新型コロナウイルス対策で各地の文化施設の休館が続くなか、特定警戒都道府県でも密集防止策を条件に、美術館などの営業再開が可能となりました。一方で運営側や一般客からは、感染リスクへの懸念や不安の声も聞かれます。
美術館・博物館、歌舞伎やオペラを上演する劇場は、オンラインで鑑賞できるさまざまななサービスを提供しています。これまで鑑賞する機会のなかった層にも旅マエの期間に興味を持ってもらい、今後の訪問につなげることも期待できるでしょう。アフターコロナに向けたインバウンド業界にも応用できる取り組みといえます。
今回は、美術館などの営業再開に伴う運営側や一般市民の反応をふまえ、文化施設によるオンライン鑑賞サービスへの取り組み事例を紹介し、アフターコロナでインバウンド誘客につなげるオンライン鑑賞の活用方法について解説します。
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美術館などの再開は可能に、一方で不安の声も
政府は「特定警戒都道府県」においても感染防止策を徹底することを条件に、博物館や美術館などの営業再開を可能とすることを発表しました。
しかし、新型コロナウイルスへの感染リスクを不安視する声が、運営側からも一般客からも出ているのが現状です。
運営側の不安、ガイドラインを求める声も
文化施設が再開可能となった一方で、運営側からは期待の声とともに感染リスクへの不安が続出しています。一気に客が集中する不安から、具体的なガイドラインを示してほしいといった声が寄せられました。
営業を再開した美術館の中には、県外からの来館自粛を呼びかけるケースも見られます。
三重県菰野町の「パラミタミュージアム」は、5月7日より営業を再開しました。普段の来場者は県外からが3割ほどとしていますが、三重県から県外の客を受け入れないよう求められたことから、県外からの来館自粛を呼びかけています。
また、来館者にはマスクの着用を求めるなど、感染拡大の防止策を講じています。
Twitterでも「今はまだ早い」
Twitter:美術館の営業再開に対するコメント(https://twitter.com/kokobeach11/status/1257536680157827073)
Twitterでも文化施設の営業再開に対して、「まだ早い」「今行ったらダメ」といった意見も投稿されています。
緊急事態宣言が解除されても元の生活に戻るにはしばらくかかることが予想されることから、それが即、施設での感染リスクが減ったことを意味しないととらえられるようです。
感染リスクの低減について把握でき、安心して鑑賞が楽しめるようになるまでは、来館を自粛しようという様子がうかがえます。
美術館・博物館がVR映像ほかオンラインでのコンテンツ提供を開始
美術館や博物館のなかには、感染拡大防止などの観点から、オンラインでのサービスを開始したところもあります。
オンラインでの鑑賞は、人と接触しないだけでなく、自宅で館内をじっくり見学できるとして、人気を集めています。
森美術館がオンラインプログラム開設、VRも
森美術館は6月30日までの期間限定として、オンラインプログラム「Mori Art Museum Digital」を開設しました。
本プログラムは、昨年11月に開始し新型コロナウイルスの影響で会期途中に終了した「未来と芸術展」を、VR映像で見学できます。各ポイントでは、森美術館特別顧問である南條史生氏の動画解説を聞くことができるなど、オンラインでも高い満足度を得られる内容となっています。
VR/ARの観光プロモーション事例3選|メリット・活用方法・プロモーション事例
360°バーチャルな仮想世界を体験できる技術「VR(Virtual Reality)」が、観光事業に活用されるケースが出てきています。 様々な場面で活用され始めているVRにより、これまでになかった観光体験が生み出されています。今回は、観光事業での多岐にわたる活用方法やサービス内容、観光にVRを活用するメリット、実際の活用事例について解説します。インバウンド対策にお困りですか?「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!訪日ラボ...
