観光による消費金額の増加を目指す日本にとって、どのような宿泊施設に観光客を誘導するかは、重要なポイントの一つとなっています。
中でもIR(統合型リゾート)と呼ばれる、ホテルにカジノやショッピングモールなどを備えた複合施設が近年注目を集めていました。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、新規投資案件でもあるこのIR事業は議論を先送りにされてしまってもいます。
3月にアメリカ国内で新型コロナウイルスの感染が拡大すると、IRの街ラスベガスでも順次関連施設が閉鎖となりました。同月末にはアメリカのほぼすべてのカジノ・IR施設が閉鎖されました。
日本では東京都知事選で小池百合子氏が再選を果たしたことで、東京IRの可能性に注目が集まります。
今回の記事では、IRの概要とその問題点、日本がIRを誘致しようとしている候補地について紹介します。
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統合型リゾート(IR)とは?
IRは、Integrated Resortの略称で、日本語では「統合型リゾート」と呼ばれます。
IR施設の特徴について解説します。
ホテルにカジノやショッピングモールなどが一体化した複合観光集客施設
従来の日本の観光地の宿泊施設には温泉、レストランなどを備えている以外は、ちょっとした遊び場や休憩室程度の設備のみが備わっているのが一般的です。
IR(統合型リゾート)では、その範囲を大きく飛び越え、カジノや劇場、国際会議場や展示会場などのMICE施設、ショッピングモールなどを建設し、このリゾート一体で休暇をすべて過ごすことのできるような施設の集合体となることが目指されています。
IR導入で訪日外国人の満足度向上を目指す
日本政府は、訪日外国人観光客数の目標人数を2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人と掲げています。
IRの建設により、さらなる外国人観光客の誘致を目指し、日本経済の活性化を図ります。さらに、集客力の高い大型集客施設ができることによる地方創生にも期待されています。
アジアのトレンド産業である
このIR産業は、アジアではトレンド産業となっており、マカオやシンガポール、フィリピン、韓国、極東ロシアなどでは、このIRの誘致が相次いでいます。
このような集合型の施設を作ることによる消費金額の増加は、地域活性化のみならず、税収の増にもつながります。
国際的にも注目されているIR建設ですが、その代表的な例には、シンガポールにある「マリーナ・ベイ・サンズ」が挙げられます。この「マリーナ・ベイ・サンズ」の建設により、シンガポールの観光業界は、大きく好転したことで知られています。
IR誘致で懸念されること
このように、雇用創出や観光客による消費金額の増加など、良い効果ばかりが注目されるIR建設ですが、問題点もあります。この項目では、IRによる弊害の例について紹介します。
IRの中に建設されることになる「カジノ」によるギャンブルの問題がその一つです。
ギャンブル依存症
ラスベガスのあるネバダ州では、地元に住んでいる人の半分近くがギャンブル依存症とも言われており、カジノのように大きな金額を左右するギャンブルは、依存に繋がりやすいと言われています。
これに対し、日本政府は「ギャンブル等依存症対策基本法」を定め、各自治体に十分な対策を講じることを義務付けています。具体的には、「週3回・月10回までの入場制限」「クレジットカードによるチップ購入を禁止」といった依存できない環境づくりを検討しています。
治安の悪化
カジノを設置することで、治安の悪化や、犯罪率の上昇を懸念する声もあります。
大金が日常的に取引されることや、外国人観光客を始めとした多くの人が集まることから、犯罪が起こりやすくなる可能性があると指摘されています。
韓国にあるカジノ「カンウォンランド」周辺では、現在はギャンブル依存症者で溢れ、質屋や、消費者金融などが並び、お金を無くした人が住みつく「カジノホームレス」ができるなど、社会問題となっています。
一方で、カジノを2010年に開設したシンガポールでは、人口全体に対する犯罪率の変動は見られない他、カジノ訪問者はオープン時と比べ半分にまで減少しました。ギャンブル依存症の率も2011年の2.6%から2017年には0.9%まで減少しています。
