経済成長が進み、可処分所得の増える世の中で、消費の傾向には変化が表れてきています。
商品を所有することに価値を見出し、それに対価を支払うことを「モノ消費」と言い、何らかの体験をすることに価値を見出し、それに対価を支払うことを「コト消費」と言いますが、後者の傾向が強まってきています。
昨今のインバウンド業界でも、今まで消費の主役であった「モノ消費」から、「コト消費」重視へと変わりつつあると言われていますが、実際にはどのような変化が起こっているのでしょうか。
今回は訪日ラボが執筆した「インバウンド調査報告書2020」に掲載されている数値データを基に、消費動向の変化について分析します。
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日本各地のインバウンド消費傾向は?データから分析
東京や大阪などの都市部では、買い物による「モノ消費」も多く見られる一方で、地方では宿泊施設での滞在や遺産を回るツアー、自然景観を楽しむといった「コト消費」が多く見られます。
今回は国内全体の消費動向を掴むため、国内全体における全訪日外国人の消費総額を基にして、モノ消費からコト消費への移り変わりを分析します。
消費総額は増加、しかし一人あたり消費額は減少傾向
2019年上半期の訪日外国人の消費総額は2兆5,314億円となっており、前年同期と比べて7.1%増加しています。
また、訪日外国人1人当たりの消費金額は15万2,188円で、前年同期と比べて約2.4%増加しています。なお、中国人による爆買いがピークを迎えていた2015年の1人当たり消費金額は17万6,167円で、4年間で約15.8%減少しています。
「インバウンド調査報告書2020」では、これらの消費総額を「モノ消費」と「コト消費」に分け、今期、前年同期、前年同期比の数値を並べた表を作成しました。
消費トレンドの移り変わりが一目でわかります。
まず、モノ消費の内訳を見てみます。
2019年上半期の1人当たり「モノ消費」の金額は5万3,709円で、前年同期と比べて約6.5%増加しました。
商品の種類別に見てみると、靴・鞄・革製品が前年同期と比べて約26.9%、化粧品・香水が約24%それぞれ増加しており、ファッション小物やセルフケア用品、し好品に費やす金額が増えていることが分かります。
一方、消費金額が大きく減少したのは電気製品と宝石・貴金属です。電気製品は前年同期と比べて約33.6%、宝石・貴金属は約39.4%それぞれ減少しています。
電気製品は生活の利便性を高めるものなので、こうした製品には基本的にニーズが存在していると考えられます。これまでよりも、日本で買いたいという動機付けが弱まった可能性も大きいでしょう。
宝石・貴金属についてはこうした製品がダウントレンドである可能性や、同じく日本で買うことをそこまで重視しなくなった可能性、こうした製品を志向する消費者が日本に来なくなったことなどが考えられます。
こうした傾向の背景には訪日旅行客の客層の変化も指摘できるでしょう。前年までは訪日旅行の機会がなかった属性の人々が、多く日本を訪れるようになっています。
2019年には上海航空、山東航空、烏魯木斉(ウルムチ)航空など、多くの航空会社が日中間での定期運航を開始、増便しています。
同時にビザの発給要件緩和や手続きの簡易化も進められています。こうした緩和策により、中国をはじめとして、以前より幅広い属性の旅行客が日本を訪れています。
次に、コト消費の内訳を見てみます。コト消費として、本調査報告書では、「宿泊費」「飲食費」「交通費」(総額と、各交通機関ごと)、娯楽等サービス費(12のカテゴリに分類)の項目を設けました。
2019年上半期の1人当たり「コト消費」金額は9万8,282円で、前年同期と比べて約0.03%増加しました。
総額としてはほぼ変動がないように見えますが、種類別に見てみると、航空(飛行機)が前年同期と比べて約11.2%、新幹線・鉄道・地下鉄・モノレールが約9%それぞれ減少しており、代わりにタクシーが約8.2%、レンタカーが約17.2%、船舶が約19.6%それぞれ増加しています。
一般的な移動手段にかける金額が減少し、効率的な移動が可能なタクシーやレンタカー、移動そのものを楽しめる船舶などの移動手段にかける金額が増加していることから、旅行における移動時間に対するこだわりを持つ訪日外国人が増えつつあると分かります。
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アジアと欧米豪、消費傾向の違いは?
ここまでは、訪日外国人全体の消費総額からモノ消費とコト消費の傾向について分析しましたが、訪日外国人を国別に分けた場合、アジアと欧米豪では消費動向に違いはあるのでしょうか。
国籍・地域ごとの消費金額を比較することで、エリアごとの消費傾向が「モノ消費」「コト消費」どちらを重視したものになっているかも見えてきます。
アジアは「モノ消費」が強め
上の図は、国籍・地域別に、2019年と2018年の1人当たり消費金額を並べて示したものです。
訪日中国人の買い物代は1人当たり11万7,414円です。同じ東アジアの訪日台湾人では4万8,553円、訪日香港人では5万4,331円であり、またそのほかの国籍・地域と比べても突出した数字となっています。
2019年の1人あたりの消費金額を前年同期と比較してみると、東アジアの4市場は増加しており、訪日中国人は1,987円、訪日台湾人は1,890円、訪日香港人は5,404円の増加です。
2015年に一大ブームとなった爆買いは落ち着きを見せているとはいえ、今日でも多くの訪日中国人が日用品などの品物を大量に購入しており、その結果が数値として現れていると考えられるでしょう。
爆買いとは
「爆買い」とは、主に訪日中国人による一度に大量の商品を購入する行為をいう俗語です。2015年には流行語大賞を受賞するほどの社会現象となりましたが、昨今は以前と比べ下火になったとの論調もあり「爆買いは終わった」といわれることもあります。 一方で最近でも、ドラッグストアや小売店に足を運べば、そこにはやはり日用品や医薬品を購入する訪日中国人の姿があります。しかし、広く訪日外国人観光客の消費傾向が「モノ消費」から「コト消費」へと変化していることも事実です。 この記事では、果たして爆買いは本当に...
