飛び恥「飛行機に乗るのは恥」欧州発のトレンド:日本がつかむべき商機とは?

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世界中で環境保護運動が活発となる中、航空業界を揺るがす「飛び恥」という言葉が注目を集めています。

温暖化対策を訴えるスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリー氏が行った国連の温暖化対策サミットにおける演説は、日本でも報道され話題となりました。

今回は、各国や企業が取り組む環境保護運動をふまえ、「飛び恥」運動が日本のインバウンドにどのような影響を及ぼすのか、その可能性について考察します。


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スウェーデン生まれの「フライト・シェイム=飛び恥」

温室効果ガスを大量に排出する飛行機ではなく、列車や船で移動しようというムーブメントを支える「フライト・シェイム」という考え方があります。

スウェーデンで使われ始めた言葉であり、日本語に訳せば「飛び恥」とでもなります。温室効果ガスを多く排出する「飛行機に乗るのは恥」という考え方から、ヨーロッパを中心に飛行機の利用を避け鉄道を選ぶ「飛び恥」の動きが広がっています。

なぜ生まれた?スウェーデンの環境保護に対する意識の高さ

温室効果ガスの排出量を減らそうという動きが進み、その具体策の1つとして、各個人の移動手段である航空機に注目が集まっています。

実際にグレタ・トゥーンベリー氏がニューヨークで開かれた国連の温暖化対策サミットに参加する際、飛行機の利用を控えヨットで大西洋を渡ったことなどから、「飛び恥」運動の認知が拡大しました。

スウェーデンは特に環境保護に対する意識が高く、国民の37%が可能な限り飛行機ではなく鉄道で旅行すると答えています。空港管理会社スウェダヴィア(Swedavia)によると、2019年4月のスウェーデン国内の空港利用者数は、前年比で15%減少したことが明らかになりました。

一方でスウェーデンの主要鉄道オペレーター・SJは、2019年1〜3月の利用者数が前年比で12%伸びたことを発表しています。鉄道需要の高まりが伺える調査結果から、「飛び恥」運動の効果が表れたといえるでしょう。

飛行機は自然環境を害するのか?

乗客1人が1km移動するのに排出される二酸化炭素の排出量は鉄道が14gであるのに対し、航空機は285gです。飛行機での移動は、鉄道と比較すると圧倒的に多くの二酸化炭素を排出することがわかります。

世界の航空会社全体で排出する二酸化炭素は、全ての二酸化炭素の排出量の2%を占めるとされています。2018年に世界の民間航空機が排出した二酸化炭素は9億1,800マントンと言われ、そのうちアメリカにおける飛行機の二酸化炭素排出量は、世界全体の4分の1を占めている状況です。

温室効果ガス問題、どれだけ深刻?各国、各企業の取り組み

日本では二酸化炭素を“資源”としてとらえ、カーボンリサイクルを実施しています。分離・回収し燃料や原料として再利用することで、大気中への二酸化炭素排出を抑制する仕組みです。2019年9月に開催された「第1回カーボンリサイクル産学官国際会議」では、日本発のコンセプトとして、カーボンリサイクルの普及や促進を図りました。

アメリカやオーストラリア、オランダなどの先進国をはじめ、アジアやアフリカの途上国も含めた計20の国と機関が参加し、オーストラリアとは今後共同研究を実施する覚書を締結しました。

環境保護に積極的な姿勢を見せるスウェーデンでは、ガソリン燃料に小麦から精製したエタノールを混合、バイオガスや天然ガスを利用、複数人のグループで車を共同利用するカーシェアリングの取り組みなどを実施しています。

またソニーでは、エネルギー使用に伴う二酸化炭素およびPFC (パーフルオロカーボン) 等の温室効果ガスの削減に取り組んでいます。2020年度までに、2015年度比で事務所の温室効果ガス総排出量を5%削減することを目標とし、世界各地の事業所で省エネ型空調システムの導入や、製造現場の社員が主体的に省エネルギー活動を実施中しているのが特徴的です。

ヤマハ発動機グループでは、太陽光、風力による発電システムを導入しています。2004年に本社工場へ太陽光発電を設置して以来、再生可能エネルギーの利用拡大を推進するために、2018年にはアメリカやタイ、台湾などでも太陽光発電を導入しました。

温室効果ガスを排出している企業も、「国内排出量取引制度」に基づいて排出量の買取というかたちで責任を果たそうとしています。「国内排出量取引制度」では、企業や国などが温室効果ガスを排出することのできる量を「排出枠」という形で定めています。この枠を超えて排出をしてしまう分、排出枠より実際の排出量が少ないところから排出枠を購入し、それによって削減したとみなす制度です。

