外国人観光客が増加する中、日本の魅力をより多くの人々に届けるためには、地域の力が不可欠です。日本政府観光局(JNTO) 地域連携部では、「地方への支援強化」と「旅行者満足度の向上」の2つを柱とし、各地のインバウンド対応を支えています。
なかでも特に力を入れている取り組みのひとつが、観光案内所の支援です。インバウンド対応や体験コンテンツの提供、災害対策など、現地で多くの観光客と接するからこそできることとは──。今回は、日本政府観光局(JNTO)地域連携部 次長 赤司真紀氏(取材当時。現:同局 地域連携部長)に、観光案内所の重要性や、JNTOの取り組みなどについてお話を伺いました。
JNTO地域連携部の取り組みについて
── はじめに、JNTOにおける地域連携部の役割についてお聞かせください。
JNTOにおける地域との連携には、2つの柱があります。1つ目はプロモーションマーケティング、2つ目は国内の支援業務です。このうち地域連携部では主に「国内の支援業務」を担い、「地方への支援強化」と「旅行者の満足度の向上に資する取り組み」を実現するための環境整備を行っています。
── 国内の支援業務のうち、「地方への支援強化」ではどういったことを実施しているのでしょうか。
今、日本の各地域で多くの関係者がインバウンドに関する取り組みを実施されています。地域によってどのような支援を必要としているのかが異なるため、それぞれの課題やニーズに寄り添い、情報提供や連携した情報発信などの取り組みを行うことが「国内の支援業務」の目的です。
具体的には、JNTOの海外事務所を通じて得られる市場や現地の情報、消費者のニーズなどを、オンラインセミナーやリアル型の研修会などを通じて提供し、インバウンドの取り組みに活用いただいています。
また、リアル型の研修会では、参加者同士のネットワーキングの機会も設けています。これにより、新たな関係者とつながり、取り組みを広げていただける機会も提供しています。
── では、2つ目の柱となる「旅行者の満足度の向上に資する取り組み」についてもお聞かせください。
「旅行者の満足度向上に資する取り組み」として力を入れているのが、観光案内所に関する取り組みです。
旅行者の利便性を高め、満足度を向上させるためにも、各地域の観光情報を収集し提供できる観光案内所は必要不可欠な存在です。もちろん、これまでも重要な存在ではありましたが、インバウンドの進展、旅行者の地方分散に伴い、各地域における観光案内所のニーズがより高まっていると感じています。
現在、観光庁により外国人旅行者に対応する案内所の運営に関する基本的な方針が定められています。その中で私たちは、4つの機能ごとに区分けされた案内所の申請を受け、認定する業務を行っており、認定済みの案内所は現時点で1,500か所を超えました。
また、認定して終わりではなく、認定後も情報提供の質を高める支援として人材育成事業などにも取り組み、案内業務に役立つ実用的な情報を提供しています。
インバウンド対応における観光案内所の役割
── 観光案内所に関する取り組みについて、もう少し掘り下げていきたいと思います。現在国内外で、デジタル化や無人化を通して観光案内所を減らしていく方針の地域もあるといいます。観光案内所の数が減ることへの課題意識はありますか。
認定観光案内所の数の推移を見ると、コロナ禍以前と同程度の水準を保っています。ですので全体の数が減っているわけではないと思いますが、時代にあわせたサービス見直しの動きもあるものと思います。
もちろん、デジタルで代替したり利便性を向上したりできる部分も一部あるものの、観光案内所が「リアルだからこそ」提供できているものも多分にあると思います。
たとえば、観光客が観光情報を求めて案内所を訪れた際、デジタルで見せることも良いですが、そこで「リアルな」コミュニケーションを取ることで、思いもしなかった情報を得たり、会話そのものを楽しんでいただいたりと、観光客の地域での滞在時間がより充実したものになっていくと思うのです。
最近では、観光案内所の機能や立地を活かし、旅行者に向けた体験プログラム提供のハブとして扱う自治体も増えています。リアルに存在する案内所だからこそ、来訪者に「価値ある体験」を提供できる力があると感じています。
