日本政府観光局(JNTO)によると、2020年3月の訪日外客数は19万4,000人でした。前年同月比では93.0%減少しており、6か月連続で前年同月を下回っています。この要因としては、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の国々において海外渡航制限や外出禁止などの措置がなされたことが挙げられます。
現在は世界的に旅行需要が減少しており、流行の状況とともに今後の市場動向を注視していく必要があるでしょう。
また2021年には、東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定されています。
その上で、次のステージ、すなわち「来てくれた訪日外国人をどうやってもてなすか、どうやって地方に流すか」から「どうやったら訪日旅行に興味がない外国人にも訪日需要を換気することができるのか」という潜在的訪日客の発掘のステージに進まなければ、ポスト東京オリンピックのインバウンドビジネスに対応するのは難しいでしょう。
そこで訪日ラボでは、訪日外国人向けの調査ではなく、各国で普通に暮らす外国人を「潜在的訪日客」ととらえ、その訪日需要に関する調査を定期的に行います。
調査にあたっては、世界80か国4,000万人の調査回答者へのアクセスを有し、海外リサーチに特化したソリューションを提供するSyno Japan株式会社に協力いただきました。早速見ていきましょう。
【訪日ラボは、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を8月5日に開催します】
「日本旅行をしたい理由・したくない理由」から探る次のインバウンド需要【台湾編】調査概要
今回の調査にあたっては、リピーター率が特に高いことで知られる訪日客数第3位の台湾を対象にインターネット調査を実施しました。
質問項目は、「あなたにとって、日本は観光目的の旅行先になるか」を訪ね、はい・いいえの回答に従ってそれぞれの理由を選択形式で訪ねています。これによって、台湾市場における「訪日需要喚起ポイント」と「何がボトルネックになっているのか」を探ります。
今回の調査では、
- 全体的に訪日意欲は高い。高所得者層ほどその傾向がある。
- 日本に来ない理由1位は「高そうだから」。一方余裕のある高所得者層は日本より他の国を優先する人が多い。
- 高所得者層も買い物需要あり。「コト消費」コンテンツも根強い需要。
- 子どもがいるので行けないという声が多数。子ども連れでも安心して訪日旅行ができるような整備をしアピールすることが必要。
ということがわかりました。では調査結果を見ていきましょう。
「潜在的訪日客」は6割超
- 質問
- 日本は「観光目的の旅行先」になるか、あなたの考え方をお聞かせ下さい。※単一回答
- 回答
- 興味がある・行く・行きたい:65.62%
- 興味があるが、行きたくない:31.98%
- 日本への旅行に興味がない:2.40%
日本が観光目的の旅行先になるかどうかを質問したところ、台湾人の65%が「訪日旅行に興味がある・行く・行きたい」と回答しました。以前行ったアメリカを対象とした調査では、「訪日旅行に興味がある・行く・行きたい」と回答した人は38%でした。この数値と比べると、台湾人の訪日意欲はかなり高いことがわかります。
アメリカの調査では「興味がない」という人は33.65%いました。しかし台湾ではこの通り2.40%です。台湾での訪日旅行の認知度はかなり高いということがわかります。
この調査は、訪日経験のあるなしにかかわらず台湾人全体を対象として行われました。観光庁の調査によると、訪日台湾人のうち初訪日はわずか16.2%、8割以上が訪日リピーターであることがわかっています。
また、台湾の人口は2358万人ですが、2017年は456万人の台湾人が日本を訪れました。これはおよそ5人に1人が日本を訪れている計算になります。したがって、今回調査対象となった人には訪日経験のある人も少なからず含まれていると考えられます。
今回「訪日旅行に興味がある・行く・行きたい」と回答した人のなかには、今まで行ったことがなく行きたいという人と、再訪日を検討しているという人の2パターンが考えられます。
高所得者層ほど訪日意欲は高い
さらにこの項目を年収別に集計してみると、年収250万台湾ドル(約900万円)以上の高所得者層は「訪日旅行に興味がある・行く・行きたい」が77.56%となっており、高所得者層のほうがより訪日意欲が高いことがわかります。
「コト消費」需要が高まっている
- 質問
- 日本への旅行に「興味があり、行きたい」と思う理由は何ですか?当てはまるもの全てお答えください。※複数回答
- 回答(上位5項目を抜粋)
- 自然・景勝地観光:76.99%
- 日本食や日本酒:67.24%
