ーー「上司にどのように報告すればよいのか」
これまで「マーケティング方針の策定」「ターゲットのカスタマージャーニー作り」「やるべき対策の洗い出し」について整理してきましたが、海外向けのマーケティングでは使うサービスによって、管理画面・レポートが英語や中国語で書かれたものであったり、上司や他部署のメンバーには耳慣れない専門用語も多くてよくわからないことも多く、レポートに困ることも多いかと思います。
そこで、今回は 最終的なアウトプットである“報告(レポート)”について整理していきたいと思います。
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レポートの作り方
まずは、今回の施策を行うにあたり、「いくらかけていくら儲かるのか」 といった目論見を整理していきます。
その際、同業他社や他業種でも近い会社のインバウンド対策成功例と実施している内容の研究、想定コストとその効果 についてまとめることで、より精度の高い目論見を作成し上司や関係部署に説明していきましょう。
フォーマットを決める
目論見について理解を得られ実施の決裁を得られたら、今度は具体的にどのような進捗をトラッキングしていくか決定します。次に例を挙げていきます。
■目標設定
- 1年後の外国人客数を100人/月にする
- 1人あたりの粗利5,000円で50万円/月の粗利を獲得する
- そのための事前予約数を120人/月にする
- 対Web訪問者の事前予約率(コンバージョン率)は約1%を達成させ、
⇒逆算すると12,000人/月のWeb訪問者数を獲得する
■定期レポート
目標に対してどうかをトラッキングしていくわけですが、特に海外の広告を買ってレポートをもらっても日本語で書かれていないので、そのまま上司にレポートしても理解してもらえません。
経営者、決裁者は忙しく、いざというときに 手短に概要を伝える ためのページを用意しましょう。「要するに、何なんだね?」に答えられるポイントをまとめたレポートで、エグゼクティブレポート(決裁者のための概要書) を用意します。
具体的には 対目標でどのような現状 になっているのかと、その乖離を埋めるための対策方針 を整理します。
【実績】
- 外国人客数:目標100人/月⇒現状40人/月
- 1人あたり粗利:目標5,000円⇒現状3,800円
- 事前予約数:目標120人/月⇒現状45人/月
- Web訪問者数:目標12,000人/月⇒現状5,000人/月
- コンバージョン率:目標1%⇒現状0.9%
【対策方針】
- Web訪問者増のために、SEO対策/パブリシティ/多言語対策等を実施
- 予約率増のために、フォーム見直し/FAQ拡充/簡素化等を実施
- 客単価増のために、価格見直し/売り場見直し/接客見直し等を実施
さらにこれらをグラフ等でわかりやすく可視化していきます。
これらのデータは、Googleアナリティクスに代表されるWeb解析ツールや各種広告の管理画面などから集計していくことができます。
相手に合わせた言葉を使う
筆者は過去に「君のレポート、よくわからない言葉が並んでいるね・・」と上司に言われた経験があり、当時は「そのくらい勉強してくれよ」と心の中で思ったものでした。しかしながら、決裁者からしたら、結局1件の獲得のためにどのくらいの表示回数や訪問者数があればよいのかが腹落ちできればよく、そのための投資が適正かどうかを判断軸にしたいだけ であるため、ページビューを表示回数、セッションを訪問、CTRをクリック率、コンバージョンを獲得のように 誰にでもわかるように書き換える工夫をするとより伝わるものになる はずです。
結果、「今月は、売上もいいので来月の予約獲得のためにいくらか回したい。追加で広告費50万かけていいので、200人分の予約を目標に追加出稿してくれ。」といったポジティブなコミュニケーションが図れるようになります。
管理画面やレポートが多言語であっても日本語化を怠らない
また、国内向けと異なってくるのが、利用する広告メディアを広げていく際、その国にしかないサービスの場合、言語の壁が出てくるということです。