── 確かに最近では何でもデジタル化されてしまっていて、アナログよりも便利になっている一方、少し味気ないような状態になってしまっている場合もあると思います。観光案内所でも、そうした問題は起こっているのでしょうか。
これまで紙で提供していたパンフレットが、デジタル化されるなどの話はよく話題になっていますね。確かに紙だと情報の鮮度などに課題が生じますが、旅行後に持ち帰って見返すお土産としての価値もあるので、すべてをデジタルにしてしまうのはもったいないとも言えます。デジタルを活用して利便性を上げながらも、アナログの良さも残した運用にする検討もありえるのではないかと考えています。
たとえば現在、宮崎県の日向市観光案内所では、マップをデジタル化していつでも変更点を反映できるよう整備した上で、もし観光客の方が「マップを紙でほしい」と申し出た場合にはその場で印刷できるようにしているそうです。マップの情報更新のしやすさとコスト削減、そして観光客の思い出作りの両立を実現しているのです。
観光案内所は、緊急時・災害時に観光客を守る「駆け込み寺」にもなる
── なるほど、それならさまざまなニーズに応えられますね。また話は変わりますが、観光案内所における災害対応のハブとしての役割についてはいかがでしょうか。
観光案内所は、旅行先、そして人によっては異国という慣れない場所で、災害に遭ってしまった際の「駆け込み寺」としての役割も担っています。たとえば今年、JNTO認定外国人観光案内所表彰式において受賞した奈良県外国人観光客交流館(奈良県猿沢イン)は、書道体験の提供や多言語対応などの取り組みに加え、災害対応の観点からも高く評価された事例です。観光案内所の運営は県が行っていますが、災害対応は県だけでなく、奈良市とも連携して備えを進めているのも特徴です。
また、緊急時のための備蓄において、ハラル対応やグルテンフリーといった食文化の多様性に配慮しているのも素晴らしいポイントです。これは訪日外国人観光客と日常的に接する観光案内所ならではの備えだと思います。食文化だけではなく、たとえば日本人には馴染み深いカイロなども、外国人にとっては使い方がわからないことがあるため、イラストで使用方法を示すなど言語の壁を感じさせないような防災対策が行われています。
今回は奈良県猿沢インの事例をご紹介しましたが、観光案内所が緊急時の外国人対応を担っているケースは全国にあります。平常時だけでなく災害など予期せぬ事態を想定した案内所の重要性についても、今後理解を促進していきたいと考えています。
観光案内所ならではのプロモーションマーケティングも
── 観光案内所のプロモーションマーケティングへの活用についてもお聞かせください。
観光案内所では、観光者の人数や属性、問い合わせ内容などの情報を記録しているところが多く、それらを集計・分析し、プロモーションマーケティングで活用することが可能です。そのような情報は、地域の観光戦略の立案にも役立ちます。
今年「連携強化による観光案内の質の向上」部門で表彰された福岡空港国際観光案内所では、福岡の「屋台」文化を活かした「屋台コンシェルジュ」という独自の制度を設けています。
具体的には、観光案内所のスタッフが訪日外国人観光客の視点で「屋台を楽しむにはどうすればよいか」を調査し、情報提供を行っています。たとえば「現金が必要」「コンパクトな空間で詰めて座る」といった、現地に足を運んで初めて知るようなルールやマナーも伝えられるので、マナー啓発という意味でも優れた事例だといえます。
── では最後に、観光案内所を運営する自治体や、観光事業者などへ向け、伝えたいことがあればお願いいたします。
インバウンドにおいては海外向けのプロモーションも重要ですが、実際に日本を旅行先として選んでくださった方々に、快適な旅行体験を提供し、リピーターとなってもらう好循環を生み出すことも同じくらい大切だと感じています。その中で観光案内所は、訪日外国人観光客の滞在中の満足度を高められる、重要な役割を果たしている存在だといえるでしょう。
自治体や観光関係者の皆様には、観光案内所が旅行者と地域をつなぐ主要なプレーヤーであることを、改めて認識していただけたらと思っております。すでに多くの地方公共団体や観光協会などが、案内所の運営主体として活動してくださっていますが、今後さらに連携を深め、より良い取り組みへと進めていければと願っています。
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