2019年11月に公開された映画「アナと雪の女王2」をはじめとするいくつかの作品において、ウォルト・ディズニー・ジャパンによるステマ疑惑が世間を騒がせています。
この記事では、ステマについて、そしてインフルエンサーマーケティングの違いについて解説します。また、なぜステマが非難されるかについて、いくつかの事例とあわせて解説します。
※ステマ…ステルスマーケティングの略称。ステルスとは英語で「隠密」「こっそり行う」という意味であり、戦闘車両等の兵器をレーダー等のセンサー類から探知され難くする軍事技術を指します。こうした性質を持った「PRと分からない形で都合の良い情報を流布すること」をステマと呼びます。
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ディズニー「アナ雪2」ステマ疑惑
2019年11月22日に劇場公開された「アナと雪の女王2」について、7人の漫画家が一斉に、映画の感想を描いた漫画を投稿しました。
漫画のテーマや投稿の時間が同じだったことを不自然に感じたネットユーザーから「ステマではないか」と指摘の声が相次ぐ事態になりました。
これを受け、12月5日、ウォルト・ディズニー・ジャパンは公式に謝罪文を公表しています。
その他ディズニー作品でもPR表記が脱落
しかしこの謝罪のあと、ステマを疑われる同様の行為が「アラジン」「アベンジャーズ/エンドゲーム」「キャプテン・マーベル」でも行われていたことが発覚し、12月11日に同社は再度、公式サイトにて再度謝罪する事態に至っています。
謝罪文には、マーケティング活動における社内指針はあるが、指針に関する周知および遵守が不徹底であったこと、参加した漫画家には責任がないことが書かれていました。
「アナ雪」またそれ以外の作品にこのような事態が生じた理由について同社は、本来関係の漫画コンテンツは「PR」表記をつけて投稿を行う予定だったはずが、コミュニケーションのミスで表記が抜け落ちる結果になってしまったと説明しています。
今回の件はあくまでステマ「疑惑」であり、悪質性はそれほど強くないものの、純粋に映画の感想を知りたいと思っていたユーザーを裏切る形になってしまいました。ディズニー側が謝罪したのは当然の流れでしょう。
過去には吉本芸人もステマ疑惑
日本国内でのステマ事例は、過去には企業によるものが多く注目を集めてきましたが、地方自治体が関係した事件もありました。
ステマを請け負ったのは日本を代表するトップ企業、吉本興業のコンビ芸人とあって、事件は広く世間の注目を集めました。
2019年10月末に報道があったこの事件は、京都市が「京都国際映画祭」の宣伝ツイートを当該のコンビ芸人に依頼したものです。報道によれば「コンビ芸人がそれぞれツイートしたら50万円支払う」といった内容の契約が交わされたとしています。
芸人のツイートには地方自治体が主催するイベントのPRであると明記されていなかったことから、「これはステマではないか?」と物議を醸しました。
ステルスマーケティング、通称「ステマ」とは?
「ステマ」とは「ステルスマーケティング」の略称です。企業が特定の人物に金銭等の見返りを与える代わりに、広告であることを明記せず、企業にとって都合のよい口コミを投稿させたり、良い評価を行わせたりする手法です。
発信者は、実際には広告主から金銭を受け取っているにも関わらず、中立であるかのように見えるという側面もあります。
企業とは利害関係のなさそうな一般の消費者のふりをしたり、企業が架空の人物を作り上げる方法や芸能人やインフルエンサーを使って、金銭と引き換えにPR表記なしで口コミを依頼したりする方法があります。
なぜステマが批判されるのか?
ステマと知らずに情報を取得した消費者は、「インフルエンサーが毎日使っているものならば」「あの著名な評論家が効果を保証するなら」といった判断を下し、商品購入やサービス契約に踏み切る可能性があります。
使っていない商品をあたかも日常的に使っているふりをしたり、効果を実感しているわけでもないのに抜群の効果を感じられたように発信したりするのは、偽りの情報を消費者に与えているにほかなりません。
事実を誤認させる宣伝方法は法律でも禁止されており、ステマそのものを取り締まる法律はないものの、その内容次第では法的な処罰の対象となると考えられます。
またステマが発生した業界では、商品が異なるだけで同じことが起きているのではないかと消費者が疑いの気持ちを大きくすれば、業界全体の不信感につながる可能性があります。
一度ステマが発覚すると、消費者は何が宣伝で何が本音の口コミなのか区別がつかず、どれも信用ならないと感じてしまうでしょう。結果として買い控えや業界の縮小につながる危険性もあります。
インフルエンサーによるPR活動との違いは?