GoogleやFacebookといった全世界共通のプラットフォームであれば管理画面も日本語や英語に対応しているので問題ありませんが、とりわけ中国本土のサービスを日本語で管理運用することは出来ない と思ったほうがよいでしょう。その国の広告運用実績のある日本の広告代理店に依頼することで、レポートの日本語化をしていただくとよいかと思います。
その際に、広告代理店がまとめるレポートをそのまま受け取ると、前述のようなコミュニケーションロスが生じてしまうため、こちらがまとめたいレポートフォーマットに沿ったデータを、広告代理店に集計してもらうところまでを依頼すると、一連のレポート業務がスムーズに進行していきます。
当然、通貨表記をそのままにせず日本円換算額で表すこともお忘れなく。
レポートにあたっての認識あわせ
上司がターゲット国をどの程度理解しているのかにもよりますが、以下の点だけでも認識あわせをしておくことをお勧めします。
- 【ターゲットの経済状態】
- 特に訪日外国人が実際に旅中や旅後で消費する額
- 【ターゲットの宗教・民族・気候・風土】
- イスラムのハラール食や祈祷、年中気温の高い国から冬の日本に来る場合など、私たちの当たり前が彼らにとって当たり前でない点がどのようなものなのか
レポートに合わせて提言を添える
「もっと加速すべき」「現状維持」「撤退もしくは縮小」といった 今後のアクションを、理由を添えて提言 しましょう。
まとめ
上司はとにかく 短時間で判断 する癖がついています。「何が言いたいのかわからない。」「言いたいことはわかるけどここで大事なポイントは何?」と言われた経験は誰しもあるのではないでしょうか。
- 冗長なレポート
- 簡潔すぎるレポート
のどちらかに偏ってしまいがちです。
簡潔に書くように指示されたから簡潔に書いたのに、今度はもっと詳しくレポートしろと言う。意地悪されているのではないかと考えがちですが、一つのテクニックとして、簡潔なレポートをまずは提出。その時すでに裏づけとなる詳細なデータなどを用意しておくことです。
レポート構成案
以上より、必要事項を整理すると、構成としては、
- 実施概要
- 結果(対目標)
- 今後への期待値
- 課題
- 今後への提言
をグラフ・写真付きで 1枚から多くて3枚程度 にまとめる。別添として、裏づけ詳細資料を送付。そこに冗長な文章が含まれていたとしても、すでに要点は報告済みなのでそれは問題ありません。特に 顧客のコメント などは原文のまま使用したほうが伝わりますし、グラフの元データは詳細なほどよいです。
その際、大事なポイントに色づけするなどの工夫があるとよいですが、色付けをすることで受け手はどうしてもバイアスがかかってしまうため、あえて色づけをしないのとどちらがよいかを考えてから作成してみてください。
せっかく作成したので同時に出したいところですが、上司からの一次返答に対する返信で添付して送付する。または、会議での報告の場合、会議後にメールで送付する、といったかたちで、受け手である上司の状況を想定したコミュニケーション をとるのも一考です。
相手の立場で考える
結局のところ、「相手が何を知りたがっているのか」 をまず考えることです。
たいていの場合、売上拡大か経費削減をどの程度の投資でできるのか、その投資対効果であったりします。と同時に起こりうるリスクも気になっています。
「1の投資で2を得られます。リスクとしては2が1に減る可能性はありますが、マイナスになるリスクはありません。」
なのか、
「1の投資で3を得られます。しかし、リスクとして1を失うどころか-3に膨らむ可能性もあります。」
なのかをセットにして語ることで、上司が判断に要する時間をミニマイズ することができますし、それこそがレポートをする私たちに必要とされるスキルなのだと考えます。
STEP4で本連載は終了となります。
顧客ターゲットであっても身内である上司であっても“相手を知り、その立場に立った企画、実行、レポートを丁寧に勧めていくこと”を全STEP共通のテーマにお伝えしてまいりました。今後、益々期待がもてるインバウンド・越境ECの市場を攻略するための一助となれましたら幸甚です。
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