国立科学博物館も館内の3Dビュー映像を公開:無人の館内がウリに
国立科学博物館も、自宅にいながら館内のコンテンツが楽しめる3DビューとVR映像を公開しました。映像は「日本館」と「地球館」に分かれて提供されており、国立科学博物館にいるような気分を味わえると話題になっています。
映像は休館中に撮影されたため、無人の館内を自分のペースで見学することが可能です。
Google Earthのように、行きたい方向をクリックするだけで先に進めるといった、操作のわかりやすさも特徴的です。
伊勢丹が世界最大級のバーチャルイベントに出店、VRでウィズコロナ時代の小売市場を切り拓く
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歌舞伎・オペラもオンラインで無料配信
美術館や博物館だけでなく、歌舞伎やオペラ、バレエなどの舞台で行う公演も、期間限定でオンライン上で無料配信されることが増えてきました。
オンラインでの鑑賞は、肉眼で舞台を見ることはできませんが、リアルでの鑑賞にはない楽しみ方が広がっているようです。
1. 4年がかりの大作「びわ湖リング」、ファンの声で中止を免れ無観客上映
滋賀県大津市の滋賀県立びわ湖ホールでは、2017年よりワーグナーのオペラ「ニーベルングの指環」を毎年1作ずつ制作する大規模プロジェクト「びわ湖リング」をおこなっていました。
4年目となった2020年はその完結編『神々の黄昏』を上映する予定でしたが、コロナの影響で2月28日に一度上映中止が決定されました。
「ニーベルングの指環」は多くの出演者や大掛かりな舞台装置が必要な作品であるため、4作全てを上演した劇場は世界でも限られています。「びわ湖リング」も、全公演でチケット完売の人気公演であり、同決定を受けてからは、中止の撤回を望む声が多く集まっていました。
こうした声をうけ、びわ湖ホールは無観客で上映し、その様子をYouTubeで同時配信しました。
『神々の黄昏』の上演時間は30分間の休憩を2度はさみ、約6時間です。
公演はドイツ語で上演され字幕はありませんでしたが、Twitterではリアルタイムで有志の専門家が解説したり、対訳サイトなどの有益な情報がシェアされたりと、オンラインならではの盛り上がりを見せました。
Twitterのトレンド入りも果たすなど、大きな注目を集めて、大成功に終わったといえるでしょう。
公演された動画は、日本だけでなく、ドイツやインド・台湾・韓国など約30カ国から40万人以上が視聴し、世界中で反響を呼ぶこととなりました。
Twitter:「びわ湖リング」に関する投稿(https://twitter.com/earlymusiclover/status/1236534589021020162)
Twitter:「びわ湖リング」に関する投稿(https://twitter.com/DaiskeOhyama/status/1236093621847224320)
2. YouTubeの松竹チャンネルで
歌舞伎の上演を手がける松竹・国立劇場も各劇場の演目を無観客で上演し、期間限定でYouTubeにて無料で公演を公開しています。
3月に東京の歌舞伎座で公演を予定していた「三月大歌舞伎」などが配信されました。
歌舞伎座によると、オンラインでの公演配信は異例です。会場まで足を運ぶ時間が不要で、なおかつ無料という条件のため、これまで舞台を見たことのない層が鑑賞し、歌舞伎ファンの拡大へのつながりも期待できます。
ファンの高齢化に立ち向かう「KABUKI」は、この夏ナイトタイムエコノミーで勝負!歴史・伝統・最先端好きの外国人を呼び込め!
※この記事は2020年1月時点の状況に基づき執筆されています。東京オリンピックは2021年夏に延期しての開催が決定しています。東京オリンピック2020大会の開会まであと189日となり、新国立競技場も完成しました。会場の整備が完成していく一方で、多くの国や地域からたくさんの人が訪れることへの対策がまだ整っていない面が見受けられます。特に充実していないと言われている部分が夜の時間の娯楽です。日没から日の出までの時間の経済活動は、インバウンドが増加している今注目すべき市場であると考えられています...
