先日10月12日、北海道は札幌で訪日外国人観光客に関する変わったニュースがありました。北海道新聞によれば、札幌のホステルが、訪日外国人観光客を無料で泊まらせることを条件に、宿泊施設内で清掃などをしてもらったとのこと。
しかしながら、この訪日外国人観光客は「短期滞在」の在留資格で、就労資格は無い外国人であり、また宿泊料無料の条件である宿泊施設の清掃は就労にあたるとして、このホステルの社長など3名が社長ら3名も不法就労助長罪の疑いで現行犯逮捕されることになりました。
ニュースとしては事実のみの記述になっており、どのような背景があってこのような自体になったのかは不明です。恐らく、このホステルは「飲食代が払えないから皿洗いをするので、何か食べさせてくれ」といった飲食店で極稀にみられるケースと同様の話の流れで、訪日外国人観光客に館内清掃を手伝ってもらったのではないでしょうか。
このように、外国人を雇用したり就労させるには、法令・制度はもちろんのこと、マネージメントの面でも注意点や留意点があるので、今回解説していこうと思います。
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外国人スタッフを雇用するときの注意点・留意点
インバウンド対策として外国人スタッフを雇用しようとする場合、日本人を雇用するのとは違い、外国人雇用特有の注意点や留意点があります。外国人だからこその雇用に関する法令に関する注意点や、異国の文化で育った外国人だからこその留意点などがあり、それらについて見ていきましょう。
1.在留資格の種類に注意
外国人スタッフを雇用する場合、正社員やアルバイトといった雇用契約の形式にかかわらず、非常に重要になるのが在留資格です。現在日本では在留資格は27種類あり、そのなかで雇用できる在留資格と、できない在留資格があるので注意が必要です。
区分として、永住者、日本人の配偶者等、定住者といった、「日本に定住している」状態の外国人は、雇用に特段の制限はありません。しかしながら、文化活動、短期滞在、留学といった在留資格の場合は、就労に制限がついており、雇用にあたって注意が必要です。
冒頭でご紹介した札幌でのニュースにおいては、この就労に制限がある「短期滞在」の在留資格をもつ外国人を、雇用状態にしてしまったために現行犯逮捕に至りました。また、「留学」についても制限があるため、例えば外国人留学生をアルバイトとして雇用する場合には相応の注意が必要になってきます。
2.賃金や労働時間に関する注意点
「外国人スタッフを雇用すれば、人件費を抑えられる」という考えには注意が必要です。労働基準法第3条において、
> 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
と、均等待遇に関する定めがあります。そのため、日本人と外国人が同じ業務をしている場合、国籍を理由に賃金に差をつけることは禁止されています。また、労働時間や休日、福利厚生、昇格などといった雇用に関する待遇についても国籍による差別的な扱いは禁止されています。
しかしながら、外国人留学生などの外国人学生をアルバイトとして雇用する場合は例外となります。在留資格が「留学」である外国人留学生、または在留外国人が扶養する配偶者や子どもに与えられる「家族滞在」をもつ外国人の場合、労働時間や就業可能業種に制限があります。
具体的には、原則として1週間に28時間までという制限があり、また風俗営業や関連営業で雇用することはできません。なお、在留資格が「留学」の外国人留学生などの場合、その外国人が在籍する教育機関が、夏休みなどの長期休暇期間中にあるときには、1日8時間まで労働することが可能になります。
3.外国人雇用の関連法令・制度に注意
前述の第2項でも解説したとおり、外国人スタッフを雇用する場合特有の、注意しなければならない法令や制度があります。
留学や家族滞在をもつ外国人をアルバイトとして雇用する場合、上記のように労働時間に制限があるほか、「資格外活動許可」が必要になります。そもそも在留資格とは、「こういう理由で日本に滞在するのであれば在留を許可します」という資格であるので、アルバイトをすることは、留学や家族滞在の在留資格の主目的から外れることになります。そのため、雇用する外国人の居住地管轄の入国管理局で、資格外活動の許可を受けなければなりません。また、資格外活動許可は 一定の期間で更新が必要になるので注意が必要です。
