最近円高が加速していることにより、インバウンドに対する影響が心配されています。旅行には支出はつきものですので、訪日旅行にも、もちろん影響はあると思われますが、各メディア・団体はどのように報道しているのでしょうか?
今回は、様々なメディアの報道・レポートを比較することで、円高によるインバウンド市場への影響を見ていきましょう。
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東洋経済は「円安が訪日観光客を引きつけた」と分析
東洋経済ONLINEは円高に伴うインバウンド消費の減退とホテル・民泊への投資に対する懸念について報道しています。
時を同じくして円安も進行しており、ドル円相場の動向と訪日外国人客の動向を並べてみると、両者には高い相関性があることがわかる
としており、「円/ドルレート」と「訪日外客数の伸び率」の相関について注目。
また、人民元と円レートについても同様に
円高が進む一方で人民元が下落したのにつれて、訪日客数の伸び率は低下。2016年3月にはピークのほぼ半分に減速している。
と、こちらも「レート」と「伸び率」の相関性について指摘しています。
しかしながら2013年後半〜2014年半ばまでの反比例が説明されておらず、レート以外の要因についても触れられていないところが気になるところです。
「円高が進めば訪日客は潮が引くように減る?」のか?
本記事の締めくくりとして
> 円安の大幅な修正、円高が進んだとき、これまでと同様、外国人は日本を訪れるのだろうか。すでに訪日外国人が遣った1人当たりの旅行支出は、2015年7~9月の18.7万円をピークに徐々に減ってきており、足元の2016年1~3月では前年同期比5.4%減の16万1746円となっている。「爆買い」と言われた中国人の支出でさえ、同11.8%減とマイナスに転じた。潮が引くように訪日客が激減したとき、あとに残されるのは観光業を巡る過剰投資の山、ということになりかねない。
と、円高によるインバウンド消費および訪日外客数の減退について示唆しています。グラフでも見て取れるように、まだ伸び率がマイナスに反転しているわけではなく、多少伸び率は鈍化傾向にあるものの、このまま円高が進んだとしてもマイナス成長になるのはまだ先なのではないかと思われます。
円高が進んでも訪日観光客に期待できるのか ホテルや民泊への投資は大丈夫?:東洋経済ONLINE
東洋経済の別の記事では『「円高で訪日客が減る」が絶対に間違いな理由』と報道
同じく東洋経済オンラインでは別の記者が円高による訪日客が減る、という論調に対してNOを唱えています。円高によるインバウンド市場の減退という主張に対して3つの視点で問題をとなえており、
> 1つ目は、構造変化である「ビザの緩和」です。2013年から日本政府は、訪日観光客増加に大きな効果が見込まれるタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、そして中国からの観光客のビザ発給要件を大幅に緩和しています。(略)訪日客数増加には、このビザ緩和が大きなパラダイムシフトとなっているのです。
2つ目の問題は、「一本調子問題」ということです。(略)一定期間中、下がったり上がったりという動きが重なるのであれば、間違いなく一定の相関関係があると言えます。しかし、一本調子の右肩上がり傾向にある2つのデータを比較すると、本当は一次的な関係はないにもかかわらず、その2つにあたかも深い関係があるように見えてしまい、相関関係があるという仮説を導いてしまっているおそれも否めません。
この分析を問題だと感じる最大の理由は、3つ目の「データ分析の期間」です。(略)実際に長期間で訪日客数と為替を見てみると、相関係数は約0.3まで下がります。(略)観光客数が増加したのは円安だからと言うのであれば、1990年代はもっと円安だったのに、訪日客がそれほど来ていなかったことを説明する必要があります。
と問題点を分析しています。
円高でも訪日客が減るとは限らない理由まとめ
上記の主張をまとめると
- 「ビザ緩和」などの構造変化があったのに為替だけで増減を語るべきではない
- 「円安」と「訪日外客数」がどちらも一本調子で上がっており、上げ下げが無い以上、相関関係があるとは言えない
- 「円安」と「訪日外客数」の関係を分析している期間が短すぎる
という問題があるため、円高が進んでも訪日客が減るとは限らない、としています。
また、締めくくりとして
> いまやるべきは「円高だから」などと言い訳をしているのではなく、持てる観光資源の魅力を磨き、人口減少国家ならではの「観光先進国」を目指していくことなのではないでしょうか。
と、インバウンドにおいては、より本質的な議論をすべきとしています。
「円高で訪日客が減る」が絶対に間違いな理由 日本には為替に左右されない魅力がある:東洋経済ONLINE
ハフィントンポストによればインバンド消費単価は減少傾向
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の藤田隼平氏によると
> 年初来進んでいる円高も懸念材料です。足元では1ドル=110円程度まで円高が進んでいますが、訪日外国人は1月以降も増加が続いており、今のところ目立った悪影響は確認できません。しかし、訪日外国人1人あたりの消費額(消費単価)についてはマイナスの影響が出ている可能性があります。
1ドル=80円時点の消費単価が約11万円、1ドル=120円時点の消費単価が約15万円であることを踏まえると、仮に1円の円高が進めば消費単価は1000円程度押し下げられることになります。少額に思われるかもしれませんが、訪日外国人2000万人が同時に1000円の消費を減らせば、全体では200億円の減少と決して無視できない規模になります。
と、2010年以降の消費単価とドル円相場の動き分析しています。
1円円高が進むと消費単価は1000円下降、全体で200億のインバウンド消費減
上記をまとめると
- 円高が1円進むと、消費単価は1000円ぐらい減少する
- 訪日外客数を2000万人とすれば、全体で200億円のインバンド消費減少
となり、円高による個々人の消費額、ひいては全体のインバウンド消費額の現象についての懸念について触れています。
けいざい早わかり:訪日外国人の増加と今後の課題:ハフィントンポスト
まとめ:円高は訪日外客数にはすぐには影響しなさそうなものの、消費額に影響する可能性あり
それぞれの報道の主張をまとめると、
- 「円高=インバウンド減退」とするのは分析として問題有り
- 訪日外客数は即減退とはならない見通し
- 消費単価は下がる可能性あり
- 円高による影響を考えるより、観光立国として本質的な議論をすべき
ということがわかります。また、全体のインバウンド消費額に関して言えば、訪日外客数と消費単価のかけあわせなので、仮に円高により消費単価が下がったとしても、プロモーションを始めとした施策によって訪日外客数が増えればカバーは可能です。
急速な円高傾向を受けて、円高=即座にインバンド減退、とする報道がよく見られますが、あらゆる視点から見据えていく必要がありそうです。
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