「アウトバウンド」という用語があります。観光業界におけるアウトバウンドは、「日本人による海外旅行」を指しています。
一方、対義語であるインバウンドは「内向きの」という意味で、観光立国を目指す昨今の日本においては「訪日外国人による旅行」を指すことが多くなっています。
今回の記事では、アウトバウンドという言葉の意味や課題、国際化社会におけるアウトバウンドの重要性について解説します。
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アウトバウンドの意味
まず「アウトバウンド」という語はどんな意味なのでしょうか。英語辞典 Weblioで「アウトバウンド」では以下のように説明しています。
outbound(形容詞)
- 外国行きの
- 市外に向かう
アウトバウンドはもともと、形容詞で「外国に向かう」「市外に向かう」という意味になります。
こうした理由から、旅行業界では日本人が外国へ行くことを意味する言葉としても用いられています。
マーケティング用語としてのアウトバウンド
アウトバウンドは旅行業界だけの用語ではありません。アウトバウンドはマーケティング手法の一つを表す言葉でもあります。
マーケティングにおいては「アウトバウンドマーケティング」という概念が存在します。アウトバウンドマーケティングとは、企業から顧客に対してアプローチする広告戦略のことを指します。
マーケティングを行う主体(企業や組織)に視点を置けば、情報を届ける先にいる顧客は外側に存在することになりますのでこのように表現されます。多くの顧客に対して一斉にEメールを送ったり、新聞広告を掲載したりするマーケティング手法がアウトバウンドマーケティングに当たります。
インバウンドを観光面からわかりやすく徹底解説
「インバウンド」という言葉は産業ごとに意味が異なりますが、観光用語のインバウンドは、外国人が訪れる旅行を意味しています。インバウンドという言葉に注目が集まる理由には、年々訪日外国人観光客が増加しているという背景があります。2018年には3,119万人の外国人が日本を訪れました。そこでこの記事では、「インバウンド」という言葉の意味や「アウトバウンド」との違い、また今後増加する訪日外国人を受け入れるあたり、必要なインバウンド対策について紹介します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」の...
政府はアウトバウンド・インバウンド双方の旅行客を増加させる狙い
訪日旅行客は増加し続けており、インバウンド市場への注目は日に日に高まっています。
同時に、日本政府はインバウンド旅行客だけではなく、日本から海外に行く旅行客(アウトバウンド)も増加させようとする方針を取っています。
アウトバウンドを促進:2020年に海外渡航者2,000万人を目指す
政府は2008年よりアウトバウンド促進協議会を通じて、日本人の海外渡航者数2,000万人を目標として様々な活動に取り組んでいます。
このインバウンドとアウトバウンドという双方向の交流人口を増やしていく方針を「ツーウェイツーリズム」といいます。アウトバウンドの旅行客を増加させることで「日本人の国際感覚の向上」や「外国人との相互理解を進めること」、「インバウンド事業への貢献」などが期待されています。ツーウェイツーリズムを進めることで多くのメリットがあります。
1つ目は国境を越えた友好関係の樹立です。「観光は平和へのパスポート」といわれることがあります。観光を通じて多くの人々が草の根レベルで交流することは、国家間の友好関係を築くことに役立つとされています。
2つ目は、グローバル人材の育成です。こうした視点からは、特に若者層への海外旅行支援に重点が置かれています。若年時の海外旅行経験は、その後の海外旅行の頻度や国際的な価値観の醸成に大きな影響を及ぼすことが研究により示されてきました。
グローバル人材育成を目指す日本政府は、海外旅行を通じて多様な価値観に触れた若年層が、その後世界で活躍できるグローバル人材となることを目指しています。
アウトバウンド旅行客数とインバウンド旅行客数が逆転
2015年には訪日外国人旅行客数が、出国日本人数を上回りました。インバウンドとアウトバウンドの逆転です。
しかし、2015年以降もインバウンドは堅調な増加が続いている一方で、アウトバウンドは伸び悩んでいます。近年では格安航空会社の航空便の就航も増えており、これまでよりも海外旅行へのハードルは低くなっています。
しかしこうした条件も整い、グローバル化が声高に叫ばれる時代にあってもなお、日本人はなかなか海外に行こうとはしていないようです。
2018年1~12月の訪日外客数は約3,119万人ですが、同期間の出国日本人数は約1,895万人[出典:日本政府観光局(JNTO)]となっています。
海外旅行を通じた国際交流が深まることで日本の真のグローバル化は進んでいくはずです。また海外滞在の経験が日本を訪れるインバウンド旅行客の対応に役立つこともあるでしょう。出国日本人数の少なさやインバウンド旅行客数との非対称性は、グローバルな経験の不足により国際社会との足並みがそろわなかったり、インバウンド対応の品質低下につながる懸念があります。
こうした課題を克服するべく、日本政府はさまざまな施策に取り組んでいます。
アウトバウンド促進の目的は?
先述のとおり、アウトバウンド旅行客(出国日本人数)の目標は年間2,000万人の達成です。これにより双方向の交流拡大を目指しています。
目標達成のため、旅行会社は現地観光局やサプライヤーなどと協力し、新たな旅行商品を企画、提供することで、海外旅行の魅力向上、送客増加を目指しています。
政府がアウトバウンドを促進する理由として、国策として掲げている「グローバル人材」の育成のための一つの方法として、海外旅行を重視していることが挙げられます。
観光庁はアウトバウンドが多様な価値観への寛容性と多彩な創造力をもたらすために重要であるとして、特に若年層への海外旅行普及を目指しています。
アウトバウンドにおける日本が抱える課題
アウトバウンドを進める上での課題には旅行業者の取扱額が低迷していることが挙げられます。
2017年の日本人の海外旅行者数は前年比4.5%増の1,789万人でした。一方で、旅行者数が増加しているにも関わらず、旅行業者の取扱額は低迷しています。
この課題を克服するために2017年に発足したアウトバウンド促進協議会は、6つの地域部会に別れて活動を展開しています。
部会ごとに、それぞれの地域の観光地をリストアップするなど観光地としての魅力がより日本人旅行客に伝わる活動をメインで行なっています。その結果、収益性が高い欧州旅行の需要が増加するなど確かな成果をあげています。
今後もアウトバウンド促進協議会やその上位組織である日本旅行業協会が、各旅行業者と協力しつつ、アウトバウンド事業をさらにグローバルに展開することが求められているといえるでしょう。
アウトバウンド活性化が日本のグローバル化を促進させる
アウトバウンド旅行客の増加は、「内向きな志向に陥りがち」という、国際社会における日本の課題を解決するためにも役に立つ方策です。
若者世代が海外旅行を通じて、異文化を知り、多様な価値観に触れることは、今後の国際協調にも良い結果をもたらすでしょう。またインバウンド旅行客の集客や満足度向上にも、こうしたグローバル人材は欠かせません。アウトバウンドはインバウンド市場にとっても密接に関係した存在です。インバウンド関連事業を行う組織は、今後アウトバウンドの動向にも注意を払うべきでしょう。
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