訪日外国人500人を集客、千葉県勝浦市「サーファー向けマップ」のすごさ:ハワイやバリ島に負けぬ環境、夏の一大観光コンテンツに?

公開日:2020年07月01日

2020年開催予定だった東京オリンピックで、史上初めてサーフィンが正式な競技として国際オリンピック委員会(IOC)により承認され、千葉県の釣ヶ崎海岸がその競技会場に選ばれました。東京オリンピックは残念ながら新型コロナウイルスの影響で翌2021年に延期となってしまいましたが、世界におけるサーフィンへの注目度は増しています。

そんなサーフィンを日本のインバウンド観光のコンテンツとして捉え、どれほどの可能性を秘めているのかを、実際にインバウンド誘致に取り組んでいる千葉県勝浦市のサーフィンスクールの事例も紹介しながら考察します。


全世界のサーフィンマーケット

サーフィンのマーケットに関する詳細な統計は日本では取っていないため、その数は必ずしも正確とは限りませんが、日本国内では200〜250万人のサーフィン愛好家がいるとされています。

世界全体の数も同様に、詳細な統計情報は存在していませんが、国際サーフィン連盟(International Surfing Association)がIOCに提出した資料によると、世界では約3,500万人のサーフィン愛好家がいるとしています。大陸別での内訳は以下のようになります。

  • アメリカ:1,350万人
  • オセアニア:650万人
  • アジア:600万人
  • ヨーロッパ:450万人
  • アフリカ:450万人

また、同資料からの情報によりますと、男女別の割合は男性81%、女性19%となり、サーフィン人口の年齢別での割合では25歳以上が60%、24歳以下が40%と大きく分けられています。

サーフィンの全世界の市場規模は、サーフボードなどのハードウェア、ウェットスーツやシューズ、ビキニ、ボードショーツなどの衣料品を含めると、220億ドル(約2.3兆円)もの規模になります。そのうち、アメリカのみで80億ドル(約8,500億円)と、約37%ものシェアを占めています。

これらの数字から、レジャーとしてもビジネスとしても、サーフィンは決して小さくないマーケットであることがわかります。5〜10年前には日本ではほとんど見かけなかった外国人サーファーも、近年はよく見かけるようになりました

日本のビーチと波の特徴

サーファーにとって最も重要になってくるのが、ビーチと波の特徴です。中級者以上のサーファーであれば、より長く波に乗る、もしくはアクション(技)を入れることを求めるようになり、サイズがより大きい波、水量が多くパワーのある波、綺麗に横から一定に崩れていく波などが好まれます。

一方で、サーフィンをこれから始めたい・挑戦したい方には、波のサイズは大きいよりも小さい波、急に崩れる勢いのある波よりもゆっくり崩れる波、海底はリーフ(珊瑚や岩)ではなく、足のつく遠浅の砂浜の方が向いています。

このように、レベルによって求められる波や環境が異なってくるのが、サーフィンの大きな特徴です。

日本の海は、そのほとんどがビーチブレイクと呼ばれる、海底が砂で形成されるビーチが大半です。多くのビーチブレイクが足のつく遠浅になっているので、日本は海外に比べるとサーフィン初心者にとっては特に良い環境が整っています。

ビーチブレイクに限らず、日本にはサーフィン中級者以上が好むような、規則正しく波が割れパワーのあるリーフブレイク(海底が珊瑚や岩のポイント)もありますが、海外ほどのスケールの大きい場所は多くありません。しかし日本は四方を海に囲まれているため、サーフィンができるポイントの選択肢が多く、サーフィンをするうえでは大きな魅力であり、サーファーにとってのアピールポイントにもなります。

インバウンド観光コンテンツとしてのサーフィン

前述のとおりオリンピック正式種目にサーフィンが選ばれたことによって、スポーツとしての認知が世界で広まっています。一方日本では、サーフィンといえばやはりレジャーやカルチャーの側面がまだまだ強くなっています。

ハワイやバリ島などではサーフィンが国の重要な観光コンテンツとなっています。

その理由にはやはり、四方を海に囲まれ、多種多様なビーチと波に恵まれているという環境があります。初心者に特に向いているビーチブレイクのポイントも多く、そういった遠浅の砂浜ではたくさんの外国人がサーフィンを楽しんでいます。

日本も、海の環境的にはハワイやバリ島に匹敵するビーチが数多く存在しており、やり方や魅せ方次第ではハワイやバリ島のように多くのサーファーや外国人観光客を誘致することも可能なはずです。

伸びるコト消費需要:地方を訪れた訪日外国人観光客は三大都市圏のみ訪問の1.4倍

近年では、三大都市圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都、兵庫の8都府県)以外の地方へ足を伸ばす訪日外国人観光客が増加しており、その背景には『コト消費』への関心の高まりがあると考えられています。

観光庁から出されている令和元年版観光白書では、2018年に地方を訪れた訪日外国人観光客が、三大都市圏のみを訪れた訪日外国人観光客の1.4倍だったとの数字が出ています。