飛び恥避けたい!そんな人に「列車」や「船」での移動

列車や船は、航空機に比べて温室効果ガスの排出量が少ないことから、航空機の代替手段として利用するケースが実際に見受けられます。トゥーンベリー氏も、ローマ法王に拝謁した際にはバチカンまで鉄道で移動したほか、ニューヨークの国連で開かれた温暖化対策サミットに参加する際にはヨットで大西洋を渡りました。

デメリットは「移動時間の多さ」

空路と陸路を比較すると、空港までの移動やチェックイン、搭乗までの待ち時間などを加味すると、所要時間4時間、約800kmまでは、鉄道のほうが優位性が高いとされています。これ以上の場合には、飛行機を利用する方が時間はかかりません。

経済活動を念頭におくと、一般的には、長距離移動に際して航空機は必要不可欠な交通手段です。ところが、「飛び恥」に賛同するスウェーデン人の一部のビジネスマンの間では、航空機なら片道2〜3時間で移動できるロンドンやフランクフルトなどへの出張に、鉄道を利用し約24時間かけて移動しているケースもあるということです。

自らの不便を被っても環境問題に取り組む姿勢からは、環境保護によりシビアな考えを持っていることがうかがえます。

「飛び恥」ムーブメントを日本旅行に応用!?

こうした環境保護に真剣に向き合う人々をターゲットに、日本旅行を訴求することはできるのでしょうか?日本への移動に際し飛行機を利用しないことはあまり現実的ではありませんが、彼らが積極的に利用している列車や船という部分では、非常に魅力的な観光資源を有しているといえるでしょう。

JR東日本では「のってたのしい列車」として、新潟の酒や食が楽しめる「越乃Shu✳︎Kura」や車内が現代アートの美術館となっている「現美新幹線」など、さまざまな観光列車を運行しています。

列車や船で移動することで、普段なかなか訪れる機会のない場所に行ったり、鉄道の車窓からは飛行機の移動では見られない風景を見ることができます。

日本ならではの技術という点に対する評価もあり、インバウンド市場でもすでにリピーターを中心に注目が高まっている観光コンテンツです。こうしたコンテンツが、「飛び恥」ムーブメントを起こしている層にも響くのではないでしょうか。

日本にもある環境に優しい取り組み

香川県丸亀市では、「資源を大切に使い、環境に負荷をかけないまち」を目指し、資源の循環的な利用を促進しています。環境保護には地域レベルからの活動が必要とし、ごみの減量とリサイクルの推進、エネルギーの有効利用への取り組みを掲げました。

再生可能エネルギー導入促進事業では二酸化炭素の排出量減少を目指し、市内の保育所や幼稚園、小中学校など、合計26の市施設で太陽光発電利用しています。

松山油脂株式会社では、自然環境に優しい詰替用シャンプーや保湿ジェル、美容液などを発売しています。公式サイトでは詰替用を使用することで可能となるプラスチック削減率について商品ごとの値を公表しており、77.8%~89.6%です。

ボトル製品には、二酸化炭素の排出量削減を目的にプラスチックフィルムの包装をなくしており、2019年度はこれにより約100万本分のプラスチックフィルムが削減されるそうです。

まとめ:「飛び恥」をはじめ世界での環境保護運動に注目

飛行機の温室効果ガスの排出が大きな値であるのは確かですが、それにより経済効果が高められる一面もあります。飛行機の利用を取りやめれば全ての環境問題が解決するわけではありませんが、こうした考えを強固に支持する人に向けたサービスには一定の需要があるはずです。インバウンド市場のさらなる成長には、今回の「飛び恥」のみならず世界のさまざまなトレンドへの理解が欠かせないでしょう。

経済成長や社会の成熟に伴い、価値観の多様化も進んでいます。各国、地域のトレンドと、その背景にある考えを把握することの重要性は、引き続き高まっていくでしょう。


<参照>

・Think Daily:02環境先進国スウェーデンの取り組み

・NHK NEWS WEB:逃げ恥、飛び恥、赤っ恥〜飛行機に乗るのは恥ずかしい?

・livedoorNEWS:欧州で進む鉄道利用の背景に環境問題「飛行機を使うのは恥」

・NewSphere:「地球のために飛行機に乗らない」欧州に広がる「飛び恥」、列車利用が増加

・The Asahi Shimbun GLOBE+:フライトが「飛び恥」と言われる時代 空の旅について私たちができること

・経済産業省資源エネルギー庁:日本発の革新的なCO2削減対策を世界へ〜「カーボンリサイクル産学官国際会議」

・SONY:温室効果ガス総排出量の削減

・YAMAHA:ヤマハ発動機グループのCO2排出量の推移

・国土交通省:運輸部門における二酸化炭素排出量

・東京都環境局:交通機関の種類とCO2排出量

・丸亀市:IV. 資源を大切に使い、環境に負荷をかけないまち(資源の循環的な利用)

・松山油脂株式会社:松山油脂について

・JR東日本:のってたのしい列車

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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