これらの外国人雇用の関連法令・制度において重要になるのが「在留カード」です。在留カードとは、日本に90日以上在留する外国人に基本的に発行されるカードです。この在留カードには、氏名や生年月日、居住地、国籍といった個人情報のほか、在留資格や就労制限の有無、在留期間および在留期限などが記載されており、その外国人スタッフを雇用するにあたって、どのような申請をしなければならないのか、どのような制限があるのかを判断する重要な証明書となります。
また、どのような雇用形式であったとしても、新たに外国人スタッフを雇用する場合、または雇用終了した場合には、雇用対策法第28条により、ハローワークへの届け出が必要になります。また、外国人スタッフを10人以上雇用する場合は、「外国人労働者雇用管理責任者」を選任することも必要になってきます。
なお、これらの法令・制度に違反し、認められない外国人の雇用をしてしまった場合、不法就労活動となり、雇用した事業主や、雇用のあっせんを行ったものは、入管法73条2項により、3年以下の懲役または300万以下の罰金に処される可能性もあるので、一層の注意が必要になります。
4.面接や採用時の注意点
外国人スタッフを採用する際の面接時にも注意が必要です。採用しようとする側が外国人スタッフの母国での文化・習慣、およびその国民の気質などをある程度理解していないと思わぬトラブルに発展する可能性があります。
日本人と比較した場合、外国人の方は、自己の能力や適性について強く主張する傾向があります。そのため、あまり自己主張をしない傾向にある日本人相手の面接と同様の評価基準で面接に望むと、いざ雇用したときに想定通りのパフォーマンスが出ない可能性もあります。そのため、主張する能力や適性については、その根拠を深掘りしてしっかり確認することが求められるでしょう。
また、条件や契約面について細かくチェックする傾向もあります。そのため、法令で定められた内容はもちろんの事、仕事の内容や雇用条件などを、細かな点まで受け答えできるように準備しておくこと、また雇用契約書にも定めておくことが重要です。
なお、前述3項との関連で、面接時には、採用しようとする外国人の方に、以下の要件を確認することも非常に重要です。
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パスポートの確認
- 入国要件の確認として、パスポート期限が切れていないか、入国査証(ビザ)を受けているか
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在留カードの確認
- どのような在留資格を持っているか、その在留資格で雇用が可能か、名前・住所などの個人情報が正しいか、在留期間は超えていないか
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その他日本語検定などの書類確認
- どれくらいの日本語力があるのか、面接で答えた能力を本当に有しているかどうか
5.雇用中のマネージメントに関する注意点
前述のように、雇用契約に至るまでにも注意が必要ですが、実際に雇用した後についても、マネージメントに相応の注意が必要です。外国人スタッフは、文化や習慣、宗教などの背景により、日本人とは異なる価値観を持っています。
例えば、中国人や韓国人といった東アジア系の外国人は対面を重要視する傾向が強く有ります。そのため、ミスを認めたがらなかったり、そのミスを人前で叱責されることに非常に嫌ったりします。
それぞれの国の文化や価値観について把握することはもちろんのこと、外国人スタッフが話したことや業務内容や雇用条件などについては、しっかりと書面で証拠を残しておくこと、そしてそれらを曖昧な表現をせずに、しっかりと雇用主・外国人スタッフで共有しておくことが、後のトラブルを回避するために重要な注意点と言えます。
まとめ:外国人雇用に関わる法令・制度については入念な注意を払うべき
インバウンド対策として外国人を雇用することは、それ相応のメリットがあります。しかしながら、冒頭で紹介したニュースのように、外国人雇用は、ちょっとした不注意や知識不足によって重大な問題になりかねないものとなります。
そのため、外国人スタッフの雇用にあたって、関連する法令・制度には入念な注意を払い、場合によっては専門家のアドバイスを求めることが重要になります。
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