数あるコト消費需要の中でも「スキー・スノーボード」を体験した訪日外国人観光客は、地方部への訪問率が87.4%と、最も高くなっています。

地方を訪問する外国人旅行者の増加とコト消費の動向①
▲[令和元年版観光白書について(概要版)]:観光庁

これは当然、三大都市圏は雪に恵まれておらず、スキー場を所有する都道府県が地方部に集中しているが大きな理由です。

日本国内のスキー人口が大幅に減少する中で、インバウンド誘致が地方活性化の鍵を握っているのは間違いなく、地方自治体にとってこれは非常に大きなチャンスとなります。

インバウンド誘致による地方の活性化は、山をフィールドとするスキー・スノーボードに限らず、海をフィールドとするサーフィンにも同じことがいえます。

訪日旅行時の消費額拡大にも大きく貢献

下記の資料を見るとわかるように、コト消費」は訪日外国人観光客の旅行時の消費額拡大にも大きく貢献しています。

地方を訪問する外国人旅行者の増加とコト消費の動向②
▲[令和元年版観光白書について(概要版)]:観光庁

観光白書によると、2018年にスキー・スノーボードを訪日時に体験した場合と体験しなかった場合とでは、その経済効果には約650億円もの差が出ています。

このことから、訪日外国人観光客のコト消費需要を満たすことで、地域および日本全体の経済効果の引き上げに期待ができます。

スキー・スノーボードは、すでにある程度観光コンテンツとして訪日客に定着してきています。サーフィンに関しても、海に囲まれた日本はこれからのインバウンド需要の可能性に溢れています。

しかし、多語対応や交通網の拡充など、スキー・スノーボードのインバウンド誘致に対して整えられているようなインフラ環境は、サーフィンに関してはほとんど整っていない場所が大半で、サーフィンを「コト消費(観光コンテンツ)」として捉え、インバウンド誘致に取り組んでいる地方・自治体は日本ではまだごく一部です。

インバウンド誘致の事例:千葉県勝浦市「Splash Guest House」

千葉県は東京オリンピックでのサーフィン会場にも選ばれ、日本の中でもサーフィンのメッカと呼ばれるほど、良質な波と環境に恵まれています。

そんな千葉県の勝浦市にイギリス人のDane Gillett氏がオーナーを務める「Splash Guest House」というゲストハウスがあります。

このゲストハウスは、部原海岸というサーファーが多く集まるビーチ沿いにあり、訪日外国人観光客向けにサーフィンスクールも行っています。夏のシーズンだけでも、500名以上の訪日外国人観光客がサーフィンを体験しにこのゲストハウスを訪れます。

訪日外国人観光客がわざわざ都市部から離れて、この千葉県勝浦市の部原海岸に集まる理由の一つが、公式サイトの英語対応です。

Dane Gillett氏は勝浦市と協力して、海岸周辺およびサーフィンのポイント情報をまとめた英語マップを作成しています。

KATSUURA AREA SURF MAP
▲[Splash Guest House]:公式サイト


KATSUURA BAY MAP
▲[Splash Guest House]:公式サイト


HEBARA MAP
▲[Splash Guest House]:公式サイト


HEBARA SHOPS&RESTAURANTS GUIDE
▲[Splash Guest House]:公式サイト

Splash Guest Houseの情報だけでなく、周辺の観光地や飲食店、シャワーやトイレ、コンビニ、駐車場、サーフショップ情報などがまとめられています。

さらにこのマップでは、部原海岸の波の特徴を詳細に載せています。

複数あるサーフィンポイントの、波が崩れる向き、海底が砂なのかリーフなのか、波のサイズ、ポイントの混雑具合、サーファーのレベルなど、ここまで詳細に、かつ英語でサーフィンのポイントが説明されているビーチは日本にほとんどありません。

このマップは、オンライン上でゲストハウスの公式サイトはもちろん、外国人向けの日本の波情報などをまとめたサーフィンメディアでも公開されています。

観光地やビーチ周辺の情報もすべて英語で記載されているので、訪日外国人観光客は安心してこの部原海岸およびゲストハウスを訪れることができます。

都市部からのアクセスは決して良くはない勝浦市まで、夏のワンシーズンだけで訪日外国人観光客を500名呼び込めるようになった背景には、こうした英語対応の取り組みがあります。

自治体・行政との対話と連携が鍵

この英語マップは、勝浦市と協力して作成されています。

サーフィンができるビーチを持っている地方自治体は、インバウンド誘致を考える前にまず、地元のサーフショップやサーフィンスクールなどと対話を重ね、ビーチをどう活性化していくのか認識を合わせておく必要があります

自治体だけでは訪れるサーファーが何を求めているかを理解することが難しく、反対にサーフショップやサーフィンスクールだけでインバウンド誘致を成功させるのは簡単ではありません。

自治体と地元の経営者、両者の理解が一致し、お互いの連携が取れてようやくインバウンド誘致を前に進めることができます。

まとめ

サーフィンをインバウンド観光の「コト消費」コンテンツとして捉え、誘客に成功している事例はまだまだ多くありません

東京オリンピックをきっかけに、日本でのサーフィンに対する注目度は今後さらに増していくと考えられます。

海に囲まれた日本のビーチの魅力を海外にしっかり伝え、多言語対応やインフラを整えていくことで、ハワイやバリ島のようにサーフィンを観光コンテンツとしてビーチやその地域を活性化することは十分可能なはずです。

訪日外国人観光客の、次なるコト消費需要を満たすのはサーフィンかもしれません。


<参照>

SurferToday.com:How many surfers are there in the world?

観光庁「平成30年度観光の状況」及び「令和元年度観光施策」(観光白書)について

Splash Guest House公式サイト

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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