訪日外国人の中には、滞在中に何らかのトラブルに巻き込まれてしまうことへの不安を抱えている人も少なくありません。
特に日本は、2011年に起きた大震災や津波、原発事故などの影響で、世界的に「災害の多い国」という印象を持たれているといえます。しかし外国人にとっては、トラブルが発生した際に今どのような状況に置かれているのか、どう対応すべきなのかなど、必要な情報がキャッチしづらいのが現状です。
そこで、今回の記事では、災害時の外国人対応で想定される課題や、対策に有効なコンテンツ、アプリについて解説していきます。
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なぜ今多言語の災害対応が必要なのか
多言語対応の促進は、日本のインバウンド強化の大きな課題の一つとして求められてきました。
ここでは、なぜ今外国人向けの災害対応に注目が集まっているのか、解説していきます。
訪日外国人観光客の増加
まず、日本を訪れる外国人観光客数は、ここ数年で飛躍的に増加しています。
具体的な数字で見てみると、2019年の訪日外国人観光客数は3188万人にのぼり、2010年から比べると約3.7倍にまで増えています。2020年は新型コロナウイルスの影響で大幅に減少すると考えられますが、収束すれば徐々に訪日外国人観光客数も回復していくでしょう。また、2021年に延期されたオリンピックをはじめとしたスポーツイベントなどによる訪日需要の高まりが見込まれます。
しかし、訪日外国人観光客の多くは日本語を話せないため、彼らが災害に対する不安を感じることなく観光を楽しむためには、的確に情報をキャッチできるように多言語対応していくことが必須であるといえます。
台風19号の際には情報提供に問題も
2019年10月、日本列島に甚大な被害をもたらした台風19号の際には、日本を訪れていた外国人の多くがその情報の少なさに困惑したと答えています。
サーベイリサーチセンターが行ったアンケート調査の結果によれば、有効回答数182件のうち、「災害情報の提供があり理解できた」と回答した訪日外国人は約半数の49.5%にとどまり、「災害情報の提供は無く自分で探した」と答えた人が全体の31.3%でした。
また、宿泊施設から情報の提供はあったものの「日本語で理解できなかった」と答えた人が7.1%いました。
今後新型コロナウイルスが収束し、訪日外国人観光客が回復していくまでに、こうした災害時の情報提供における準備を整えていく必要があります。
消防庁「災害時外国人への配慮を」ガイドライン発表
総務省消防庁は、オリンピックに向けて外国人や障がい者等に向けた災害対応の必要性が増してくることを受けて、2018年3月に「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」を発表しました。
このガイドラインでは、火災や震災なのに突発的なトラブルであっても、「日本語を母語としない外国人来訪者」「障がい者」「心身の機能に支障を有する高齢者」への配慮を促しています。
また、日本語がわからない外国人にも伝わるよう、災害に関する情報発信や避難誘導では日本語と英語の両方の使用が求められています。さらに、施設の形態や必要に応じて中国語や韓国語の使用も必要とされています。
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災害時の情報提供に役立つコンテンツ5選
では、トラブルが実際に起きた際には、どのような情報提供の方法があるのでしょうか。この項目では、災害時の情報提供に役立つコンテンツを5つご紹介していきます。
1. 多言語非常用放送
多言語非常用放送は、通常営業時に必要な館内アナウンスに加え、災害・防災のためのアナウンスも多言語に変換できるものです。
「係員の指示に従って避難してください」など、災害時や非常時に必要になることが想定されるフレーズを標準搭載しているため、これを用いれば緊急時でも外国語で迅速にアナウンスができます。商業施設やショッピングモールだけでなく、地下鉄やホテルなどへの導入も可能です。
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2. 多言語メガホン
多言語対応のメガホンは、災害時に必要になるフレーズを複数の言語で収録しており、それを大音量で流すことで周囲に伝えます。
「火事です、避難してください」などの一般的なフレーズだけでなく、施設ごとに必要な内容は、個別で追加登録することも可能です。ツールにもよりますが日本語、英語、中国語、韓国語など、多くの言語で登録できます。
また、充電、コンセント接続なしで最大8時間稼働するので、メガホンを設置して避難することも可能です。