欧米豪「コト消費」の傾向はっきり
続いて欧米豪に目を転じてみます。
訪日イギリス人、訪日フランス人、訪日ドイツ人の消費金額を見てみると、買い物代などの「モノ消費」より宿泊費や飲食費などの「コト消費」が高いことがわかります。
欧米豪からの旅行を考えてみると、当たり前ですがアジア諸国よりも日本への距離が遠くなっています。航空券にもそれなりの費用がかかります。
こうした状況が、長期休暇を利用した訪日旅行客の多さにつながります。
また注目すべきはインバウンド欧米豪市場における飲食費の大きさです。一人当たり飲食費の上位5か国は上から順にオーストラリア、イギリス、イタリア、フランス、スペインとなっており、オーストラリアとヨーロッパにより占められています。
これらの数値から、アジア諸国は限られた時間を有効に用いて旅行をする傾向にある一方で、欧米豪諸国は長期休暇でゆっくりと旅行を楽しみ、旅の時間や体験を重視する傾向にあると分かります。
外国人のレンタカー事故急増 日本人の4倍以上の発生率/国と自治体の安全対策3選
2018年11月29日に総務省より発表された「レンタカー事業に関する実態調査」において、訪日外国人観光客によるレンタカーの事故率は、日本人の4倍強であるということが判明しました。相次ぐ訪日客のレンタカー事故を受け、国と自治体が実施している事故対策を3つ紹介していきます。インバウンド受け入れ環境整備を資料で詳しくみてみる「翻訳・多言語化」を資料で詳しくみてみる「多言語サイト制作」を資料で詳しくみてみる「多言語化表示サービス」を資料で詳しくみてみる「テレビ電話型通訳サービス」を資料で詳しくみて...
モノ消費、コト消費、それぞれの流れを捉えよう
モノ消費からコト消費へと全体の消費傾向が移りゆく中で、モノ消費、コト消費の中でもそれぞれ消費の傾向が移りつつあります。
「爆買い」にスポットライトが当てられることは少なくなりつつありますが、変わらず訪日中国人の買い物代は突出しており、無視できない存在です。
同時に、コト消費の市場では移動時間を有意義に使ったり、移動そのものを楽しむ風潮が生まれつつあります。また欧米豪諸国からの旅行者には、長い滞在期間を設けた上で、旅の体験を楽しむ旅行スタイルが受け入れられています。
これ以外にも、消費に関するさまざまな数値の分析を通じて、国や地域ごとの動向が見えてきます。こうしたデータは、どのようなインバウンド対策を導入すべきかの判断に大いに役立つでしょう。
更に詳しい数値と解説は、「インバウンド調査報告書2020」をご参照ください。
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本調査報告書について
本調査報告書は「訪日ラボ」が、2018年上期から2019年上期にかけてのインバウンド市場を徹底的に分析することで、2020年上期のインバウンド市場を展望する内容となっております。
本報告書の制作にあたり、観光庁やJNTOなどが提供する公的なデータ、株式会社ナビタイムジャパンからのデータ協力、そして自社メディアにて集積した膨大なデータを基に分析しており、変化の激しいインバウンド業界の方にとって価値のある情報を提供することを目的としています。
構成・各章の概要は以下の通り。
- 第1章「市場全体データから分析するインバウンドの現在」
- 訪日者数や消費金額総額等のマクロデータに加え、業界を支える事業者へのアンケートも交え、インバウンドの現在の趨勢についてまとめています。
- 第2章「都道府県別インバウンドデータに見る トレンドと課題」
- 全国47都道府県を9エリアに分け、県別に各種の公的データを集計。また、NAVITIME提供のインバウンドGPSデータによる宿泊者数や移動データも収録し、外国人訪問者の動向と消費の詳細が分かるデータとしてまとめています。
- 第3章「国・地域別インバウンドデータに見る トレンドと課題」
- 政府の指定する重点市場20か国について各種データを集計し、各国の訪問動向と消費内訳をまとめています。どの月にどの県へ訪問、宿泊がなされ、なにを期待して訪日したのか。またどの品目により多くの消費がなされたのか。次にインバウンド対策として打つべき手についてデータを分析しています。
- 第4章「業界別インバウンド市場ニュースと事例」
- 2019年1月-6月期において訪日ラボの人気記事を業界ごとにリストアップし、それらをPVの大きかった順に並べ、キーワードを抽出しています。メーカー、交通、宿泊、小売、そして地方自治体のニュースの記事が注目を集め、話題となったのか。業界ごとに分析・解説しています。
- 第5章「インバウンド対策ソリューション企業一覧」
- インバウンド向けに受け入れ対応したい・プロモーションしたい事業者をサポートする、インバウンド対策サービスをまとめ、リストアップしています。
書籍情報
書名:インバウンド調査報告書2020[2019年上期のデータから2020年上期を展望する]
著者:訪日ラボ
発行所:株式会社インプレス
発売日:2019年12月24日(火)
価格:CD(PDF)版、ダウンロード版90,000円(税別)CD(PDF)+冊子版100,000円(税別)
判型:A4判カラーページ数:444ページ
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