- 買い物:62.22%
- 日本の歴史・伝統文化体験:55.49%
- 温泉入浴:52.37%
以前までアジア圏の訪日客の「買い物」需要は目を見張るものがありました。しかし最近はそのような「モノ消費」から「コト消費」へと需要が移行してきています。台湾の「潜在的訪日客」においても、「自然・景勝地観光」「日本の歴史・伝統文化体験」といった「コト消費」コンテンツの需要がかなりあるようです。
高所得者・富裕層ほど興味が多岐に渡る
同じ項目を年収別で集計してみると、高所得者層ほどさまざまな需要があることがわかりました。アメリカの調査では、高所得者層は全体的な傾向と同様「買い物」需要が低めで、その代わり「コト消費」需要が高いという結果が出ました。しかし台湾の調査では高所得者層も「買い物」需要が高く、「コト消費」コンテンツへの需要も同様に高いことがわかりました。
台湾の高所得者層は、「買い物」から「コト消費」まで幅広く興味をもっており、訪日意欲が高いようです。
「訪日旅行したくない」理由トップは”高そうだから”
- 質問
- 日本への旅行に「興味があるが、行きたくない」「興味がない」と思う理由は何ですか?当てはまるものをお答えください。※単一回答
- 回答
- 高そうだから:25.81%
- 海外旅行に行くつもりがない:21.77%
- 一緒に行ってくれる人がいないから:18.28%
- よく知らないから(行きたいと思うところがない):7.26%
- 他の国のほうが優先度が高いから:7.26%
訪日意欲を問う最初の設問に対して「興味があるが、行きたくない」「日本への旅行に興味がない」などネガティブな回答をした人に対し、その理由を問うと「高そうだから」が一番の理由に上がりました。
アメリカへの調査では「高そうだから」が23.80%となっていましたが、今回の調査ではその数値をわずかに超えています。しかし実際の費用を考えると、物理的な距離はとても近いですし、台湾などの近隣諸国からの訪日客は平均的に長く滞在するわけではありません。
航空券代・宿泊代ともにそこまで高くつくわけではないのに「高そう」と感じさせてしまっているのには、受け入れ側にも問題があるのではないでしょうか。
一方高所得者層「訪日旅行したくない」理由トップは”他の国優先”
「訪日旅行したくない」理由を年収別に集計すると、全体でトップだった「高そうだから」は2番目に、「他の国のほうが優先度が高いから」が25.00%でトップになりました。
高所得者層ならなおさら、実際には「あまり高くない」訪日旅行ですが、やはり「高そうだから」が上位にランクインしているのは問題です。
「他の国のほうが優先度が高いから」が25%というのも非常にもったいないといえます。訪日意欲のある高所得者層は77%いますが、一方で訪日旅行の魅力がまだ十分には伝わっていないという事実もここで浮き彫りになっています。
「子どもいるから行けない」という声も多数
今回行った調査では、「自由回答」という項目を設けました。そこで「訪日旅行に興味があるが、行きたくない」理由として多くみられたのが、「子どもがいるから行けない」という意見でした。
この意見をみると、「子連れ」層はこちらの対応や整備次第では十分取り込める可能性があると考えられます。たしかに海外旅行というと、子どもが小さいうちは行けないというイメージがあります。
しかし例えばトイレにベビーシートを設置したり、バリアフリーにしてベビーカーでも観光しやすいようにしたりするなど、子ども連れの家族が快適に過ごせるような整備を行い、「子ども連れでも安心して旅行できる国」を打ち出していけば小さい子どもがいる人でも来やすくなるのではないでしょうか。
まとめ
今回行った台湾への調査では、全体的に訪日意欲は高く高所得者・富裕層ほどその傾向が強いということがわかりました。
「訪日旅行したくない」理由としては「高そうだから」「他の国のほうが優先度が高いから」などが上位にありましたが、これらは日本側の整備や対応次第で改善が可能です。
東京オリンピックに向けてあと1,000万人訪日外国人数を増やすのであれば、こういった「潜在的訪日客」の研究も必要不可欠です。もちろんリピーターを増やすことも重要ですが、リピーターだけを見ていては数が限られます。さらなる訪日外国人数増加を目指すにはまだ日本に来ていない層にも目を向けていくことが重要です。
<参照>
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
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→「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
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