【ポストコロナのインバウンド戦略】オーストラリアの新型コロナ対策と訪日インバウンド回復予測:JAMS.TV 遠藤烈士

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緊急企画『ポストコロナインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回はオーストラリア向けインバウンドプロモーションを専門とするJAMS.TVの遠藤烈士氏に寄稿いただきました。


こんにちは。オーストラリアで訪日観光PRを行なっていますJAMS.TVの遠藤と申します。在豪25年、今はマーケティングや集客を中心に活動させていただいています。

オーストラリア人にとって日本は世界中で最も人気の旅行先のひとつです。南太平洋に浮かぶ島国でありながら、日本にとって必要不可欠なパートナーとなったオーストラリアは、新型コロナウイルス対策でも堅調であり、早くから旅行需要が回復するのではと期待されています。

今、オーストラリアで何が起こっているのか。オーストラリア国内の現状を理解し、次の動向を予測してみましょう。そして、今日本でできることは何か、コロナ終息に向けて何をすべきか考えましょう。

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オーストラリア国内コロナ現状と対策

まず始めに、新型コロナウイルスのパンデミック宣言後、早い段階から厳しい対策を講じてきたオーストラリア国内の新型コロナウイルス対策と現状についてお話します。

オーストラリアでは、パンデミック宣言後すぐに感染主要国からの外国人の入国を禁止し、国内の新型コロナウイルス感染者数の累積が300名弱時点の段階から入国するすべての渡航者に対し自己隔離を要請するなど厳しい対策を進めてきました。

オーストラリア政府による主な施策は以下の通りです。

  • 3月16日、オーストラリアへ入国するすべての渡航者に対し14日間の自己隔離措置
  • 3月20日21時、国境閉鎖
  • 3月20日~3月23日、州境閉鎖(ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、首都特別地域を除く)
  • 3月22日、必要不可欠な施設以外は閉鎖
  • 3月26日、オーストラリア人の海外渡航禁止措置
  • 3月30日、厳しい外出規制措置

様々な対策の甲斐もあり、現在(5月7日時点)一日の新規感染者数は、10名〜20名を推移しています。

(画像:累計感染者数と1日の新規感染者数の推移 出典:オーストラリア保健省)
(画像:累計感染者数と1日の新規感染者数の推移 出典:オーストラリア保健省)

また現在の感染者数を表すアクティブケース(=累計感染者数ー回復者数ー死者数)も下降し始めています。

(画像:アクティブケースの推移 出典:WorldOMeter)
(画像:アクティブケースの推移 出典:WorldOMeter)

4月19日のニュースでは、南オーストラリア州、クイーンズランド州、北部準州、首都特別地域にて過去24時間の新規感染者数は「0人」でした。

今、オーストラリアでは、社会的距離や隔離対策がうまく機能しているという空気を全国民が感じているところです。

観光業への影響

世界旅行ツーリズム協議会は、新型コロナウイルスの影響で世界中で5,000万人の旅行業界の人々が職を失うと伝えています。では、オーストラリアではどうなのでしょうか。

3月22日、観光と交通フォーラムの発表によれば、オーストラリア国内では旅行業界全体の50%にあたる33万件の雇用が失われると伝えています。観光業界は最も経済的被害が大きい業界です。海外旅行市場4億豪ドルと国内旅行市場5億豪ドルを含む計9億豪ドルの損失を毎月計上していると言われています。

去年1年間にオーストラリアを訪れた海外旅行客は866万人であり、オーストラリア人の国内旅行における宿泊数は1億1330万人分だったといわれています。それが、4月現在、国内ホテルの稼働率は10%以下とのこと。現在、不要不急の外出が認められない中、自己隔離の隔離先として稼働している宿泊施設や必要とされる労働者の宿泊場所として最低限の利用状況となっています。

そのため、オーストラリア政府は、3月末、国内旅行需要を喚起させるために1億豪ドルの旅行業界への経済支援パッケージを発表しました。業界の中小企業だけではなく大手企業への救済、コロナ終息後の国内旅行へのニーズ喚起へ期待が膨らんでいます。

