インバウンド市場が急速な拡大を続けるなか、地域の伝統技術や特産品を国内外に届け、ビジネスへと発展させる動きに期待が高まっています。しかし、実際に売れる商品に育て、販路を開拓することは容易ではありません。
こうしたなか、福岡・八女を拠点とする株式会社うなぎの寝床は、伝統的なもんぺを「日本版ジーンズ」へと再定義し、年間2万本以上を売り上げるヒット商品に成長させました。同社は単なる小売の枠を超え、流通からツーリズム、宿泊までを一気通貫で担う「地域文化商社」として、独自の地域経済循環モデルを確立しています。
なぜ、同社のプロダクトは国内外の消費者の心を捉えるのか。創業者・顧問である白水高広氏に、そのユニークな事業モデルの背景や、出店、マーケティング戦略、そして今後のインバウンド市場との向き合い方について話を聞きました。
※本記事は、訪日ラボ主催カンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」の登壇者である株式会社うなぎの寝床創業者の白水高広氏に、事業概要や観光・インバウンド業界への想いについて伺うスペシャルインタビューです。

地域文化を継承するため 始まりは「まとめて見てもらう場」づくり
── うなぎの寝床を立ち上げたきっかけを教えてください。
大学卒業後、福岡県で厚生労働省の雇用創出事業「九州ちくご元気計画」にて主任推進員として活動し、農業や工業、商業など100件以上の地域事業のブランディングにかかわりました。
活動によりさまざまな地域産品が注目されるようになった一方で、地元でそれらをまとめて見てもらえる場所がありませんでした。そこで2012年に福岡・八女で大学時代からの友人とアンテナショップを立ち上げたことが始まりです。
創業時は、30件ほどの作り手の商品を扱うところからスタートし、現在そのネットワークは全国約300件にまで広がっています。
── 事業のコンセプトに「地域文化商社」を掲げています。具体的にどのような考えのもと事業を展開しているのでしょうか。
私たちは「地域文化」「商社」「文化交流」の3つの軸を掲げています。それぞれ役割があり、まず「地域文化」の視点から土地の歴史や特性を紐解き、「商社」として流通を担い、そして「文化交流」によって新たな人の流れを生み出す。これらを連動させることで、地域の文化と風景を後世へとつなぐ循環を作りたいと考えています。
創業初期は店舗とECの展開のみでしたが、「地域文化の背景を知り、実際に体験できる交流の場」の必要性を感じ、2019年に株式会社UNAラボラトリーズを設立して、出版やツーリズム、宿泊事業もスタートしました。このように課題に向き合い事業を広げるなかで現在のコンセプトに至っています。
地域文化は、グローバル企業や大手企業と比べて、大量生産や低価格競争といった経済合理性の追求には弱く、担い手も不足しているため、何もしなければ途絶えてしまいます。だからこそ、私たちはその継承に挑戦しています。

選定基準は日常で使えるか ビジネスとして持続可能性を意識
── 小売事業では商品の選定はビジネスの肝になります。うなぎの寝床では独自の基準を定めていますね。
「土地の特性」「作り手」「地域経済」の3つを選定基準としています。
具体的には「商品に歴史や文化などのその土地らしさが含まれているか」「商品と作り手はこの先、地域経済を回していける可能性を持っているか」を見極めています。地域でビジネスとして成り立ってこそ、作り手の生活が担保され、持続可能性が生まれます。そしてその商品が土地の特性を持っていれば文化の継承につながります。
「日常生活で使えること」にも重きを置いています。現代の生活のなかで技術が生き続けることも産地の持続可能性のうえで重要だと考えており、アートとしてよりも日常生活で機能する商品を中心に扱っています。
── 作り手とのネットワークが全国に広がっています。どのように関係を構築してきたのでしょうか。
相互利益をめざす誠実な商売を積み重ねることで、作り手との輪を広げてきました。たとえば、うなぎの寝床で扱う商品の仕入れはすべて買い取り方式です。仕入れた以上は私たちが責任を持って企画、販売します。
ツーリズム事業でも、作り手と連携してその土地の文化を楽しむツアーを組成していますが、その内容については他の旅行会社にも自由に横展開していただいて構わないというスタンスを取っています。
作り手との関係においては、意欲のある作り手とだけ手を組み、互いに依存し合わないことも大切にしています。地方の経済環境は厳しく、1社の問屋の破綻によって連鎖倒産が起きることもあります。関係性が慣れ合いになり、互いに思考停止状態になることは最大のリスクです。

人が集まる場所で体験を提供し、ファンを広げる
── 創業から現在まで売上を伸ばし続けています。いかに成長を実現させていますか。
東京や福岡市内などの都市部で積極的にポップアップイベントを開催してきました。
イベントはただの集客手段ではなく「地域文化をまとめて体験してもらう場」として位置づけています。やはり商品の魅力を実際に体験していただく方が購買につながり、店舗への来訪やECでの購入、オリジナル商品の卸へと波及していきました。
コロナ禍だった2020年は売上がやや停滞しましたが、2022年に大型ショッピングセンターのららぽーと福岡へ、2023年に文化複合施設のアクロス福岡へ出店したのを機に、再び売上が伸長しています。
グループ全体の売上は、物販とUNAラボラトリーズを合わせて約6億円になりました。そのうち物販が約5億円で、店舗が半分、卸が3割、ECが2割となっています。今後も出店によって事業全体の成長を図っていく方針です。

