより、顧客のパーソナリティによるセグメントが可能になります。
たとえば同じ30代の主婦で、世帯年収が同程度の場合でも、節約が趣味の人はコストパフォーマンスを重視した商品を手に取ると推測できますし、料理が趣味の人は多少高額でもこだわりの食材やスパイス、調理道具を選ぶと推測できます。
デモグラフィックやジオグラフィックではできなかった新たなグループ分けができ、顧客のニーズや興味関心にあわせた細やかなアプローチ戦略がたてられます。
見込み顧客の心理的な側面を分析したサイコグラフィックを用いることで、情報を収集する中で顧客に耳を傾け、企業と顧客の距離を近づけることも期待できます。
サイコグラフィックの要素を集めて初めて「こんなところにこんなニーズがあったのか」と、想定していなかったグループが作られるケースもあるでしょう。価値観やライフスタイル、悩みは人それぞれ違いますから、顧客の数だけ要素をピックアップすることができ、見逃していた要素に気づく可能性があります。
サイコグラフィックデータの収集方法
サイコグラフィックのデータを集める時に大切なことは、どれだけ顧客の声をしっかりとすくいあげられるかです。
サイコグラフィックデータは年齢や年収などのように数値では測れないものがほとんどなので、顧客に直接聞くアプローチ方法を実践しなくてはなりません。
ここでは、サイコグラフィックデータを取得する主な方法を紹介します。
1. アンケート調査・インタビュー
顧客に対し、価値観・ライフスタイル・購買動機に関する質問を実施し、データを収集する方法があります。
具体的な質問を用意し、定量データ(数値化可能なデータ)と定性データ(自由回答)を取得しましょう。
サイコグラフィックのデータは、ヒアリングなど顧客の声を聞く作業を繰り返すことで精度をあげられます。パーソナルな部分を他者に打ち明けることになるため抵抗を感じる人も想定されますが、ヒアリングやアンケートを重ねるうちに心理が表面化していく場合もあります。
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2. SNS・口コミサイトのデータを分析する
InstagramやX(Twitter)、TikTok、Googleレビュー、REDなどの口コミから悩みや価値観を収集する方法もあります。
顧客の興味関心や評価ポイントを把握できるだけでなく、苦手や不満を洗い出すこともできます。
3. Webサイト・ECサイトの行動データを解析する
自社が持つWeb上のコンテンツを利用して、顧客の買い物頻度や重視する点などの消費傾向、どのページから自社のコンテンツにアクセスしているかなど顧客のWeb上の行動ログ分析からも、サイコグラフィックのデータを収集できます。
たとえば、Googleアナリティクスやヒートマップツールを活用して、Webサイト訪問者の行動を分析してみましょう。
「訪問者がどのページをよく閲覧しているか?」「どの商品の購入率が高いか?」などを把握することで、人気商品の傾向を把握し、興味を引くポイントを最適化できます。
4. オフライン調査で直接ヒアリングする
実店舗やイベントで、顧客に直接ヒアリングを行い、価値観や購買動機を把握するのは、最も直接的な意見を聞ける機会です。
体験型イベントを実施し、どの層がどのような商品に興味を持つのか行動観察することで、リアルな情報が得られるでしょう。
サイコグラフィックの活用方法
ここからはサイコグラフィックの具体的な活用方法と、活用にあたって意識したい点を解説します。
マーケティングに活用するには?
マーケティングにおいては、特に見込み顧客のセグメントに活用されます。
デモグラフィックやジオグラフィックの分析結果を基にしてサイコグラフィックを活用し、より明確なターゲット層やペルソナを設定します。詳細なペルソナの設定が、マーケティング戦略の具体化、ニーズを訴求したアプローチに活かされます。
冒頭に例で挙げた終活関連の商品のマーケティング戦略で考えてみましょう。
たとえば「70歳女性、東京在住」のデータからは、「難しい手続き、もう悩まない。シンプルで分かりやすい、新しい終活のカタチ」などのキャッチコピーが考えられます。
ここにサイコグラフィックのデータを反映させると、「大切な家族だから心配かけずに見守りたい。愛情を伝える、スマートな終活をはじめませんか?」などのキャッチコピーが導かれるでしょう。
サイコグラフィックデータの活用と明確なペルソナ設定により、「私のことだ!」「私が求めていたものだ!」などのように顧客が強く反応する広告を展開できるため、コンバージョン率をアップさせることにつながります。
複数のセグメンテーションを用いた活用を
セグメンテーションはどれかひとつを単体で実施するのではなく、ターゲットの絞り込みや具体的なペルソナ設定を目的に複数のセグメンテーションを併用して精度を上げることが望ましいと言われています。
そのために、サイコグラフィックだけではなく、今回触れたデモグラフィックやジオグラフィック、行動変数などを一緒に用いて、ペルソナを設定するためのデータをより多く揃えます。
ターゲットを絞ることで、売れる可能性を自ら狭めると感じるかもしれません。しかし、ターゲットが広ければ広いほど「みんなのための情報」と見なされ、「私のための情報」と受け取られないために無視されてしまう可能性が高まります。
「東京に住む70歳女性」に「あてはまります」という人よりも、「家族に迷惑をかけず、シンプルに、かつ自分らしくエンディングを迎えたい」と考えているのは「私です」という人を増やすことが、結果的にコンバージョン率アップにつながるのです。
サイコグラフィックを活用し、サービスの向上を
商品やサービスを選ぶ基準は人によって異なります。商品やサービスが増え、顧客が持つ背景も多様化している中で、サイコグラフィックを活用したパーソナルなデータの収集が、ターゲットとペルソナの設定に不可欠になりつつあります。
サイコグラフィックのデータ収集をすることで顧客ニーズの把握につながるため、サイコグラフィックで得たデータがマーケティング活動の全体に影響を与えるでしょう。
心理的なデータを得ることで心理的にアプローチするキャッチコピーや広告の作成が可能になります。サイコグラフィックによって「顧客の心理に訴えるマーケティング戦略」を展開することが、収益拡大のポイントになります。
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