韓国とシンガポールのカジノに関する規制で大きな違いは「自国民の入場料」です。シンガポールは約8,000円(約100SGD)であるのに対し、韓国は約700円(7,500ウォン)です。物価の違いもあるため一概に比較はできませんが、金額の手軽さが犯罪率やギャンブル依存症の増加につながる一因といえるでしょう。
日本では入場料が6,000円に設定される見込みです。この金額が、正常な治安の維持やギャンブル依存症を増やさないことにどのくらい寄与するかは今後も観察が必要です。
マネーロンダリング
また、カジノはマネーロンダリングに利用される可能性があることも、問題の一つとして挙げられます。マネーロンダリングとは、麻薬密売など、不法に得たお金を、足がつかないように他の紙幣に差し替えることを指します。
カジノでは、「違法な手段で入手した資金をゲームに賭けて負けることで一旦カジノ側に移し、その後勝利し綺麗なお金として取り戻す」という常套手段があり、これらの対策として、身分証提示や本人確認、取引記録の作成・保存を義務付ける必要があります。
日本へのIR誘致、有力候補地3箇所
このようにメリット、デメリットの両面があるIRの建設ですが、具体的な候補地はどこが挙げられるのでしょうか。この項目では、有力とされている3つの候補地について紹介します。
万博に合わせて開業したい!「大阪」
まず一つ目の候補地は、大阪です。万博開催が決定している大阪では、その開催年である2025年に合わせてIR施設の開業を希望しています。
大阪には、十分は規模の土地がある上、都市としての立地に恵まれているため、外国人観光客の流入も見込めます。また、IR誘致に向けた各団体、住民の意見が比較的まとまっていることも有力な候補地としての理由の一つです。
しかし、新型コロナウイルスの影響を受けて、大阪では先行して進んでいた提案書の提出期限を当初の計画から3か月遅らせることが2020年3月27日に発表されました。
このような状況下において、IRへの数百から数千億規模の投資を決定することは現実的ではないという判断が伺えます。
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政府お墨付きの「神奈川」
政府の「お墨付き」と言われる神奈川県は、みなとみらいエリアの「山下ふ頭の再開発」としてIR誘致が掲げられています。東京からのアクセスもよく、もともと国際的な都市のイメージのある横浜では、これらの複合リゾートの建設による大きな収益が望めます。
問題点としては、ギャンブル依存症や治安悪化を懸念する地元住民からの反対意見が多く、それぞれの意見がまとまり切れていない点が挙げられます。
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中国・韓国などのアジア地域から好アクセス「長崎」
三つ目の有力候補地は、ハウステンボスのある長崎県です。
このIR事業では、ハウステンボスの一部をIR整備候補地とされています。ここにIRを開業するメリットとしては、すでに完成されたリゾート地の基礎とインフラがあることから、初期費用が少なくて済む点です。
また、近隣の地元住民の賛成意見が比較的多いことも、追い風となっています。長崎県の立地上、中国や、韓国、台湾からの外国人観光客の流入も期待されます。
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実現にあたって課題は残る
このように、IR(統合型リゾート)の建設にあたっては、大きな経済効果が見込まれる一方で、いくつかのデメリットも想定されます。
これらのデメリットは、他の国の事例などを参考にしながら、慎重に事前の対策を講じることが、建設による悪影響を最小限に抑える鍵になると言えます。シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」の例のように、国内の観光客だけでなく、外国人観光客への集客が見込めるため、観光立国を目指す日本では、このIRの建設が日本観光の大きな見どころとなる可能性が期待されています。
しかし、新型コロナウイルスが世界的に感染が拡大し、観光業界のみならず世界経済に大きなダメージを与えている現在、このような大型の新規投資案件を進めることは決して容易ではないようです。
日本の観光産業への大きな貢献が期待されるだけに、今後とも実現に向け慎重な議論を重ねることが望まれます。
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