インバウンド市場において主要顧客である訪日中国人観光客。昨年2016年の訪日外客数2403.9万人のうち、訪日中国人観光客は26.5%で1/4以上を占める637.3万人で、圧倒的なシェア率を誇ります。
その中国で有名な政策「一人っ子政策」。昨年2016年1月1日に撤廃され、1年が経ちました。そもそも一人っ子政策とは何だったのか、そして一人っ子政策撤廃の流れ、一人っ子政策が及ぼした影響、また撤廃による影響、そして中国の妊娠・出産に関する文化や風習などをインバウンドにからめて見ていきましょう。
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中国の一人っ子政策とは?
一人っ子政策(中国語:独生子女政策)とは、中国で行われていた、1夫婦あたりの子供を1人に制限し2人目からは高額な罰金を課すという厳格な人口抑制政策です。
中国の一人っ子政策の構造
一人っ子政策の主軸に置かれている思想は「晩、稀、少」にあります。つまり、結婚や出産を遅らせ、出産するにしても間隔を空け、少なく産むといった3軸が一人っ子政策の根底にあります。
一人しか子供を産まないと宣言した夫婦は、一人っ子証「独生子女証」を受領します。この一人っ子証を受領した夫婦は「七優先」という優遇策をうけることができます。
- 月5元(当時の平均月収の約1割)の奨励金を子供が14歳になるまで受領できる。
- 託児所への優先入学、学費免除
- 学校への優先入学、学費補助
- 医療費支給
- 就職の優先
- 都市部における住宅の優遇配分、農村における「自留地」の優先配分
- 退休金(年金)の加算と割り増し
一方、「一人っ子」宣言をしなかった夫婦は以下の不利益を受けます。
- 超過出産費(多子女費ともいう)の徴収(平均年収の3〜6倍)
- 夫婦双方賃金カット
- 社会養育費(託児費・学費)の徴収
- 医療費と出産入院費の自弁
- 昇給や昇進の停止
超過出産費は日本円にしておおよそ300〜600万円、日本の物価に換算すれば1500〜3000万となる重罰です。その罰金総額は年間3630億円にのぼり、中国政府にとって重要な資金となっていたがゆえに、一人っ子政策廃止になかなか踏み切れなかったと分析するメディアもあったほどです。
中国の一人っ子政策の開始から廃止まで
1960年代、中国では急激に人口増加をしており、1965年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の平均数)は6.08%にのぼるほどでした。この急増を抑制するため、1979年の全国計画出産工作会議で「できるだけ1夫婦あたりの子どもは一人とする」という「一人っ子政策」が上海市などでスタートしました。
1980年には上海だけなく全国的に提起されるようになり、1982年には憲法で夫婦に計画出産義務付けられるようになります。そして2002年には「人口・計画出産法」が公布され、現在知られる制度や賞罰規定の形になっていきます。
しかしながら、中国政府は方向転換。2013年には「改革の全面的進化に伴う若干の重大な問題に関する決定」により『夫婦のどちらかが一人っ子であれば、子どもを二人まで設けることを許容する』といった内容の「単独二人っ子政策」が打ち出され規制緩和されます。そして、2015年には『1組の夫婦に二人の子どもを認める』とさらに規制緩和され、「一人っ子政策」は撤廃、「二人っ子政策」に変更されます。
なぜ一人っ子政策は撤廃されたのか
一人っ子政策の廃止の背景には、経済成長の低下を食い止める狙いがあります。そもそも、一人っ子政策開始当初は『このまま人口が増え続けたら経済や資源の取り合いになってしまい、中国は破綻する』という考えでした。
しかしながら蓋を開けてみれば、30年間続いた一人っ子政策の影響で少子高齢化が加速、『このまま人口が減り続けたら生産の担い手がなくなってしまい、中国は破綻する』という状況に追い込まれます。
実際に中国の人口ピラミッドを見てみると、1970年はきれいな三角形を描いていたピラミッドが、1990年、2000年に進むに連れ、いびつな形へ変化していることがわかります。
1990年は一人っ子政策直前の世代ボリュームが多く、その世代によるベビーブームが巻き起こります。しかしながら、2010年は1990年のベビーブームで生まれた世代によるベビーブームがおこらず、日本の団塊の世代前後と同様の人口推移を示しています。
よって、一人っ子政策そのものは成功を収めているものの、国策として見れば大失敗に終わっていると評価されています。
一人っ子政策が中国国内に及ぼした影響
黒孩子
「黒孩子(中国読み:ヘイハイズ/ブラックチルドレン)」とは、戸籍を持たない子供のことを指します。2人目の子供が生まれてしまった場合、一人っ子政策では重い罰金が課されました。その罰金が支払えないため、生まれたことを申請されていない、つまり法律上存在しないということになっている子供 黒孩子という概念が生まれます。
2010年時点で1300万人の黒孩子がいると言われ、彼らは戸籍がないためにIDカードがなく、進学や就職することや病院にいくことはおろか、記者や飛行機に乗ることもできません。
また、中国では男児を生むことが重要視され、第一子が女の子だった場合、この黒孩子とされてしまうケースもあります。
4・2・1家庭
日本と同様に親の面倒を見る人手が足りない、という問題も起こっています。1組の夫婦が一人っ子を産んだとします。その夫婦は一人っ子政策により、当然一人っ子です。そうすると、子1人、両親で2人、その両親(祖父母)が2人という家庭構成となり、これを「4・2・1家庭」といいます。
中国では日本以上に『子供が親の面倒を見る』ということが重要視されています。そのため、この4・2・1家庭では、将来子供1人が、両親と祖父母をさらにその両親の両親(祖父母)を一人で面倒を見なければならなくなります。現状100万世帯が4・2・1家庭に該当すると言われているものの、今後1000万世帯まで増加することが懸念されており、政府は前述の二人っ子政策への方向転換の他、各種支援整備を勧めています。
80后世代
80後(中国語:80后/読み:バーリンホウ)とは、一人っ子政策施行後の80年代生まれの世代を意味します。狭義では1980〜1989年、広義では1980年以降生まれ全般をさし、90年代生まれを90後(90后/ジョウリンホウ)と呼ぶ場合もあります。
中国ではこの80後(80后)や90後(90后)世代は、ちょうど日本の「ゆとり世代」と同様の扱いで「崩れ落ちた」「責任感が無い」「自分勝手」「反逆的」「愚かな」などと揶揄されています。
80後(80后)や90後(90后)世代が揶揄をうける背景にあるのが、やはり一人っ子政策です。一人っ子政策の規制下におかれた親は、次の子供は産めないがゆえに生まれたたったひとりの子供を非常に大事に育てます。したがって、過保護になりがちで、子供はわがままに育ちがちであり、よって日本の「ゆとり」と同様な評価・扱いを受けています。
まとめ:一人っ子政策の撤廃による訪日中国人のインバウンド市場への影響は?
今回は一人っ子政策とは何なのか、その仕組や撤廃の背景、一人っ子政策がうんだ負の遺産について解説しました。次回は、これらを背景としたインバウンド市場への影響について解説していきます。
<参考>
- JNTO:訪日外客数(2016 年 12 月および年間推計値)
- 独立行政法人労働政策研究・研修機構:「一人っ子政策」撤廃の影響
- wikipedia:一人っ子政策
- 楽々中国語教室:80後と一人っ子政策
- 日経ビジネスオンライン:「一人っ子政策」違反の罰金総額は年間3630億円
- 世界人口ピラミッド:中国
- JCAST:中国「一人っ子政策」深刻なツケ!4・2・1家庭、失独者、黒孩子・・・政府は打つ手なし
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