(画像:閑散としたシドニー市内の様子、5月6日撮影)
(画像:閑散としたシドニー市内の様子、5月6日撮影)

オーストラリア国内の訪日プロモーションへの影響

では、次にオーストラリア市場向けの訪日プロモーションへの影響はどうなのかについて見ていきましょう。

例年、3~5月は次に迎えるスキーシーズンに向けてのプロモーション期間となっています。北海道をはじめ長野や東北地方のスキー場にオーストラリア人は多く訪れており、スキーと言えばオーストラリア人というイメージを持っている方も多いかと思います。

シドニーとメルボルンの両都市で毎年5月に開催される「スノートラベルエキスポ」は、40%の出展が日本関連ブースで埋まるほど、日本から多くのスキー関連の事業者が参加しており、スキー旅行商品目当てに多くのオーストラリア人が訪れる国内最大規模のプロモーションイベントとなっています。しかし今年はコロナの影響により開催が9月に延期されました。そのため出展企業によるプロモーションのタイミングも9月にずれ込むかたちとなっています。

(画像:スノートラベルエキスポ2020)
(画像:スノートラベルエキスポ2020)

次に、10代から20代の日本好きオーストラリア人が多く集まるコスプレやアニメを中心としたサブカルの祭典「Smash!」も最近は訪日インバウンドのプロモーション機会の場として注目され、例年7月に開催されていましたが、今年のイベントは延期が発表されました(現時点で日程は未定)。

2020年前半に予定されていた大型イベントはすべて中止または延期となっています。その他、毎年12月に日本政府観光局JNTO)がオーストラリアで開催するBtoB商談会である「Japan Roadshow」や、同じく12月に開催されているシドニーの日本祭り「Matsuri Japan Festival」も詳細が未定のままですが、どちらも今後の動向次第で開催の有無が決まるでしょう。

今年、対面での大型展示会や商談会イベントが軒並みキャンセルや延期となっていますが、自宅待機が進む中、オンラインを活用したプロモーションの機会は増えています。オーストラリア国内では、インターネットの利用時間がコロナ前に比べ40%増えており、情報を探す際にインターネットを活用する頻度が圧倒的に伸びています。

特にオーストラリア人はSNSの利用率が非常に高く、Facebookの利用率は91%、YouTubeは53%、Instagramは39%です。Facebookは男女ともに全年齢帯で高い割合で利用されていますが、YouTubeは18歳~49歳の男性の利用率が高く、Instagramは18歳~39歳までの女性の利用率が高いなどの特徴があります。

それぞれの特性・ユーザー像を的確に把握した上で、コロナ禍でのPR施策としてSNSを活用したプロモーションは非常に有効と言えるでしょう。

市場回復までの道のりと期待

まずは国内のコロナ終息が一番の目標です。現状のオーストラリア政府による厳格な政策の結果、新規感染者数が減少しておりアクティブケースも下降しています。6月末までは現状の外出規制は続くと予想されていますので、7月以降に規制緩和が始まると期待されています。

オーストラリア国内大手旅行誌は、オーストラリア国内の旅行動向についてこう書いています。

まずは国内旅行の需要が先に戻るでしょう。都市部から地方への移動、州境封鎖が開けるまでは、州内での車での旅行や日帰り旅行や短期旅行などが人気になるでしょう。また、安全で人が密集していない目的地が人気になるでしょう。まずは、旅行予算を潤沢に持つ上流階級層から旅行を始め、それからファミリー層、格安予算のバックパッカーの順で市場に戻ってくるでしょう。

州境閉鎖が開けるタイミングで国内航空便も戻ります。そうすれば州をまたぐ長期旅行も増えます。まずはオーストラリア国内旅行から。それから国境が開け次第、海外旅行へと需要は動きます。

