新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い、中国政府や地方政府が在外中国人に向けてマスクなど発送した際に、感動的な手紙が同封されていたことが話題となっています。
中国で感染の流行が深刻化した2020年2月頃には、民間から中国への支援が広がりました。
日本から届いた支援物資に漢詩の激励のメッセージが書かれていたことに対し、中国人は感謝の気持ちをSNSなどに投稿するだけでなく、お返しとして3月下旬に日本へマスクを寄付する動きにまで発展しました。
今回の支援物資に対する反応から読み取れる中国人の感性と、それらをインバウンドのPRに活かす上でのヒントについて解説します。
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コロナ支援に添え日中間で「漢詩」「俳句」を交し合う
日本政府は中国で感染が急速に拡大した際に、迅速かつ明確に支援を表明・実施しており、中国から感謝の声が多く寄せられました。
政府だけでなく、民間からの支援も見受けられます。
中国語検定「HSK」の事務局を務める日本青少年育成協会は、湖北省の大学へ「山川異域 風月同天」(場所は違っても、風月の営みは同じ空の下でつながっている)という漢詩の一節を添えて支援物資を送りました。
その後中国の会員制交流サイトでは、「感動して涙が止まらない」といった投稿が寄せられています。
大分市は友好都市である武漢市に向けて、漢詩を引用した手紙とともに3万枚のマスクを寄付しました。また、北九州市も友好都市の大連市へ激励のメッセージを添えてマスク260枚を送っています。
3月下旬には、中国への支援に対し感謝を示す形で、マスクが返歌とともに日本へ送られました。届いた20万枚のマスクには、夏目漱石の俳句が添えられていました。
大連市の担当者によると、北九州市からの支援物資に「大連加油(大連頑張れ)」と書かれていたことから、返礼として日本ゆかりの言葉の中から俳句を添えて送ろうと考えたと報じられています。
中国政府から在外中国人への支援も大きな話題に
新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、中国政府から在外中国人留学生に向けて「健康パッケージ」が発送されました。
浙江省安吉県をはじめとする地方政府も、在外中国人への支援としてマスク100枚と手袋10枚発送しています。
支援物資の中には在外中国人を激励する感動的な手紙が同封されており、海外で暮らす中国人がマスクを受け取って感動したという声が、SNSを中心に広まっています。
留学生へ支援「健康パッケージ」
在日中国大使館のサイトには、東京の留学生向けの「健康パッケージ」申請に関するお知らせが掲載され、フォームから申請できる仕組みとなっていました。(2020年5月現在は受付終了)
その後、世界各地の留学生が「健康包」に対する感想をWeiboなどのSNSに投稿し、称賛する動きが広まっています。
中には手書きの漢詩のメッセージを受け取った留学生もおり、中国の国営放送のテレビ局、CCTVでもこの出来事が取り上げられました。
地方政府からの支援、浙江省安吉県の例
地方政府からの支援も始まり、浙江省安吉県の例では、現在海外にいる安吉県の村人と学生、または祖先が安吉にいる海外の中国人を支援の対象としています。WeChatから情報を入力すれば、申請ができる仕組みです。マスクなどが入った「健康パッケージ」の中には、実際にこのような激励の手紙が同封されていました。
「安吉出身の皆さんへ
新型コロナウイルスの流行が始まって以降、海外に暮らす同郷の皆さんは中国国内のために様々な形で力を尽くしてくれました。まずは改めて、皆さんに深い感謝の意を示します!
中国の情勢はだいぶ安定してきていますが、海外では日に日に状況が悪化しています。海外に暮らす同郷の皆さんのことを心配しない日はありません。
皆さんの感染対策のお役に立てるよう、今回、マスク100枚と手袋10双を送ります。今は力及ばずこの程度の支援が精一杯ですが、ウイルスとの闘いの中、祖国はいつまでも皆さんを支える存在であることをお伝えします。
合わせてお伝えします:外出を控え、手洗いや消毒に務め、換気に気をつけ、大勢との接触を控えましょう。健康に気を付けて、中国の公式発表を常に確認し、帰国・帰郷の際にはすぐに報告をください。
同気連枝、珍重待春風!(同じ木に連なる枝の如く、共に春風を待たむ)互いに助け合い、この困難を乗り越えましょう。
一人ひとりの思いが集まれば、その大きさは街をも越えます。ウイルスとの闘いに勝利を!あなたと家族の無事を祈ります。」(編集部訳)
【動画】任務を完了しマスクを外す大勢の医療従事者
中国では3月頃、順番に1人ずつマスクを外していく様子を映した動画が相次いで投稿され、話題となりました。
マスクを外す動画は、中国最大の感染地帯・武漢市に中国各地から派遣された医療チームが、現場を去る前に撮影したものです。
完全封鎖状態が2ヵ月以上続いた武漢市における感染収束への希望を与える動画として、ネット上で注目を集めました。
インバウンドPRにも重要:中国人の心を動かすヒント
日本から中国への支援に対する反響からは、中国人の心を動かす上でのヒントが読み取れます。インバウンドの中国市場に向けたPRにも、中国人だからこそ響くような感動を誘う演出は効果的と考えられます。
今回の事例からうかがえる中国人の感性を考察し、それらをふまえたインバウンド対策の可能性について紹介します。
知的な雰囲気と、歴史や文化の共有を想起させる演出
湖北省の大学への支援物資に漢詩の一節を添えたところ、大きな反響が寄せられたことなどから、中国人の心を掴む上で詩の引用が発揮する効果の大きさがうかがえます。
詩を引用したメッセージは知的な印象を与えるだけでなく、歴史や文化を共有していることを再認識することでの一体感の意識も生まれることが考えられます。
派手な演出が好み
そのほか、中国の医療従事者がマスクを一人ひとり取り外す動画がSNSで反響を呼んだ出来事については、日本人の反応として「演出過剰」と捉える人も少なくありませんでした。
こうした事例から、日本人の目には多少「やりすぎ」とも取れるようなメッセージ性の強い動画であっても、中国人は肯定的に受け止める人が多い傾向にあると考えられます。
SNSの拡散力
また、中国人による感動体験のシェアが生みだすSNSの爆発的な拡散力にも注目すべきでしょう。
湖北省への支援物資に「山川異域 風月同天」と書かれていたことに対しては、中国のSNSではわずか1日で30万件以上の「いいね」がつきました。
中国のSNSの利用者数は10億人以上ともいわれています。莫大なSNS人口を抱える中国では、感動体験のシェアがより大きなムーブメントになりやすいといえるでしょう。
中国人の琴線を理解して、心を掴むPRを
インバウンド業界にとって、今年の新型コロナウイルスの流行は予期せぬ大きな打撃であることには変わりありません。
しかし、日中間の心の通った助け合いの交流によって、中国人の日本に対するイメージは以前よりもむしろ良くなっていると考えられます。
日本のインバウンド事業者もこのような中国人の感性を理解した上でPR戦略を立てることにより、より中国人の心に響かせる効果が期待できるでしょう。
<参照>
中华人民共和国驻日本大使馆:关于向东京领区留学生发放“健康包”的通知
澎湃新闻:留学生晒健康包,这句话火了
安吉统战:关于安吉海外乡亲申领防疫物资的通知
西日本新聞:「涙が止まらない」俳句や詩の交流広がる 中国、世界各国へ支援品
講談社現代ビジネス:新型コロナ騒動のさなか、中国人が日本の友情に感動してるワケ
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