3. 多言語の字幕がインバウンドの興味をひく
オペラや歌舞伎はスートリーを理解していないと内容が理解できず楽しみが半減してしまうことも懸念されますが、オンライン配信であればあらすじがインターネット上で確認できるため、内容がわからない人も確認しながら鑑賞できます。
実際の公演では、英語字幕などが付けられることもあり、日本語以外で作品を楽しみたいというニーズに応えています。東京二期会オペラ劇場で上演されたプッチーニ作曲のオペラ『蝶々夫人』は、イタリア語で上演され、日本語と英語字幕が付けられました。
歌舞伎座一幕見席では、英語チャンネルも追加された「字幕ガイド」の取扱いがスタートするなど、多言語で楽しめる取り組みがなされています。
海外旅行が難しい今、まずはオンライン配信で英語や多言語の字幕を付けることができれば、これまで無関心だった層の目にも留まる可能性があります。またすでに関心を抱いている層に対しても、鑑賞のハードルの低さを訴求できるでしょう。
歌舞伎の魅力を海外にも!「歌舞伎体験」など訪日外国人観光客を楽しませるための施策を紹介
歌舞伎は日本を代表する伝統文化の一つであり、訪日外国人観光客の中にも歌舞伎に興味をもつ人が多いようです。今回は訪日外国人観光客に歌舞伎を楽しんでもらうための施策を紹介します。関連記事コト消費とは?日本文化が人気の理由目次歌舞伎の素晴らしさを海外に伝える工夫多言語対応増える海外公演現代風歌舞伎「スーパー歌舞伎」訪日外国人が歌舞伎を体験できるイベント1. 歌舞伎の基本を学ぶ2. 「見得」を体験3. 衣装を着付け訪日外国人観光客に向け歌舞伎を英語で説明歌舞伎の魅力を訪日外国人観光客に伝える歌舞伎...
「多言語対応の配信」でコロナ収束後、芸術鑑賞を訪日目的の一つに
美術館や博物館はこれまで「歩きまわって楽しむ」ものでしたが、動画やVRなどで演出することで、施設に足を運ぶのとはまた違った魅力を打ち出すことができます。
びわ湖リングの事例からは、国内の芸術への関心の高さや鑑賞への欲求が見えてきます。また、通勤や事務所での勤務が減少し、これまで休暇に外出する余力のなかった人々に、芸術鑑賞の意欲が生まれたり高まったりすることもあるようです。
芸術鑑賞のオンライン配信は、しばらく続くと見られる外出自粛ムードのなかで、より広い層から歓迎されると考えられます。
美術館や博物館がオンラインで提供する動画やVRサービスを海外から鑑賞してもらえるようにしたり、歌舞伎やオペラなど舞台公演の字幕に多言語を用意したりといった外国人もターゲットにした取り組みは、訪日目的としての芸術鑑賞の地位を高めることにつながるはずです。
アフターコロナ、ウィズコロナの時代における海外からの見込み顧客の獲得に、さまざまなオンラインサービスの多言語対応は効果的といえるでしょう。
<参照>
・日本経済新聞:美術館や博物館、「再開容認」で期待と不安
・NHK:美術館 営業再開も県外からの来館自粛呼びかけ 三重
・美術手帖:森美術館がオンライン・プログラム「Mori Art Museum Digital」を開設。展覧会のVRも
・Matterport:森美術館 未来と芸術点
・国立科学博物館:おうちで体験!かはくVR
・Matterport:国立科学博物館 日本館
・VOGUE:歌舞伎からバレエまで、自宅で鑑賞できる、今だけの極上エンターテイメント5選
・産経新聞:無観客オペラ、世界に反響 びわ湖ホールの挑戦
・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール:【速報】びわ湖ホールプロデュースオペラ『神々の黄昏』無観客公演の実施および無料ライブストリーミング配信決定!
・京都新聞:制作費1億6千万円のオペラ、無観客で上演 ユーチューブで無料配信「期待に報いたい」
・オペラ・エクスプレス:ライブ配信が拓く、オペラ上演の未来ーびわ湖リングが『神々の黄昏』で完結
・pen:4月は自宅で歌舞伎が観られる、千載一遇の大チャンス!【コロナに負けるな!いまだからできること #8】
・NHK:中止の公演 歌舞伎座がネットで無料配信
・東京文化会館:東京二期会オペラ劇場 プッチーニ作曲 オペラ『蝶々夫人』
・歌舞伎美人:歌舞伎座一幕見席で「字幕ガイド」取扱いスタート、英語チャンネルも追加
・歌舞伎美人:イヤホンガイド、字幕ガイドで歌舞伎座「二月大歌舞伎」幕間特別放送のお知らせ
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