──現在、福岡、東京、愛媛に計7店舗展開しています。八女以外のエリアへの出店に踏み切ったのはなぜですか。
地域文化を知らない人にその魅力を届けるには、やはり人が集まる場所への出店が必要です。福岡・八女に閉じて商売をしていては、地域産業の裾野を広げることはできません。そうした考えのもと、福岡の中心部ではららぽーと福岡店とアクロス福岡店、東京では池袋と下北沢に出店しました。
都市部の店舗では、うなぎの寝床の認知を広げる役割を担い、一方の福岡・八女の店舗では、地域文化をより深く知ってもらい、ツーリズムや宿の利用へとつなげています。
愛媛県には2023年に出店し、四国エリアへ初進出を果たしました。同店では八女市における事業モデルを他の地域でも再現することに挑戦しています。
── 立地の異なる店舗で、それぞれどのように売上を伸ばしているのでしょうか。
立地ごとの特性に合わせて売場づくりや商品構成など、提案方法を変えています。
ららぽーと福岡店では正月や母の日などの季節行事に合わせた売場づくりにより売上を伸ばしています。文化複合施設内に入るアクロス福岡店では、工芸品や訪日外国人を意識した高単価な商品を充実させており、好調な売れ行きをみせています。
一方でどの店舗でも共通して、低価格から高価格の商品までひととおり揃え、あらゆる世代に響く商品構成も意識しています。その結果、客層の拡大につながっており、現在は地域文化に関心が高く、比較的所得にゆとりがある30代~60代の方々が主な購買層となっています。
「もんぺ」ヒットの秘訣は、現代の暮らしにフィットさせること
── うなぎの寝床の代表商品「MONPE(もんぺ)」は、「日本版ジーンズ」と位置づけ、年間2万本以上売れる商品になりました。ヒットの背景と、プロモーションのポイントを教えてください。
もんぺは、イベントで手応えを得たことから、オリジナル商品として製造、販売に踏み切りました。日本の伝統的な作業着が持つ機能性はそのままに、現代のライフスタイルになじむシルエットに見直しました。
また、アメリカの作業着から世界のカジュアルウェアへと発展したジーンズになぞらえて、若い世代の日常着としてコンセプトを再定義したことが、大きなヒットへとつながりました。
プロモーションを展開するうえでまず徹底しているのは、商品のターゲットの具体化です。たとえば「もんぺ」と一口にいっても、無地、柄物、あるいは素材によって特性は異なります。それぞれの個性が「どのような人に響くか」をあらかじめ定義したうえで、ターゲットごとに最適化した戦略を構築します。
情報発信においては、幅広い年代の好みに合うことを意識したシンプルな見せ方と、数値に基づく定量的なアプローチを基本とし、SNSやチラシなどを通じて実店舗やECサイトへの動線を築いています。
発信するコンテンツには、3つの視点を織り交ぜるようにしています。着心地や利便性という「使い手の視点」、文化や製造工程などの「作り手の視点」、そして現代の暮らしにフィットさせる「現代性の視点」です。この多角的な情報設計によって、単なる伝統工芸品の紹介にとどまらない、独自のプロモーションを生み出しています。

先入観がないからこそ、外国人旅行者は素直に共感する 市場拡大のカギは付加価値の付け方
── 都市部の店舗を中心に、訪日外国人の利用が増えているそうですね。 インバウンド市場の可能性をどのように見ていますか。
とくに福岡市内の店舗で、訪日外国人のご来店が増えています。台湾や韓国、香港からの来訪が多いです。最近は八女でも欧米からの旅行者を頻繁に見かけるようになりました。
インバウンド対応で最優先で進めているのが、アクセスしやすい場所で、店舗やイベントによって日本の地域文化が根付いた商品を「まとめて体験してもらう場」を提供することです。アプローチ方法は基本的に日本人向けと大きく変えていません。作り手の想いや商品の特徴、使い方を実直に伝えています。
そのほか、店舗で英語対応スタッフを配置するほか、ツーリズム事業でも訪日外国人への対応を進め、地域文化の体験と宿泊を組み合わせた提案をしています。工房を訪れる体験ツアーの需要が高く、海外の代理店からの高単価なツアーの要望も増えています。
訪日外国人の方々は、地域文化に対する固定観念がないからこそ、日本のものづくりが持つ本質的な価値に純粋に共感してくださいます。商品やサービスの提案次第で可能性が広がる、ポテンシャルの高い市場だと捉えています。
市場拡大のために取り組むべきは「高付加価値な領域」の開拓です。日本の地域文化を付加価値の高い商品やサービスへと昇華させていくことが、産業の底上げと持続性を両立させる道だと考えています。
── 8月7日に開催される「THE INBOUND DAY 2026」への登壇を通じて、どのようなメッセージを伝えたいですか。
地域の人だけで、その土地の魅力を掘り起こすのには限界があります。だからこそ、さまざまな業種の方に、それぞれの視点で地域の付加価値創出に携わっていただきたいと考えています。
私は、そうやって活動してくれる人たちと地域を結ぶ役割を担いたいと考えています。カンファレンスでも、登壇者の皆さんから有効な事例や取り組みを学ばせてもらい、ぜひ地域に展開していきたいですね。
【8/7開催】うなぎの寝床 白水氏×中田英寿氏の特別対談が実現
日本の地域文化を底上げし、持続可能なビジネスとして次世代につなぐには何が必要なのか。「うなぎの寝床」創業者の白水高広氏が挑み続けるこの問いは、いまや日本全体が直面する重要なテーマです。
訪日ラボが8月7日に開催するカンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」では、全国47都道府県を巡り、日本の伝統文化・産業の発展に尽力している中田英寿氏と、白水氏による特別対談が実現。二人だからこそ語れる独自の視点から、日本の伝統産業が持つ原点、現在地、そして未来へのポテンシャルを紐解きます。
日本の伝統や魅力を国内外に発信していきたいと考える、すべての事業者や関係者にとって必見のセッションです。
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