新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の解除を受け、日本政府は5月25日、イベントや展示会の開催制限の段階的緩和の目安を発表しました。解除後も7月31日までは移行期間とし感染の状況を注視しつつ3段階のステップを経て、8月1日に人数の上限を定めないイベントを解禁する見込みです。
日本政府は、海外向けのプロモーションとして、感染拡大の影響のために開催中止や延期となったイベントの動画配信へ支援することを決定しました。
いち早くプロ野球が開幕された台湾では、海外向けのプロモーションとして、英語実況が実施されるなど、積極的に発信している様子が見られます。
各国のプロスポーツでは、無観客による開催や、感染拡大防止を考慮された独自の観戦スタイルが生み出されるなど話題となっています。
今回は、新型コロナの影響によるイベント開催の現状と段階的緩和の目安・補助金の支給をふまえ、日本におけるウィズコロナそしてアフターコロナでのイベント開催へのヒントとなる、各国のプロスポーツ開催対応事例について紹介します。
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新型コロナによるイベントへの影響
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国内の多くのスポーツやエンターテインメントなどのイベントが中止や延期となるなど、大きな影響が発生しました。
イベント開催における段階的緩和の具体的な目安をふまえ、中止や延期となった公演に対する動画配信の補助金支給やプロスポーツ開幕に向けた動きについて解説します。
政府はイベントの「段階的緩和の目安」を発表
政府が発表した基本的な考え方では、日本政府は緊急事態宣言の解除後、7月末までの約2か月間の移行期間中に3段階のステップを設け、8月1日を目処にイベント開催時の人数制限の解除を目指すとしています。
イベント会場の収容率は屋内では各段階とも50%以内、屋外でも2メートルの十分な間隔を取るよう要請しており、8月1日の移行期間後も同様の考えを継続する予定です。
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ステップ1:5月25日〜
屋内イベントでは収容率50%以内または100人以下
屋外イベントでは十分な間隔を取り200人以下
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ステップ2:6月19日〜
屋内イベントでは収容率50%以内または1,000人以下
屋外イベントでは十分な間隔を取り1,000人以下
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ステップ3:7月10日〜
屋内イベントでは収容率50%以内または5,000人以下
屋外イベントでは十分な間隔を取り5,000人以下
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移行期間後:8月1日〜
屋内イベントでは収容率50%以内、人数上限なし
屋外イベントでは十分な間隔をとる、人数上限なし
中止となった公演に、動画配信の補助金支給が決定
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って中止や延期された公演の主催者に対する新たな支援策として、今後開催する公演を収録し海外に動画配信する場合は、上限を5,000万円として収録や動画制作にかかる費用の半額が補助されます。補助金の支給は、今年2月1日以降に公演を中止または延期した団体や公演の主催者が対象です。
補助金の事務局を担う映像産業振興機構は、5月27日から申請の受付を開始しました。
経済産業省は、事業者を支援するとともに、日本のエンターテインメントの動画配信を通して海外へ発信することで、さらなる外国人のファン獲得にもつなげていきたいとしています。
プロスポーツ開幕に向けての動きも
4月14日に世界保健機関(WHO)がまとめたイベント主催者向けの暫定方針をふまえ、各スポーツ競技でガイドラインの作成が進んでいます。
国際テニス連盟は、握手などの接触やダブルスの試合は避け、社会的距離を最低2メートルは確保し、コートチェンジ時はすれ違わないように移動するなどの大会開催に向けた方針を出しました。
5月29日には、J1の試合を7月4日に再開、J2とJ3は6月27日に無観客での再開・開幕が決定され、試合再開前には全選手に対してPCR検査を実施する方向で準備を進めています。今後は6月9日の実行委員会にてガイドラインを決定し、公表するとのことです。
2月末から試合の開催を延期してきたJリーグでは、5月14日に試合再開に向けたガイドラインを案を公表しました。「感染予防や感染時などの対応」「情報開示」「トレーニング」「チームの移動と宿泊」「無観客試合の開催」「制限付きの試合開催」の6項目の留意点を設定し、チームとして感染防止に努め、今後も専門家などの意見を考慮し随時更新する予定としています。
動画配信にいち早く取り組んだ台湾
世界に先駆けたスポーツイベントの動画配信については、台湾プロ野球の取り組みが注目されています。4月に台湾プロ野球が無観客で開幕した様子は、インターネットを通じ世界中に配信されました。
ここでは、台湾プロ野球の感染予防策や海外へのプロモーションについての取り組みを紹介します。
無観客でのプロ野球開幕から無制限動員へ
台湾では4月中旬以降に国内感染者が減少傾向となり、5月5日以降では新規感染者がほとんど見られなくなるなど、感染予防対策が世界的に評価されています。
台湾プロ野球は4月12日、世界に先駆けて無観客で開幕しました。その後1か月にわたり各球団が感染防止に取り組み、感染リスクを十分に考慮したうえでの開催に自信を得たことから、5月8日からは上限1,000人、その後上限2,000人と段階を経て、6月7日からは無制限で観客を動員する予定となっています。
台湾プロ野球側は観客の入場を解禁するうえで、入場時の検温・消毒・入場時を含む観客同士の社会的距離の確保・マスクの着用の義務付け・入場時の本人確認などを行っています。