国境がいつ開くのかに関しては、オーストラリア一国の問題ではなく世界中の新型コロナウイルス対策により左右されます。日本国内でのコロナ終息がいつになるのか。年内に終息するのであれば、年明け早々オーストラリア人が日本に戻るかもしれません。なんとか冬の時期までに間に合ってほしいものです。

2019年は、オーストラリア国内で日本が最も人気の旅行先として注目された年でした。富裕層向け旅行商品でも年間の人気渡航先の上位は日本であり、世界で一番伸びている人気都市は大阪でした。スキー以外、観光を目的としたあらゆる旅行系アンケートで日本が選出されるほど、日本はオーストラリア人に注目されています。

その理由として、渡航時間の短さがあります。オーストラリア人がヨーロッパや北米へ旅行する場合、15時間~24時間かかりますが、日本への渡航時間はとても短く、たったの9時間~10時間です。直行便で行け、時差が少ないのもとても喜ばれます。

私の個人的なエピソードですが、私の周りのオーストラリア人はやはり旅行好きな人が多く、毎年、日本も含め年に数回海外旅行へ行っています。このような時期ではありますが、コロナ終息後にはすぐに旅行に行きたいということも言っているほどです。

今日本でできることは何なのか

4月13日、オーストラリアの観光大臣は記者会見で、2020年内にオーストラリア人が海外旅行へ行くことは難しいのではないかとコメントしました。これには海外諸国の新型コロナ対策の動向に左右されるからという意味合いが含まれています。

訪日外国人を呼び込むためには、まずは、日本での新型コロナウイルス感染を終息させること。コロナウイルスは、“ウィズコロナ”という言葉が示すとおり、インフルエンザのように今後ずっと付き合っていく病気であるとも言われています。つまりコロナ対策が講じられていないと外国人は日本へ渡航できないということです。

仮に、“ウィズコロナ”の状況下で市場回復を目指す場合は、感染予防対策がしっかり考慮された旅行プランが立てられないと難しいと思います。社会的距離を考慮した店舗デザイン、ホテルやサービス・アクティビティデザインなどが求められてきます。

また逆の発想で、密集しないサービスデザインであれば今後人気の商品になる可能性もあります。2021年~2022年の訪日インバウンド対策として、さっそく今からでも検討を始めた方が良いでしょう。

そして、仮に2021年の年明けから渡航が可能になるとして、オーストラリア人獲得に向けたプロモーションが2020年後半から展開していけるよう少しずつプランを立てながら、今は自国のコロナ対策に集中してほしいと思います。

著者:JAMS.TV 取締役マーケティング CX部長 遠藤烈士(Tsuyoshi Endo)

著者:JAMS.TV 取締役マーケティング CX部長 遠藤烈士(Tsuyoshi Endo)JAMS.TV社 とは:

2005年創業。オーストラリア市場向けに日本へのインバウンドPR・マーケティングなどの支援事業を手がけている。

オーストラリア人に日本の魅力を紹介する媒体『G’Day Japan!』の運営・発行をはじめ、オーストラリア国内有力媒体や旅行博、その他様々なイベントを通じ、オーストラリア人に日本の素晴らしさを伝えている。

主な取引先:

北海道ニセコや白馬の創成期からオーストラリア人向けにプロモーションを展開。過去10年で日本国内企業1,000社以上とお付き合いがある。

主なお取引先団体/企業:

日本政府観光局JNTO)、長野県観光機構、ながの観光コンベンションビューロー、東京都観光財団(TCVB)、ふらの観光協会、湯沢町観光協会、星野リゾート・トマム、小田急電鉄株式会社、小樽観光協会、山形県、蔵王温泉外国人観光誘客促進協議会、東急リゾートサービス、八幡平市、安比高原、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど

経歴:

JAMS.TV取締役 遠藤烈士(えんどう・つよし) 2018年よりJAMS.TV取締役、マーケティング責任者を務める。

JAMS.TV以前もオーストラリア国内で様々な企業の国内向けマーケティング業務に携わる。

在豪25年。趣味は、旅行と日本酒を嗜むこと。

緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集

訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか?ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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