3. 小型自動翻訳機
小型自動翻訳機としては、「ポケトーク」「ili PRO」などが挙げられます。
これらは、日本で話したいことについて諸外国語への変換を行うことができ、伝えたいことをピンポイントで翻訳できます。
ポケトークは対応言語が74言語と、非常に豊富である点に優れています。ili PROはオフラインでも使用できるというメリットがあります。
4. 災害情報発信アプリ「Safety tips」
Safety tipsは、観光庁監修のもと開発されたアプリです。
訪日外国人に対し、日本国内における緊急地震速報、津波警報、噴火速報、気象特別警報、国民保護情報、避難勧告等を多言語で通知してくれるという特徴があります。
対応言語は幅広く、日本語、英語、中国語(繁・簡)、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、タガログ語、ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語の15言語で災害時に必要な情報を提供してくれます。
対応言語数が多いので、日本も英語もわからない、もしくは母国語で正確な情報をキャッチしたいという人にとって、安心感のあるサービスと言えます。
5. 在日外国人向けの「やさしい日本語」
「やさしい日本語」は、ツールではありませんが外国人向けの災害情報を発信するにあたり知っておくべきものです。難しい言葉を避け、文の構造を簡単な短い文章を採用し、漢字にはフリガナを振るというなどの工夫がされた文章のことを指します。
これは1995年の阪神淡路大震災の際、100人当たりの死者数では外国人は日本人の約2倍だったことを受けて考案されました。 外国語への翻訳は時間がかかってしまいますが、簡単な日本語であれば比較的簡単に誰でも文章を作成できるため、より迅速に外国人に対する災害情報の発信が可能になります。
「やさしい日本語」の基本的なルールは以下のようになります。
- 難しい言葉を避け、簡単な言葉を作る
- 1文を短くして、文の構造を簡単にする
- 使用する漢字や、漢字の使用量に注意する。漢字にはすべてルビを振る
- あいまいな表現は避ける
- 災害時によく使う言葉、日常的によく使う言葉はそのまま使い、やさしい日本語による言いかえを添える
- (避難が必要など急を要する場合)重要な情報だけを絞り込んで発信する
外国人にわかりやすい日本語「やさしい日本語」とは?インバウンド活性化で活用広まる 新しい”多言語対応”
訪日...
「多言語対応」だけでは足りない災害時の外国人対応
ここまで、「多言語対応」による災害時の外国人への対応のツールについて解説してきました。しかし、実際の現場では、言葉だけでは補えない課題も指摘されています。
ここでは、外国人の災害対応における問題点について触れていきます。
「災害に慣れていない」という文化的背景に配慮する
言語面以外の課題の一つとして、「文化的背景の違い」が挙げられます。
日本のように多くの災害を経験しながら生活をしている環境の人であれば、幼少期より避難訓練や実際の体験から、どのような対応が望ましいのかを経験的に知っている可能性が高いでしょう。
しかし、自国でそのような体験をしたことがない人にとっては、現状をただ伝えるだけでなく、「これから何が起きるのか」「どうしなければいけないのか」などの具体的な指示を出す必要があるといえます。
「どこで情報が得られるのか」を伝える
外国人向け災害情報アプリや掲示板など、災害を想定したサービスが多く存在しているにも関わらず、訪日外国人の多くはそれらを知らずに過ごしている人も多いのが現状です。
そこで、災害情報をどこで得られるのか、情報収集のためにはどのようなツールを用いればいいかを、平時から情報発信することで知ってもらう必要があります。
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災害時の訪日外国人対応は急務
オリンピックに向けた訪日外国人観光客対策の一環として、災害時の対応を準備しておくことは急務であるといえます。日本語がわからない人も災害時に適切な情報にアクセスできるような、多言語での情報伝達の準備をしておくとともに、それらの情報が得られる場所を普段から伝える工夫が必要です。
また、停電の際には電気で動くものが使用できないなど、状況によっては使えなくなるツールもあるため、情報を得る手段をいくつか用意しておくことも重要でしょう。
津波、震災、台風、感染症など、不測の事態にも慌てず対応ができるよう、できることから対策を始めていきましょう。
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