積極的な海外へのプロモーションを開始
台湾プロ野球は海外へのプロモーションとして、4月の無観客での開幕直後から、主に日本市場や北米市場をターゲットにした英語での実況中継を開始しました。
「Eleven Sports」がTwitterで配信した8試合の中継総視聴者数は1週間で延べ700万人を突破するなど、大きな反響を呼んでいます。
野球のプレーはもちろん、ホームランを打った選手を出迎える各チームのベンチでのダンスパフォーマンスや、チアガール、各球団のマスコットの登場なども話題となりました。時差の都合から試合の配信が朝になるアメリカ本土では、Twitterに「#breakfastbaseball」というハッシュタグが登場するなど、多くの野球ファンが注目していることがうかがえます。
Twitter:Richard "Boston" Wang氏による投稿(https://twitter.com/RWang_WBSC/status/1261177535351492608)
各国のプロスポーツ開催対応
世界各国のプロスポーツ業界では、感染の拡大防止をふまえ、ライブ配信などによる無観客試合が続々と開催されています。スポーツの試合を含めたイベント開催の段階的緩和が実施される日本は、各国のプロスポーツ開催対応から学べる点が多いはずです。
韓国・ドイツ・デンマークにおける無観客試合での取り組みについて紹介します。
韓国:非対面によるライブ応援
台湾プロ野球に続き、韓国でも5月5日にプロ野球が開幕しました。開幕戦全5試合が無観客試合となりましたが、ホームチームの5球団中4球団が内野の応援ステージに応援団長とチアリーダーを配置し、マスク姿の選手たちも応援歌などに合わせてコールやダンスを行うなど、盛り上がりを見せました。
水原(スウォン)を本拠地とする球団KTウィズは、開幕戦に合わせて「非対面ライブ応援」という企画を実施しました。
一塁側のステージの上に幅10メートル・高さ6メートルのLEDモニターを設置し、オンラインミーティングツール「Zoom(ズーム)」に参加する先着300人のファンの姿を映し、画面を通してファンが選手に声援を送るという、革新的なライブ応援を実現しています。
ドイツ:リモート応援の検証を開始
欧州のサッカーリーグでは、ドイツが先駆けて5月16日に試合を再開しました。5月23日のドイツ一部リーグボルシアMGのホーム戦では、事前に提供されたサポーターの顔写真をダンボールに貼り付けた「仮想サポーター」が、スタジアムの客席を埋め尽くすというユニークな取り組みが実施されました。
しばらくは無観客で開催するとし、リモート応援のシステムの導入も検討されています。ドイツ企業が開発したアプリを使用し、試合開始後にユーザーは4つの応援方法として「歓声・拍手・歌・口笛」から自由に選択することで、自宅からリモート応援ができる仕組みです。
100万人が使用できる容量があり、遅延時間は10分の1秒とされています。多くの人が参加でき、瞬時に反応できるアプリとして話題となっています。
デンマーク:「仮想スタンド」実施、ドライブイン観戦も予定
デンマークでは、サッカーの一部リーグで3位のAGFオーフスが、無観客試合における革新的な取り組みを発表して注目を集めています。
ピッチ周辺に設置された複数のスクリーンには、「Zoom」に参加した何千人ものサポーターの姿が映し出されました。クラブのシャツを着てタオルマフラーを首にかけた家族が、リビングルームから応援する姿も配信されるなど、「仮想スタンド」は試合を大いに盛り上げました。
また、同じく一部リーグのFCミッティランでは、スタジアムの場外にある駐車スペースを利用して、大画面を車の中で共有する「ドライブイン観戦」実施の準備を進めています。
コロナ禍でのイベント開催に向け、非対面・動画の配信が重要となる
緊急事態宣言が解除された一方で、東京では新規の感染者が再び二桁台となったため、6月2日に感染拡大への警戒呼びかける「東京アラート」が発動されました。
感染動向には引き続き注視する必要があるため、イベント開催へも慎重な対応が求められます。
イベント開催制限の段階的緩和の目安をふまえて開催時の感染予防対策を検討しつつ、補助金を活用した海外への動画配信も検討すべきでしょう。
台湾プロ野球の例のように、メジャーリーグ開幕が危ぶまれているアメリカにとっては、こうした配信による野球観戦の機会は需要の高いものになるかもしれません。
その際には、海外におけるプロスポーツの無観客開催の例を参考に、オンラインミーティングツールなどを活用した非対面でもサポーターが応援に参加できるような臨場感のあるイベント開催が期待されます。
インバウンドの客足が元に戻るにはまだまだ時間がかかりますが、この機会に日本のエンターテインメントを海外へ発信することで、さらなる外国人のファンを獲得するなど、アフターコロナに向けたPRに活用できるでしょう。
<参照>
・流通ニュース:政府/イベント・展示会制限「段階的緩和の目安」4段階を発表
・NHK NEWS WEB:公演中止 海外動画配信で補助金
・朝日新聞DIGITAL:サッカー選手は手袋着用? スポーツ、コロナ禍の再開は
・NHK NEWS WEB:Jリーグ 新型コロナ感染防止のガイドライン案公表
・産経新聞:サッカーJ1、7月4日に無観客で再開 臨時実行委で合意
・Sportsnavi:「世界最速開幕」の台湾プロ野球、8日にも上限1000人で観客入場を解禁へ
・Pen Online:台湾プロ野球がついに観客無制限での開催へ。名物チアリーダーから日本へのメッセージ! 【コロナと闘う世界の都市から】
・Sportsnavi:コロナ禍における韓国プロ野球の対策 NPBより早い開幕、工夫するにも限界が?
・スポーツ報知:無観客試合に“顔写真付き段ボールサポーター”来場 ドイツ1部ボルシアMG
・Football ZONE Web:コロナ禍、自宅で“リモート応援”加速か 無観客試合で欧州が導入検討…日本にも波及?
・スポーツ報知:無観客試合にサポーターをZoomで招待“アウェー席”も販売 デンマークのクラブが実施へ
・日刊スポーツ:Zoomで世界初の仮想スタンド 再開のデンマーク
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