佐賀県はインバウンド誘致に成功し、2017年の外国人の延べ宿泊者数は385,250人泊となり2011年と比べると10倍以上増加しています。
急成長の背景には佐賀県の戦略的なインバウンド施策がありました。本記事では、ロケツーリズムや酒蔵ツーリズムを活用した佐賀県の観光戦略を紹介していきます。
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佐賀県のインバウンド動向は?
佐賀県を訪れる外国人の国籍や消費動向の特徴や佐賀県が実施したインバウンド対策と併せて紹介します。
佐賀県のインバウンド需要は?
2018年の観光庁による調査結果によると、佐賀県のインバウンド需要は訪問率1.08%の24位でした。しかし、1人1回当たりのインバウンド消費額は18,466円の43位、宿泊日数平均は1.1日という結果で、訪問率の相対的な高さに比べて低さが目立ちます。
その理由には、佐賀県を訪れる外国人の90%以上が近隣のアジアや東アジア諸国であることの影響があります。こうした地域の旅行者の予算はインバウンド市場全体で見た場合決して高くはなく、結果として佐賀県のインバウンド消費額は全国43位にとどまっていると考えられます。
加えて佐賀県の「JAPAN Free Wi-Fi」登録施設が全国45位、外国人観光案内所の設置数は全国35位であり、これらは外国人が快適に長期滞在するために対応する課題と言えるでしょう。
佐賀県のインバウンド需要
国内向けの観光PRで度々話題を集める佐賀県ですが、インバウンドにおいては人気の観光地・博多が近いためか、日本人の観光地認識以上にインバウンド需要があることが伺えます。
2013年と2018年の外国人宿泊者の増加割合が1位
日本政府観光局の調べによると、2013年から2018年の外国人宿泊者の増加率が最も伸びた県は佐賀県でした。5万5,550人から37万4,840人に増加し、この数は6.75倍にも相当します。佐賀県は東アジア地域と近いという地の利を活かし、2013年以前から映画ロケ地の誘致を行い、アジア圏での認知度を上げる施策を実施しました。
2011年には韓国映画の誘致に成功し、その経験を活かして2013年以降はタイ映画も誘致することができました。その結果、タイ人観光客が一気に増え、さらに2019年のタイ人の1人当たりの旅行支出額は前年比18.7%増、消費額全体は前年比22.4%増を記録しました。
今後も成長が見込まれるタイは佐賀県にとって重要な国として位置づけられるでしょう。
タイからの観光客急増の鍵は映画ロケ?ロケツーリズムの成功事例
ロケツーリズムとは、映画やドラマのロケ地を訪れてその土地の自然や文化、人に触れ、その地域のファンになること指します。
観光庁が取り組む「テーマ別観光による地方誘客事業」の選定テーマのひとつでもあります。ここでは、ロケツーリズムに成功した佐賀県の事例を詳しく解説します。
徹底したターゲット設定
佐賀フィルムコミッションは(以下、佐賀FC)「佐賀が元気にあるためには?」をテーマに映像作品のロケ誘致を通じて佐賀県のPRだけではなく地域活性化のために2005年に設立されました。
地元住民も作品づくりに巻き込み、佐賀の良さを改めて認識すると同時に新たな魅力を発見していくことを目的としている非営利団体です。
佐賀FCは2013年7月にタイ人の訪日観光ビザ制度が緩和され、タイ・バンコク空港から福岡空港へ直行便が就航されていることから、タイを韓国や中国に代わる新たなターゲットとして選定しました。
その過程では、
- 経済成長率
- テレビ業界の動向
- 日本への興味関心の高さ
- 佐賀への導線
- 日本の他地域でのロケ実績
の5項目について重点が置かれました。
映画の成功を佐賀のPRにつなげる戦略
佐賀県の認知度を上げ、さらに訪日観光客の数を増やすためには映画そのものヒットが必要でした。佐賀FCはタイ映画やドラマで実績のある有名プロデューサーや受賞歴のある監督や人気俳優についてインターネットなどでリサーチし、ジャパンフィルムコミッションの協力を得て、タイの映画やテレビ業界とのコネクションを築きました。