インフルエンサーを使ったマーケティングとステマは何が違うのかといった疑問がときどきあがります。この2つは明確に異なるもので、最大の違いは「広告であること」を明記しているかどうかです。
自社の商品やサービスをより多くの人に伝えるために、インフルエンサーを活用するのはなんら問題ではありません。その場合は、広告であることが消費者にわかるよう「PR」表記をはじめ「広告であることが明確にわかる表記をすること」と、業界団体によるネイディブ広告のガイドラインで定められています。
※ネイティブ広告…媒体上の一般コンテンツと同じ体裁で掲載される、広告主による情報発信。
一方でステマとされるのは、企業側がインフルエンサーに報酬を与えることによって、まるで彼らの本音であるように見せかけて商品、サービスを宣伝する手法です。企業が発信者に見返りを与える代わりに使用感や効能を語らせているのであれば、インフルエンサーは基本的に企業に都合の良いことしか発信しないでしょう。
消費者はこうした構図を理解して、当然ながらステマを嫌がる傾向にあります。
オフラインの時代は消費者の目もここまで厳しくなかった?
企業側の仕込みや広告であることを伏せて、商品の良さを説いて回る手法は、インターネットがまだ存在しない頃にもとられていました。
今は日本を代表するメーカーであるソニーも、海外展開に尽力していた1950年代には現地でサクラを依頼して販売に成功したことが伝えられています。
現代であれば不誠実な手法としてとらえられてしまうこうしたやり方も、消費者とのコミュニケーションの場が限られた時代には工夫がこらされているとして好意的にとらえられていたようです。
海外ではかなり厳しく批判されるステルスマーケティング
国内での例を紹介してきましたが、海外でも同様のステマ行為は散見されます。アメリカでは日本以上に厳しく批判されるケースも多いようです。
1. ウォルマート偽ブログ(アメリカ)
2006年に発覚したアメリカのスーパーマーケット「ウォルマート」の事例です。
「Wal-Marting Across America」のサイト内で、一般人のカップルを装い同社に好意的なことばかりを書いたブログを運営していていました。
これは企業イメージ向上を狙うステマで、当時「ウォルマート」における労働環境の悪さが非難されていたことが背景にあったようです。
直接的に関わっていたのは大手PR会社のエデルマンで、口コミマーケティング団体の倫理規定の策定にも関わっていたこともあり、ルールを定める側が正反対の行動をしていることで大きな批判を浴びました。
2. 映画批評家の「デビッド・マニング」事件(アメリカ)
「ソニー・ピクチャーズ」が行ったステマの事例です。
その手法は「デビッド・マニング」という架空の映画評論家をねつ造し、好意的な感想を発表させるというものです。
「ねつ造された映画評によって映画を観てしまった」と映画ファンが主張し、損害賠償を求める訴訟を起こしたところ、裁判所にこれが認められました。
観客一人につき5ドル、総額にして約150万ドル(約1億6,000万円)の賠償金の支払いを命じる判決が下されています。
一度でも失った信頼は取り戻せない「ステマ」は百害あって一利なし
最近ではネットの情報発信に熟知した消費者も増えており、SNS投稿が本当の口コミなのか、ステマであるのかを敏感に見分ける人も出てきています。またこうしたネットユーザーの発信を通じて、ステマに気付くフォロワーもいるでしょう。
Twitter:SNSでのステマに関する投稿(https://twitter.com/norokeisguilty/status/1205733749792489472)
金銭の支払いを通じた情報発信には「PR」などの表記をつけ、消費者との目線をそろえることが、インターネットサービスの広まった現代で、本当に好感を持たれるブランドを確立するための正攻法だと言えるでしょう。
<参照>
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社:ニュースリリース
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社:ニュースリリース
ITmedia NEWS:京都市と吉本興業、“4ツイート100万円”で宣伝 広告表記なしで「ステマ」批判相次ぐ
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