そして佐賀県をロケ地としてオファーすることに成功し、2014年タイ映画年間興行収入5位のヒット映画「タイムライン」の一部シーンが佐賀で撮影されました。この映画をきっかけにタイのメディアで「SAGA」が紹介されることが急激に増えました。
佐賀県観光課はロケ後の誘致を最大限に活用するため、タイ映画の撮影が円滑に進むように制作者のリクエストに丁寧に対応し、監督や出演者と信頼関係を築くことを意識したそうです。
その結果、主演女優を佐賀の観光PR冊子「ADVENTURE SAGA」に起用に成功しました。また映画公開イベントでは、佐賀県のPRタイムが設けられるだけでなく監督が旅行イベントのゲストとして登壇し佐賀県の魅力を語るなど、タイ人へPRする機会を戦略的に増やしました。
継続的なPR
佐賀FCはその後も継続的にタイへの営業に力を入れ、テレビドラマ「きもの秘伝」やLINE TVドラマ「STAY saga〜私が恋した佐賀〜」など新しい映像作品を毎年誘致することに成功します。新規観光客やリピーター獲得のため佐賀県観光課はロケ地誘致のたびにPR冊子「ADVENTURE SAGA」を制作し、ロケ地以外の観光地の露出や公開のタイミングに合わせて旅行イベントの開催を行い集中的かつ効率的にPRを展開しています。
訪日タイ人の増加に伴い観光地や地元住民もインバウンド対策に乗り出し、タイ語のあいさつを覚える人やタイ語の案内板が町中や商店街に設置されました。
佐賀県全体が「タイ・ファースト」に取り組むことがタイ人観光客の数が急激に伸びた理由であると言えるでしょう。
なぜ佐賀にタイ人が?3年で15倍に爆増した背景にあった「ロケツーリズム」とは
2016年から観光庁が取り組んでいる「テーマ別観光による地方誘客事業」のテーマの1つに「
その他のインバウンド成功事例
佐賀県では各市町村が積極的にインバウンド対策に取り組んでいます。
嬉野市のインバウンド施策
嬉野市は外国人観光客のニーズに合ったPRや受け入れ体制を整える施策を進めています。
例えばスナックをジャパニーズパブとして分かりやすく説明、外国人向けまちなかガイドの発行、うれしの茶を海外でPR、外国人向けの忍者・芸妓イベントの開催などが挙げられます。
インフラ面ではWi-Fiの設置強化や商店街や飲食店でのクレジット決済対応などの整備に努め、受け入れ体制の強化を図っています。
さらに外国メディアの取材を積極的に受け、観光資源である温泉、お茶、陶器、忍者、芸妓の発信に努めています。
また、外国人向けに温泉などを解説した動画をureshinospaというYouTubeチャンネル上で公開しています。
動画は英語音声で制作されていますが、韓国語や中国の字幕が用意されています。
インパクト抜群!「SA GA LAND」
2017年にヒットした映画「ラ・ラ・ランド」のパロディー動画「SA GA LAND」が話題を呼んでいます。
50名以上の市民ボランティアの協力の下制作され、佐賀の魅力を英語字幕付きで楽しく紹介しています。
佐賀県非公式のPR動画でありながら、YouTubeでの再生回数は4万回以上を突破しました。
佐賀県のインバウンド成功事例を参考にインバウンド対策を
佐賀県で県全体で取り組んでいる施策や地域ベースで取り組んでいる施策とさまざまですが、いずれもターゲットとPR内容をしっかりと策定し、徹底的にプロモーション活動に取り組んでいます。ターゲットとPR内容を明確にすることで、より伝わりやすく「行ってみたい」「体験してみたい」という消費行動に結びつけることができることを示した好例でしょう。
<参照>
JTB総合研究所×ナビタイムジャパン:観光活性化のための課題とソリューションを導くためのマーケティング活動
JNTO:訪日外客統計の集計・発表
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
- 変わりゆく市場の状況と、今後注目のトレンドを把握できる
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詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
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